ただ秒針を眺める
この一週間忙しくて「僕と空き缶」の連載に間に合うことが出来なかったので、
この短編小説で繋ぎを入れます!
「ただ秒針を眺める」超短編をお楽しみください。
秒針が頂点から右回りに時間を刻み始める。一目盛動くと一拍の音が僕の耳に届き鼓膜が震える。それが五拍聞こえた頃に目が瞬いた。
今日も別にすることがないために、寝っ転がってこうしてただ秒針を眺める。誰も邪魔しない、してはくれないこの時間が至高だ。この間にも秒針は僕を追い越していく。
秒針が宙吊りになる。真下を指しているのはたった一拍なのだが、その瞬間を見られた僕は時間から解放だれているのだろう。秒針は再び頂点を目指して起き上がる。
どうすれば残り半分の時間を有意義に過ごせるだろう。別に有意義に過ごす理由もないが、少しだけ考えてみる。秒針はそれを横目に九を通り過ぎる。時間が止まっているような錯覚。
もう少し時間あれば僕はこんなところにいなかったんだ。もう少し時間があったら僕は寝っ転がらずに済んだんだ。もう少し時間が歪んでいたら僕は透けなかったんだ。
秒針が真上を指した。同時に長針が一目盛先へ進む。秒針はそれを合図に休まず前へ進み奈落へとゆっくり下る。
チクタクと進め。チクタクと進め。
僕は次の一分もそのまた次の一分もこうして寝っ転がっている。
この部屋の持ち主の帰りを待ちながら、君の布団に潜りながら。
「ただいま」って君の声が聞こえた。生きている君の声だ。君の秒針はまだこうして動いている。それが羨ましくて仕方ない。僕の秒針とは違ってチクタクチクタクと。
ただ秒針を眺める僕は君の隣でまた昼寝をする。
自分が先にこの世界から居なくなったら、
多分こうしていると思います。
「僕と空き缶」の連載が途切れてしまう可能性がある場合、
このように短編を挟むことがあるかもしれません。
ご了承くださいませ!