第19話 イリヤ・ナージ
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太郎は、浅い眠りから覚める。
ここはアーゼスト国の宮殿内の一室。
なかなか眠れなかったが朝方に少し睡魔が襲い、少しの時間だけベッドで眠りについていた。
目が覚めた太郎は、全身を襲うダルさと重い頭を強引に持ち上げ、ベッドからなんとか起きる。
(体がダルいし、昨日の杉本先生の話でまだ頭の中が混乱している。)
太郎は立ち上がり、制服に着替える。
そして、昨夜杉本先生が話をしていた事を思い出す。
「椿君、いいですか三ヶ日さんはこの世界にたった1人の巫女なのです。そして椿君、あなたはそこで三ヶ日さんを守る役目になっています。今はそれだけを話しておきます。」
(香織がこの世界に必要な巫女候補で、僕はそれを守る騎士って?。全然意味が分からない。)
「椿君、この話しは絶対に誰にも言わないで下さい。今はこれだけは覚えていて下さい。それではまた明日。おやすみなさい。」
そう言って去っていった。さっきの話を思い出しながら、部屋にある水差しを取り、コップに移さず一気に飲み干す。
「ゴッ、ムンゴクゴク。ッハ。」
(昨日からほとんど飲み食いしてなかったからか、水が久しぶりに旨い。)
太郎はそのまま支度をし、顔を洗いに外に出ようとする。ドアを開けて外に出ると、メイドさんが立っていた。
太郎はなんだろう?と思いつつ。
「あっ、すみません。あの、顔を洗いに行こうと思って。どこか顔を洗える場所ありますか?」
そして太郎付きのメイドさんが、
「今、お持ちしました。」
メイドさんの手がいきなり光だし、ふぁっと光が消えたメイドさんの手に洗面器みたいな器と、タオルらしき布を持っていた。
「部屋の中に入ってもよろしいでしょうか?」
太郎は、「はい、どうぞ。」
と言うと、メイドさんは、スタスタと部屋の中に入り、鏡が付いたテーブルの前に行き、そこに水が入っている器を置く。
「どうぞ、こちらでお顔を洗って下さい。」
「すみません。今のは魔法ですか?」
「はい。簡単な初級者が使う魔法です。」
「は、ははは。魔法ってやっぱりありんだ。」
「はい。みなさま勇者様も勉強をして訓練すれば使いこなせるはずです。」
「は。こっちに来ても勉強ですか?」
太郎は、しょうがなくそれを使い顔を洗ってた。
「ふっー」太郎が顔を洗い終えると、
「こちらで良かったらお使い下さい。」
メイドさんから、タオルを受け取り顔を拭く。
「これ、ありがとうございます。」
太郎はタオルを渡す。
「いえ、メイドとして当たり前の事ですので気にしないで下さい。」
なんとも、素っ気ない返事に妙な距離感があるな。と太郎は思った。
そのメイドさんは、どう見ても自分よりも年下だろうと思う位、少し幼い感じがした。そんなメイドに太郎はつい、言葉が出た。
「あ、あのぅ名前教えてくれるかな。なんか用があるときとかに不便かなって思って……」
太郎は言い訳じみた事を言った。
「あっ、大変に失礼しました。私はイリヤと言います。よろしいお願いします。」
イリヤは頭を深々と下げ挨拶をした。
「イリヤさん、ですね。僕は椿太郎と言います。」
「椿様、私の事はイリヤって呼び捨てにしてもらえますか?」
「じゃあ、僕イリヤって呼ぶから、椿様はやめてくれる?」
「いえ、その様な事は出来ません。」
「じゃあ、僕はイリヤさんって言うね。」
イリヤは困った事になっていた。
実はこのメイドはイリヤ・ナージといい、伯爵家の3女にあたる、この国ではわりとしっかりした貴族令嬢なのである。
話しはそれるが、この国の貴族の女の子として生まれたら、王宮に行儀見習いとして、王宮で何年間かを過ごす。
ここで、貴族令嬢としての作法や仕事などを覚える。そして、いつか違う貴族の子息などに嫁いで行く。
その為、太郎の要求は簡単には受けられない。なので少し考えて……
「椿様、私は椿様を椿様としかお呼び出来ませんので、椿様は私の事はご自由にお呼び下さい。」
太郎は仕方がないか。こっちの世界の常識みたいだし。
「そう、わかりました。イリヤさん。」
イリヤは器とタオルを手に取り、部屋を出て「では、失礼します。」と言って出て行った。
「ふぅー、はぁー。」
太郎は軽いため息をついてベッドに腰をかけた。
(……今何時頃なんだろう。)
太郎は今日これから始まる事に、学校に行く以上に憂鬱な気持ちになっていた。
太郎は普段学校で、どのような学生生活をまた、香織とは。この話はまた別の機会に。
「トントン」っとノックの音がして、太郎は、「はい、どうぞ。」と返事をして、イリヤさんが中に入ってきた。
そして一礼してから「椿様、これから国王様と女王様にお会いして頂きますので、これから私がご案内させていただきます。」
「えっ、ちょっ、それは僕だけですか?クラスメイトや杉本先生は一緒じゃないの?」
「大変に申し訳ありません。私にはわかりかねます。私は椿様をご案内するように申し使っただけですので。」
「そう、それは会わないと絶対にダメなのかな?」
「はい、申し訳ありません。」
太郎は、どうすることも出来ないだろ。と思いつつ、腰かけたベッドから起き上がる。
「わかりました。じゃあお願いします。イリヤさん」
そう言ってイリヤさんの案内について行く事にした。
「では、こちらになります。」
太郎とイリヤは、国王と王女がいる所までついて歩いて行った。
しかし、この後太郎は信じられない事を国王から突き付けられるとは夢にも思わなかった。




