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小人の言葉通りに王様の無茶ぶりは終わりました。そしてビアンカは王様のお妃様に迎えられませんでした。
それにはほっとしましたが、ビアンカは全然嬉しくありません。
ふと、モップを動かす手を止めてため息をついてしまいます。
王様がビアンカに与えた役職は侍女などではなく下働きだったのです。そのおかげで、彼女は一日中、掃除、洗濯、食事の下ごしらえなど忙しく立ち働かねばなりません。
平民とはいえ、ビアンカの家はそこそこお金持ちだったので、家政婦さんを雇っていたのです。だからビアンカは家事をするのは初めてでした。
それでも一緒に話す同僚がいれば少しは気もなぐさめられたでしょう。このお城にはそれもいないのです。いるのは機械的に動き、感情のこもっていない声で話す使用人ばかり。聞く言葉といえば、使用人頭の機械的な指示ばかり。
これでは気がめいっても仕方がありません。それでも仕事の手を抜く気はビアンカにはありませんでした。
「ビアンカ、それがおわったら、やさいのかわむきをしてください」
いつもの使用人頭が感情のない声で指示を出します。ビアンカは『はい』とだけ返事をしました。
急いで掃除を終わらせて厨房に向かいます。そこには五十人分はあるのではないかと思うくらいの野菜が積み上げられていました。王様はたくさん食べるのです。厨房にいる人は機械的に野菜の皮をむいています。
ビアンカも包丁を手にとり、せっせとニンジンやジャガイモの皮を剥きました。
最初は失敗ばかりしていたお城の仕事ですが、三週間も経てば慣れます。
それにしてもあの小人はどうしているのだろう。芋の皮を剥きながらビアンカは考えます。
ふとした時に、あの優しい笑顔が、『ビアンカさん』と呼ぶその声が、頭をなでてくれるあの温かい手が思い出されます。
でも現実には小人は全く会いに来てくれないのです。
会いたい、と何度心の中でそうつぶやいたか知れません。
でもそれもきっと、あと一週間で終わります。
だってあの小人は約束してくれたのです。一ヶ月後にここに来ると。