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「あなたは?」


 毛むくじゃらの小人を前にしてビアンカは戸惑っていました。こんなに小さな、そして毛むくじゃらの獣のような人間を見た事などなかったのです。


「私はただの小人です。名はあるのですが、残念な事に名乗る事が出来ないのです」


 名前が言えないとは変な話だ、とビアンカは思いました。もしかしたら自分が名乗らなかったからいけないのかもしれないと思い、名乗ってみましたが、やはり小人は名前を教えてくれません。


 そしてもう一つ変なのが、ビアンカが名乗ったとたんに彼が目を見開き、次に悔しそうな顔をして歯ぎしりをした事です。


 それにしてもこの小人は何をしに来たのでしょう。こんなわらだらけの部屋に用がある人などいません。


 もしかしたら王様が送った見張りかもしれないとも思いましたが、こんな見るからに怪しげな小人を送らないだろうと思い直します。


 とにかく用件を聞いてみなければどうしようもありません。ビアンカは口を開きました。


「あなたはどうしてここにいるんですか?」

「泣き声が聞こえたので気になったのです」


 小人の答えはしごくあっさりとしたものでした。それでも何故かビアンカはそれで納得してしまいました。そして何故かこの怪しげな小人に好感を持ち始めていたのです。外見さえ気にしなければ、とても優しそうな小人なのです。


 それでビアンカは全てを話しました。父がほらを吹いたこと、王様の前に出されて妃にすると言われたこと、そして明日の朝までにここにあるわらを金糸につむがないと火あぶりにされてしまうということ。


 小人は悲しそうにそれを聞いていました。


「かわいそうに」


 優しく声をかけられ、ビアンカの目からまた涙があふれてきます。


「私のせいで……すまない」


 小人がそうつぶやいたことにビアンカは気がつきませんでした。それくらい悲しみに暮れていたのです。


 しばらく小人は優しくビアンカの頭をなでてくれます。


「ビアンカさん、もしよければそのわらは私がつむいであげようか」


 小人の言葉に、ビアンカは目を見開きました。小人だろうが誰だろうが、ビアンカには人がわらから金糸をつむぐことが出来るとは思っていなかったのです。


「いいの?」


 でも彼女にとっては幸運です。このまま甘えてしまってもいいかも、と思ってしまいます。


 それでも何かをしてもらうには対価がいる、という事を商人の娘であるビアンカはよく知っていました。そしてビアンカは、今はお金を持っていません。


 どうしようと困ってうつむくと、自分の腕にきれいなブレスレットがあることを思い出しました。大好きなおばあさんが買ってくれた大切なブレスレット。でも命には変えられません。


「お願いします」


 ビアンカはブレスレットを外し、小人に差し出しました。


「いいのかい? それは大事なものでは?」


 こんな時にまで気を使ってくれる小人にまた涙があふれそうになります。でもそれどころではありません。


 ビアンカが頷くと、小人は早速作業にかかりました。


 小人が糸車を一回しすると、もうすべてのわらが金糸になっていました。おまけに、きれいにたたまれて整頓されています。


「ありがとう」


 ビアンカのその言葉に、小人はにっこりと笑って、するりと窓から出ていきました。

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