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その頃、王様は自室でほくそ笑んでいました。
何もかもがうまくいっているのです。
もちろん、王様はビアンカが金の糸をつむぐ事が出来るなどとは信じてはいません。ただの平民である彼女にそんな事が出来るはずがないのです。
そして、この国で藁から金の糸を作り出す事が出来るのが誰なのかも知っています。
それでも、何故、男の話を信じた振りをして庶民のつまらない娘を自分に仕えさせたのか。それには彼の思惑が関わっていました。
「こんな事になって奴が出てこないわけがない」
ワイングラスをゆらゆらと揺らしながら、王様は、ふふふと不気味に嗤います。
「さてと」
王様は机にあった召使いを呼ぶベルを鳴らしました。
すぐにうつろな目をした召使いが三人入ってきます。
「あの部屋を見張れ。侵入者が来たら捕らえろ」
「はい。かしこまりました、へいかのおのぞみどおりにいたします」
召使いは同時に感情のない声でそう言うと、さっさと部屋を出て行きました。
彼らは元は王様の召使いではありません。ですが、今はこうやって王様に仕えてくれているのです。その理由はなんであれ、彼らは『王様の』召使いなのです。
一人部屋に残った王様は笑いを止める事が出来ませんでした。もうすぐあの邪魔で憎たらしい男を自分の前にひれ伏させる事が出来るのです。そうして、彼は一生王様のために金を生み出し続ける。なんて素晴らしい事なのだろうと王様は思いました。
もし現れなかった場合は、あの男を幸せに出来るただ一人の女性をあの世に送るのです。そうすれば男はおのれの不運に絶望して勝手にこの場から退場してくれるだろう。王様はそう考えていました。
そうして自分が閉じ込めている何も知らない哀れな少女の姿を思い浮かべます。
何も知らず利用される哀れな娘の姿を。
「せいぜい苦しむがいい、無力な『白の娘』。お前はもう俺様の手の中だ。生かすも殺すも思いのまま……」
そう口にするとまた笑いが漏れてきます。
王様は大笑いしました。王族にはあり得ないほど大口を開けて。人にはあり得ないほど鋭い犬歯をあらわにして。