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昔、ある所に貧しいけれどとても美しくて働き者の娘がおりました。
彼女は名前をビアンカと言い、名前とその白い肌から、周りの人は密かに彼女の事を『白の娘』と呼んでいました。
ビアンカの父はそんな娘が可愛くてなりません。いつも周りの人に彼女の素晴らしい所を説いて回るのです。ビアンカが、嫌だ、やめて、と言ってもおかまいなしです。おまけに嘘や誇張までするものですから当の本人はたまったものではありません。
その日も、彼は仕事で立ち寄った王都で自慢話をします。
「うちの娘はこの国で一番美しい。そして世界一働き者だ。特に糸をつむぐのが上手で……」
などなど。彼の仕事仲間は呆れ顔です。
「そんな素晴らしい娘でもわらをつむいで金にする事は出来ないだろう」
ちょうどこの国の王様がそんな人間を捜している、と言うのです。しかも男なら家臣、女なら妃にすると言っているらしいのです。
もし、出来ると言えば、娘はこの国で一番身分の高い女性になれる。男は後先考えずに返事しました。
「娘には出来る。絶対に出来るとも!」
と。
そんな男を人々は馬鹿にしました。そんな人間がいるはずがありません。
「あの商人の娘はわらを金の糸につむぐ事が出来るんだってよ」
彼らは笑い話として友人達に話しました。
噂が広まるのははやいものです。その二日後には王様にまでそんな話が聞こえてきました。
王様はこの話に興味を示し、早速商人を城へ呼びました。
そうして彼に再度確認します。もう引くに引けなくなった男は、本当だと言い張るしかありません。
「いいだろう。その娘を俺様に仕えさせてやってもいい。ただし、嘘ならその娘を火あぶりにしてやる」
鋭い眼光で睨まれて、男はほとほと困ってしまいました。男は娘自慢をしたいだけで、彼女を殺されたくはないのです。
家に戻った男は娘に事情を話し、王都に来てくれとお願いします。
もちろん、彼の妻とビアンカはカンカンに怒りました。
どうしてそんな嘘を言ったのかと責めますが、もう後の祭りです。ビアンカはしぶしぶ王都に行って王様に会いました。
「お初にお目にかかります。ビアンカでございます」
ビアンカは丁寧に挨拶をしました。怖いけど、後には引けないのです。
王様はその言葉を聞くと、ただでさえ大きな目をまんまるにします。そして次の瞬間、大笑いを始めました。
「そうかそうか! ようこそ、我が城へ、ビアンカ嬢」
その姿は何故か勝ち誇っているように見えます。王様が何故こんなに喜んでいるのか、ビアンカにはさっぱり分かりません。
王様は早速、ビアンカをわらでいっぱいの部屋に押し込め、これを明日の朝までにつむげと命令します。
出来なければ火あぶりです。
どうしてこんな事になったのだろう。ビアンカは自問しますが、それだけでわらが金糸になるわけではありません。
「誰か、誰か、助けて下さい」
そっとつぶやきます。彼女には泣きながら祈る事しか出来ないのです。
その時です。不思議な事が起こりました。とつぜん窓が開き、美しい金色の光が入って来たのです。
ビアンカはまぶしさのあまり目をつむりました。
光が落ち着いたので、目を開けてみると毛むくじゃらの小人がビアンカの前に立っていました。