一安心
落ちるように寝た翌朝、スッキリ目が覚め足元で眠るラキを起こさないように準備を進める。
昨夜途中でやめたスマホをチェックすると、【魔物園】の右上に赤い①の見慣れたマーク、まさかネットもないこの世界で見ると思っていなかった。
とりあえず、【魔物園】を開いてホゴロラに食事をあげる。元気にしているようだ。そして、気になっていた①マークが、なんでついていたのかすぐにわかった。エリアが1つ増えて、海エリアが広がっていた。
そして、森エリアの左に広がる海エリアは、途中までしか色がない、つまり広さ制限を表しているのだろう。昨日行った場所がここら辺になるのかも知れない。ということは、このエリア表は地図にもなりそうだ。
確定ではないが、ほぼ間違いないとみていい。朝から幸先のいいスタートを切る。
(海エリアにこれだけの広さがあるなら、もしかしたら…)そんなことを考えているところで、ラキが起きてきた。
スマホの電池も残り50%をきり、今日中になんとかしないと明日にはスキルも使えなくなってしまう。そうなると、ホゴロラ達も危ないので充電も急がないと。
宿の人たちと朝食をとり、器を1つ借りる。今日で3日目になる宿代を払う際に後5日と話していた分も、一緒に1750L渡しておいた。これで残ったお金は、約2800Lということになる。
軽食を今日もいくつか買い、ギルドへ向かい簡単な討伐クエストと採取クエストを受注する。
最近よく話すお姉さんの所で、簡単な討伐クエストを受注して、今回は何も言われないと思っていたがまだ不安要素があったみたいだ。
「おはようございます。討伐クエストですね、毎日ご苦労様です。ところで、ササさんは魔物使いということですが武器は何を使っているのですか?」
「おはようございます。今のところ、避けるだけで精一杯だったので何も持ってませんでした。やっぱり、必要ですよね。」
お姉さんは目を見開いて、短剣すら持ってないササの発言に血相を変え、武具屋がギルドの隣の建物だと興奮気味に教えてくれた。愛想笑いになってしまったが、お礼を伝え横のカウンターへ移動する。
「おはようございます、ご用件は」
「今日は、薬草以外の採取クエストを受けたいのですが」
「でしたら、こちらの木の実を採取してくるクエストなど、どうでしょうか?
食べると少し酸っぱいですが、疲労回復に少し効果もあるみたいです。森で地面に生えている木の実を取ってくるクエストになります。」
「それでお願いします。」
採取クエストは、毎回違うものと決めていた。依頼した人が、少し情報もくれたりする場合もあるので、早くこの世界の情報を知れるのだ。
まだ2回目だが、割とギルドでの動きに慣れてきたと満足していると、前方でジークがフードを被った人と話していた。ジークに用があったので、邪魔にならないよう離れて様子を伺っていたが、フードの人に気づかれたので、軽く頭を下げ近づく。その様子に気づいて、ジークが笑顔で話しかけてきた。
「おはよう、今日も行くのか?
今この人と、取引してて少し待ってもらえるか」
「おはよ、中断させちゃってごめんね。先に武器を買ってくるよ。お邪魔しました」
そう言ってその場を後にする。
隣の建物に武器があるということなので、ギルドを出て隣の建物を見る。
(まだあまりお金持ってないのにな)
大きく武具と書かれた建物の扉を開くと、中は物置小屋のように所狭しと色々なものが置かれていた。短剣から弓、巨大な鎌のような物まであった。弓などの遠距離攻撃だと加勢できるが、うまく使いこなせないと邪魔にしかならないので却下、巨大な武器は振り回す力がないので問題外、そんな感じで見て歩いていると、1つの剣に目が止まり手に取る。それは、短剣よりは長く太刀よりは短い真っ直ぐな刀身、片手で十分振りまわせるほどの軽さだった。気に入って値段を確認してみようと、声をかけてから鞘がないことに気づく。
「これ、いくらですか?鞘はどこです?」
「いらっしゃい、鞘がないから買ってくれるなら1000Lでいいよ。」
「鞘ないんですか、んー」
「…あーじゃあ800Lにしてやるよ。俺が作ったわけでもないし、誰かが担保に置いてったもんだろうから。」
「ありがとう。じゃ、買うよ」
笑顔でその剣を受け取り、礼を言って支払った。
鞘がないのは危ないけど、布でも巻いておけばいいだろう。
人生初の武器を手にした瞬間だった。甘い考えだと言われても、仕方ない。この世界に来て、今までの平和な生活に慣れていた私が武器を持ったり、日常に情報が溢れていて簡単に入手できる世の中から、目と鼻の先で何が起こっているのかもわからない。今はまだ後悔することも多いが、どんどん経験していくことにしよう。
むき出しの剣を持ったままギルドを歩くことはできないので、とりあえず建物の陰で【魔物園】へ置いておき、ギルドへ戻る。
ジークの隣にいた人物はいなくなっていた。
「おかえり、いい武器は買えた?」
「まあ、買えたかな。聞きたいことあるんだけど、電気を通す細い物とかって売ってない?」
「鉄のことか?細さにもよるけど、今持っているのはこれだけだ。」
「これいくら?すぐ欲しいんだけど。」
スマホと魔物を繋ぐ、電気のコードがいるので武具屋でも探してみたが、さすがに落ちてなかった。最初からジークに聞くつもりだったのだが、先ほど武器を買ってしまい2000Lほどしかない。鉄の価値がわからないが、どうにかならないものか。不安な顔でいたのだろう、ジークは急に笑い出した。
「ササはどこから来たのか知らないが、商人に急ぎでなんて言う奴は金持ちかマヌケだけだぞ、今すぐ欲しいならふっかけられても仕方ないからね。
この鉄欲しいなら、今日のクエストは…木の実採取か。その木の実を10個持ってきてくれたらこれあげるよ」
「本当?ありがとう。じゃ待っててね」
「…ササって女なの?」
「………」
「………」
「あー男だけど、おかしかった?」
「いや、たまに言葉遣いが女みたいだから」
「あはは、気をつけるよ」
(もう少し自覚持たないとな)とササ
(笑うと女だな)とジーク。
そんなやり取りを終え、ギルドを出る。
ダムリルの外で迎えてくれたゴブリンたち、彼らに朝食を渡した。といっても固いパン2個だ。
朝食がもらえると思ってなかったのか、目を輝かせ食べていた。それを横目に歩きながら、ラキに今まで聞いてなかったことを今更だが聞いておく。
「ラキはこっちに来たとき、どんなスキルをもらえたの?」
「えーっと、強くなりたいって願ったらフェンリルの加護がもらえたのと、ササと話したかったから、人と話せるようになる力だよ。」
「フェンリルの加護ってよくわかんないけど、強いラキにはいつも救われてるよ。話せる力もすごく感謝してる。」
「ゴブリンたちが言うには、フェンリルって伝説の中の話らしいよ」
なんて、ゴブリンたちが騒いでるのを通訳してくれる。フェンリルは神獣的な存在なのだろう。
しばらくして、森の真ん中あたりまで行き2手に分かれた。
ゴブリンたちは仲間を呼びに行き、ラキと僕は先に海へ向かいルガンさんを助ける準備をする。
というわけで、少し急いでルガンさんの元へ向かって、木の実の場所をできる限り記憶しながら走り抜ける。
ルガンさんを見つけて、大声で呼びながら駆け寄るがあまり動きが見えない。
(まさか、遅かったのか?)
不安に襲われ今朝の段取りが悪かったとか、いろいろなことを頭の中で後悔するが、今はこの足の遅さが何よりも腹立たしい。以前なら、もっと早く森の中を走り回れていた。
冷や汗を拭いながら、だいぶ近づいたころラキが先に行き、まだ生きていることを教えてくれる。
だが、生きているだけで精一杯なのだろう、ギリギリな状態だと理解できた。
「いつでも回復したら外へ出れるから、今は私のスキルの中で眠って回復していかないか?
すぐ伝えてくれ。急いで」
その間に、拾ってきた赤い木の実を借りてきた器に潰し海水を入れ、ルガンの口に持っていく。
「ササを信じるって…」
「ルガン、ありがとう」
ラキが話してる途中で理解し、すぐ合言葉を唱える。なぜか、ルガンだけが砂浜から姿を消した。いつもはラキも同時に【魔物園】へ移っていたが、もしかすると特定の名前を言えば個別に移動できるのかもしれない。
説明に、出入り時の魔力消費はないと書かれていたので、ルガンが大き過ぎるのが原因ではないと思う。
説明に書かれてなかったことが、まだ他にもありそうだが今はルガンの確認だった。
海エリアで静かに休んでいる様子のルガン、【魔物園】内でなら僕の魔力から少しずつ回復できるはず。あんな巨体に、少しの疲労回復の木の実じゃ効果は薄いかもしれないが、早く回復してくれるといいな。そう願い、食事を目の前に用意してみるがやはりまだ食べれないのか、動こうとしない。
(まだ無理か、アイスとかプリンがあればな)
食欲のない動物は危険信号だ。とにかく、休んでもらうことにする。
ひとまず、最悪は避けられたことに安心し、大きく息を吐いて座り込む。
そして、ゴブリンたちを待つ間、預けていた剣をもらい、ルガンから回収しておいた大きな布を、だいたいの幅と長さに切り裂く。
もらった剣の刀身にグルグルと巻いていき、しっかりと固定して余った布を左手に巻き柄をそのまま握る。
腰巻のためにも布を使うか考えたが、この布もこちらの世界に来てもらえたものなので大切に使うことにした。
剣を使うときは、右手に柄を握り換えれば左手で布を回収できる。
そうこうしてると、ゴブリンたちがやってきた。
皆、戦争にでも行くかのような重装備で小さな子供までいた。その中から、2匹のゴブリンが出てきてキョロキョロとしている。
「大きな魔物はどこにいるって」
「あぁ、いなくなってた。自力でなんとかしたのかもしれない。でも、約束は守るよ。」
「何かできることがあればやりたいみたいだよ、タダ飯はこの一族の決まりに背くんだって」
「じゃあ、10日間ここに来てくれたら食事を渡す。その代わり、この木の実とか、この薬草なんかを見つけたら採ってきてくれない?」
「あと、今から紹介する魔物は僕の仲間だから、絶対に襲わないこと。手伝ってもらうから、何かしたら食事はなくなるって念入りに忠告しといて。」
採取の手伝いを頼むと、ホッとした様子でゴブリンたちは喜んでいた。魔物との戦いをお願いをされると思っていたのだろうか?
食事を渡していく中で、ホゴロラにも協力してもらうことになるので、ラキにゴブリンとホゴロラにもそのことをしっかり説明してもらい、【魔物園】から持ってきてもらう。
初めは、突然消えて現れるラキやホゴロラに戸惑っていたが、食事に夢中になるとそんなことはどうでもよくなったようだった。
ゴブリンたちの食事は雑食性ということで、今回はラキの食事として【魔物園】で出てくる、肉を細かくして固めたような小さい団子状になっている物を出した。
ホゴロラも襲われる心配がないと言われても、今まで襲われていたのだから、多少のストレスになってしまっただろう。欲しいものを聞いておいてもらった。
その時、一緒に行動したことのあるゴブリンが何か話し出した。
「ササが探していた電気の魔物、ホゴロラも電気で攻撃してくるって」
「え?本当ならホゴロラにお願いが増えちゃうね。」
ラキがホゴロラに説明して、技を見せてくれることになった。
すると、ホゴロラの毛がブワッと広がり目が開き、毛色も初めて見た時のグレーに変わった。
そして、渦巻き状になっている角の先から、バチバチと音を鳴らして電気の光が見えた。
「やったーーー。ホゴロラに3日に1回出てきてその電気でお願いしたいことがあると伝えてくれる?」
「問題ないって」
今日のやることは、あっさり解決してしまった。




