魔物を仲間に(後編)
(砂浜って走りにくいな)
前の世界でも海にはあまり行ったことがなかったので、そんなことも忘れていた。
近づくにつれ、大きさがハッキリしてきた。とんでもなく巨大だった。クジラかと思っていたが、見た目はシャチとクジラが混じったような黒色に白い模様、体長はジェット機ほどもあり、口はクジラのようなヒゲっぽい歯なので肉食ではなさそうだ。だが、肉食じゃなかろうが口を開けて吸い込まれてしまえば確実に死ぬ。
まず、目を探すことから大変だった。ぐるっと1周してみたが、上の方なんて全然見えない。目の見える位置まで離れて、大声で話しかけてみる。
「魔物さん海に戻れますかー?」
なぜさん付けなのかと言われると、こんなに大きい魔物が弱いわけがないし、年配の方は敬うべきだと考えたからだ。決してビビっているわけではない。
ブワッと少し動いただけで、砂が舞い上がる。こちらを見て、何やら言いたそうな顔ではあるが何も聞こえない。この世界では、魔物と話せて当たり前なのかと思っていたが違ったようだ。するとラキが突然会話し出した。
「あららー、でも大き過ぎて無理だと思うよ。」
「ラキにはわかるんだ、自力では戻れなさそう?」
「もう5日もこのままだったから全然力もないんだって、何とかしてくれたらお礼はするって言ってるけど、この大きさだし。」
ラキは魔物なんだから、魔物と会話できるのも当然か、それよりタメ口でいいんだ。
けっこーヤバい状態らしいので。急いでラキを【魔物園】へ送り、大きな布を持ってきてもらう。その布を海水に浸けて、尾びれの方から身体を濡らしてやる。
「頭の方届かないから、ラキが布を持って身体に上っていいか魔物さんに聞いてくれる?」
すぐ許可がもらえたので、海水に浸けて持って行かせる。広げて被せ、直射日光の熱も緩和できればいいが、このままでは時間の問題だ。何とか海に返すためには、砂浜を掘って自力で少しずつでも動いてもらうしかない。ラキと一緒に両手で砂浜の砂を掘りまくるが、1人と1匹では間に合わない。
人手を増やそうと町に呼びに行く手もあったが、それこそ大型の魔物が弱っているのだから、殺されてしまうかもしれない。あの町の人たちからすれば、何年分もの食料を賄えてしまうからだ。
「助けてくれそうな魔物の仲間を集めよう。ちょっと魔物さんに、明日の昼までなら耐えれそうか確認して、それと食べ物とか欲しいものあればそれもお願い。」
「濡れた今なら後1日くらいならって、海水が口から欲しいんだって、それと魔物さんじゃなくてルガンて名前があるって言ってる。」
「そうか、余裕そうだね。口を開けて待っててくれと伝えて、ちょっと強引にいってみよう。」
こっちの言いたいことが、ルガンさんには何となく伝わってるのかもしれない。
というわけで、スマホを木の枝に落ちないように固定して、上着を脱ぎラキを抱え、海の方へバシャバシャと胸元まで入っていく。振り返りルガンの口を狙って、ラキに風の攻撃を海に向かって発動してもらう。
突風を球状に圧縮させた攻撃は、水面に当たり海水に大きく波が砂浜へ押し寄せる。そして、威力は弱まり口の中へ海水がいくらか入ったのを確認した。確認できたところで、波がこちら側にも押し寄せてくることに気づいて、焦ってラキを【魔物園】へ入れ、思いっきり波にさらわれるもすぐ砂浜へ打ち上げられる。
「ブハァッッ、死ぬかと思った。
ルガンさん後1日待っていてくれ。ラキ、行こう。」
ヨロヨロと立ち上がりながら声をかけ、重たくなったズボンの水を絞り、スマホと上着を回収してラキとすぐ森へ出発する。
とりあえず砂を操れたりする魔物、もしくはすごく数のいる魔物に手伝ってもらえたらと考えていた。
しかし、魔物を仲間にするにはどうすればいいのかをまだ知らない。今は、魔物が出てきたら手当たり次第ラキに声をかけてもらっているが、よろしくない状況だ。会話が終わると同時に攻撃され、反撃して倒してしまうという結果が続いている。
当初の目的である、薬草と魔物の討伐は既にクリアしていた。なので、魔物を探してフラフラ歩き回っているだけだと思っていたが、突然目の前に大きな洞窟の入り口が見える。充電の為に、電気系の魔物も探していたんだった。
ラキは今日の目的地へと、しっかりと案内してくれていたのだ。すっかり、そんなこと忘れてしまっていたが、言わなきゃバレるわけないのですました顔でいることにした。
ラキは、案内ができたことを褒めてもらいにすり寄ってきた。
(こんな頼りない主ですまない)
そう思いつつ、いつもより撫でる。
この近辺は、多少強い魔物がいてもおかしくない。昔、兄のしていたゲームを隣で見ていて学んだのだ。
警戒しながら魔物を探すが、今までのように飛び出してくる魔物がいない。30分も洞窟の周りをうろついているのに、魔物1匹出て来ない。
おかしいとは思いながらも、流石にお腹が減ってきたので【魔物園】から軽食を取り出し、食べ始める。
すると、突然背後から動く音が聞こえた。振り返ると、棒きれを持った緑色の小鬼のような魔物が2匹飛びかかってきていた。とっさのことに、攻撃を交わすも持っていた食べ物は地面に落ちていた。
なるほど、敵が強いということは不意打ちや罠がある場合も考えなければいけないのか。
「待て待て、争いに来たんじゃない。食べ物やるから手伝って欲しいんだ」
ラキはというと、一緒にご飯を食べていた。まだ子犬なのだ油断しても仕方ない、そう思っていたが本人は酷く落ち込んでいる。
すぐ挽回しようと攻撃態勢に入ったので、手で制止して目の前の魔物と会話を試みる。
何か言っているのは聞こえるが、やっぱりわからない。人の形をしていたので、もしかしてと思ったが魔物語とでもいうものなのだろう。
ラキに通訳してもらうと、意外な言葉が返ってきた。
「ゴブリンというらしいこいつらは、30人ほどで暮らしている村が近くにあって、人数分の食料を10日分で手を打つそうだ。」
30人ていうと結構な数なんじゃないか?だが、10日分でいいのなら、ルガンを海に返せれば魚などをいっぱい頼むことができるかもしれない。
「その条件でいいから、明日の朝砂浜の方へ仲間のゴブリンを全員連れてきてくれないか?今から1時間ほどここでやることがあるから、その間に仲間に伝えてきてくれ。2人はここに戻ってきて、明日の約束を守るか見張り役になってくれれば、その分の食料もちゃんと用意する。」
ラキが伝えると、ゴブリンたちははしゃぎながら村へと伝えに行った。
その間に、電気の魔物を探そうとしてゴブリンに情報を聞いておけばよかったと後悔する。
だが、すぐにそいつは現れた。両耳ピーンと真っ直ぐ上に長く伸びて、音のする方にピクピクと反応している。草むらの中に隠れていたので今までは見えなかったが、ゴブリンが離れるのを待っていたかのように動き出した。ここからでは耳の辺りしか見えない。耳の間に1本の角が生えていて、渦巻き状にグルグルと線が入っていた。
本体を見てみようと、1歩踏み出した瞬間耳がこちらへ向いた。慌ててラキに通訳を頼む。
「何もしないから、出てきてくれる?」
そう言うと恐る恐るという感じで、1匹が草むらから前へピョコンと飛び出す。その瞬間、私の目が輝き、しゃがんで目線を合わせる。
角は生えているが、どっからどう見てもウサギだった。目の周りは黒くアイシャドウを塗ったように強調されていて、体全体が灰色の羊のようにモコモコの毛皮で、脚がどこにあるのかわからない。前の世界だとアンゴラという種類に似ているかもしれない。
「野菜食べる?少し力を借りたいんだけど」
先ほどのゴブリンが食料で釣れたので、この子達にも通じるかもしれないと試みた。
結果は5割成功、微妙だと思うだろうが警戒心の強いウサギは簡単ではなかった。
「安全な場所と食料の提供を望んでて、ホゴロラは家族で暮らしているみたいで、すぐ後ろに4匹隠れてるよ。」
ホゴロラは魔物の種類らしい。
聞けば、昔はこんな森の奥には住んでいなかったがダムリルの町から、討伐に来る人や狩りに来る人がいたためどんどん奥へ逃げたらしい。そして、ここではゴブリンに食料として狙われ、隠れながら生活しているという。
その間に群れとはぐれたりで、今は数を減らしている。
「【魔物園】てスキルがあって、そこでは常に水も飲めて食料も提供できる。この中では、共存できる魔物しか入れないから、環境さえ合えば安全だと思うんだけど?」
もはや自分の趣味になりつつあるが、こんな可愛い魔物を仲間にできたら幸せだ。惜しみなくスキルを活用させてもらう。
「その暮らしの見返りが何なのか、ハッキリさせて約束して欲しいって。」
そこまで警戒心が強いとは、日本人はこの警戒心を少しは見習うべきである。
しかし、何かしてもらうとしてもたまに遊んでくれるだけで満足なのに、と目の前のホゴロラを見て考える。
羊のような毛皮なら生え変わりとか、刈り取ってもまた生えてくるはず、他にも何かできるのかもしれない。
「何ができるか教えてもらえる?…それと、毛の生え変わりとかあれば、余った毛を分けてくれるとかアリかな?」
「ホゴロラは、草食で弱いから攻撃では役に立てないけど、ちょっと驚かすくらいならできる力はある、それに防御力が高いこの毛を3日に1回1匹分ずつなら提供することはできるらしいよ。」
安全な場所で暮らすのなら防御する必要もないので、2週間もあればまた元どおりになる毛を3日のスパンで提供してくれるらしい。
可愛らしい魔物が、敵を驚かす力にも興味はあるが、ややこしくなりそうなのでゴブリンたちが帰ってくる前に【魔物園】へ移動してもらいたいので、安全性を実感してもらうため、今日から7日間は毛皮をくれなくてもいいこと、不都合があれば出してあげることを約束すると伝えて呪文を言う。
「ありがとう」
目の前にいたホゴロラが、予想通り【魔物園】へと消える。
すぐにスマホで【魔物園】を起動して、家族の5匹も一緒に移動できたのか確認する。
森エリアの中には、ラキとともに5匹のウサギに似た魔物が動いていた。だが、見た目が先ほどと変わっていた。灰色だったはずの毛皮が白色になっていて、一瞬ラキと見間違えそうになる。
まあなにはともあれ、【魔物園】に魔物が増えた。そして、お互いが望めば仲間になれる、結果【魔物園】から出て助けてもらうこともできる。
(本当ラキがいてくれてよかった)
そんなことを思いすぐラキを呼ぶ。
あれからしばらくその場にいたが、電気系の魔物は全く現れなかった。何回か現れたイタチの魔物や、スライムは全く話を聞こうとしないのか通じてないのか、攻撃してくるだけなのでラキが返り討ちにする。訓練も兼ねて、後ろで攻撃を交わしながらラキが攻撃するタイミングなどを勉強していた。
そこへ、ゴブリンたちが帰ってきたので今日は諦めてダムリルへ一緒に行くことにする。道中お互いのことを話し合い、情報の共有に成功した。
ゴブリンも昔はここにいなかったが、別の場所か群れで生息するゴブリンの1団体が彼らと共にいる仲間なのだろう。他の団体は、他の地へと移住したらしい。彼らの団体は、他のゴブリンたちに比べて戦闘的で若く狩りが得意だということで、洞窟の近くでも暮らしていけていたという。
ただ、最近海辺に強い魔物が現れたため森に住んでいた魔物たちが逃げ出し、食料が足りなくなってしまったということだ。彼らも魔物の話が本当なのか、海辺まで正体を探りに行ったということだが、あまりの大きさに遠目に見ただけで逃げ帰ったんだとか。
それまでの話を通訳してもらいながら聞いていた(その大きな魔物って明日助けてもらうルガンさんのことでは?)
なんて思いながら考えることをやめた。
そしてルガンさんのことも混ぜつつ、こちらの情報も話しているとゴブリン達が【魔物園】に興味を示した。だが、さすがに30人もいれてあげられないので丁重にそう伝えた。
エリアに魔物の総数制限がある以上、入れ替わり立ち替わりで食費だけ浮かすこともできないだろう。今は森エリアに6匹、そういえば制限は何匹までなのか?自分次第と書かれていた気がするが、まあそのうちわかるだろう。
そうこうしてる間にダムリルへと着いてしまう。
近くの森でゴブリン達には待機してもらい、食事を届ける。先程の【魔物園】へ入れ替わりでは入れないが、ラキに与えた食事を外へ出してもらうことができた。
というわけで、魔物の食費は仲間にしなくても浮いてしまった。予想以上に応用の効くスキルに、はしゃいでしまった。明日の朝合流する約束をして別れる。
もう日が暮れて7時前というところか?スマホはあるが、設定をどこの国に合わせていいかわからないので、適当にだいたいの時間を選んである。
急いでギルドへ向かい、クエスト達成報告を済ませて報酬をもらう。長時間森にいたが、海辺での作業が長かったのと、弱い魔物がほとんど逃げてしまっていたので、魔物の討伐数は前回とほとんど変わらない。よって、薬草の分も合わせて3020Lの稼ぎだった。まあそんなに焦ることもない、気長にいこう。そう思いながらギルドを出ようとした時、背後から声をかけられた。
「遅かったね、薬草があれば買うけど大丈夫だった?」
「あっ、あぁ待たせてごめん。色々あってあまり拾ってこれなかったけど、薬草20個はちゃんと採ってきたよ。」
振り向いて、今朝のことを思い出す完ぺき忘れてしまって、約束してたのになんて私は薄情なやつだ。心の中で反省して、ジークに薬草を渡す。ジークは少し疑っていたみたいだが、薬草がちゃんとあったことに満足してもらえたようで、回復薬を2個もらえた。
去り際に明日も行くなら待ってると、可愛い笑顔で手を振ってくれた。(嫌われなくてよかった)
宿に入ろうとした時、またしても誰かの視線を感じたが、今日は疲れたので気にせずシャワーを借りて、部屋に戻り【魔物園】を開いてホロゴラに食事を与える。バッテリーに限りがあるので、あまり起動していたくないのだが、よく見たことのあるマークが【魔物園】のアプリ右上についていた。
だが、眠気に襲われスマホを切って眠りにつく。




