鹿を追う者は山を見ず
試合開始の合図が鳴り響き少女の動きを見つめる。勝負は決まったも同然と集中していなかったやつには何が起こったかわからないだろう、凝視していた人にさえ見たものを信じれないでいた。
開始と同時に動き出した彼女は魔物の股下を抜け背後に回り、足を切りつけ低くなった体勢の背中に飛び乗り首を切り落として魔物から飛び降り動きを止めた。魔物側の油断もあったのかもしれないが、倍以上ある大きな魔物の首を切る技術と力を持っていることに変わりはない。
「不安ですか?」
「大丈夫だ、負けるわけにいかない」
無意識に拳を握りしめているのに気づき、ラベフルが心配そうな顔でこちらを伺う。負けるわけがないと自分に言い聞かせ、安心させるために笑顔を見せる。
2試合目の準備をするため、また少し待ち時間が設けられた。次はビーバー顏ときつね顔の男たち、どちらも外からの参加者だがこの2人はどこか怪しかった。
参加者から常に離れた位置に立っていて、1試合目の途中、この2人は一度接触している。
「ラベフル少し頼みがあるんだが、これからの試合をここでペンコと見ていて欲しい。」
ペンコを片手に呼び出しながらラベフルに差し出す。ラベフルをまだ完全に信用できたわけではないが、ペンコの逃げ足は早く心配ないという考えもありその場を離れた。
「わかりました」
後ろからラベフルの小さな声が聞こえたが、聞こえなかったフリをした。そして、キツネ男の後を追うように動いていた時何かが手にぶら下がった。
「!お前か」
「トイレ」
周囲の様子を探るよう頼んだ子猿魔の1匹だった。慌てたように何かを必死に伝えているが聞き取れたのはトイレという言葉だけだった。待っているはずの場所にいないことで、探させてしまったのかもしれないと思い頭を撫で謝っておく。
案内されたトイレのある場所へ行くと、フードを深くかぶった大男、つまり猪がもう1匹の子猿魔と待っていた。
「戦闘準備 大量 今日 」
「今日何かしようとしているのか、参加人数が少ないのも試合の流れが遅いのも時間稼ぎだろう」
「このまま 観戦」
「ご苦労様、じゃあ終わったら中央正面にいるラベフルと合流な」
今日筆頭が何かしようとしていることはだいたい見当がついていたが、それにキツネ男やビーバーが関わっているのか探ろうと思っていたのだ。この2人が何かするという確証もない、猪たちと話している間に見失ってしまったらしく今は諦め、次の試合を見てからにすることにした。
この時はまだ気づいていなかった。後ろからずっと見られていることを。
次の試合参加者の紹介が終わり、試合開始の合図が鳴り響く。今回は情報の少ない男2人の対決ということで、盛り上がりは少なくどちらが勝つかだけに興味が向けられていた。当事者である2人もそうなることはわかっていたのか、負けを認めるエリア棄権ゾーンとでも呼ぼう、その場所に相手の魔物を入れようとしていた。
どちらの魔物も死なずいい戦いではあるが、この2人がそれをしたということが信じられない。
自分の考え過ぎだったのか、人は見かけによらないということなのか、勝負はキツネ男の魔物が勝ちとなり次へ進んだ。
周りの観客からは、いい戦いだったと賞賛されることもあれば、逆もあった。
ここにいる人たちは魔物がどうなろうと喜んで見ている人たちだということを忘れかけていた。こんな場所で魔物だけで観戦していて問題ないわけがない、ラベフルたちが心配になり戻ろうと振り返った瞬間誰かに呼ばれる。
「あなた次の出場者よね?呼ばれてたわ」
「君は、ありがとう。すぐ行くよ」
1回戦で相手を瞬殺した少女だった。近くで見てもその可愛さは崩れることなく決定的だった。それどころか、試合の時にはわからなかったが話し方や仕草がなんとも優しげな空気を感じさせる癒し系のそれだった。
ラベフルの方に一度視線を送るが、動きがなさそうなのを確認して呼ばれた控え室へと向かう。
対戦相手のミステリアスなインテリ眼鏡はまだそこに来ていなかった。そして、自分が次の番ではないことにやっと気づき慌てて部屋から出ようとするも、外から何かで塞がれ扉は開かない。大声で叫んでも周りには誰もいないことは、ここに来る途中の道筋を考えても想像がついた。
(どうして僕なんだ?狙われる理由がわからない)
部屋の中を一通り調べてみたが、出られそうになく冷静に考え直すことにした。
こんな時、昔だったらどうしようもなく悲観的になっていただろう。だが今は違う、いつでも一緒にいてくれる仲間がついている。




