子供の父親
あれから考えた結果、大会に出場するのはラキに決めた。どんな相手と戦うかもわからない上に、勝たなければ無駄になる。作戦としては、大きさで脅し人間を気絶させ負けを認めさせるやり方だ。ただし、負けた後その魔物に罰があるかも知れないので悩んでいる。
結局はラキとその場しのぎで優勝を目指すことになりそうだ。こんな時イーユがいてくれたらと思わずにはいられない。
とうとう大会前日になってしまい、大会の参加を申し込みに来ていた。
申請にギルドカードを提示し、死んでも責任を取らないということと参加する魔物もこのルールに則るということを証明するためのサインする。
これでエントリーは無事に済んだので本番を待つだけだったが、受付の女性がすごい勢いで応援してくれると言ってきたので驚いていたが、よく考えると大会に参加する男は、むさ苦しいおっさんたちが多く若い男は少なかったのだろう、見た目はいい方なのでモテることを期待していたが、見た目が若くマッチョではないので弱そうという印象のせいで今まで女性に相手にされなかったのだ。
「初めてですよね?なら、今から子供の大会があるので見て行かれては?いい席あるんですよ」
案内してくれている女性は、色黒で黒髪をポニーテールにして明るく元気そうな18〜20代前半、親の手伝いで受付を任され不貞腐れていた感じだった。最初はついていくことに迷いがあったが、積極的に僕の手を引いて歩く彼女を見るとまんざらでもなかった。
「子供大会のルールは場外、もしくは相手の魔物が動かなくなれば勝ちとなります。」
(身内の子供しかいないのだから、殺し合いでないのは当然か…)
そんなことを思っているといつかの子供たちが参加していた。子猿魔を連れていた子は、別の狼的な魔物を連れていてそれなりに勝ち上がっていたが、決勝で相手のサソリに似た魔物の毒にやられたようで動けなくなり負けてしまった。
明日の試合ではこうはいかないだろうと思い見ていると、気づかれてしまい駆け寄ってきた。
「兄ちゃん生きてたんだな!お前のせいで負けちゃったじゃないか」
「あれは君が言い出したことだろう?」
「お前がそうか」
話していると影ができ、振り向くとそこにはギルドの酒場で見た親父がいた。
一瞬驚きはしたが、悪いことはしていないと呼吸を整え話しかける。
「こんにちは、あなたがこの子の父親ですか?男に喧嘩を売られ買いましたがなにか?」
「…ガッハッハッハ、こいつを男と見るか!違いねぇ、喧嘩を売られちゃしょうがない。だが、こいつの連れていた魔物は子猿魔だ。さっさと逃げたほうが身のためだぞ。」
「大会に参加することにしました。この土地についても少し知りたいことがあるので。子猿魔のことは聞きましたが、あなたたちには迷惑をかけませんので。」
思ったよりも話のわかる親父だったため、会話が弾みいろいろ聞くことができた。それを見ていた息子は口を大きく開け固まっていたが、前回一緒にいた仲間たちに引きずられ帰って行った。
「息子さんから少し聞けましたが、筆頭の連れている魔物について調査しています。それに、ここへ入る時、ギルドカードの提示のみでした。このカードはそんなに信用できるものなのでしょうか?」
「ギルドカードに書かれている種族が大事だ。ヒューマンなら問題なく入れるが、それ以外は入れない。昔は集落だったが、今も田舎にできた溜まり場みたいなもんだ。だから、ここは国でもなんでもない、昔と違うのはここに住む人間に強さを求められるってことだけ、筆頭があんな目にあってから集めた仲間たちは他国では有名な猛者が多い。
俺だって東の方では隊長をしていたこともあったが、魔物に負けない場所を作りたいという筆頭の熱意に負け、力になりたいと思ってね。」
「だからここには名前がないんですか?」
「名前なら、ここら一帯西の方にまで続くこの海沿いをスノーシューと呼んでるよ、俺たちはそこにただ集まっているだけの団体だな。」
「名前のない要塞、なんか強そうですね」
「そんなことより、筆頭の息子である魔物について聞きたいんだろ?」
他愛もない会話を続けていたいわけではなかったが、切り出すタイミングを探していると向こうから話してくれた。
「囮として、今もどこかに閉じ込められていると聞きましたが、それにしては年月が経ちすぎている気がします。襲ってくるなら筆頭が帰ってきたと同時に襲われていたでしょう、それが何年も放置されているということは、息子の魔物が目的ではなかったか、なにか事情が変わってしまったか」
「魔物なら地下室にいるよ。隊長として魔物を奴隷にする際手伝っていた。
その時、地下室への扉はあったが頑丈に鍵がかけられていて、不思議に思い聞いてみるとそこに噂の魔物がいるってことだった。食事を与えるための扉もあり、何度か現場をその目で見たことがあるので確かだ。」
「どちらにしても、筆頭に話を聞くしかないようですね。」
「…明日の大会に参加する男が昔、筆頭とともに暮らしていたやつの息子だって噂だ。性格が悪くいつも問題を起こしていて、話を聞けるような相手ではないが筆頭の昔話をすると姿を隠してしまう。息子がいるってことは生き残りがいたってことだが、筆頭は一度もそいつを攻めたことがない。そいつの話が聞きたければ、大会で問い詰めてみることだなっ。まぁ、俺も参加するから誰があいつと当たるかはわからねぇし、お前と当たった時には全力で息子の代わりに勝たせてもらう。」
「話が聞けてよかったです。どうかお手柔らかにお願いします。」
夜、宿で明日の大会について話し合いをして、メイグロックにいるパンコにもこれまでの経緯について連絡を頼んでおく。
目的ははっきりしてきた。大会で優勝して、オーガの仲間を助ける。そして、噂の逃げた男の息子と話ができればラッキー、できなくても筆頭に聞くことができれば問題ない。
うまくいけば、この土地に奴隷制度をなくし魔物とうまく付き合っていけると示したい。
だが、そんなに世の中甘くないこともわかっていた。
ため息を吐いていると、スマホが光りいつもの赤く丸いマークが【魔物園】についた。
開くと魔物たちが集まり何か話し合っていたようだが、宿の中で呼べるのは限られた魔物のみ、誰がいいか悩んでいたがここは話が通じるラベフルにした。
「ラベフル…どうした?」
「あ、あの。大会について何度か見たことがあります。それでですね…」
自分が呼ばれるとわかりそうなもんだが、目の前でモジモジと話すのを見て強い口調になりそうなのを堪え、目を合わせたまま話の続きを黙って待つことにした。すると、ゆっくりではあるもののスラスラと話しだした。
「あの、人間が狙われることがあるので開始前に武器をしっかり装備しておくほうがいいです。それと、魔物の解放と聞いていると思いますが魔物のやる気を上げるためだけの話で、実際に解放された魔物はいません。過去に一度だけ人間が死んだことがありましたが、その魔物は人間を守らなかったとされ張り付けにされてしまっていました。」
「魔物を解放するには、一度こちらに取り込む必要があるな。だが、分かってもらわなければ【魔物園】で暴れられても困るんだが。」
殺し合いをしている時に説得するのは難しいと考えていると、もう解決していたようですぐに答えが返ってきた。
「それですが【魔物園】の方達は問題ないと言っていました。」
「そっちはまあ信用して任せよう。人間に襲いかかってきた場合だけど、人間が魔物を殺しちゃったらどうなるの?」
「一般的なルールのまま魔物が死ねば負けになります。」
人間が魔物を殺すことに何の問題もないというルールは、ここの人たちを見ていればわかる。ラベフルが教えてくれたこの2つに注意して明日に備えよう。
「教えてくれてありがとう。明日は【魔物園】にいても危険かも知れないけど、どうする?。」
お礼を伝えると嬉しそうにお尻の尻尾が動き出した。そして、前のめりに今までで一番大きな声で話し出した。
「大会を近くで見たいです!」
一瞬出場したいのかとも思ったが、観客として見てみたいという意味だった。もちろん奴隷である魔物たちも主人たちと来ていたり、次回から参加しようと勉強に来ている魔物も多いらしい。もちろんラベフルなら違和感なくそこに座っていられるだろう。
「いいよ。ぼくは奴隷を連れて歩く趣味はないから、一緒に行くなら仲間として大会の間だけ案内をお願いするよ。」
「案内します!」
少し興奮気味なラベフルは耳がパタパタと動いて鼻もピクピク動いていた。それを見て、昔飼っていた犬を思い出し頭を撫でるとラベフルは固まってしまっていた。
「あっ!ごめん、つい」
「嫌 では ない です」
手を離し謝った後、ラベフルが何か言っていたが小さすぎて聞こえなかった。
ラベフルは【魔物園】にいると落ち着き癒されるらしいが、律儀に恩を返してくれようとして何かと助けてくれていた。
外に出れるラベフルを羨ましがって、ロジ丸たちが不満を言いだしたがそこは少し豪華なご飯を渡しておいた。
パンコから情報を得たセルゲン達は、ササが助けを求めることなく報告だけしてきたことに安心し笑顔になった。




