スノーシュー
目の前にずらりと並ぶ木の壁は、遠くからでもわかるほど不気味な雰囲気を醸し出し壁の中から聞こえるはずの明るい声は一切聞こえない。
「ゴロジ……デ」
「なんだ?」
異常な静けさの中かすかに聞こえる声に、悪寒を感じ視線に気づく。壁の中から外から、そこら中から見られている。
一歩ずつ進んでいく途中、ハッキリと聞こえた。
「ゴロジ…デヤル」
(おかしい、これは魔物の声だ。)
声の聞こえる方へ視線を上に移す。
そこには信じられない光景が映し出されていた。
木の壁は1本1本柱のように隙間なく上に向かって立っている。その柱には魔物が張り付けにされ遠くからはオブジェのように見えた。
その光景に、視界はぼやけ呼吸を乱し立っていられなくなるほどの目眩に襲われ、胃の中のものを吐き出した。
「おぃ、なんでこんな…うっ」
このままではヤバかった、精神が乱れれば【魔物園】が崩れる。
「ここまでするっ必要があるのか?見てるんだろ、なんとか言えよ!」
言葉を発することでなんとか呼吸を整える。魔物を見ればすぐ攻撃してくる、ここは地図上ではメイグロックから少し離れた場所だが、宗教の違い考えの違い、住んでいるのは人間ではなく、魔物を恨み憎しみ魂を悪魔に売ってしまったやつらか。
全て吐き出した時、首から下げていた笛が服から外へとぶら下がる。イーユにお守りとして持たされていた笛だった。一瞬吹いてしまおうと握りしめる。
「ピンチでもなんでもない、考えが甘かっただけ。こんなとこで助けてもらっていたら、イーユに笑われる」
なんとか立ち上がり一歩一歩近づいていく。
魔物ではなければ簡単に中へ入ることができた。後で気づいたが、情報収集で右に出るもののいないイーユが知らないわけがない、力のあるセルゲンが放置しておくはずがない。何かしらの理由があり、放置あるいは近寄れずにいたということだ。
審査に少し時間を取られたが、ギルドカードにある職業[魔物使い]に気づいた瞬間、どいつもこいつもニヤけた面で不気味に笑う。
「お前も探しに来たのか。ここは金さえあれば、お前みたいなガキでも一気に強くなれるからな。Bランクとは大したもんだがなぁ、ゲッヒッヒヒ」
「まあそんなとこ。ここをまとめている人は?こんなに堂々とこんなことをしていて何も問題ないのか?」
「問題なんてあるわけないだろっ。敵に何かして何を言われるってんだ、喜ばれることはあるがなぁ。ぐぁはっはっは」
酒臭い息で大口開けて笑うなと言ってやりたいが、ここで騒ぎを起こしては何もできずに終わる。できるだけ情報を集め、ここで起こっていることを調べ上げる。外から入ってくる人を観察したが、町の住人や噂を聞いて遠くから来る人、女性でさえも平然としており、精々子供には見せたくないという風ではあるが、怪訝な顔で通る女性がいるくらいだった。
宿を探し歩いていると、魔物が横切る。驚いて目を見開き慌てて追いかけ後を追う。
だが、ついて行った場所は民家へと向かい1つ1つの家には小屋が設置されていた。追いかけていた魔物は、その小屋に入り丸まっていた。
この光景はまるでペット。だが、明らかに栄養が足らず衛生的にも最悪な状態だ。
「おぃ、どうして逃げないんだ?」
「 シニタクナイ 」
中にいる奴隷たちに、反抗させないための張り付けであり外の魔物にも絶大な効果をもたらしていた。
張り付けにされている魔物たちは、死体ではない。動けないほど弱り、仲間を呼ぶ声も小さくもちろん食事も与えられない。体は五体満足にあるわけもなくほとんどがボロボロでいつ死んでもおかしくない。
助けに来る魔物たちもいただろう、ラキが攻撃された時に思ったが、張り付けは助けに来た魔物たちを殺すための罠だったのだ。そのための武器が設置され見張りも常に相当の数いた。
危険だが、魔物からも情報を得るためにペンコを呼び出し、服の中へ隠れてもらう。
辺りには鞭で打たれ歩かされている魔物がいたり、死にかけている魔物の代わりに新しく契約している人たちがいた。
目の前で引きずられている魔物がいた。魔物と言っても人間の姿に近く、一瞬目があったように見えた。
「ねえちょっと、こいつどうするんだ?」
「あん?なんだよ兄ちゃん、こいつはもう使えねぇからギルドで換金してくるんだ。まあ駄賃にしかならねぇがな」
「じゃあ売ってくれないか?詳しく言えないけどちょっと試したいことがあるんだよ」
「そいつはついてるね、ゴミだと思っていたが使い道があったとは」
Lを払い他にもいたら教えてくれるように頼み別れる。
意識のないそいつは、人の姿をしているが顔や手足が少し獣のように毛深く、狼男かとも思ったが垂れ耳だったのでそれはないだろう。
ペンコに中で暴れないよう管理して治療を進めることを言伝し【魔物園】へ。
宿を見つけベットに仰向けに倒れるも、先ほど見ていた光景がずっと頭から離れない。
外から聞こえる魔物の呻き声、怒りや悲しみが混ざっている言葉を理解できてしまいこの時だけは、魔物の言葉を覚えたことを後悔してしまいそうだった。
天井を見ながらふと思い出す。
(以前襲ってきた金髪の男の子と牛の魔物、ここの人間と敵対しているはずだが… )




