猪鹿蝶
目が覚めて、何とも言えないモヤモヤ感に襲われる。原因はハッキリしている、イーユのことだ。間違ったことをしたとも思えないのに後悔している自分にわけがわからず、気分が悪くなる。
「おはよ、ラキ…大丈夫だよな?」
ラキは眠っているので当然返事はない。とりあえず、準備して明日この町を出るので宿の人に挨拶する。
ギルドに着くと、ジークと目があうなり走ってきた。
「おはよ、どうした?」
「ササッ、イーユが捕まった。…あ、イーユって言っても知らないか。フードを深く」
「はっ⁉︎なんで捕まったんだ?洞窟の件は解決したんじゃ。」
「知ってたのか?よく知らないけど、魔法使いが怪しいとかで、前に洞窟へクエストを募集していたイーユが目をつけられて。
洞窟は無事だったらしいけど、何か裏があるとみて疑われているだけなら連行はされないが、昨日尻尾を持っていたこともあって…」
「嘘だよ、そんなわけない。
おかしいと思ったんだ。証拠が必要だって言うけど、尻尾なんかじゃ生きてるかどうかすらわからない。何の証拠にもならない。
勝手なことばかり言って。イーユッ嘘ばっかり。
違う。イーユは何もしていない。」
悔しさと悲しさに涙が溢れる。ジークはわけがわからず、オロオロしていたが今日やることがこれで決まった。連れて行かれたイーユを助けに追いかける。
もうこの町とはお別れだ。宿の人に挨拶してきてよかった。ゴブリン達との約束が守れていないことだけが心残りだ。
「ジーク、今からイーユを追いかける。ジークの行きたい方と違うなら、僕だけで行く。どっちに行ったか教えて」
「待て待て待て。昨日の夕方にイーユは竜車で連れて行かれてる。今から追っても間に合わない。」
「間に合わなくても無実を証明できる。」
「どうやって?」
「…今は言えない。」
焦る気持ちが苛立たせる。早くしないと、大切なドラゴンに何かしたということはそんな軽い罰では済まないはずだ。
「ついてくるなら道中説明するから、早く答えてくれ。イーユはどこへ連れてかれた?」
「メイグロックという大きな国だ。魔物に対抗できるのはこの国くらいで、イーユはもともとこの国から来ている。だから、すぐに殺されてしまうようなことはないよ。もしかするとメイグロックの依頼で今回のことは仕事だったのかもしれないし。」
「わからない。けど、ハッキリするまではどこにでも行くしイーユと話したい。一緒に来るのか?」
「ああ、俺もメイグロックで商売してみようと思ってたところだ。ここから2週間以上かかるが、用意は出来てるのか?見たところ何も持ってるようには見えないけど。」
「マジ⁉︎」
歩いて2週間以上かかるなんて予想できていない。それどころか、旅の用意すら1つも持ち合わせていないことを思い出し、慌てて買い出しに走る。
「マジ?ってなんだ?」
ジークは走って出て行くササを見ながら首を傾げ、ペースを崩さず用意を始めた。
雑貨屋で旅に必要な道具を揃え、非常食などを買い歩き全て【魔物園】へ放り込む。
ギルドに向け急いでいた足が、急に森の方へ走り出す。
「どこ行くの?」
「お別れと謝罪に行く、時間がないのはわかるけど謝れる時に謝らないと、もう会えないかもしれないから。」
すると、ラキがいきなり遠吠えを始める。
遠吠えは自分の位置を仲間に知らせることができるが、敵の魔物も寄ってくるのであまりしないように頼んでいた。しかし、遠吠えを止めずに走り続ける。
当然、魔物の群れが襲ってきた。こんな所で時間をかけている暇はないので、魔法を使い瞬時に倒す。しかし、かなり呼び寄せてしまったようで次から次にキリがない。
「剣出してロジ丸。」
ロジ丸を呼ぶと同時に剣を受け取り、横目にラキを見ると自信満々なドヤ顔で尻尾を振っていた。
(ストレス溜まってたのかな?血の気の多いことで)
向かってくる魔物を何匹か倒した時、周りをオークとゴブリンが囲んでいた。向かってきていた魔物は、この群れの前には歯が立たず時間をかけず全滅できた。
「呼んでよかったでしょっ」
なんて語尾に音符がつけられてそうな、得意げに言うラキにどこか素直になれない感じはしたが、礼を言う。
「ゴブリン、悪いけど明日の約束は守れない、今日でこの町を出ることになった。その謝罪とお別れを伝えに、オークもお別れだ。」
ゴブリン達の中から、初めて出会った2匹のゴブリンが前に出てくる。
「一緒についてくること決めてたらしいよ。若いオス2人、何か役に立ちたいって。」
「え?そうなの?じゃあ早速だけど、みんなの分の食料出すの手伝ってもらおうかな?」
「あ、それももういいんだって。自分たちでできるように練習したいから、今日も何人かで動いているらしいよ。感謝してるってさ」
ゴブリンたちはまっすぐこちらを見つめていた。
「今から死にに行くかもしれないけどそれでも来るの?」
これからイーユの無罪を証明するには、自分がロジ丸たちといることを国に打ち明けることになる。そうなれば、最悪死刑も覚悟している。
(多分、死なないけどね)
そんなことを考えていると、オークたちが騒ぎ出しゴブリン2人も頷いている
「オークも恩を返したいから、1番若いオス2人とメス1人を連れてってくれって、命をかけても恩人を死なせるわけにはいかないって。」
「助かるけど、命はかけないで。
本当にいいんだよね?だったら名前、教えてもらえる?」
「オークはオークらしいよ?ホゴロラもそのままだからいいんじゃないの?」
「ホゴロラは最初見分けがつかなかったから、今は充電を頼んだ2羽なら多分わかる。オークたちは個性的な特徴もあるから、呼び名がある方がこの先楽だよ。」
「個体名なんてついてないって、どうする?」
「んー、じゃあこっちで決めちゃうよ?
ゴンとブンにしよう。耳が少し折れてる君がゴン、鼻の丸くて大きい君がブンでどうかな?」
そして、オークたちに向き直る。
「この3人の中にリーダーとかっている?ちょうど3人だから猪、鹿、蝶じゃダメ?」
「問題ないって、蝶はメスでリーダーが牙の大きいオークだから、細マッチョなこのオークが鹿だよね。」
「これからよろしく。
ゴン、ブン、猪、鹿、蝶、ロジ丸もありがとう。」
猪鹿には【魔物園】の中で暇を持て余したら、木材とか適当に使って住みやすいようにしてくれていいし、お礼もするから他の子達の分もできたら教えてもらうことにした。まずは、平地に適当に置かれている荷物を集めて置いておける場所を頼むことにした。
蝶には、ホゴロラたちの毛並みを整えたりピュトンの尻尾の様子を見てもらうよう頼む。
ラキが呼んでくれたおかげで、森の入り口で用事が済んだのでタイムロスが少なく済み、残ったゴブリンたちから木の実を、オークからは先日までに亡くなってしまった仲間の遺品だった。オークを倒したと証明できるらしいので、感謝していただいた。
ジークに何も言わず来たので急いで町に戻る。
仲間が増え、いよいよ旅に出る。
なんか、アレっぽいな。
前の世界でやったことのあるゲーム、世界的にも有名になったアレ。
ボールもないし、倒すジムもないんだから全然違うよね。何て思いながらラキと走る。




