尻尾
「ふあーーーーっ」
身体のあちこちが痛くて、思いっきり伸びをする。ベッドをイーユに譲り床で寝ていたということもあるが、ラキとロジ丸の枕にされ身動き取れずにいたためだ。
「おはよ、もう行くけど来るのか?」
小声でイーユに声をかけるが、寝ているのかも知れないというほどフラフラと寝ぼけている。
(妹がいればこんな感じか)
すこし微笑ましく見ながら、ベッドに寝転がし布団をかけ出かける。
辺りはまだ薄暗く空気がすこし冷たい。皆寝ているのだろう、静かで落ち着くこんな空気が嫌いじゃない。
前の世界では、実家にいる動物の世話もあり早朝起きて手伝っていた頃が懐かしい。
清々しい気分で洞窟へと急ぎ、ピュトンとロジ丸を呼び出し夜迎えに来るまでここにいてくれるよう頼む。
ピュトンにぐるぐる巻きつかれる形の中心で、ロジ丸も丸くなり夜まで眠って過ごすようだ。
洞窟の問題は任せることにして、昨日ゴブリン達に言えていないので探しに行く。
途中、ホゴロラと出会い洞窟の周りには行かないよう忠告し別れた。ルガンが海辺から離れたことを知り戻ってきたのかもしれない。
ゴブリン達は昨日の網作りに力を入れ、2つ目に取り掛かっていた。事情を説明し、オーク達も洞窟には近寄らないので気をつけるよう伝え、今日の分の食料を渡すついでに、ホゴロラの技で昨日の魚を焼くこともできると伝え協力を頼んでもいいんじゃないかと勧めてみる。
「ホゴロラは警戒役と調理役、離れた位置の仲間からの情報伝達役にも頼れるよ。僕は言葉が理解できないから無理だったけどね。」
そんな感じでゴブリン達とも別れ、洞窟の状況を近くの木の上から観察することにした。
昨夜イーユに精神力の鍛え方を聞き、不安定な場所で、瞑想し集中力を高めろと言われたのだ。魔法には集中と想像が大事らしいが、【魔物園】には魔力さえあればいいのでとりあえずそこから鍛えていこうと思う。
3時間ほどして、ゾロゾロと10人ほど人がやって来る。驚くことにその中には、イーユが何食わぬ顔でそこに続いて歩いていた。一瞬で見つかり目があい、危うく落ちそうになるもイーユはフッと笑い洞窟へと入っていく。
しばらくして、中から男たちの叫び声が聞こえワラワラと洞窟から飛び出してくる。いないと思われていたドラゴンが、ただならぬ存在感を放ち眠っていたうえに起こしてしまったのではなかろうか。
そのまま町へ報告に戻ったようなので、木から降りイーユがまだ残っていたはずだったのでロジ丸とピュトンを迎えに行く。
「これで、落ち着くはずだから好きなもの食べさせてあげるよ。何食べたい?ロジ丸やピュトンも何が好きなんだろ?」
「肉だ、肉好きだよ。」
毎日のクエスト報酬でお金も順調に貯まってきていたので、ひと段落した暁にとウキウキしながら洞窟の奥へと進む。だが、そんな思いは一瞬で覆された。
「…おい、何してんだよ。
お前一体何してんだっ!」
「ああ、遅かったですね。こっちの方が人が信じやすいので氷づけに戻しただけですよ。了承も得ましたしね。」
「じゃあ、なんでロジ丸はそんなに怯えてて、なんでピュトンの尻尾がないんだよ!」
足や手が小刻みに震えだす。恐怖でなのか怒りなのか、ハッキリとわかることは目の前のイーユが今までと別人だということだった。
話し方や顔つきも違う、まるで初対面の人間がピュトンの尻尾先を持って近寄ってくる。
「まあ隠しても仕方ないので言うが、国が報告を待っている。これはその証拠品、心配しなくてもまた生えてくる。
それと、国からの情報だが、先日退治したばかりの世界一大きな魔物が海で泳いでいるところを発見された。これには、なんらかの組織が関わり助けたとみて人間側に裏切り者がいるのではないかと疑っているようだ。
不自由のない暮らしの中、召喚者を捜している私にとって国に疑われることは避けたい。だから、同行は認められない。世話になった」
「そうゆう問題か?見損なった。生えてくるからなんだよ、何度でも生き返ると言われても死にたくなんてねーだろ。
同行はこっちから願い下げだ。けど、犯人がわかっているのに見逃していいのか?」
「なんの話だ?犯人なんて知らない。」
「そうかよ、じゃあな。」
ラキは何か言いたげな顔でイーユを見つめていたが、振り返ることなく去って行った。
炎で氷を溶かすと少し話をして【魔物園】へ、ロジ丸が怯えていたのはイーユの豹変に驚いたからだろう。とりあえず、裏切られたショックが強く何もする気が起こらない。
「あんなやつだったなんて、悲しいけど同郷ってだけで信用してちゃダメなんだな。悪かったな、薬で治すから休んでてくれ。ピュトンありがとう」
「イーユは尻尾の先が必要、でもわざわざ凍らせたってことは少しでも痛くないようにじゃないかな?」
「そうだな、ラキの言う通りかもしれない。けど、何も言わずに勝手にやった。僕は信用されてないんだよ。僕たちで先へ進もう」
帰りは暗い空気の中、頭の中はイーユの行動を思い返し無言で歩いていた。ギルドに寄り、ジークに町へ移動する時の護衛を約束して日程を2日後にしてもらう。その後のことは、あまり記憶にないがふと視線を上げると以前行ったことのある肉屋の前についていた。予定はかなり狂ったがピュトンたちにお詫びも兼ねて、鳥の魔物肉を購入して宿へ帰る。
部屋でロジ丸を呼んで、肉をラキと食べ【魔物園】にも持って行ってもらう。尻尾のことは、全くと言っていいほど気にせず肉に喜んでいた。
イーユの話によると、ルガンの元気な姿が見つかり人間の国から狙われる可能性がある。というわけだが、あんな大きな魔物を倒そうとしていたということか。またルガン退治に動き出すこともあり得るので、出会うことがあれば伝えてやりたい。そんなことを思いつつ、2日後の旅立ちに気合を入れこの日は早めに休む。




