夏華と露地丸亜
少し自信がついた私は、早速行動に移る。
ゴブリン達とオークを集めて、砂浜に輪を作り待機する。
「契約の10日間まで半分を切った。なので、君たちだけでも調達できるように練習していこうと思う。まず、ゴブリン達は森に生えている丈夫な木の蔓で網を作ってもらう係と、落ち葉や木の枝を回収してくる係。この2つに分かれてもらうが、もちろん今までの役割も大切なのでそこは考えて決めて欲しい。」
ラキが通訳しながら、ゴブリン達に話してみたが皆真剣に聞いてくれていた。砂に枝で図を書いて網の作り方を説明し、実際に近くの森から必要なものを若いゴブリンに集めてきてもらう。
その間に残ったゴブリンとオークに、再び話を続ける。
「オークたちは洞窟で暮らせているが、必要な栄養素を補給できなくては、この前のように病気や死んでしまうことがある。そこで、ゴブリン達と協力して魚を捕まえることができれば、今までより良くなるはずだ。
というわけで、オーク達は住処を守る者と森の食料調達する者、海の食料調達する者、住処を改良していく者この4つに分かれ行動して欲しい。細かい作業はゴブリン達に任せられるので、護衛と力仕事が主な役割になる。」
ゴブリンと協力するというところで、1度ざわついたが暮らしが良くなると言われ少し考えてくれる気になったようだ。だが、ここにいるのは数人なので決定権がないことはわかっていた。
実践で魚が獲れるかどうかの確認と、反応を見るためだったので問題ない。
「洞窟にいるボスにもこの話をしようと思っている。でもその前に、魚がどの程度獲れるか確認してからの方が良いだろ?」
ゴブリン達は集めてきた素材で、せっせと網作りに取り掛かっていた。
その間に、砂に図を書いて魚を捕る作戦を伝える。網を持ったオーク達が、深いところから浅いところへ網を引きながら歩くだけの簡単な作業だった。だが、海の中へ入っているオークが危険なので左右2人ずつ入ることが重要だと伝える。
だいたいできたところで、実践してもらい問題点を改善していくはずだったが、思いの外うまくいきオークもゴブリンも大喜びで魚を食べていた。
しかし、運がよかっただけの時もあるので明日もこの作戦で網を作る係と、森の素材をオーク達と集める係に分かれて行動することを伝え、ゴブリン達と別れる。
残ったオークと洞窟へ向かっている中、前方から声が聞こえ慌てて身を潜めた。声のする方を確認すると人間が2人、冒険者なのだろう格好をした男達が洞窟に入る準備を整えていた。
「今日は魔物が少なくて、すんなりここまでこれちまったな。罠ってこともあるか?」
「フン、ビビることはねぇ、何度も来てるんだ。さっさとドラゴン様の核を確認して帰るぞ。」
2人の男は言うなり洞窟へ入って行ってしまった。会話から、町の任務でロジ丸の様子を度々見に来ていたのだろう。
「あいつらドラゴンの核って言ってた。もしかして」
「ロジ丸のことだろねー。どうする?」
「あー、とりあえずついて行こう」
洞窟に入り男たちが奥へ進む後を追う、洞窟にいたオーク達と合流し見つからないよう隠れてもらい、ラキと男達をさらに追いかける。これ以上奥へ進むと、氷づけにされている大蛇が見つかってしまう。どんな反応になるかわからないが、様子を見るほかない。
「おっ、おいどーなってる!ドラゴンの使いが氷ってるぞ。」
「おぅ……グランドドラゴン様の核が消えてやがる。これは非常事態だ町長に報告しねーとえらいことになる」
男たちは血相を変え走り去っていった。そして、バレずにすんだが問題は大事になってしまったことだ。
(どーしよー)
「今の2人も閉じ込めてしまえばいいのに。」
「ラキ、その考え方は間違ってる。仮に閉じ込めれたとしても、次から次に調査にやってくるから何の解決にもならない。第一この人達は何も悪いことをしてないのに閉じ込めるなんてできない。」
ラキに考えを示しつつ、大蛇の方へ手を伸ばし
掌から赤い光を放ち氷を溶かしていく。
「ちょっ何で溶かすんだ?起きてしまったらどうするんだよ。」
「聞いてなかったのか?こいつも守るという仕事をしていただけで、閉じ込めるのは間違っていた。聞く耳もたなかったという点では、悪いところもあったってことで自由にするからなかったことにして…もらえたらいいなと」
「今度は聞く耳もってくれるといいけど」
ラキはため息を吐きつつ、大蛇が起きたときのために備えている。
頭部の氷がだいぶ溶け、起きていれば簡単に壊してしまえる程度の薄い氷しか残っていない。大きな口を持つ蛇を目の前に、心臓が大きな音を立て鐘を鳴らし全身に危険を訴えている。何度も繰り返し踏み止まろうと考えては、イーユに言われたことを思い出し震える手に力を入れ魔法を発動し続ける。
ここで逃げれば、後悔する。そして、ラキまでもがそんな風に成長してしまうのではないかと、それだけは避けたかった。
「ロジ丸。
お前のことを守ってくれていたんだ。これからどうするのがいいか、話し合ってほしい。」
もうほとんどの氷が溶けて無くなった。ロジ丸を呼び出し、頼んでみる。
その時、大蛇の目がパチリと開き私を睨みつけ大きな口を開けた。
あまりの怖さに腰が抜け、地面にへたりこむ。そんな自分の前に壁ができ、それにヒビが入る。ロジ丸が土で防御壁を張り守ってくれたと理解するのに5秒かかった。大蛇は防御壁に跳ね返され、ロジ丸を視界に入れた。
そこからしばらく睨み合いが続いてたように感じたが、現実は5分程度しかたっていないということだった。
「ロジ丸はササについて行くことを決めたから、ピュトンは好きにしたらって感じだね。あ、ピュトンは蛇の名前みたい
でも、相手は納得できないみたい。」
「そりゃそうか。」
動物に好かれるようになったのはいいが、そこから何かしたわけでもなく、それに応える知識や力がない自分がどうしようもなく嫌になりたまらず俯く。
(町の人たちに説明し罰を受け、ロジ丸と別れることがこの世界にとって最善なんだ)
別れを決意した瞬間。自分の後を追ってどこまでもついてくるロジ丸、手から食べる時の顔や丸まって寝ている姿で頭がいっぱいになり、いつの間にか目にいっぱいの涙が溢れていた。
ラキがその頬を舐め、目の前でロジ丸がこちらを見上げていた。前にこの顔を見たことがある、母親の顔が浮かぶ。
それは、昔兄が拾ってきた子猫が近所の子供に連れて行かれてしまった時の顔だった。
(一緒に暮らすって決めたからには半端な覚悟じゃいけなかった。そんなことも忘れてた。)
幼少期から、親に何度も繰り返し言われ育った言葉だった。
「ロジ丸、僕が生きている限り一緒にいることを約束するよ」
そう言いロジ丸の顔を両手で包み、額をくっつけ誓う。
「ピュトン悪いけどそういうことだから、いつか良かったと言わせてみせる。
だからお前も来ないか?」
ロジ丸を抱き立ち上がったのを見て、また連れて行かれると思ったのだろうピュトンは、勢いよくこちらに向かって口を大きく開けた。
最後の言葉をラキが発した瞬間、口を閉じ目の前で大人しくなった。危うく真上から丸呑みにされるところだ。
「見張っていてやるってとこかな?間違ってる?ラキ。」
「だいたい合ってるよ」
「これから特訓の毎日になるな。でもロジ丸も友達と一緒に行けてよかったかな」
【魔物園】では誰も傷つけないと誓ってもらい、ピュトンを洞窟エリアに移動させる。
残る問題はダムリルの町の人たちだが、こちらはとりあえず帰ってから考えることにする。




