イーユの過去
イーユはここに至るまでを大まかに話し出した。
「5年前、この世界へ来た私は優遇されていたと思う、しかし、毎日の過酷な訓練と小隊での実践活動、あらゆる知識を叩き込まれ、当時魔物と人間での領地をめぐる戦争の真っ最中で、基本的なことを教わった翌日から兵士として戦争に参加させられた。
こんな所に来てしまった自分の運命を呪った。体重も減り、自殺も数えられないほど試みたが、自らの意思で死を選ぶことはできない呪いがかけられていた。多分だが、召喚士の力だと思う。
それから、死人のような毎日を過ごしていたが、噂で国に1番貢献した者には願いが1つ叶えられると聞き、どうせならとこれまでの経験を生かしもともと転生により優位だったこともあり、1年で参謀の地位を得た。
この頃から単独での行動も認められ、情報収集という名目であらゆる地へ行っては強くなるための知識を吸収した。実はこの時に、私を召喚して国に売った奴がいると知った。
それは、私以外にも異世界から来たという人を見つけたからだ。すぐに打ち解け、共通の会話で盛り上がり、もう2度と元の世界に戻ることなんてできないと諦めていたが、そいつと出会って希望が持てると同時に、私たちの人生をめちゃくちゃにしたやつに復習するため、召喚者の情報を各地で極秘に調査することになった。だが、他の異世界人は見つけられず、召喚者という職業は噂でしか存在しないと言われるほど情報がなかった。」
一度コップの水を飲みほし、また続きを話しだす。
「そんなわけで、出会った異世界人と調査を続け、ようやく裏社会にいる召喚者が男で、その男が最近また召喚したことを知り、
そいつがどこにも売られず、生き延びているかも知れないという事実を確かめるため、ここへ来て目をつけたのがササだ。ただ、参謀としても成果が必要なので洞窟の調査をしていた。
ここにいる大きなトカゲの魔物だが、調査によるとこの世界には4頭しかいない大型ドラゴンの1頭のはずだ。この種のドラゴンは死んでも時を経て蘇る、不死鳥のようなものらしいが、1000年に1度蘇生期に入り50年ほど姿を隠し、また現れる。この機会に居合わせた奇跡を今さらながら感動している所だが、
国には大蛇しかいなかったと報告することになるだろうな。」
だいたいのことを話し終えたのだろう、質問は?というような顔でこちらに首をかしげてくる。
(1000年に1度⁉︎おいおい、何も大きなことにならなければいいけど)
足元のトカゲを見て苦笑いを浮かべ、イーユに向き直る。
「異世界から召喚され売られて、やっと生活に慣れてた今、私用と仕事で、僕についてと洞窟を調査していたと。召喚者を探しているということだけど、見つけたらどうするんだ?」
「もう1人の異世界人とは、見つけたらその時考えようってことだけど、個人の意見としては2度と私と同じような者を生まないように、何か封じる方法を模索中だ。」
顎に手を当て真剣な顔つきでイーユに質問する
、イーユは気にするそぶりもなく返す。
「じゃあ、僕も召喚者と会ってみたいからついて行っていい?この世界を見て回りたいのが本音だけど。」
「抜け目ないな、魔法の技術と世の中の情報を手っ取り早く知れるといったとこか。」
小さな本音を先に言うことで隠せたかと思ったが、バレてしまった。だが、その表情には呆れながらも面倒を見てくれる、そんな優しさに溢れた笑みを浮かべた。
一瞬兄を思い出すが、天と地の差がある美しさに兄の顔は掻き消され、その笑顔を焼き付けるように見入っていた。しかし、イーユから笑顔が消え、眉間に力が入りムッとした表情になってしまったため、思考を切り替える。
(怒ってもキレイなんだけどな)
「イーユは元の世界で男だったのか?」
「女だ。結婚もしていた。男になめられないよう、こういう口調にしてるだけだ。そういうササこそ、女だっただろ?」
女性というだけで不利になることもあるのだろう、自分はあっさり見抜かれ、ドヤ顔で指摘されたがそこはスルーしておく。
「結婚してるってことは、年上かな?女子高生にしか見えないけど」
「20代とだけ、私はスキルで半分エルフだから100年以上寿命はあるらしい。ササは中学生かよくて高校生ってとこかな」
お互い前の世界より若くなっている、そしてイーユのスキルはエルフになれるということだった。そう言われて気づいたが、洞窟内では耳が尖っていたように思う。薄暗かったこともありあまり気に留めていなかったが、聞くとハーフエルフともまた違うらしい。
「25で無職だったけど、中学生は聞き捨てならないな。けど、そろそろ帰るか」
詳しい話は帰りながら聞くことにして、少し前に満腹になったのか膝の上で丸くなり眠ってしまった大きなトカゲ(ドラゴン?)をどうにかしなければいけない。
【魔物園】を開いてルガンにご飯をあげつつ、ラキの様子を見る。まだ眠そうにはしているが、回復薬を1つ使ったので傷は治っていた。
この時、右上に赤い数字が表示されていたので、どうやら洞窟エリアも解放されたようだ。洞窟エリア北となっていたので、もしかすると他にもあるのかもしれない。
「ラキ…こいつはどうしたらいい?」
ラキを呼び出し、向かい合うようにトカゲを抱き上げる。
「美味しいものがもらえると思ってる、ついてくるつもりだよ」
「ドラゴンがこんな簡単に餌付けされて、住処を離れてしまっていいのか?」
可愛い魔物が増えることに、嬉しい反面少し心配にもなる。だが、奇跡的な出会いに素直に喜ぶことにした。【魔物園】へ入ってもらうには、名前か愛称がいるので聞いてもらう。
「名前はなんていうんだ?」
「呼び名はいろいろあるらしいけど、アースとかランドくらいしか覚えてないって」
(食べ物以外に興味なかったんじゃ?)
「ロジ丸に決めた。ドラゴンのロジ丸!」
ニカッと笑いロジ丸の顔をこちらに向けると、舌で顔を舐められる。多分嫌がってはないのだろうということで決定した。
「ササにかかればドラゴンもペットになるとは、恐れ入るよ」
呆れているのかどこか引いているイーユに、呼び名がいるってだけだと反論し、【魔物園】の洞窟エリアでロジ丸は暮らしてもらうことになった。




