1話 転生?いやワープです
序盤ということで文字数少な目です
このこみ上げてくる気持ちはなんだ。異世界に来たことに対する喜び? ワクワク感? 感動?
いや、決してそんなものではない。それが証拠に俺のテンションはどん底だった。俺が感じているのは倦怠感だった。そしてこのこみ上げてくるものは……
「おえっっっ! ゴホっゴホっ。あー、気持ち悪ぃ」
吐き気だった。まるで船酔いした気分だ。船酔いならぬワープ酔いか?
汚物を近くの川に向かって思いっきり吐き出す。気持ち悪すぎて異世界に来たことを喜ぶ余裕がまったくない。
「ワープ酔いとは情けないですね。それでも転生者ですか?」
「いや、ワープの時点で転生じゃないきが……。そもそもワープなんて初体験なんだからしかないだろ! ……しゃべったらまた吐き気が、おえっっ」
「気持ち悪いので吐くのやめて下さい」
汚物でも見るかのように、かがみ込んで吐いている俺をアズエルは見下している。
……実際、汚物を吐き出しているわけだから仕方ない気がするが、生理現象なのだから許して欲しい。
「それじゃあ、さようなら」
そう言うとアズエルはこの場から去ろうとした。俺をおいて……
「ちょっと待った。どこ行くんだよ」
「どこって? そんなの私の自由では?」
「いや、こういう場合って俺と天使様が一緒に冒険したり一緒に住んだりする流れじゃないですかね? ……おえっ」
「小説の読みすぎでは? 気持ち悪いのは顔だけにしてくださいね。それではさようなら。次引き止めたら怒りますからね?」
そう言うとそそくさとどっかへ行ってしまった。
「マジでか……」
やばいクラクラする。気持ち悪い。俺、死ぬのか?まさかの異世界にきて数分でバッドエンドですか……。
俺はうつ伏せに倒れる。
「大丈夫?」
──つんつん
なにかで頭を突っつかれた気がする。
「返事がない。ただの屍のようだ」
「いや、生きているから……」
死にかけているけどな!
「おぉー、息がえった!」
耳元に騒がしい声が響く。うつ伏せに倒れてるから分からないが、声的に女性だろうか? いや、喋り方は男っぽい? 今はどうでもいいか。そんなことよりも……
「メシアよ。み、水をください」
「飯屋? 僕は飯屋じゃないよ? ほい、水」
俺は必死に起き上がり、受け取った水を飲み干す。ただの水のはずなのに、超高級の水に感じてしまうほど美味しかった。
「僕の水をそんなに情熱的に飲まれると照れちゃうよ」
凄く意味深のことを言ってる気がするがスルーする。というよりツッコむ余裕がまったくない。
「ありがとう」
気分が少し良くなったため、助けてくれた人を見ることが出来た。髪はショートヘアで、紺色の髪は宝石のように綺麗だ。頭のてっぺんにはぴょんっと、アホ毛が生えている。薄着だからか、とても華奢な体型見える。華奢な体型の人は不健康に見えたりする。しかし、ほんのり焼けた肌のおかげで不健康さは全く感じない。逆に健康的に見えるぐらいだ。全体的な印象はわんぱく少女がそのまま大きくなったという感じだ。
「ねえねえ、一つ質問していい?」
「ん? いいよ」
「君ってもしかして転生者?」
正確にはワープ者だけど、転生者ってことにしとくか。ワープ者って変な感じするし。
「まあそんなところだ。どうして分かったんだ?」
「んーっとね、野生の勘?」
「動物かよ……」
「え? 人間だよ。あ、でも前世はライオンだったのかも。ガオー」
そう言うとしょうじょはライオンのモノマネをする。この異世界にはライオンなどの動物、存在するのか。
「そんなことより、転生する前にいた場所について教えてよ! 僕、異世界にとっても興味あるんだよね」
少女は目を輝かせながら言った。
「転生者って少ないのか?」
「うん、かなり少ないよ。普通は記憶をなくして、赤ちゃんとして生まれてくるから、記憶ありの転生者はかなりレアなんだよ。スーパーレアなんだよ」
「記憶ありの転生者?」
「うん。噂だと記憶を消したり、赤ちゃんにすることを転使様がめんどくさがって、そのまま転させることがあるんだってさ」
「アズエル、真面目に仕事しろよ……」
よくそれでクビにならなかったな。いや、アズエルなら喜んでクビになりそうだし、クビの概念がないのか? ある意味ブラックだな。
「で、その噂は本当なの? 教えて教えて!」
「ちょっと待った! 流石にタダでは教えられないな。一つ条件がある」
「え? もしかして僕の処女を欲しい……とか? 流石の僕でもそれは……」
顔を赤らめながら少女はとんでもないことを言いやがった。
「いや、違うからね? そうじゃなくて、この世界について教えて欲しいんだ」
恐ろしい勘違いだな。俺はロリコンではないのだ。
「なーんだ、そんなことか。もちろんいいよ」
そう言いながら右手でグーの形を作る。小悪魔的な笑顔は不覚にも可愛いと思ってしまった。
「これで交渉成立だな。えーっと...名前なんだっけ?」
「僕の名前はツバキだよ。よろしくね」
「俺はたつきだ。こちらこそよろしくな」
「さてと……まず何しよう?」
話もまとまったし、ワープ酔いもだいぶ良くなった。そうなるとそろそろ移動するべきだろう。
「この世界について教えて欲しいってことはまだ、転生したばかりってことだよね?」
「うん」
「ならまずギルドだね。僕も向かってる途中だったから丁度良かったよ」
「お、異世界らしい展開きたーーー!」
「急に大声出してどうしたの? 子供っぽいよ」
「ほっとけ」
こうして、俺は異世界生活の第一歩を踏み出したのであった。
街の描写などは次の話で書く予定です。
感想、ブクマ、評価お願いします(〃・д・) -д-))ペコリン
メシア→救世主という意味です