推理ゲームの序章
真っ白ちゃんを依怙贔屓している所がある、小説家志望、部長のマサちゃんこと三浦優。
本名不明、何時かはパソコンと結婚しようと思う程パソコンを愛し、初対面の人にも馴れ馴れしい、副部長のシゲ。
成績優秀なので何でも許されている(犯罪に入らない程度に)、読書好きの文学少女、キノコヘアー、書記のキノコこと木ノ下治子。
ファッションセンスがどこか古い、お喋りで五月蝿い、名前がロボットに関する名前なのにロボットには微塵も興味がない、書記2の御茶ノ水博士。
死語を自覚なしに使いまくる、針鼠ヘアー、運動大好き、会計のゲロゲロ、またはリーこと中島利真。
砂場遊びを未だに楽しむ、天使の様に白い、小学生の様な容姿をした、次期部長の真っ白ちゃんこと真白曖。
祖父を何者かに殺された、両親に逆らえない、事件と非日常に飢えている、新入部員の深井世。
怒ると本気で怖くて恐ろしい、自分の子供を傷付ける奴には容赦しない、ちょっぴり男勝りな、深井世の母親、深井命。
この8人で、祖父殺しの犯人を探す事になった。
「私、凄い事に気付いちゃった!」
全く空気を読んでいない、副部長のシゲは嬉しそうに叫ぶ。
「セイのお母さんの名前と、セイの名前と、あーちゃんの名前を年齢順に並べると、どうなる?」
「ん? えっと、メイアイセイ、だね。それがどうしたの?」
不思議そうに博士は問う。
「それを英語に変えると、”May I say” になるのよ!」
どこが凄いのか、良く分からないと云う顔を、みんなしていた。誰も彼女云っている事の凄さを理解する事が出来なかった様だ。
「それなら、メイオウセイ、の方が凄いと思うんだけど」
またもや空気を読まない人が現れる。キノコこと木ノ下治子だった。
「私のクラスに、王って云う名前の男子が居るわ。アイちゃんを抜いて、彼の名前を入れたら『冥王星』になるよ。そっちの方が面白いと思うんだけど。でもよく考えたら、シゲの発見も面白いわね……」
「でしょ! 仲間だね、イェーイ!」
二人は元気良くハイタッチする。そして空気を読まない連合が結成された。居たとしても、邪魔なだけなのだが。
「深井さんって下の名前、メイですよね?」
空気を読まない連合のシゲは問う。
「ああ、そうだよ。メイだ」
「山の近くに住んでましたか?」
ニヤニヤしながらシゲはまた質問をする。また下らない事を考えているな。
「ああ、山の近くと云うか、山に住んでたよ。一時期、必死にト◯ロを探そうとしたけど、見つからなかったよ。木霊は見つかったけど」
「わあ! 何でト◯ロの事を聞こうとした事、分かったの!!? エスパーだよッ!」
エスパーでなくとも、シゲの考えていた事は分かっていただろう。それよりも、木霊を見たと云う事の方が凄いと思う。しかしシゲはそこに気付かない。も◯のけ姫は見た事がない様だ。
「ねえあーちゃん、まだ自己紹介してないよね? 名前しか云ってないよ、狡い! みんな自己紹介したのに、あーちゃんだけ逃げてる! 今やったら丁度良いじゃない、深井さんも居るんだから」
シゲがそう迫るので、真っ白ちゃんは部室にあった真っ赤なおんぼろソファアに座り込み、しぶしぶ自己紹介を始めた。そこが彼女の指定席らしい。ソファアの下を覗いた部長の行動も頷ける。
「僕の名前は先程も云った通り、真白曖。主に真っ白ちゃんと呼ばれている。シゲの様に、あーちゃんと呼ぶ奴も居る。
次期部長だと呼ばれているが、僕にその自覚はあまりない。ていうか全くと云って良い程部長になるつもりはない。優くんは僕を次の部長にする為、必死なんだけどね。僕は犯罪とかに興味がないんだよ。じゃあ何でこの犯罪研究部に居るんだって話になるけどね。
僕はこの世界から犯罪をなくしたいだけなんだよ。この世のあらゆる罪が憎い。大半の人はそうだろう? 犯罪が嫌いだからと云って、僕が『デ◯ノート』の夜◯月みたいな行動に走る訳ではない。僕にはまずデ◯ノートがない訳だし。
僕は只単に犯罪が嫌いなだけ。興味の或る犯罪なんてないし、犯罪と云う存在自体が嫌い。だから、世間を騒がせてる事件の真相を推理したりして、楽しんでいる優くん達とは、やろうとしている事が根本的に違う。優くん達は事件を推理して、ああ楽しかったー、で終わってしまうけれど、僕はその後また同じ事が起きない様に、どうすれば良いのかを常に考えて実行に移している。
別に、優くん達がやっている事が悪いと云っている訳ではない。優くん達は優くん達なりに青春を楽しんでいるンだから。否定する訳にはいかない。自分の嫌いな料理を食べているからと云って、その人が楽しんでいると云うのに、その料理をゴミ箱に捨てるのと同じ様な感じだ。
あれ、自己紹介の筈だったのに随分と長くなったなあ。まとめに入ろうか。僕の名前は真白曖。興味の或る犯罪は特にないが、しいているならば名誉毀損罪かな。好きな事は食べる事、読書、砂遊び。砂遊びね、楽しいからみんなもすると良いよ。むっちゃ楽しいから。にゃはは、宜しくね。次は、世くん。自己紹介お願い」
次期部長の真っ白ちゃんこと真白曖。あだ名の由来は見た目からか、それとも名字からなのか。きっとキノコの様に、両方からなのだろう。
真っ白で絹の様に綺麗な髪。砂遊びをしている時より随分と綺麗だ。きっと毎朝セットしているのだろう。前髪は目にかかるか、かからないぐらいの長さ。前髪は切らないのかと聞いてみたら、「鋏が家にない」と答えられた。最近ここに引っ越して来たばかりなのだろうか? それとも只単に、鋏を買うのが面倒なのか?
天使の様に真っ白で、更に高校生には見えない幼女の姿をした彼女は、まるで異世界か天国からの訪問者の様だ。
靴は真っ黒なローファーで、彼女にはサイズが少し大きい様だった。彼女が履いていた黒いタイツもサイズが大きい様で、余分な部分を伸び縮みさせながら彼女は遊んでいた。
「えっと皆さん、初めまして。新入部員の深井世です。興味が或る犯罪……真っ白ちゃんの後に云うのが何だが辛いです。犯罪が嫌いなんでしょう? ほら、鬼の形相じゃあありませんか! 部長達は云って良くて、何で僕は駄目何です! え、部室の外から盗み聞きしている奴が居る? あ、本当だ、走って行った!」
扉の硝子越しに見えていた影が、ふいに消え去った。追おうとした僕を、部長が叫んで止める。
「追わなくても良いよ。ふざけてここへ来る奴がいつも居るのさ。ってお母さん、セイくんのお母さん! 追わなくても良いですよ!!」
部室内の会話を盗み聞きしようとして真っ白ちゃんにバレて、逃げたら僕の母親に捕まってしまう。何だがその子が可哀想だ。僕だったすでに、失禁しながら白目を剥いて失神している。ここの学校の人達はメンタルが強い様だ。それとも僕のメンタルが弱いのか? もしそうなら、良くここまで生きて来れたものだ。自分で自分の事を褒めよう。よしよし。
「世、自己紹介続けても良いよ」
数分後、母親がいつもと変わらず僕に云った。汗をひとつもかかず、呼吸も乱れていない。我が母はやはり恐ろしい。盗み聞き犯が近くにいないという事は、短い説教をして解放したのだろう。何て運の良い奴だ。
「……興味の或る犯罪は云わないでおきます。お母さんの前では何だか云い難いですし」「知ってるぜ、児童虐待と猟奇殺人だろう?」
「バレてる!!」
自分の子供の事をここまで知っている母親は、この世に居るのだろうか? って居ますね、すぐ目の前に。
「何時もニュースとかでそう云うのが流れると目付きが変わるし、新聞もそこばっかり切り抜いてる。すぐに分かる事だよ。お父さんと玲子も知ってるよ」
「妹にもバレてる!!」
両親だけでなく、妹にもバレるとは緊急事態だ! 兄としての威厳が失われてしまう! 元々兄としての威厳なんてものはないのだが。妹からは常に舐められている。毎朝、物理的に手の甲と脹ら脛を咬まれている。
「自己紹介も一段落した所だし、そろそろ犯人探しを」
「待ってください」
母の言葉をシゲが遮る。
「深井さんも、自己紹介してください」
シゲ、それは殆ど自殺行為だぞ! お母さんは早く犯人探しをしたのだ。それを邪魔するだなんて、シゲ! 空気が読めないにも程がある!
空気を読まない連合のキノコも流石におどおどしている。
「シゲちん、それギガントヤバス!! ガチで殺されるパティーンだから!!」
余り喋ろうとしなかった中島でさえ、焦って死語を連発している。本人の中ではまだ生きているワードなのだろう。両親が普段から死語を使っているのだろうか?
「ああ、そうだね。私も自己紹介をしなきゃ狡いよな」
母は怒らなかった。眉を顰めなかったし、舌打ちもしなかった。至っていつも通り。普通に知人と話している風だった。シゲを殺さなかった。母は意外と、短気で自分中心の人間ではないのかもしれない。この事を母に云ったら、自分の母親を何だと思っているんだ! と云って逆に僕が殺されてしまいそうだ。うん、云わないでおこう。
「私は深井世の母親、深井命。名付け親は私の名前をミコトと読ませるつもりだったが、お義父さん、つまり世の祖父の名前がミコトだったので、メイになった。
「世の祖父は、親戚内じゃあ結構なお偉いさんだ。夫とは親戚なんだ。まあ、良くある事だろうけど。
「私は、余り犯罪に興味はないな。私のとって犯罪とは、憎むべきものだからね」
深井命。旧姓、大神。大神命。何だが古事記に出てきそうな名前だ。オオガミノミコト。名付け親は母を「オオガミノミコト」と呼んで、遊ぶつもりだったのだろうか? もしそうだとしたら、きっとミコトという名のおじいちゃんを恨んでいるだろう。どうでも良い事だけど。それに今は、大神命ではなく、深井命だ。フカイノミコト。余り古事記感はない。大神命の方が断然古事記感がある。
一応母の容姿などを説明させてもらうおう。
黒髪をボーイッシュなショートヘアーに切っている。そうした方が、頭が軽いらしい。本当は野球少年の様に丸刈りにするつもりだったらしいが、おじいちゃんとお父さんに反対されたらしい。女性が丸刈りをするのは良くない、という理由かと思ったが実際は、丸刈りを見るとおじいちゃんとお父さんは触らずには居られない性分らしく、仕事が手に付かなくなってしまう、という何だか可愛らしい(?)理由だった。母はそれについて色々と不満があるらしいが。中島の様なツンツンヘアーも触りたくなるからダメらしく、僕はそのせいでこの十五年間、ずっと同じ髪型で居続けている。
母は、茶色いブーツを愛用している。大切な人からのプレゼントらしく、「ロースリプロースサーロインリブロース・クラシタブリスケットリブ・フランクネック・ブラウンワークブーツ」という名前まで付けてしまう程愛でてている。名前が長くて云い難いのだが、お母さんはちゃんと全部覚えていて、毎朝そのブーツの名前を呼んで挨拶をしている。これには、赤毛のアンもびっくりぽんだ。
「じゃ、始めようか」
母の自己紹介が終わった事に満足そうな顔をした真っ白ちゃんは、八重歯を見せて微笑んだ。
さあ、推理ゲームのスタートだ。




