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犯罪者の慚愧  作者: 井澤文生
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犯罪研究部へようこそ。

「犯罪研究部へようこそ、深井世ふかい せいくん」

 日当りの良い、七畳ぐらいの広さを持つ部室に僕——深井世はいた。芳香剤の上品で爽やかな香りが部屋に漂い、窓から差し込む太陽の光が幻想的な雰囲気を醸し出している。

 部屋の真ん中に置かれている長方形の机に、先輩の部員達が五人座っていた。僕に話しかけてきている部長は、部屋の丁度真ん中に位置する場所を陣取っている。

「ここではみんな、お互いの事をあだ名で呼んでるから、君もそうすると良いよ。先輩を呼び捨てにしても、みんな気にしないし、まずここには先輩後輩という概念がないから。ああ、そこの椅子に座ると良いよ。君の指定席だ」

 小中高一貫校である『私立百舌鳥学園しりつもずがくえん』の高校生しか入部する事が出来ない部活、犯罪研究部。そこは犯罪マニアの寄り合いだと云われている。高校生しか入部する事が出来ず、また彼らは犯罪研究部の情報を一切公開していない事から、彼らが一体何をしているのか、謎だらけなのだ。

 だが、僕は犯罪に興味がある方の人間だったので、入部する事にした。興味がある、というよりかは、犯罪を愛している。

「じゃあ、毎年恒例の自己紹介をしようか。俺は部長の三浦優みうら まさる。後ろから呼んだら、るさまらうみ。みんなからは主にマサちゃんと呼ばれているよ。一番興味が或る犯罪は猟奇殺人かな。趣味は主に創作活動。次に自己紹介をしてもらうのは、副部長のシゲ」

 犯罪研究部らしい自己紹介だ。一番興味の或る犯罪なんて、早々云える物じゃない。心が春風に吹かれ舞う桜の花弁の様に躍る。

 部長のマサちゃんこと三浦優。中肉中背で、スクエア型の黒い縁の大きな眼鏡をかけている。髪の毛は寝癖であちらこちらに飛び跳ねていて、更に空き地で伸び放題になっている雑草の様に、その髪の毛は伸び放題だった。ヒゲもほんの少し伸びている。身だしなみには気を向けていない様だ。

 部長の右隣に座る、パソコンを操作していた部員が顔を上げ、僕の目を見つめる。急にニヒリと微笑んだかと思ったら、自己紹介を始めた。

「どうも初めまして、副部長のシゲだよ〜。私の本名は国家機密レベルの秘密だから、教えて欲しかった最新版のコンピューターと交換ね! 一番興味が或る犯罪はサイバーテロ。趣味はパソコン弄り。宜しくね、セイくん! 次はそーだな、キノコね」

 彼女は灼熱の太陽に似た笑顔で自己紹介を終えると、自分の右隣に座る少女の綺麗に染められた茶髪に手を乗せた。

 副部長のシゲ。こちらもまた、身だしなみがキチンとしていない。腰まで或る髪の毛先は切り揃われていなくて、部長と同じ様にボサボサ。その代わり、肌と爪は綺麗に手入れされていた。眼鏡は部長程ではないが、少し大きめのバレル型の赤い縁の物だった。

 下着は派手めの物が好きなのか、それとも母親からのお下がりなのか、レインボーカラーの派手な下着がうっすら透けていた。

 次に自己紹介をするという茶髪の不良っぽい少女「キノコ」は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、ハッキリとした口調で語りだした。

「どうも初めまして、書記のキノコこと木下治子きのした はるこです。そうだね、興味の或る犯罪は殺人かな。ミステリー小説が大好きなので、もし何かお勧めの本があれば教えて頂戴ね。じゃあ次は、ゲロゲロ、自己紹介お願い」

 書記のキノコこと木下治子。髪型はキノコの傘の様で、あだ名が名前から来たのか、それとも髪型なのか、良く分からなかった。もしかしたら両方なのかもしれない。

 身だしなみは他の2人とは違い、キチンとしていた。髪の毛は明るい茶色に染められていて、先生に注意されないのかと聞いたら、成績が良いから見逃してもらっているそうだ。僕が髪を染めたら教師から注意される前に、両親と祖父に殺されそうだ(比喩ではない)。

 彼女は非常に小柄で、中学生だと云っても信じてもらえそうだった。だが声の高さが明らかに中学生のものではなかったので、声を発したらすぐにバレてしまうのが、非常に残念だ。色々悪さが出来ただろうに……。

 部長の左隣に座る、背の高い青年が大きく深呼吸をした。彼が「ゲロゲロ」とあだ名される部員なのだろう。

「初めまして、会計のゲロゲロこと中島利真なかじま りまです。ゲロゲロが死語だと知らずに繰り返し云っていた為、あだ名になりました。出来れば俺の事は名字か別のあだ名で呼んでください。興味の或る犯罪は部長と同じく、猟奇殺人です。躯を動かすのが好きで、スポーツが得意です。次、博士」

 会計のゲロゲロこと中島利真。あだ名を考えるのも面倒なので、名字で呼ぶ事にした。彼はキノコと同じく、身だしなみがキチンとしていて、優等生な感じだった。髪の毛は短く切られていて、髪質のせいか針鼠の様につんつんと跳ね上がっていた。靴も有名なスポーツブランドの物で、話していた通りスポーツが好きらしい。もしかしたらその針鼠ヘアーも、どっかのスポーツ選手の真似なのかもしれない。

 彼は話すのが余り好きではないのか。それとも無意識に死語を使わない為か、台詞は短く済ませようと早口になっていた。

 先程、自己紹介をした先輩達は、みんな折りたたみ式の椅子に座っていたのだが、一人だけ安楽椅子に座っている、やけに老けた顔の生徒がいた。初めは顧問の先生かと思ったが、先輩達の様子を見ていると、そうではない事が分かった。

 その老け顔の生徒「博士はかせ」は、大きく咳払いをしてから、自己紹介を始める。

「キノコと同じ、書記の博士こと御茶ノ水博士おちゃのみず ひろしだよ。よろぴく。あ、よろぴくって死語だっけ、リー。なあリー、返事しろよ。別にお前の事を弄ってる訳じゃないよ。只の質問だって。神に誓うよ、お前を弄っている訳じゃない。

「ああ、ごめんごめん。自己紹介中だったね。僕、話が良く脱線しちゃうんだよね。

「あ、博士って名前ね、本名なんだよ。僕、文系だからやんなっちゃうんだよね。みんな僕が理系だと勘違いしちゃって、理科とか数学の点数が悪いと『それでも博士かよ』て弄って来るんだよ。しかも名字が御茶ノ水だから、ホントやんなっちゃう。何時も初対面の人に笑われちゃうんだよ。ロボットには、微塵も興味がないんだけどね。僕ね、犯罪関係の博士になりたいなあって思ってるンだ。あるのか分かんないけど。

「一番興味が犯罪は、やっぱり殺人かな。殺人には、色々な人間ドラマがあるでしょ? それがゾクゾクする。げへへ。

「ああ、次に自己紹介する人を指名しなきゃいけないのか。じゃあ真っ白ちゃん。てか、真っ白ちゃんしか選択肢ないけど」

 書記の博士こと御茶ノ水博士。ジョンレノンを思わせるラウンド型の眼鏡をかけていた。髪型は七三分けで老け顔なので、近所の無口で怖いおじさんの様だ。

 見た目は無口で物静かそうな雰囲気なのに、実際は物凄くお喋りで五月蝿い。彼は中島やキノコ同様、キチンとした身だしなみをしていた。靴はピカピカに磨かれたブラッチャーで、ファッションにはちゃんと興味がある様だ。だが明らかに現代高校生男子の興味がある様なものではない。

 次に「真っ白ちゃん」の自己紹介がある筈なのだが、その真っ白ちゃんは部室内に見当たらなかった。

「あれ、あーちゃんは? また脱走?」

 シゲは不満そうに云う。どうやらその部員が脱走してしまうのは、毎度の事らしい。

「可笑しいな、今日はちゃんと縄で縛っておいたのに」

 部長は物騒な事をさらりと云い、部室の入り口から左側の壁に置かれていた、真っ赤なおんぼろソファーの下を覗いた。部員をロープで縛るとは、真っ白ちゃんは相当ここが嫌らしい。何故ここの部員になったのだろう。

「あ、居たよ」

 キノコは掃除道具の入っているロッカーの扉を開けて云った。

「ちぇ、バレちった」

 その中に、「真っ白ちゃん」や「あーちゃん」と呼ばれる脱走常習犯の部員が隠れていた。

 それが、砂場で遊ぶ「その子」だった。

 真っ白ちゃんと呼ばれる「その子」は、全く高校生に見えなかった。例えここの制服を来ていたとしても、彼女は小学生高学年、頑張っても中学一年生に見える。高校生と云うには、少々無理がある。身長もあるのだろうが、未だ性別がはっきりとしない、幼い体格である事や、顔に未だ幼さが残っている事も要因だろう。

 部長は彼女をロープで縛ったと云っていたが、彼女はそれを既に解いていて、右手にしっかりと持っていた。

 初めて正面から見た、真っ白ちゃん。瞳は予想していた通り、くりくり大きくて可愛らしく、とても綺麗だった。だけど、死人を連想させる様な光のない、どこか暗くて怖い目だった。

「どうも、初めまして。って、初めましてじゃないか。公園で良く会うよね。会うって云うよりかは『見ている』だけど。はは、公園で見てるだなんて、何だか君がストーカーになってしまったみたいだね。もしかしてロリータコンプレックスなのかな、君。そんな君には、ナボコフの『ロリータ』をオススメするよ。にゃはは」

 真っ白ちゃんはそう云うと、八重歯を覗かせながら笑った。

「アイちゃん、折角の新入部員なのに、そんな冗談云ったら逃げちゃうよ。自己紹介お願いね」

 部長はそう云うと、微笑んだ。部長のマサちゃんは結構優しい人だった。そして砂場遊びをするあの子は、結構酷い性格だった。

 僕は事件が起こったら、出来れば傍観者でありたいのだ。それが僕の理想だ。それかもしくは、加害者を追う、警察の様な立場でありたい。被害者か加害者には、絶対になりたくない。

「うん、分かった。その代わりさ、優君が鞄に入れてる本、貸してよ」

「勿論だよ。アイちゃんの為に持って来たんだから。君は大事な次期部長だからね~」

 部長が彼女に優しいのが、次期部長だからだと云う事が分かってしまった。ここの部活は殆どが三年生で、下級生は彼女と僕だけの様だ。僕より早くここの研究会に居ると云う事は、二年生なのだろう。

「にゃはは、やったやった。本ゲットー。

「ああ、世くん。僕の名前は真白曖ましろ あい。かもしれないし、そうじゃないかもしれない。本当は別の名前かもしれない。まあ、そんな事はないんだけど。あったら面白そうじゃない? 冒険が始まりそう。ねえ、そう思わない? 君の名前も、セイじゃないくてルイだったのかも。だってほら、君の双子の弟、名前はルイでしょ? パパとママが君と弟を間違えちゃったかも」

 真っ白ちゃんは、全く理解出来ない事をペラペラと喋り出す。ああそうか、彼女は砂場で狂っている様に遊んでいる高校生だ。やはり彼女は、狂人だったんだ。

 僕は心を落ち着かせる為に、拳を強く握る。こんな狂人に負けたら、そこで試合終了だ。——たぶん。

「弟? 僕に妹は居ますが、弟は居ません。双子として生まれた覚えもありません。それより自己紹介を……」

「調べれば分かるよ。パパかママにでも聞けば良い。それにほら、パパの方のおじいちゃん、死んじゃったでしょ? 多分そろそろ教えてくれると思うよ。君に双子の弟が居る事。にゃはは」

 彼女は見透かしたかの様な顔をしながら云った。八重歯がちらりと見える。

「おじいちゃんが死んだ? 何を云ってるんです、おじいちゃんはまだ生きてますよ。ちょーピンピンしてます。今朝も怒られたんですから。それより……」

「電話すれば良いじゃない。ほら、家の電話番号は分かるでしょう?」

 ズボンのポケットに入れているスマホを指差し、彼女は云い放つ。

「セイ、電話してよ。気になって仕方がない」

 副部長、シゲがそわそわしながら叫ぶ。キノコと中島と博士、更に部長までもが気になっている様子だった。他人の言葉をあっさり信じてしまうのもどうかと思うが、6人の威圧にあっさりと負けた僕は、しぶしぶポケットからスマホを取り出し、母親へ電話をかけた。

『どうした、世。何かあったのか?』

「いやその、部活の先輩がその……おじいちゃんが死んだって云うから、本当なのかどうか聞こうと思って……」

 怒られる事を覚悟しながら、僕は母にそう伝えた。

『……その先輩、名前と学年は?』

 声のトーンが一気に下がる。お怒りモードだ。

 ——ああ、真っ白ちゃん、殺されちゃうな。

 僕は培ってきた経験から、それを予測する事が出来た。そして、真っ白ちゃんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。僕が電話をかけなければ、彼女は殺されずに済んだのだ。しかし返事をしないと逆に僕が酷い目に遭う。僕にとって、両親は絶対的な存在。逆らう事は許されない。

「……二年の真白曖だよ」

 母はその後、暫く何も喋らなかった。

登場人物の紹介をまとめておきます。登場した順で書かれています。


深井世ふかい せい

・高校一年生

・両親と祖父には勝てない

・非日常と犯罪をこよなく愛している


三浦優みうら まさる

・犯罪研究部、部長

・マサちゃんと呼ばれている

・小説家志望

・興味のある犯罪は猟奇殺人


シゲ(本名不明)

・副部長

・パソコン大好き人間

・興味のある犯罪はサイバーテロ


木下治子きのした はるこ

・書記

・キノコと呼ばれてる

・茶髪のキノコヘヤー

・読書家

・成績優秀

・興味のある犯罪は殺人


中島利真なかじま りま

・会計

・ゲロゲロ、またはリーと呼ばれている

・スポーツ好き

・ハリネズミヘアー

・死語を使ってしまう

・興味のある犯罪は猟奇殺人


御茶ノ水博士おちゃのみず ひろし

・書記2

・博士と呼ばれている

・おちゃべり

・ファッションセンスが古い

・興味のある犯罪は殺人


真白曖ましろ あい

・次期部長(予定)

・脱走常習犯

・アルビノ?

・砂場遊びが好き

・読書家

・見た目は幼女、中身は高校二年生


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