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どん底15年前

     西暦2000年  山田耕一、10歳


 「愛してくださる天のお父様。ここに備えられた食物を感謝して頂きます。アーメン。」


 10歳のとき、同級生の佐藤雄一郎はいつも何かを食べるときにこのようなお祈りをして食べていた。給食のときも、みんなで遊んでお菓子を食べるときも、まるでそれが当然するべきことであるかのように、自然にそうしていた。

 

 ある日授業で先生がクラスの子供達に家の宗教を聞いた事があった。佐藤雄一郎はその時クラスでただ1人のキリスト教で、喜んで挙手していたのを覚えている。鎖国時代の日本で自分の家がキリスト教徒である事を名乗り出る事は自殺行為だが、戦争を知らない世代の僕達にはその事が及ぼす影響は何もなかった様に見えた。

 

 しかし、佐藤雄一郎という少年は何かにつけ、他の子供とは違った。まず、話すことが変わっていて、普通の人とは、真逆の考えの持ち主だと感じる事さえあった。クラスに1人や2人いる、いじめっ子やボッチは佐藤が仲良くするうちに自然と更正して行き、クラス内に佐藤から優しさが広がっていると先生が言っているのを聞いた事がある。

 後で聞いた話だが、佐藤は問題児のために毎日、神に祈りを捧げていたという。佐藤は特に悪口を嫌っていた。悪口を言う人はその人自身が傷ついている人なんだからと、その人のためにも真剣に祈っていたようだ。佐藤があまりに優しいので、先生が感動して泣いていることもあったし、佐藤の祖母はいい子すぎて早死にするのではないかと危惧していたそうだ。

 

 ある時、思春期の女子特有の男子に対する敵意の表れなのか、男子に激しく罵声を浴びせていた女子が居た。その女子の名前は相川久恵で、学校の女番長的存在だった。相川の怒っている内容はほとんどが不良がいちゃもんをつけるようなもので、その内容は”くさい、汚い、だらしない、エロイ、キモイ、バカ、アホ、マヌケ、、、、”そういった感じだった。そんな言葉が蔓延しているせいで、教室内には険悪なムードが立ち込めていた。

 ほぼ毎日のように、怒涛の如く、怒りに身を任せて、吠えまくる相川。そんな相川を前に、ある日、佐藤が神に祈りを捧げだした。


 「神様、相川さんが世界一幸せになりますように。」


 穏やかで暖かく愛のこもった祈りだった。

 

 それを聞いた相川は、わが人生の宿敵とばかりに憎んで罵倒していた男子である佐藤の、全く思いもよらない行動の前に、思考停止状態の様相を呈し、言葉も無く立ち去っていった。

 噂によると、相川はそのあと、トイレで隠れて一人号泣していたそうだ。

 そして、卒業する頃には二人はすっかり仲良しになり、佐藤は女番長相川の信頼できる良き相談相手にまでなっていた。その事で佐藤が裏番長なのではという疑惑が持ち上がるほどだったが、佐藤が裏番長なら学校も平和になるだろうとみんながほっとしただけの話だった。

 

 顔も普通、勉強も、運動も普通、どちらかというとひかえめで目立たない佐藤だったが、いつもニコニコしていて、その優しくて温和な性格のためか、男子からも女子からも好かれていて幅広く友人がいた。

 友人の少なかった僕にとって佐藤は数少ない友人の1人だった。佐藤が時々話す聖書の話は、「なんかすごい」とは思ったが、僕にとっては実現不可能な高い高い理想論のようにも感じていたし、佐藤の言う神様が僕にはよくわからなかった。

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