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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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番外編 龍介×アレックス その7

悟が大分魔法を覚え始めた時の事だった。

ドシンドシンと地響きがして、宿が揺れるのを感じた2人は、慌てて窓に駆け寄り、外を見て、唖然とした。


あの魔物が外を歩いていたのだ。しかも、真っ直ぐどこかを見据えて歩いている。


「毒を吐きながらでなくて良かったが、一体どこに向かっているのだ…。」


アンソニーは悟を隠しながら呟いた。

魔物はそのまま行ってしまい、暫くすると、逆方向から、凄まじい速さでイリイ達を飛ばして、アレックスとダリルが戻って来た。


「アレックス様!今!」


「通ったか!?」


「はい!毒は吐いておりませなんだが!」


「北方に向かっているとの情報を受けたから、てっきり白魔導師達が住んでいた村に向かっていると思ったんだが…。微妙にずれているな…。」


「そうですな…。」


アレックスは暫く考え、幾分顔色を悪くして、ダリルを見た。


「俺たちは海や川は移動に関係ないから、最短距離でここまで来られる。だが、陸だけで進むとしたら、この先は…。」


ダリルの顔色も急激に悪くなった。


「竜国でございます!」


「あの責任者の男に、復讐に行ったのかもしれん。急ぎ竜国に戻ろう。」


そして、竜国の方向を見たアレックスは、珍しく呆然として言葉を失った。

大鷹なんてものでは無い、遥か遠くの空に相当なスピードで飛んでいく、見た事も無い物体を見たからだ。

どうも、歩いていた筈の魔物が突然、大きな羽根を広げて飛んでいる様だった。


「羽根が…。あれは突然生えたのか…。必要に迫られてという事か…。」


アンソニーも驚きを隠せない様子ながらも、努めて冷静に言った。


「そういう事になりましょうな…。白魔導師の呪いならば、一種の究極の魔法でもありますから、あり得ぬ事ではないかと…。」


「そうか…。兎も角急ごう。責任者の男は城の敷地内に住んでいる。兄上や姉上、フィリップに何かあっては大変だ。」


イリイにはアンソニー、ダリルの大鷹には悟が乗り、魔物を追い掛け始めた。


ところが、イリイ達が全速力で追い掛けても、魔物には追いつけない。

1回の羽ばたきで、イリイ達の10倍は進んでしまうからだ。

とうとう魔物は城内に着いてしまった。

アレックス達が城内の上空に着いた時には、既に魔物は匂いを嗅いでいる様子で、辺りを探していた。

アデルは騎士を率いて、最前列に居たが、アレックスに手出しは駄目だと言われたので、臨戦態勢で構えてはいるが、手出しはしていない。


「仕方が無い。ダリル、イリイを頼む。」


「アレックス様、何を…!?」


ダリルに答える間も惜しんで、アレックスはイリイから飛び降りながら、アデルに叫んだ。


「兄上!今すぐここを離れて下さい!」


そしてアレックスは魔物の頭に飛びついた。


「森へ行こう。チュイージー。」


魔物の動きが一瞬止まった。


「兄上!今の内にお早く!」


「しかし、アレックス!」


「大丈夫ですから!」


アデルはアレックスの加勢をしたい所だったが、アデルには騎士達が居る。

国王のアデルが手を出し始めたら、騎士達も当然戦い、毒の犠牲になるのは目に見えている。

仕方なく引き、それでも、直ぐに出られる場所から見守った。


魔物はアレックスを振り払おうと、首を振り始めた。


「チュイージー!サベル!アルポルト!ギュスタフ!」


アレックスは白魔導師全員の名を呼び始めた。


「ローエン!こんなんでいいのか!」


アンソニーがすかさず、死者を成仏させる呪文を唱え始め、悟も一緒に唱え始めた。

すると、(まばゆ)い光と共に、他の死者が成仏して行くのが見えると同時に、魔物の体が徐々に小さくなりはじめた。


「ありがとう、アンソニー、ササキ。」


アレックスは礼を言いながら、白魔導師達の名前を呼び続けた。

魔物は苦しみだした。


「お前達が受けた仕打ちは余りに酷い。

呪いたくなる気持ちも分かる。

だが折角、白魔導師として村の人達を助けていたのに、ここで人を殺してしまったら、人を助けていた事全てが帳消しになってしまうんだ。

本当にそれでいいのか。

残された家族は、お前達が呪いの白魔導師になって、人を殺したと知って、誇りに思えるのか。」


魔物はイリイ達位の大きさになった。

だが、暴れるのを止めると、人間の言葉で叫んだ。


「許せぬものは許せぬのだ!我らが一体何をした!」


そしてとうとう、ワイバーンの人間が住む建物に向かって、毒を吐き始めてしまった。


「やめろ!死ぬのは恨みのある人間だけではなくなるぞ!」


「構うものか!あんな毒の工場なんぞ作りおって!皆同罪だ!」


龍介から凍らせればいいのではという計画を聞いていたアンソニーは、今度は氷結の魔法を唱えた。


「水の精霊よ!魔物を凍りつかせよ!congelatio!」


悟も一緒に頑張った。

しかし、ハッセルの言う通り、白魔法は全く効かない。

アレックスはとうとう振り落とされ、アレックスに毒をかけようと、魔物が大きな口を開けたその時だった。


「アレックスさん退()いてえええー!」


上空からの龍介の叫びに、素早く反応したアレックスが転がって、その場を離れると同時に、エディに乗った龍介が猛スピードで何かの道具のハンドルを回し、やはりエディに乗っている隣の亀一がその機械のペダルの様な物を思い切り踏むと、その機械から雪の様な、氷の様な、凄まじい冷気が放射された。

魔物はその冷気を浴び、かなりギクシャクとした動きになり、毒を吐く事も出来なくなった。

龍介達はその隙にエディから飛び降り、アレックスに口元だけの鉄製のガスマスクを被せ、自分達も被った。


亀一が早口で説明した。


「砒素はガスを吸っても飲むのと同じ害がありますから!これだけは外さないで下さい!」


「分かった、有難う。」


龍介は物も言わず、こめかみに青筋を立てて、必死にさっきの機械のハンドルを回している。


魔物が弱まっている隙を狙って、アレックスが魔物に斬りかかった。

だが出てきたのは、無色透明な液体だった。


「まずいな。体液も毒か!?」


亀一が直ぐに簡易検査薬で調べ、頷く。


「白魔導師達よ!目を覚ませ!家族や村の人の事を思い出せ!」


やはり、家族の事を言うと、魔物の動きは鈍くなる。

亀一がその隙に再びペダルを踏み、先ほどの冷気を浴びせ、龍介がハンドルを回す。

そしてアレックスが名前を呼び続ける。


「お前達は名を持っていたんだ!思い出せ!名を持ち、家族が居た時の事を!チュイージー!サベル!アルポルト!ギュスタフ!ローエン!」


アレックスにそう言われる度に、動きが止まり、更に亀一特製機械の冷気を浴び続け、何度も何度も繰り返している内に、いつしか魔物はネズミの様に小さくなり、そして消えた。

そして、その代わりの様に、30人の白魔導師が現れた。


「アレキサンダー王…。正気に戻してくださり、ありがとうございます…。」


1番年を取っている白魔導師が頭を下げながら言うと、皆一様に頭を下げた。


「チュイージーか。」


「はい…。余りの恨みに、白魔導師である事も、人間であった事すら忘れておりました…。」


「ー本当に酷い目に遭ったな…。家族や村の人々も、とても悲しんでいた。」


「はい…。そして、我らは恨みに囚われる余りに、白魔導師として、以ての外の事をしてしまいました。」


アレックスの傍らに立ったアンソニーが言った。


「大地を汚す事ですな…。」


「そうです…。本当にこれだけはしてはいけない…。ですから我らは最後の力を振り絞って、大地を浄化致します…。」


「しかし、それをやっては…!」


慌てて止めるアンソニーをチュイージーは笑って制した。


「これぐらいせねば、した事の罪は償えますまい…。アレキサンダー王、心より感謝申し上げます…。」


そう言って、白魔導師の亡霊達は円陣を組む様に丸くなり、空に上がりながら、清浄な空気と光を出し始めた。

そのままワイバーンの方へ飛んで行っている。


毒が撒き散らされた辺りを調べていた亀一が言った。


「ここ、綺麗に浄化されてます。砒素毒を浄化する方法なんて俺たちの世界にも無えのに…。凄えな…。」


アレックスが不安そうにアンソニーに聞いた。


「あれをやったら、あの者達はどうなるのだ…。」


「ー白魔導師最後の力は、本来ならば成仏する為の…、そうですね…、天国へ行き、また生まれ変わる為の力でございます。それを使ってしまうという事は、光の粒となって、大気と同化し、2度と生まれ変わる事も無く、この世から本当に消えてしまうという事でございます…。しかしそれ程の力を使わなくば、有を無にする事はできませぬ…。」


「そんな…。」


龍介達が目を潤ませ、項垂れたのを見て、アレックスが言った。


「追って、せめて俺たちだけでも見送ってやろう。」


皆、力強く頷いた。




今度はイリイに龍介を乗せたアレックスは、隣を飛ぶ亀一を乗せたエミールに聞いた。


「リュウはエディに乗れたのですね。」


「そうなのじゃ。その機械は2人で操作せねばならぬと言うでな。

リュウに聞かせてみたのじゃ。

エディに乗ってもいいかと。

そしたら、エディは迷わず脚を差し出した。

こちらで暮らして雛が生まれれば、間違いなく、大鷹乗りになれるのにのう。」


アレックスが微笑んで龍介の頭を撫でたが、龍介は力無い笑みを返すだけだ。

しかも身体がさっきから小刻みに震えている。


「どうしたのだ、リュウ…。恐ろしかったか…。」


「いえ、恐ろしくはありませんでした…。ただあの…。」


「うん?」


「あの機械は、電気という物があれば、1人で稼働させられるのですが、この世界にはそんな物は無いので…。」


「それであのハンドルをあんなに回して、動力にしていたのか?」


「はい…。そのハンドルがとても重くてですね…。ちょっと今、手に力が入らな…。」


言ってる側から龍介の手がイリイの脚から離れ、龍介が真っ逆さまに落ちてしまった。


「龍ー!」


「加納ー!」


亀一と悟が真っ青になって叫ぶ中、アレックスがすかさずイリイを急降下させ、龍介を拾い上げると、疲れ切った顔で眠っていた。


アレックスは龍介を小脇に抱えるようにして抱いて言った。


「本当に有難う。助かったよ。小さな剣士。」




白魔導師が行き着いた最後は、やはり、ワイバーンの1番汚染の酷い、魔物が生まれた場所だった。

白魔導師達は特に念入りに浄化すると、毒だけでなく、あの丘まで消し去った。

それが終わると、白魔導師達はアレックス達の前に並んだ。


「リュウ、そろそろの様だ。」


アレックスが龍介を起こすと、白魔導師達は再び頭を下げ、微笑んだ。

そして光の粒となり大気に無数のキラキラを残して、消えていった。


涙ぐむ龍介達を、一緒に大鷹に乗っている大人達が抱き締めた。


「もしかしたら、大地や川が汚染されたのは、あの魔物のせいじゃなく、ずっとあんな密閉性の無い設備で毒を作っていたせいで、漏れ出したものかもしれねえのに…。」


亀一が言うと、アンソニーが静かな声で言った。


「そうじゃな…。そして多分、それが真実であろう。しかし、それでもそうするのが、白魔導師なのだ…。」


その様子を見て、更に泣いていたマリアンヌは、眼下に見た事も無い、変な機械がある事に気が付いた。


「あの…、あれ…。もしかして、リュウ達が乗って来た乗り物ではありませんの?」


丘もスッカリなくなり、その代わりの様に、ぽつんとタイムマシンが2台あった。


「ああ!?なんでこんな所にあるんだよ!きいっちゃん!」


「俺が知るかよ!用事果たしたから出てきたって事なんじゃねえのか!?」


タイムマシンの側に降り立ち、アレックス達とも別れの時が来てしまった。


龍介が名残惜しそうに、代表して礼を言った。


「アレックスさん、アンソニーさん、ダリルさん、マリーさん、エミール元国王陛下。本当にお世話になりました。カールさんとアデルさんにも宜しくお伝えください。」


アレックスはスッと右手を出した。


「世話になったのはこっちの方だ。本当に有難う。君達がいなかったら、解決できなかった。本当に助かった。」


龍介がアレックスの手を握り返し、イリイ達に別れを告げたと同時に、眩しい光がタイムマシンから出始めた。


「全く勝手なタイミングだなあ!」


亀一が怒ると、アンソニーが言った。


「キイチ、短気は損気だ。覚えておくが良い。ササキ、修行に励め。」


「はい!忘れずに頑張ります!」


そして眩しい光に包まれ、手を振りながら3人は消えた。


「ほんに面白い子供達じゃったのう。

はあ、孫が居れば、リュウの様であろうに。

一体、アレックスは、する事ちゃんとしておるのか。」


若干いやらしい横目でアレックスを見るエミールに、やはりアレックスは大剣に手をかけて怒鳴った。


「なんと下世話な事を申される!父上はやはり一度真っ二つに!」


しかし、いつものエミールのおとぼけな返事が出る前に、全員が真っ青になってしまった。


「なんだか吐き気がいたしますわ…。」


と、マリアンヌが真っ青な顔で訴えたからである。


アレックスは余りの事に、マリアンヌ抱きかかえたまま言葉も思考も失ってしまっている。


「毒がまだあるのではございませんか!?」


ダリルが言うと、エミールも叫んだ。


「かもしれぬぞ!アンソニー!早くマリーちゃんを診ぬか!」


「は、はい!」


慌ててマリアンヌを診察し始めたアンソニーは、小声でマリアンヌと話した後、お腹に手を当て、笑い出した。


「な、なんで笑っている、アンソニー…。気でもふれたか…。」


更に青くなるアレックスに悪戯っぽい笑みで答えた。


「待望の赤ちゃんでございますぞ。ここに。しっかり元気にいらっしゃいます。男の子の様ですなあ。」


「ほ…ほんとか…。」


「はい。」


エミールとダリルは手を取り合って踊りだした。


「やったのう!アレックス!ちゃんとする事しておったか!」


「おめでとうございます!アレックス様!」


アレックスはエミールを怒るのも忘れ、マリアンヌを愛しそうに見つめた。


「有難う、マリー。」


「嬉しい?アレックス。」


「とっても。」


「良かった。」


抱きついて来るマリアンヌをしっかり抱き締めたアレックスは、心の中で思った。


赤ちゃんは龍介が連れて来てくれた…。

なんだかそんな気がした。




物置の基地に、龍介達が戻って来た。


「うお、早えな!1分経ってねえぞ!」


「お帰り、3人共ー!」


驚きつつも笑う寅彦と、涙ながらに抱きついて来る朱雀を見て、帰って来たんだとホッとした。


「あ、そうだ!僕、凄い技、修得したんだよ!見てて、朱雀!」


悟は忘れない内にとばかり、隣の基地から紙コップを持って来て、呪文を唱え始めた。


「我らの命、大気の精霊よ。我に命の水を恵み給え。

Aquam sanctam 。」


しかし、何も起きない。


「アレ…?」


亀一が笑いながら言った。


「紙コップじゃダメなんじゃねえの?ちゃんとグラスでやんな。」


「あ、そうだね…。じゃあ、うち帰ってからやってみるよ。」


「なんなの、悟。なんかの呪文みたいだったけど。」


「向こうで習った、聖水を作る呪文なんだ。出来たら朱雀にも見せるね。」


「うん!楽しみにしてる!ところでどんなところに行って来たの!?1分の間にまた大冒険!?。」


結局大掃除はそっちのけで、龍介達の体験談をワクワクしながら聞いて、夏休み最後の日は終わった。




「ねえ…。悟お兄ちゃん何してんのかな…。」


「や、やだわ…。どうかしちゃたのかしら、あの子…。」


「宿題山ほど残ってるから、頭おかしくなっちゃったんじゃないの?」


ここは夜更けの佐々木家のキッチンである。

キッチンのドアの陰で、妹、母、弟が、キッチンの中でブツブツ言っては首を傾げている悟を見ていた。


「我らの命、大気の精霊よ。我に命の水を恵み給え。

Aquam sanctam 。」


ガラスのコップでも、やはり水は溜まらない。


「あれえ…。おかしいなあ…。でも確かに精霊さん達も見えなくなっちゃったしなあ…。もうダメなのかなあ…。折角教えて貰ったのに…。」


母の顔色が更に悪くなる。


「な、なんなの、セイレイって…。本当にあの子、どうかしちゃったんじゃ!?」


「お母さん、お兄ちゃんに勉強しろって言い過ぎるからじゃないの?」


弟の言葉に身に覚えのあり過ぎる母は、次の日から暫く悟に優しかったらしい。



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