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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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番外編 龍介×アレックス その6

龍介達が戻ると、マリアンヌが宿屋のキッチンを借りて、遅い夕食の支度をしてくれていた。

マリアンヌの美味しい料理に舌鼓を打ちながら、龍介と亀一は、やっとある事に気が付いた。


「そういえば、佐々木は…。」


龍介が聞くと、マリアンヌは目を丸くして笑った。


「まあ。いつ聞いてくれるのかと思っていましたわ。お友達甲斐のない。」


亀一が所在なげに目を逸らした。

考えてみたら亀一が一番酷い。

悟はエミールと一緒に、ここまでは来ていて、龍介達があの丘に行く時に、ここで別れ、亀一は龍介よりも、かなり前にここに戻って来ていたのだから。


「ササキはお義父様が面白いとお気に召して、我が父にも見せると仰って、獅子国に連れて行かれてしまいましたのよ。」


「そうなんですか…。」


「どうせ居ても役には立たぬじゃろうと、言葉が分からぬからと、また可哀想な事を仰られていましたけど。」


でも、悟は悪口だけはニュアンスで分かる様だ。

きっとムスっとしながら連れて行かれたのだろうなと、想像出来る。


悟の所在が明らかになったところで、話は恐竜の事に戻った。


「アンソニーの見た感じと、こっちで聞いた毒の製造工場の責任者の男の話を総合すると、あの毒で王に無残に殺された者達の死体を元に産まれた恐竜の様だな。」


アンソニーが頷いた。


「その様でございますな。そして、白魔導師達が恨みを残しながら死んだ…。もしかすると、私も父から聞いただけの、幻の禁忌とされる白魔導師の呪いかもしれませぬ。」


「白魔導師の呪い?聞いた事が無いな。白魔導師は呪わぬものだろう。」


「はい。左様でございます。

白魔導師は人を呪ってはならぬし、また、魔法を使って呪おうとしても、元来人を助ける魔法の為、効果は無く、効かぬものです。

しかし、それを破っても良いほどの酷い仕打ちを受けた時、黒魔道に転ずる事なく、呪いが完成されるという言い伝えがございます。

白魔導師が束となって、その様な酷い(むごい)仕打ちを受けたのだとしたら、考えられぬ事もありません。」


「それで、恨みを残して死んだ者達をまとめて、あの恐竜の姿にし、毒を吐くという行為までさせる魔物にしたという事か。」


「はい。ならば、あの無数の思念も、見た事も無い魔法なのも合点が行きまする。」


「ーで、魔法だけでなんとかなるのか、アンソニー。」


「ー申し訳ございません。難しいかと思われます。」


「両方で行くか。ウロボロスの時の様に。」


「はい。」


「ではリュウ達はもう帰れ。」


2人は激しく首を振り、龍介が言った。


「嫌です。大体、あの毒攻撃、きいっちゃんが居なくて、どうやって回避するつもりですか。解決するまで居ると申し上げた筈です。」


アレックスはダリル達と顔を見合わせ、苦笑した。


「そうだった。ごめんな。幼くても騎士道を持っているのだな。麒麟国の小さな剣士達。」


幼いとか、小さいとか、自分達の世界に居た時は、言われた事が無い事だ。

大きいとか、大人っぽいとかは言われていたが、でも、この世界のアレックス達から見たら、14で親の世話になり、働いても居ない龍介達は、小さくて幼い子どもなのだろうとも、段々諦めがついてきた。




食事を終え、龍介達は宿の部屋に入り、木で出来たシャワーという変わった物を浴びてベットに入った。


「ねえ、きいっちゃん。とは言え、俺たちはどうする?剣は扱えない。パタパタ竹刀じゃあの分厚そうな鱗は、京極さんのお父さん並みに、ビクともしなさそうだし。」


「実は俺もさっきから考えていて…。ちょっと明日、あのバカ国王の所にもう一度連れて行って貰おうかと思ってたんだ。」


「か…カールさんだろ…。」


「バカ国王でいいんだよ!あんなの!」


「お…俺も行く…。」


「なんで。」


それは一重に亀一がまたやりあって、カールをふっ飛ばさない様にする為である。


「じゃあ、俺たちには足が無いから、頼んでくる。」


「おう。悪いな。俺は設計図を描く。」




アレックス達はまだ調べがあるという事で、翌朝、亀一と龍介を連れて行く為に迎えに来たのは、エミール元国王だった。


龍介は、ほぼ1日しか会わなかった筈の悟の変貌ぶりに目を丸くしている。


「さ…佐々木…。太ったか?」


「だって美味しいんだもん!獅子国のフレンチもケーキもお!」


「だからってお前、1日やそこらでそこまで太んなよ!」


「僕だって別に太りたくて太った訳じゃないよおおお!」


「ま、まあいいや。俺たちはカールさんの所へ行って来る。きいっちゃんが何か閃いたみてえだからさ。大人しく留守番してんだぞ?呉々もアンソニーさんの持ち物、勝手にいじるなよ?」


「分かってますよお…。」


一応悟の事は要注意だとアンソニーに言ってから、エミール元国王が手招きしているエディに乗った。


「宜しくな。」


エディをそう言って摩ると、エディはイリイやミリイ同様、龍介に頬擦りをした。


「ほう。聖なる大鷹に好かれる所までアレックスと同じか。」


「もし雛が産まれたら、マリーさんの様に、選んでもらえるでしょうか。」


「うむ。きっとな。」


嬉しそうにニコニコしている龍介を見るエミールも嬉しそうである。




ペガサス城に着くと、カールは亀一を見るなり怒りだした。


「また来たのか!この悪ガキはあ!」


「俺だって来たかねえけど、あんたの所が一番材料も設備も揃ってるっつーからあ!」


「アレックスの頼みなら仕方ないけど、僕は手伝わないからね!」


「その方がありがてえよ!」


「なんて失礼なんだ、君はああ!」


「うるせえ!このバカ君主ー!!!」


既に金槌を振り上げる2人を止めもせず笑って見ているエミール元国王の横で、龍介は必死に亀一を抑えた。


「だから揉めるなって言っただろ!?やめてくれよ、きいっちゃん、恥ずかしい。お借りする身なんだから、大人しくしてろよ。」


「そう!その通り!」


そして亀一が設計図を出し、龍介と作業を始めると、カールは手伝わないと言いながら、その様子を、エミールやマリアンヌと一緒にお茶を飲みながら、じっと見ていた。


「なんだろ…。何作ってるんだろう…。」


「そんなにお気になさるのなら、お手伝いなさったら?殿下。」


「手伝いなんてしてやらないよ、僕はっ。」


とか言いながら、徐々にテーブルから離れて、近づいている。


ーん?やっぱり困ってるんじゃないか。溶接なんかした事ないくせに…。


ウズウズしてきたカール。

とうとう亀一の横から入って、バーナーを奪い取った。


「そうじゃないの!こう!で?これは一体何を作ってるの?」


「言っても分かんねえだろうけど、瞬間冷凍装置だよ。」


「またこの子供は訳の分かんない事を言う…。」


亀一がトンカチか拳を振り上げる前に、龍介が2人の間にバッと入って言った。


「瞬時にカチカチに氷にさせる機械を作ってます!」


「なんで?」


素直に聞くカールに、亀一の怒りは更にヒートアップ。


「なんで俺の説明で分かんなくて、龍のは分かんだよ!同じ事言ってるだけじゃねえか!」


「うるさい!君のは変に難しい単語入れるからだよ!それで?リュウ。」


「開発者は俺だあ!」


「いいから君は他の作業やってなさい!で?」


龍介は亀一の手を抑えながら、説明し始めた。


「俺たちの世界の恐竜は、氷河期という物凄い寒さのせいで絶滅したんです。

氷漬けの恐竜が、今頃見つかる位ですから、相当な寒さだったでしょう。

そして、昨日行った、あいつの住処はとてもあったかいというか、暑い位でした。

ですから、きいっちゃんは、氷になる位の冷たい空気を吹きかけたら、少なくとも機能は弱まり、毒は吐かなくなって、アレックスさん達も戦い易いんじゃないかと…。」


「なるほどね。リュウは頭がいいね。」


すかさず、またも怒る亀一。


「だっから、俺が考えたって言ってんだろう!」


「そうじゃなくて、説明が上手だからだよ!説明が上手い人こそ頭がいい人って事なんだ!」


「俺は理系なんだよ!」


「リケイ…?ほらあ!また訳の分からない事言う!」


龍介は亀一を羽交い締めにして怒鳴った。


「もう!きいっちゃんはいいから黙ってろ!」




その頃、悟は不思議そうにアンソニーの周りを見ていた。


「どうしたササキ。」


アンソニーもダリルも便宜上からか、麒麟国の言葉が話せるので、悟は1人置いて行かれても、苦労していない。

実はエミールも話せるので、獅子国に連れて行かれた時も苦労せずに済んでいた。


「ーあの…。アンソニーさんのそばに飛んでいる、羽根の生えた緑色とか黄色とかの小さい人間はなんですか…。」


「ほう!精霊が見えるのか!これは驚いた!ササキは魔法の才があるのかもしれん!ちょっとやってみるか!?」


「え!?本当ですか!?やります!」


「では簡単な物からやってみよう。先ずは、集中して、精霊の声を聞け。」


「精霊の声…。」


「そうだ。大地、空気、花、草、木々、そういったもの全てに精霊は宿っている。

その存在を感じ、そして対話するのだ。

魔法は精霊の力を借りるのだから、敬意を表し、話してみよ。」


「はい…。僕は日本人の佐々木悟です…。お話しがしたいです…。声を聞かせて下さい…。」


「そうだ。その調子だ。」


すると、悟の周りに、アンソニーの周りを飛んでいたのと同じような、色とりどりの小さな妖精の様な精霊が集まって来た。


「わあ…。綺麗だな…。初めまして。佐々木です。」


精霊達はクスクスと小さな声で笑いながら、悟の癖っ毛を引っ張ったりして遊んでいる。


「そうだ。上手いぞ。ササキ。では魔法の手伝いをしてくれと頼んでみよ。」


「はい…。どうか魔法を使うお手伝いをして下さい…。」


精霊達は口々に言った。


「いいよ。」


と。


「では1番簡単な物からやろう。聖水を作る。このグラスに水を一杯にするのだ。では教えるから、後に続いて唱えてみよ。」


「はい。」


「我らの命、大気の精霊よ。我に命の水を恵み給え。

Aquam sanctam 。」


「うわ、難しいな。」


流石に魔法の言葉は、竜国語だし、呪文本体はラテン語の様だ。

それでも悟は頑張って、アンソニーの発音通りに真似をした。


「我らの命、大気の精霊よ。我に命の水を恵み給え。

Aquam sanctam 。」


すると、アンソニーの持っているグラス同様、悟のグラスにも美しい水が溜まった。


「うわあ!出来た!有難うございます!アンソニーさん!精霊さん!」


「はははは。なかなか見所がある。カール様より全然役に立つではないか。よし。次だ。」





その頃、アレックスとダリルは、王が毒で殺めた人間を調べていた。

あの責任者がせめてもの弔いにと、こっそり名前を名簿にして残していたので、それの裏付け捜査の様な事をしていたのだ。

実は、この名簿には職業が書かれていない。

だから白魔導師が何人いるのかが分からないし、どの程度の力を持った白魔導師が犠牲になったのかも分からないからだ。


取り敢えず住所だけは書いてあったので、砒素毒の流出で犠牲になっていない所が住所になっている者の生前の職業を調べようとしている。

最初は、特に1番人数の多かった住所の村から行った。

国が白魔導師を保護したり、重用していない場合、白魔導師は一箇所に固まって暮らす傾向があるからだ。


アレックスはいつも通り酒場に足を運んだ。


「この30人、ここに住んでいた様なんだが、職業を知らないか。」


酒場の主人に聞くと、主人は名簿を見ながら、悲しそうな顔をした。


「ああ…。知ってる。

みんな立派な白魔導師だったよ。

特にこの人。

チュイージーって人は、この村の長老もしてくれてたんだ。

病人が出たら、タダで治してくれたりよ。

本当にいい人だったよ。

それをあのバカ王が突然城に連れてっちまって、戻ってこなくなっちまった…。

家族も居たってえのによう。

殺されてんだろうなってみんなで言ってさ…。

死体は無えが、葬式したんだ。」


「葬式か…。」


「うん。そしたら、旦那。

信じてくれねえかもしれねえけど、ここらじゃ、夜が更けてから松明の明かり灯して墓地に運ぶんだが、そん時によ。

松明の火が真っ青になっちまったんだよ。」


「真っ青に?」


「うん。みんな怯えちまった。

きっと殺されてお怒りになってらっしゃるんだって、年寄りが言ってよ。

そんでその松明、一斉にぶっ飛んで行っちまったのよ。

あっちの方角に。」


主人が指差すあっちの方角とは、あの毒製造工場の丘の方向だ。


これもやはり、白魔導師の呪いに関係しているのではないかと、アレックスはそのまま、アンソニーの父、ハッセルの元に向かい、白魔導師の呪いについて聞いてみた。




「ううーん、そうですな。

青い火というのは、確かに我ら白魔導師は見てはならぬと昔から言われてはおります。

理由は分からないのですが、もしかしたら、禁忌の白魔導師の呪い、そのものの光だからなのかもしれませんな。

しかし、それをお教えするのは難しい…。

というのも、私は知らないのです。」


「ハッセルほどの聖魔導師でも知らぬのか。」


「はい。本当に噂程度にしか。ただ、書物に寄りますれば、それを制した魔法は無いと。」


「白魔法が効かぬという事か。」


「はい。元は白魔導師…というか、白魔導師の別の形と申せば良いのでしょうかな。

それが呪ってしまったわけですから、黒魔道も効かぬとかなんとか…。

まあ、理には適っておりますが…。」


「確かにな…。つまり最強という事か。」


「はい。」


「うーん…。それは困った…。アンソニーはあてにはできぬという事か…。」


「しかしながら、他の亡者は白魔導師ではありますまい?他の亡者を成仏させて、白魔導師達から引き離せば、多少は分があるやもしれませぬぞ?」


「そうだな…。先ずはあのデカイのをなんとか弱らせ、制御して、その上で気長に呪いの白魔導師と対峙するか…。」


「そうですね。小さく頼もしいお味方も色々考えて下さっているようですし…。」


そう言って微笑みながら、ハッセルは水晶を見せてくれた。

亀一と龍介が、カールと揉めながらも、何かを一生懸命作っている姿が映っている。

アレックスも自然と微笑んで、それを見ていた。

そして不意に悲しそうな目になった。


「殺された白魔導師達には家族も居て、家庭があった様だ…。それが理由も無く、別れも告げられず、酷い苦しみを与えられて殺されねばならなかったとは…。どんなにか無念であったろうな…。」


「アレックス様の、そのお優しいお気持ちが、呪いの白魔導師達の心を解かしましょう。」


「俺にそんな力も無ければ、優しくもない。買い被るな、ハッセル。」


その時突然、ハッセルの部屋に、珍しくアデルが飛び込んで来た。


「アレックス、今ワイバーンの物見から連絡が入った。あの魔物が丘から出て、北方向かって歩いているらしい。」


「北方向…。住んでいた村の方角だ。」


「騎士が応戦しようと許可を求めて来てるのだが…。」


「騎士に応戦させるのはやめさせてください!毒を被って死にます!」


「分かった。」


アレックスは口笛を吹き、イリイお気に入りのアデルの執務室のバルコニーから呼び寄せ、飛び乗った。


「アレックス!無茶をするな!?」


「大丈夫です、兄上。行って来ます。ダリル。」


「はっ。」


ダリルも大鷹を呼び、2人は城から忙しく飛び立って行った。










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