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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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番外編 龍介×アレックス その5

急いでワイバーンを出て、アレックスの防護服を脱がせると、間一髪で、もう少しで身体側に滲み出してしまうところだった。


「もう!庇わなくていいですから!」


龍介が泣きそうな顔で言うと、アレックスは笑った。


「癖だ。悪く思うな。さてどうするかな。

あれじゃ無闇に近付けないし、それにこんな物を着ていたら満足に戦えない。

先ずはあいつがどうやって産まれたかを探り出すか。」


そして亀一を見たので、亀一は慌てて首を横に振った。


「俺には分かりませんよ!?

大体、あれは俺たちの世界じゃ、恐竜って言って、人間が存在する以前に生きていたけど、絶滅してしまったものですし、砒素を吐く恐竜なんて存在しません!」


「ふーん…。

となると、ここからは俺たちの世界の道理で動くわけだな。

じゃあ、ダリル。ここで二手に分かれよう。

俺はここで何が起きていたのか、リュウと調べて来る。

お前と亀一は、アンソニーに今見た状況を話して、魔法の側面から何か分かる事、出来る事が無いか探れ。」


「承知致しました。」




龍介はアレックスにイリイに乗せて貰い、竜国に向けて飛んでいた。


「ほんと気持ちいいな。帰りたくなくなる位だ。」


目を輝かせて、嬉しそうに景色を見ながら言う龍介に、アレックスは懐かしそうな目をして微笑んだ。


「マリーを初めて乗せた時も、そんな楽しそうな顔をしていたな…。」


「攫った時?」


「そう。」


「ミリイはその時はマリーさんの大鷹じゃなかったんですね。」


「ああ。あの頃のマリーは心の臓に宝石が入っていて、心の臓が上手く働かず、城の外へも出られなかったんだ。ミリイはまだ卵で産まれてもいなかったな。」


「イリイの子だから、マリーさんにあげたんですか?」


「いいや。人間に選択権は無い。神聖な大鷹は自ら主人を選ぶ。そして選んだ主人と生死を共にする。主人が死んだ時は大鷹も死ぬんだ。」


「ー凄い忠義だな…。大鷹に選ばれるって事は長生きしないといけないって事ですね。」


アレックスは大笑いして、イリイを見上げた。


「確かにそうだな。俺が死んだらイリイも死んでしまうんだからな。」


龍介は若干ふて腐れた様に目を伏せた。


「また子供っぽかったですかあ?」


「ーいいや。リュウは優しいいい子だ。」


ーいい子って、やっぱり子供だって言ってる様なもんじゃねえかよ…。





アデルの執務室のバルコニーが見えると、イリイは欄干目掛けて降下して行った。


ーん?あの欄干、なんか凹んでひび割れてねえ?


その凹んでいる所にドシンと降り立つと、執務中のアデルが振り返って苦笑した。


「イリイは何故そこばかりに着地するんだ…。」


しかしアレックスは無邪気な感じで答える。


「さあ。止まり易いんじゃないですか。」


ーアレックスさあーん!アデルさん、迷惑がってるみたいだよー!?


龍介の心の声は届かず、アレックスは用件に入った。


「ワイバーンの重臣や、あそこの毒の製造工場に関わっていた者達に話を聞きたいのですが。」


「直ぐに案内する。ーで、この子か。」


アデルが優しい目で龍介を見た。


「ーあ、龍介です。」


龍介が名乗ると、アデルは懐かしそうな顔をした。


「この位の時のアレックスにそっくりだな。なんだか懐かしい。こっちだ。」


案内されながら、アレックスはアデルに聞いた。


「ワイバーンの重臣やあそこに関わっていた人物は軒並み、竜国か獅子国に行った様ですが、兄上達の政策ですか。」


「いや、出たがったのだ。

今思えば、あそこから毒が出ると、薄々分かっていたのではないか。

どっち道、信用の置ける輩では無いし、何かあるとは思ったので、監視下に置いておいて良かった。」


「そうですね。ありがとうございます。しかし、やはりそうですか…。記録などは無いんですか。」


「罰せられると思ったのだろうな。全て燃やしてしまた様だ。」


「なるほど…。分かりました。」


龍介はあの恐竜を見た時の違和感をアレックスに言う事にし、会話が終わった所で話し始めた。


「あの生物は、見た目は俺達が知ってる太古の恐竜でした。

だから、なんで太古の生物がと、俺ときいっちゃんはびっくりしたんですが、あれは恐竜であって、恐竜でない感じがしました。」


「というと?」


「あの鱗です。確かに恐竜は爬虫類という、トカゲとかと同じ種類ですが、あの鱗が、また笑われるかもしれませんが、俺には…。」


「人間の顔に見えた。違うか?」


アレックスが予期しない事を言ったので、龍介は驚いた顔で頷いた。


「俺にもそう見えた。硬そうな鱗の1つ1つが人間の顔に。だから斬れなかったんだ。それにあの気…。分かるか、リュウ。」


「はい…。この世の者では無い気がしました…。」



城の外れの、龍介達の世界で言うなら、マンションの様な建物の中に、重臣や、ワイバーンを出たいと言った近臣達が集められていると言うので、先ず、1番上の位だった重臣の所へ行った。




その頃、亀一達の話を聞いたアンソニーは、水晶でその情景を写し出しながら唸り続けていた。


「ぬおおお…。これは一体どういう仕組みなんですか…。」


思わず目を輝かせて、ドライバーを出す亀一を笑いながら、アンソニーは水晶に手をかざしながら言った。


「これは、話す人間記憶を写し出す物。

仕掛けは無いのだ。

強いて言うなら、私の魔法。

例えば、そなたの嫁候補も映し出せる…。ほら。」


エプロン姿のしずかが映った。


「ああ!しずかちゃんだ!」


「シズカチャンというのか。なかなかに可愛らしく美しい女性だが、年上なのではないか?」


しずかを見て、目の色を変えて嬉しそうだった亀一の顔が、一瞬で暗くなる。


「実は龍のお袋さんなんです…。」


「ほおお…。それは随分と年上なのだな。そうは見えぬが。」


「龍の実の父も出て来れて、俺の入る隙間は無く、しずかちゃんは、どうあがいても俺の事は息子扱い。見込みは殆ど無い嫁候補です。」


「ふーむ…。なかなか辛そうだ。しかし亀一。おぬしの嫁候補は別にいる様だ。水晶の絵に乱れが出ておる。これは記憶が事実と違う時に起こるのだ。」


「その人…、見れますか…?」


「私に予知の能力は無いのでなあ。残念ながら亀一に記憶が無い物は映らぬ。従って、嫁候補はまだ会って居ない人物という事になる。」


「しずかちゃんより好きなれるんでしょうか…。」


「なれると思うぞ。この感じではな。」


「ーありがとうございます。あ、すみません。話を脱線させてしまいました。元に戻しましょう。」


「うーん…。でも困ったな…。

この恐竜とかいう生物、どうも恨みや憎しみ、現世への未練の塊に見えるのだが、思念が多すぎて、何がなんだか訳が分からぬ。

魔法の力も感じるが、白でも無く、黒でも無い。

どの様な魔法なのかも分からぬ。」


ダリルが思い出しながら言った。


「鱗が顔に見えたのは、それか?」


「かも分からぬな。大勢の死者が寄り集まって、こういう魔物になったのか…。」


「やっぱり魔物なんですか。」


「私の目にはそう見えるな。生きて存在して、目に見える形にはなっているが、黄泉の力で動く魔物に見える…。

それに訳の分からぬ未知の魔法まで複雑に絡みあっておる…。

これは難しいぞ。毒も吐くしな…。」




アレックス達は、重臣や近臣を順番に当たって行き、漸く確信に近い事が聞けたのは、夜更けになってからだった。


「何…?人間を殺して、捨てていた?」


その男は、あの砒素毒製造工場の責任者をしていた男だった。


「はい…。王と私しか知りません…。

暗殺や粛清したい人物を実験を兼ねて、あの丘の中の一角の部屋に入れ、毒を飲ませて殺し、そのまま隣の部屋に入れて居ました…。

王はああいう方でしたから、邪魔と思ったら、親戚の方だろうが、それが子供であろうが、容赦なくあそこに入れて殺しました。

他国の兵士や斥候が、ワイバーンを探りに来たのを見つけてもそうです。

毒を飲んで苦しんで死ぬのを楽しそうにご覧になっていました。

その死体の山はうず高く積もり、異臭を放ち、ドロドロに溶けても、そのままで…。」


男は泣き出しながらも話し続けた。


「私は何度も、せめてきちんと供養してやりましょうと言いました。

でも王はそれは絶対ならぬと仰せに…。

そんな事をしてやるものか、こいつらは俺の敵なんだと…。

その内、その死体置き場から死体が消え始めました…。」


「死体が消えたとはどういう事だ。」


アレックスの問いに、男も首を傾げた。


「それが私にも全く分かりません。そこの鍵は私しか持っていませんでしたし、誰に聞いても、あそこには近づくなという王の仰せに従って、誰も、近付いても居なかったのです…。」


それまで黙って付き添ってくれていたアデルが言った。


「魔法使いは居なかったのか。黒魔道士の様な者は。」


「居りません…。王は魔法がお嫌いで、魔法使いもことごとく殺しました…。」


アレックスは、そのセリフに引っかかりを覚えた。


「魔法使いも、そこで殺したのか?」


「はい。ウロボロスの一件で、黒魔道士は居ませんでしたから、皆、人の為に働く白魔導師ばかりでしたが、あそこで他の方同様に殺しておしまいに…。」


白魔導師を無残に殺し、その上、その遺体までも酷い扱いをし続けた。

ここに鍵がありそうだと、3人は確信持ち、頷き合った。




アレックス達は、夜も遅いが、アンソニー達の所に戻って報告すると言うので、2人とイリイ見送ったアデルは、イリイお気に入りのバルコニーの欄干に手を掛けた。

折角の大理石の欄干がボロボロと崩れ落ちる。


「ああ…。また補修しなくてはな…。」


アデルは密かにため息をついた。











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