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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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番外編 龍介×アレックス その1

夏休み最後の日は、何故か基地の大掃除になった。

言い出しっぺは、朱雀だ。


「だってえ!埃は溜まってるし、蜘蛛の巣張ってるしい!」


まぁ、確かにそれはそうなので、仕方なくやる。

使っていた基地の方はいいが、物置の方はまるで入っていなかったし、建物の作りも荒いので、埃や土の量が半端じゃない。


「うわあ、面倒臭くなってきた!」


すぐに叫ぶ龍介に、準備周到に姉さん冠のほっかむり姿の朱雀がガミガミと怒りだした。


「また龍はあ!」


「だってこれ、もう使う用事無えだろ?いっその事、壊しちまえば?」


今度は亀一に怒鳴られる。


「何言うか、このバカたれはあ!これは俺の研究成果なんだよ!壊してたまるかあ!」


龍介はさも面倒そうに、ぞんざいに龍太郎が作った方のタイムマシンを拭き始めた。

パラレルワールド装置の方は、悟が拭き、亀一のタイムマシンは、亀一が丁寧に拭いている。


龍介が手を止めた。


「やべ。スイッチ入っちまった!」


「こっちもだよ!」


悟が言い、亀一も同時に言った。


「いけね、こっちもだ!早く切れ!」


ところが、どういう訳か、切れない。


「げ!きいっちゃん!これ、作動し始めちまったぜ!?」


龍介に続き、悟も慌てた様子で言う。


「こっちもだよ!」


「きいっちゃん!なんとかしてくれ!」


亀一が懸命に3つのマシンのスイッチを切ろうとするが切れない。

その内、眩しい光が出始めた。


龍介はこれはやばいと思い、ドアに近い所にいた朱雀と寅彦に叫んだ。


「お前ら出とけ!」


寅彦もドアを開け、朱雀を先に出しながら叫んだ。


「龍達も早く!」


ところが…。

龍介達3人は、眩しい光に包まれて、目の前から消えてしまった。


「ぎゃああ!龍!きいっちゃん!悟!」


朱雀が叫ぶが、そこにはもう誰も居ない。

その上、タイムマシンは2つとも無くなってしまっている。


「寅!どうしよう!3人どこ行っちゃったの⁈」


寅彦は考え込みながら、青い顔で答えた。


「きいっちゃんじゃねえからよく分かんねえけど、全部が作動してた中でって事は、単なるタイムトラベルじゃねえかもな。」


「どうしよう。」


「どうしようもねえだろ。念のため、パラレルワールド装置の電源だけは落とさないようにしとこうぜ。」




眩しい光が消え、目が慣れた龍介達が見たものは、江戸時代の風景だった。


「なんだこりゃ…。」


思わず3人で呟きながら辺りを見回す。

本当の江戸時代の風景など実際に見た事は無いが、そこは、少々趣が違っていた。

丁髷に着物姿はそのままだが、馬車は走っているし、色々な国の人間が歩いている。

それに、日本の江戸時代の人間にしては、やけに背が高い。

現代人並みの大きさだ。

その上、羽根の生えた人間まで歩いている。

もう訳が分からない。


龍介は2人に小声で言った。


「兎も角、さっさとタイムマシンを探して帰ろう。なんかとんでもねえ異世界だ。」


亀一が直ぐに賛同する。


「そうだな。パラレルワールド装置も作動してた事を考えると、ここはパラレルワールドの過去だろう。立ち去るに限る。」


でも…と、悟が首を傾げながら言った。


「この間のタイムスリップは、望まれて起きたでしょう?これもそうなんじゃないの?あんな作動の仕方、おかしいじゃない。」


龍介は早口でまくし立てた。


「そうは言っても、なんだかここは面倒な気がすんだろう。羽根が生えた人間がフラフラ歩いてんだぞ?あの裸の背中見ただろ?コスプレじゃねえんだぞ?大体、江戸時代風だが、言葉が通じるかも分かんねえし、そもそも望まれて起きた事かどうかなんて、現段階じゃ分かんねえだろ。そういう場合は、アウェーでガチャガチャやってるより、体制整えるに限る。つまり帰るんだよ。」


「はい。分かりましたあ。」


若干不服そうな悟を促し、なるべく隠れながら移動しようとしたところで、背後から声を掛けられた。


「ワッパ。また面妖な身なりをしておるのう。どこの者じゃ。」


振り返って声の主を見ると、二本差しのきちんとした身なりの侍だった。

取り敢えず日本語だったので、龍介が日本語で返した。


「直ぐに立ち去りますので、お構いなくお願い致します。」


しかし、侍は他の侍も集めて、龍介達を囲んだ。


「我らはここ麒麟国の警備を預かっておる。身分も聞かず、見逃す訳には行かぬ。住まいはどこじゃ。どこの国の者か。」


龍介は、小声で2人に囁いた。


「説明のしようが無い。逃げよう。せーので猛ダッシュ。」


龍介達は、身体を屈めるようにして、侍達の間をすり抜け、一斉に走り出した。

当然、侍達は追う。

しかも、笛を吹いて、仲間を呼んでいるから堪らない。

龍介達は、狭い路地であっという間に囲まれてしまった。


龍介と亀一は、ポケットからパタパタ竹刀を出すなり一振りし、ガチャリと言わせて、それを竹刀の形にした。

侍達が一瞬驚いて、一歩引いている。


「またも面妖な刀を出しおって…。やはり捕らえねば危険だ!縄をうて!」


捕らえようと襲いかかって来る侍達を次々にのして行く龍介達に、侍のリーダーらしき人物が震えた声で叫んだ。


「彦三郎殿を呼べえ!此奴らはわしらでは無理じゃ!」


龍介達は、それでもめげずに襲いかかって来る侍達を仕方なく、剣道の要領で、悟を庇いながら倒していたが、何せ侍の数は多く、倒しても倒しても突破口が作れない。


そうこうしている内にヨボヨボの馬に乗った侍が現れた。


ーん!?子供!?


龍介達は、その侍の背中に目を奪われた。

なんとその侍は、子供を背負っているのだ。

しかし、あまり見てもいられない。

再び、侍達を倒し始めると、その侍はのんびりと言った。


「んー、どらどら…。ほほう。これはなかなかの使い手だな。」


「彦三郎殿!なんとかしてくだされ!」


「んー、ワシはこの通り、やや子の世話をせねばならん。このワッパ共、腕も立つが、面妖な身なりをしておるしのう。何か訳があるのかもしれぬ。訳ありはアの字じゃ。これはアの字に頼むのが良かろう。ではワシは帰る。」


「ちょ、ちょっと!彦三郎殿おおお〜!」


侍頭の叫びも虚しく、彦三郎と呼ばれた子供を背負った侍は、また戻って行ってしまった。


ーなんなんだ、あの人は…。


龍介はその背中を見ながら、首を傾げつつ、2人の侍の首筋に続けざまに打ち込み、気絶させていた。




アレックスは、いつもの様に、庭のテーブルでマリアンヌが淹れてくれたカフェオレを飲みながら、マリアンヌとゆっくりと朝食を摂っていた。

そこへ、雑貨商の親父が酷く慌てた様子で、ロバを必死に走らせ、まさしく滑り込んできた。


「旦那!大変だ!すぐ来てくれ!」


「どうしたんだ、オヤジ。」


「旦那そっくりの、妙な身なりしたガキが暴れまくってんだよ!侍が捕まえようとしたら、逃げたんだが、もう駄目ってなったら、変な刀みてえなので応戦し始めて、彦さんが出て来たんだが、強えのなんの!その子だけじゃなくて、もう一人遠眼鏡かけたガキもまた強くってよお!とても手が出せねえんだ!」


「なんだ、その俺そっくりのガキってえのは。俺にガキなんか居ねえぞ。」


「いや、知ってるけども、似てんだもん!真っ黒い髪にでっかい目!」


「んなもん、どこにだって居るだろう。」


「だって、麒麟国の言葉喋ってんだぜ?!。あの刀の使い方は麒麟国の刀の使い方だし!だけど、麒麟人には、あんなでっけえ目は居ねえよ!」


「まあ、いい。彦三郎も駄目とあっては、行くしかなさそうだ。マリー、ちょっと行って来る。」


「はい。お気を付けて。」


アレックスは笑顔のマリアンヌに見送られ、イリイに乗って、街へ降りた。


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