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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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洞窟探検が…

悟はパラレルワールド装置を作ろうとしただけあって、細かい作業は得意らしく、暑い中、文句も言わずに黙々と作業をしている。

寅彦はパソコンでプログラミングをし、朱雀は亀一に教わりながら、器用さを生かして、タイムマシンの乗り物部分を作っている。

龍介は資材調達係で、今日は自転車を調達に行っているはずだ。


「しかし、加納って凄いね。何言っても調達してきてくれるんだね。」


悟は天敵というのを置いといてしまえる程感心している。


「あいつの爺ちゃんて人が、物凄く顔が広いんだ。生まれた時からずっと地元ってのもあるし、誰でも気さくに仲良くなれるキャラだからさ。その爺ちゃんにくっ付いてチビの頃から龍も歩いてるから、爺ちゃんの知り合いは、みんな龍の事知ってる。お前は嫌いかもしれねえけど、アイツも人に好かれるタイプなんでね。」


亀一が苦笑しながら説明すると、悟も苦笑した。


「それは分かるよ。だから嫌いという所もある。」


「身内には分かんねえポイントだな。」


「そうかもね。」


噂をすれば影。

玄関の外で、龍介の声が聞こえた。


「きいっちゃん、錆だらけだけど、ちゃんと走るから、これでいいかあ?」


出てきた亀一は、錆だらけのママチャリを見て、無表情に答えた。


「うん。じゃあ、錆取っとけ。」


「なんで。」


「見た目悪いだろ。」


「これで表走り回る訳じゃねえんだろ?なんで見た目が関係すんだよ。」


「龍介え!」


やっぱり突然怒り出す。

今度から腰を浮かすのは3人に増えた。


「あんだあ!」


「輝かしいタイムトラベルに行くのに、錆び付いた自転車でいいとはどおいうこったあ!いいから磨けえ!」


「やだよ、めんどくせえ!そんな言うならてめえがやれ!」


「俺はパーツの組み立てがあんだあ!お前にそれが出来んのかあ!」


悟が立ち上がって、遠慮がちに言った。


「加納、手伝うから、錆は取ろう…。」


寅彦と朱雀を見ると、無言で頷いている。


仕方なく悟と表に出て、ヤスリで錆を取り始めた。


「あんた…。凄まじい面倒くさがりなんだね…。学校では気がつかなかったけど…。」


「別に隠してねえけどな。学校なんて、効率の悪い面倒な事ばっかだし。」


「だからいつもつまんなそうな、不機嫌な無表情でこなしてんの?」


「まあそうなってるだろうな。」


「楽しいと思う事ってあんの…?」


龍介はやすりがけの手を止め、悟をまじまじと見つめた。


「当たり前だろ!サイボーグか、俺は!」


「何が楽しいと思う事なの…?」


「剣道…、あいつらと遊んでる時…、ポチとの散歩…、家での勉強…。要するに、学校以外の事だな。」


「ふーん…。でも勉強っていうのが、ちょっと不思議だな…。楽しいもんなんだ、勉強って…。」


「難しい物分かった時の、天才じゃねえのか、俺って思う瞬間とか、楽しくねえ?」


「そういう経験は無いです…。」


「可哀想に。」


「……。」


「んじゃ、佐々木は何が楽しいの?」


「ー最近あんま無いかな…。」


暗い顔。

朱雀は虐められてるまで行ってないと言っていたが、仲間外れや、悪意に満ちたからかいは、辛い事だろう。

好きでは無いが、やはり心配になった。


「大村達、まだやってくんのか?嫌がらせ。」


「大丈夫だよ。もう抜けたから。でも、タイムマシン計画に入れて貰えたから、今は楽しいよ。」


「そうか…。」


「僕の事嫌いなのに、ありがとね。心配してくれて。」


「いや。でも、もし大村達がなんかしてくるようだったら言えよ?」


「え…?」


龍介は不敵にニヤリと笑った。

かなりの迫力に、悟は心の中でそっと引いた。


「2度とんな事しねえように、滅多滅多ギットギトの半殺しの目に遭わせてやるからさあ!」


ーやりたいんだね!?加納ー!


若干趣味がが入っているにしても、心配から言ってくれているのは分かるので、口には出さず、心の中で叫びながら、悟は誓った。


ーなんかされても言わないでおくべきだな!

しかし、今日は、加納の知られざる側面を2つも知ってしまった…。


1つは目を見張る程の面倒臭がり。

もう1つは、意外と武闘派の荒くれ者…。


ーいい奴だけど、絶対紳士じゃないだろ…。これはヤクザっつーやつだ…。唐沢さん、君は間違っている…。




龍介は、一応、竜朗としずかには、悟の事情を話し、最近つるんでいるとは伝えた。

竜朗は、面白くなさそう顔をしていたが、悟が虐められているっぽい事を聞くと、渋々承諾してくれた。

だから、加納家に連れ帰って、しずかのおやつをご馳走しても良かったのだが、それは悟が固辞した。


「なんか、うちのお父さんに、加納達の仲間に入れて貰ったって話したら、加納のお父さんとお爺ちゃんには、ものすんごく迷惑を掛けてしまったから、お前だけは掛けないようにって、凄い言うんだ。だから、お邪魔するのはやめとくよ。」


龍介でなく、何故か亀一が食い下がったが、悟がそれなら1人で帰ると言うので、それも可哀想だからと、5人で寅彦の家に行く事になった。


行く途中、ちょっとした山っぽい林の中を通ると、山に洞窟の様なものが開いているのが見えた。


「いいなあ!ここ!探検しようぜ!」


亀一が目を輝かせて、くるりと振り返ると、寅彦と朱雀、悟は直ぐに乗ったが、やはり龍介は仏頂面…。


「4人でおやり。」


「んな事言うなよ、龍!竹馬の友だろう!」


「きいっちゃん、なんでそんな穴というと入りたがんだよ。めんどくせえ人だなあ。」


「男っつーのは、穴が好きなんだよ!」


「なんで。」


「ーあー、えー、母体回帰!」


「ーそうだな。きいっちゃん、母さんにマジだし、どう考えてもマザコンだな。」


「俺はマザコンじゃねえ。しずかちゃんコンだ。マザコンはお前だろ。」


「俺はマザコンじゃねえ!」


「嘘ばっかし。じゃ、明日は作業休みにして、洞窟探検な。必要な装備持って、10時に集合。念のため、弁当持って来い。龍もちゃんと来いよ。お前が居ないと、いざって時、俺と寅だけじゃ、この2人保護しきれねえからな。」


「へいへい。」



寅彦の家に到着。

彼の家はマンションで、朱雀の家と同じ建物内にある。


「ただいまー。龍達連れて来たー。」


すると、キッチンから、可愛い小学生の様な雰囲気の女の子が顔だけ出した。


「いらっさい。」


何か食べているらしく、変な発音になっている。


「こんにちはー。お邪魔しまーす。」


挨拶しながら、ずかずか入って行く3人に着いて行く悟。


キッチンに入ると、先程の女の子は、冷蔵庫前にペタンと座り、漫画を読みながら、アイスを食べていた。

そして、寅彦はそれを見るなり、小うるさい親父のように、その女の子にガミガミ言いだした。


「加奈ちゃん!買い物行って、まだ中身入れてねえの!?真夏にそれは止めなさいって何回も言ってんだろ!」


そう言いながら、慣れた手付きで、キティちゃんのマイバックにわんさと入った食材を冷蔵庫に詰め始める。


女の子は、よくよく見ると女の子では無い。

高校生位な感じがした。

その子は、寅彦に礼を言いながら、食べていたアイスを寅彦に差し出した。


「寅ちゃん。モヒモヒ君の新作。バナナ苺味。おいひいよ?ほら。」


思わず一口食べてしまう寅彦。


「うん、うまい…じゃなくて、漫画は後にしなさいって!」


「でもこれ、two-pieceの新刊よお?読んだら貸してあげるからあ。」


「う、うん。」


「あ、このアイス、みんなの分もあるよ?食べて食べて。」


寅彦は、バックの中を覗きながら叫んだ。


「げっ!アイス入ってたのかよ!うわあ…。もう溶けてる…。」


「そしたら、また冷凍庫入れて、急速冷凍すればいいじゃない?」


「その上、こんなに冷房ガンガン効かせてたら、ブレーカー落ちるだろ!?」


「はあい。じゃあ、他のおやつ持ってくから、お部屋で待ってて。」



亀一達は笑っている。

どうもいつもの事な様だ。

部屋に入ると、悟が聞いた。


「加来のお姉さん?」


「母親だ。」


悟は大分間を空けてから叫んだ。


「ええー!?」


よっぽどの衝撃だったらしい。



続いての衝撃が、おやつとジュースを持って現れた。

寅彦の双子の弟、寅之である。


「はいよー。おやつー。」


「ああ、ありがと。」


受け取る龍介の腕をじっと見る。


「龍、血採らせて。」


「ま、また?」


「ん。本当は、血じゃなくて、脳の組織が欲しいんだけどね。」


「それは死んでからにしてもらえるか…。」


「しょうがないなあ。約束だよ?」


「おう。臓器提供の紙に書いといたから。ほら。」


ジーンズのポケットから、臓器提供意思カードを出して見せる。

ちゃんと、脳の組織は加来寅之に譲ると書いてある。


「だから龍って好き。」


「そらどうも。」


悟が面食らいながら挨拶をすると、寅之は首を傾げた。


「えー、君は誰だっけ?」


「加っ、加来君!?5年間も一緒のクラスだったのに、覚えてないの!?佐々木悟です!」


「うーん…。居たっけ?」


「居ましたあ!隣の席や同じ班で話してたじゃない!」


「ああ…。記憶に無いなあ…。」


4人が笑い出し、朱雀が言った。


「ユキちゃんはね、なんか特徴がある人じゃないと、興味無いから覚えてくれないんだよ。龍みたいに、美少年で頭良くて、運動神経抜群とか、きいっちゃんみたいに、天才チックに頭いいとか、僕みたいな変わり者とか。」


「変わり者…?柏木って変わり者?」


「そうだよ?ああ、佐々木君は同じクラスになったの初めてだから知らないんだね。僕はある一言を言われると、前後不覚になるほど頭来ちゃって、このキャラじゃなくなるらしいんだ。」


「ーは…?」


「うん。まあ、もしかしたら、その内ご披露しちゃうかもだけど、そうなの。それに、女の子用の物の方が好きで、男っぽいもの全然興味無くて、苺ちゃんや蜜柑ちゃんと話が合うくらいなので。パパがしょっ中泣いてるけどね。」


「は…はあ…。」





翌日、待ち合わせ場所の林の前。

龍介、亀一、寅彦の3人は、何処へ行くんだという様な大きなアーミータイプのリュックを背負って集合した。

朱雀は総キティ柄のoutdoorのリュックだが。


「ほお。佐々木は遅刻無しか。」


亀一が意地悪く笑って言った。


「だって、置いていきそうな人が居るし…。」


チラッと龍介を見ると、逆に怒られた。


「当たり前だろ。んじゃチャッチャと行こうぜ。」


すると、道路側から、聞き覚えのある落ち着いた可愛い声がした。


「加納君?ご旅行?」


見ると、瑠璃が買い物袋を両手に持って立っていた。


「唐沢…。買い物?」


「そうなの。今日、お昼にお客様が来るからって、母にお使い頼まれて、こんなに…。」


「重そうだな。大丈夫か。」


「大丈夫よ。すぐそこだから。」


「持ってってやろうか?」


「いいよ。だってご旅行でしょ?」


「いや、違う。凄えくだらねえ用事。」


くだらねえ用事で悟のスイッチが入った。


「くだらなかないよ!ねえ、唐沢さんも一緒に行こうよ!洞窟探検なんだ!」


「この辺に洞窟なんかあるの?」


「あるの!すぐそこだよ!ほらほらおいでよー!。」


「いや、でも私、母を手伝わなければなので…。じゃ、見るだけ…。」


買い物袋は、龍介と悟が持ってやり、龍介と亀一が洞窟の外の木にロープを結んでいる間に、悟が瑠璃を案内して、中を覗いていた。


「ほら。ね?」


「わあ。結構奥まであるのかな?真っ暗闇ね。」


急に視界が明るくなったと思ったら、龍介が後ろから懐中電灯で照らしてくれていた。


「ありがとう。ふーん。そうなんだ。楽しそう。」


「ちょっとだけ入ってみる?」


「え、ええ…。そうね。」


龍介が仏頂面で悟にぐいとロープの端を差し出した。


「ロープ持っとけ。お前は信用出来ない。」


「はいはい。」


ロープを握り、瑠璃と入るが、朱雀が邪魔をするかの如く(多分邪魔をしている)、2人の間に割って入り、一応方位磁石を出した。


「んん!?龍!これやばくない!?」


龍介達、残りの3人もその声で洞窟内に入った。

方位磁石はぐるぐる回っていた。


「ああ、嫌な予感すんな。きいっちゃん、寅、取りやめだ。」


「そうしよう。」


2人も承諾し、出ようとした時だった。


下からドカンと突き上げるような、物凄い大きさの地震と思われる揺れが6人を襲った。

外に出るには少々距離がある上、この揺れでは、立っている事すら出来ないから、走って出るのは無理だ。

上から小石が落ちて来たのを見て、龍介が叫んだ。


「体勢を低く取れ!なんかで頭防御しろ!」


瑠璃はリュックなんか持って居ない。龍介は自分のリュックで瑠璃の頭を守った。


「加納君は?」


「大丈夫。入ってるよ。」


次は崩落の危険を考えねばならない。

龍介は頭上を注意深く見つめた。

そして見た。


真上から大きな岩が剥がれ落ちようとしているのを。


「全員右方向へ転がれ!」


龍介は瑠璃を抱える様にして転がった。


そして意識を失った…。




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