閑話休題
龍介は鸞に小声で声をかけた。
「柊木の気がまぎれる様に、アイツが元に戻るまで、橋田と3人で雑談しててやって。」
「だったら、龍介君も入らないと。彼女はあなたの大ファンなんだから。私だけより、かなり気がまぎれると思うわよ?」
龍介は困った顔で笑い、雑談に加わった。
「加納君には双子のきょうだいがいるのかな…。」
「居るよ。」
今のは心の声だったらしく、言ったまりもの方が驚いている。
「そ、そうなんだ。男の子?」
「いや、女の子。妹。」
「へええ…。加納君と似てたら、凄い美人ね…。」
「あんま似てねえな。あれは曾祖父さんに似てるらしい。どんぐり眼で、開けると凄えでけえ口。泣き出すと、その顔でポチがビビる位だからな。」
亀一がメモを取りながら苦笑した。
「俺だってビビるよ。苺が泣いたら、ガラスが割れるもん。」
「そうなんだよなあ…。アレはなんだ。」
「超音波なんだよ。お前の留守中に計測してみた。人間兵器だぜ。」
「恐ろしい…。よくうちの人間の鼓膜は無事で済んでんな…。」
「全くだ。まあ、蜜柑ほどよく泣かねえからな。」
加納家の楽しい話題に、まりももすずも緊張が和らいで来ている様だ。
「柊木は?」
「あ、うちには1つ上の兄が居ます。」
「ここ通ってねえの?」
「いや、通ってるんだけど、恥ずかしいので、居る事は無視してるの。」
「なんで恥ずかしいんだよ。」
「ー生物部の柊木って言えば、大体の人は知ってる…。」
文系クラブは科学部の亀一が笑いだした。
「あの人、お前の兄貴だったのか!凄えよな、あの人!」
「きいっちゃんが言うなんてよっぽどね。どんな方なの?」
「方なんて言って頂ける人間じゃないのよ、京極さん…。人体模型を生身の人間より愛していて、携帯の待ち受けもパソコンの壁紙も人体模型だの、内臓だの…。どんだけ内臓好きっていう人で…。夏休みの自由研究で、この間なんか心臓の血管の模型なんてコアな物作っちゃって、先生絶句させたんだから…。」
「ああ、アレね。面白かったわよね?凄いリアルだったし。」
鸞が言うと、亀一も龍介も笑いながら頷いた。
「ほんとお父さんの悪影響よ…。」
「親父さんて?」
龍介が聞くと、兄の時同様、憂鬱そうな顔で答えた。
「警視庁で監察医やってるの。」
「大変な仕事だろ。腐ったのとか、変死体とか解剖して死因探り出したりすんだろ?」
「それが大変じゃなくて、何よりも好きなの。多分家族より好き…。」
「変死体が…?」
「はい…。ううう…。私もこんな風になったって知られたら、解剖されちゃうよおお~!」
「そ、それは無えだろお!?ま、まあ…黙っといた方がいいかもしれねえけど…。」
龍介の言葉に強く頷く。
余程らしい。
「橋田は…?」
気をとり直して、すずに水を向ける。
「あ、私は1人っ子です。」
「じゃあ、鸞ちゃんと瑠璃と同じだ。」
「あ、そうなんだ。なんか同じにおいがすると思った。」
「一人っ子臭?」
「そう。あるでしょ?」
「うーん、どうだろ…。案外仲間内一人っ子率高いけど…。」
亀一も言った。
「考えてみたらそうだな。その上、他は全部長男だ。」
「ああ、ほんとだ。でも、一人っ子臭ってのは分かる様な、分かんねえような…。」
そして、考えている内に、龍介はすずの顔を見ていて、初めて気が付いた。
すずは長い髪を後ろで無造作にまとめ、まりもの一件で、疲れ切った顔はしているものの、よくよく見れば、色は白くて黒目がちなつぶらな瞳に桜色の小さな唇と、もう少しちゃんと見た目に気を遣ったら、かなり可愛らしい顔をしている。
「鸞ちゃん…。」
龍介は鸞の制服の袖を引っ張り、小声で言った。
「なんですの?」
「橋田、もうちょっとお洒落してみたらどうだろう。」
「可愛いんじゃない?。私も会う度に言ってるのよ。でも、全く興味無いし、めんどくさいって、髪もガシガシ梳かして縛ってくるだけなんですって。顔も洗濯石鹸で洗ってるって。」
「せ、洗濯石鹸!?んなもんで洗って大丈夫なのかよ!」
「まあ、若いから大丈夫なんじゃない?で、お洒落させてどうするの?」
「いや、きいっちゃんにどうかと…。」
「いい加減しずか叔母様は諦めさせないとねえ。」
「そう…。不憫なので…。」
「そうね。ちゃんとすれば、叔母様タイプよね。小さくて可愛くて、髪長くてって、瑠璃ちゃんもそうだ…。つまりあなた、マザコン?」
「う、うるせえなあ!俺はマザコンじゃねえし、今俺の話じゃねえだろお!?」
ハッと気付くと、まりもがまたブツブツ言い、横のすずが頭を抱えている。
「えっ?加納君マザコン?マジで?どうしよう…。マザコンは嫌だなあ…。」
「俺はマザコンじゃねえええ!!!」
「はっ!ごめんなさい!」
話している間にも、龍介は情報が出る度に、寅彦と瑠璃に呼ばれ、出て来るまばらな情報をノートに書き殴っては、またまりものフォローに回っていた。
そうこうしている内に、まりもは段々と現在の大きさに近づいて来ていた。
「柊木、具合はどうだ?」
「何も。大丈夫よ。」
「じゃあ、家帰る頃には元戻ってるだろう。俺達は調べの目処つけてから帰る。お前ら遅くなるし、俺達とは逆方向だから、帰んな。」
すると、まりもより先にすずが言った。
「いや。私、どうしてこうなったのか知りたい。あなた達が調べるなら、教えて欲しい。」
確かに、こんな妙な事に巻き込まれて、理由も知らされないでは納得は出来ないだろう。
「そりゃそうだな…。時間、大丈夫か?」
「大丈夫です。まりもは?」
「平気。だって加納君と一緒にいられるもん!」
龍介達は笑い出したが、すずは片眉を吊り上げて怒り始めた。
「あんたね…。加納君達だって色々と忙しいだろうに、殆ど知り合いでも無いあんたが目の前でおかしな事なったのを、ここまで一生懸命調べてくれてる上に、あんたが不安にならないようにまでしてくれてんのよ?何を太平楽なアホな事言ってんのよ。」
「すみません…。」
「いいよ。深刻になって、泣かれるよか。」
「加納君、あんま優しくしない方がいいわよ。この子、どんどんつけ上がって、始末に負えないからね?」
亀一が笑って、すずを見た。
「分かった。一人っ子臭。」
「ん?なんだと思ったの?」
「周りの事凄えよく見てる。よく気がつくし、気の遣い方も知ってる。妙に大人っぽい。そして、結構核心をズバズバ言う。唐沢も朱雀も鸞ちゃんも、しずかちゃんもそうだ。」
「ああ、成る程ね。」
納得する龍介に、鸞が付け加えた。
「どっちかって気がするわね。そういう一人っ子も居るし、凄く内気で外では何も言えない内弁慶な、1人じゃ何にも出来ない、いかにも一人っ子な人も居るし。」
「そうかもな。」
瑠璃が龍介を呼んだ。
どうも最後の調べが済んだらしい。
それとほぼ同時に、まりもも元に戻った。
「つい最近の身長は160センチで合ってるか?」
「はい、合ってます。」
「龍、戻ったぜ。」
「こっちも完了だ。2人、頭使い過ぎて、餓死しそうだから、場所移そう。」
瑠璃と寅彦は虚ろな目で、テーブルに突っ伏してしまっている。
「2人ともありがとう。ごめんな。キングバーガーで死ぬ程食ってくれ。」
瑠璃と寅彦は、言葉も無く、力無い笑顔でハイタッチ。
かなり飢えている様だ。
7人は駅前のキングバーガーに場所を移した。




