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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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まりもに起きた事

皆が言葉も無く、呆然としている中、まりもがさめざめと泣きだした事で、やはり龍介が一番に冷静さを取り戻した。


まりもの肩に手をかけ、優しい声で聞いた。


「具合悪い所は無いか?」


「うん…。私…、どうなっちゃったんだろう…。」


「分からない…。ただ、あそこの家の人間が何かしたせいで起きた事だとは思う。どうにか調べて元に戻す方法を見つけだそう。」


「はい…。」


龍介は振り返りざま寅彦に言った。


「寅、あの家の事、徹底的に調べてくれ。家の見取り図、改造してるならその記録。家族構成、医療記録、収入源。支出金の用途。兎に角なんでもいい。」


「了解。」


「私も調べる!」


瑠璃も手を挙げ、龍介が急遽作戦本部にした、すぐ側の公園の東屋で作業が始まった。


「きいっちゃんは、柊木の観察。何か分かったら教えて。」


「はいよ。」


「私は!?」


鸞が期待に満ち溢れた目で龍介を見ている。


「う…。鸞ちゃん…?」


「はい。一通り、なんでもこなせるわよ?パソコン以外なら。」


龍介は、まりもとすずに聞こえないように、鸞と小さく固まって、小声で聞いた。


「銃も扱える…?」


「勿論。誰の娘だと思ってるのよ。あの派手にドッカン大好きオヤジの娘よ?」


「寅、その事知ってるのか…?」


「さあ…。知らないんじゃない?」


「隠しておいた方がいいんじゃねえのか、それ…。」


「あら、どうして?心配無い方がいいんじゃなあい?」


「いや、逆に心配だって…。」


「私、射撃の腕、かなりもんなのよ?お父さんみたいに、両手で百発百中って訳にはいかないけど。」


「そ、そっか…。じゃあ、あの家に入る時にはお願いするよ…。」


「OK。それでいいわ。」


亀一が龍介を呼んだ。


「どんな感じ?」


「頭の中身も記憶も全く問題無しの様だ。だけど、身体だけ、6才若返ってるって感じだな。足の大きさや、ざっと測った身長から行くと、8才女児のほぼ平均の大きさだ。」


「うちの双子より平均つーのはデカイんだな…。」


「お宅の双子っちは豆サイズだもん。」


「ーそう…。他には?」


「それが妙だぜ。ほらじっと見ててみろ。」


まりもが広げた手をじっとみていると、徐々に大きくなっていっている様に見える。


「え…?」


「元のサイズに戻って来てんだよ。徐々にな。そして、これ。」


と、まりもの隣に座っているすずの腕時計を見せる。


「んん!?これは…タイムスリップ!?」


時計の針が早送りの様に回転している。


思わず亀一の顔を見ると、亀一は首を横に振った。


「俺もそうかと一瞬びびったが、どうも、柊木の身体にしか起きてねえ様だ。恐らく、縮んだ時は、逆回転してたんだろう。橋田、時計を柊木から離してみな。」


すずがまりもから時計を離すと、時計は今の時刻にピタリと止まった。


「な?柊木の身体にだけ起きてるタイムスリップなんだよ。」


「しかも自動的に戻ってんのか…。」


「そういう事。」


龍介は、ブカブカの制服の中で小さくなって震え、さっきから心の声も出なくなっているまりもに優しく話しかけた。


「柊木、あの時お前は、あそこの家のすぐ側を歩いてた。何か気が付いた事は無かったか。どんな些細な事でもいい。匂いでも、音でも。」


「ーえっと…。そういえば、凄く懐かしい匂いがしたの…。だから私、思い切り吸い込んじゃって…。そしたら身体が小さくなりだして…。」


「懐かしい匂いか…。どんな?」


「おばあちゃんの家の匂い。もう亡くなって、おうちも取り壊しちゃったんだけど、お母さんの田舎なの。新しい畳のいい匂いと、蚊取り線香。とうもろこしを茹でた匂いと、スイカの匂い…。」


全部混ぜたら物凄い悪臭になりそうだが、絶妙なバランスだと、そうでも無いのだろうか。


「それ、バラバラに匂って来たのか?」


「うん、そう。景色が見えるみたいだったの。おばあちゃんこんにちわって入ると、暑かったろーって、おばあちゃんが縁側で蚊取り線香焚いて、うちわで扇いでて、まりもが来るから畳変えといたんだよって言って、中に入ると、畳のいい香り。とうもろこし茹でてやろうかねっておばあちゃんが台所に行くのついて行って、その前にスイカ食べてなって切ってくれて。甘いいい香りがして、とうもろこしが茹で上がって…って感じ。」


「あの一瞬で、全部浮かんで来たのか。」


「うん。不思議な位。」


「普段からそんな風に情景を事細かく思い出す方か?」


「ううん、全然。忘れっぽいし、この思い出もずっと忘れてた。だって、8才の時の記憶だもん。」


「8歳?」


「そう。おばあちゃん、8歳で私が遊びに行ったの最後に亡くなったの。」


龍介は亀一と顔を見合わせた。


「きいっちゃん、8歳の時の事思い出して、8歳に戻るって何?」


「そこに鍵があんのかもしれねえ。しかも、その情景の浮かび方、まるでプログラミングされてるようだぜ。匂いを段階的に出して、そういう情景を浮かび上がらせる様にしてるとしか思えねえな。」


「柊木はそういうビンゴな思い出があった…。無い人間だとどうなるんだ?」


「ーあ、市曽…。市曽は?市曽は無い人間なんじゃねえか?だからめまい起こして気絶しただけだったんじゃねえか!?」


「そうか!ちょっと市曽に確認してみよう!瑠璃、作業中悪い。市曽の電話番号出せるか。」


「はーい。」


返事をした次の瞬間には出している。

寅彦並みだ。


「あ、ありがと…。」


若干驚きつつ、瑠璃の頭を感謝を込めて撫で、市曽に電話して、スピーカーにした。


「あ、急にごめん。加納だけど。昨日の事でちょっと聞きてえ事あるんだ。」


「ああ、何?」


「あの時、何か匂い嗅いでから、めまい起こさなかったか?」


「ううーん…。ああ、そういやした。線香みたいな臭いがして、なんなんだろ、あの臭い。草っぽい様な変な臭いがして、なんか臭えと思ったらめまい起こしたんだ。その後、スイカっぽい様なウリ系の匂いがして、とうもろこしなのかな、あれ。なんか生臭い様な甘い様な匂いがしたと思ったら気絶してた。」


「そうか…。助かった。どうもありがとう。」


「いえいえ。」


電話を切り、亀一を見る。


「ビンゴだな、きいっちゃん。奴の口振りだと、新しい畳の匂いと蚊取り線香の匂いは知らねえ様だ。」


「だな。つまり、この4種類、全部が懐かしく、いい思い出に直結してる人間にしか起きねえ現象という事だ。」


まりもが不思議そうに亀一を見た。


「どうして私にとっていい思い出って分かるの?」


「だって、お前、凄え幸せそうな顔して話してたぜ?それに、懐かしいって言った。懐かしむってのは、嫌な思い出には使わねえだろ。」


「はあ…。その通りです…。凄いね、すず…。加納君のグループの人って…。」


「本当ね…。警察より凄そうよ…。」


龍介は不安そうなまりもに笑いかけた。


「徐々にだけど、戻って来てるし、今んとこ、俺達に解決出来なかったトラブルは無い。少しリラックスしてな。」


「はい…。あああ~!かっこいいよお~!優しいよおお~!」


すずが堪りかねて、まりもの頭をべっチーンと平手打ちした。


「だから聞こえてるっつーの!こんな時になんなのよ!人がどれだけ心配してると思ってんのよ!」


「ご、ごめん…。」


龍介は笑うと、すずにも言った。


「いいじゃん。トレードマークの心の声も聞こえなくて、心配してたんだ。聞こえるようになって良かったよ。」


そう言うと、寅彦と瑠璃の所へ行った。


「なんか燃やしてて異臭がしたってのと、妙なゴミの内容、分かったらついでに調べてもらえる?」


「おう。」


「はいはい。」


「それと…。匂いの順番と柊木の思い出が妙にリアルにマッチしてんのが気になるんだ。関係無えかもしれねえけど、あの家の関係者と、柊木のお婆ちゃんに接点が無いかもお願い。」


寅彦がパソコンから目を離さず言った。


「了解。柊木、婆ちゃんの名前は?」


「あ、大野タエです。」


「住所は分かんねえよな。8歳だもんな。」


「ごめんなさい。途中までしか…。山梨県甲府市…だったと思うの…。」


「ああ、そんなもんでいい。」


まりもの身長を測っていた亀一が言った。


「今、9歳児くれえだな。」


龍介は時計を見た。


「20分で1歳って感じか。」


「だな。」


「ちゃんと戻るのに、あと1時間40分てとこか。家に連絡しなくて大丈夫か?」


「あ、私は平気。すずは連絡しといた方がいいんじゃない?ていうか、帰ってもいいよ?悪いから…。」


「いや。帰ったって気が気じゃないわ。あんた治るまで居る。じゃ、ちょっと電話して来る。」


そして、寅彦と瑠璃が調べた事をチェックしている龍介の横顔をうっとりと見つめるまりも。


「ーはああ…。ほんとかっこいいなあ~。頭もいいし、凄い行動力と指揮能力…。素敵~。」


亀一がマジマジとまりもを見ている。


「え!?あ、な、なんでしょ!?」


「お前と付き合ったりした男はキツイだろうなあ…。俺、絶対無理。」


「ひっ、酷い!私だって長岡君は無理だよ!頭良すぎておっかないもん!」


「おっかないってなんだよ!」


「色々知り過ぎてて、怖いよお!


「はあ!?お前の方がよっぽどおっかねえだろうが!本音吐きまくりやがって!ヤバい奴見ちゃあ、本音吐露してたら、命がいくつあっても足りねえよ!」


ずっと頬杖をついて見守っていた鸞が面白そうに呟いた。


「どっちもどっちって感じね。面白ーい。」











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