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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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謎の家

中2になった。


英学園は陽気のいい時期には何もやらない。

質実剛健をモットーにしているから、過酷な状況下で何かをやらせたいからなのかは定かでないが。

そんな訳で、学校行事は無いし、結構のんびり過ごせるのが春だった。


龍介はその日もいつもの様に仲間5人で学校から駅まで帰っていた。その途中で、英学園の白い学ランを着た生徒が倒れているのを発見し、駆け寄って助け起こした。


「大丈夫か?」


男子生徒が目を開けた。

見覚えのある顔だった。


「あ…、加納…。」


相手が龍介を知っているという事は、クラスメートかもしれない。


「えー…、お前は確か…。」


うん、居た。確かにクラスメートだ。


「シソっぽい名前の…。ああ!大葉!」


「捻り過ぎだ!市曽だ!」


「ああ、普通にシソで良かったんだっけ…。」


「食べるシソじゃないぞ!市場の市に、木曽の曽!」


後ろで亀一達が大笑いしている。

龍介は竜朗同様、どうでもいいと認識してしまった人間の名前はアホの様に覚えられない。


「何してんだ。どうしたんだ、こんなところで。」


「いや、それがよく分からない。本を読みながら歩いていたら、急にめまいがして、倒れてしまった。」


龍介はなんとなく、市曽が倒れていた所の頭上を見上げた。


無機質なコンクリートの高い塀に覆われた小さな会社の様な建物がある。

市曽も見上げながら言った。


「俺んち、この近くなんだけどさ。ここの家の人、ちょっと変わってるらしい。」


「家なのか。会社じゃなくて。」


「うん。まあ、自宅兼会社って感じだったっぽい。

自称発明家だって。

何で食ってんだか知らないけど。

奥さんは普通の人だったけど、オヤジの方は、ただでさえ変わり者だったのに、奥さんが脳梗塞だかなんだかで倒れてから、本当に変わった人になっちゃってさ。

近所付き合いもしないし、自治会の仕事とかも一切やってくれないし、変なゴミ出すの注意する様になったら、燃やすようになって、異臭がするとかって警察が来たりさ。

兎に角怪しいんだよ。」


「うーん…。なんか薬でも撒かれたのかな…。具合はどうだ?」


「大丈夫。全然変わらない。ーでも医者行った方がいいかな!?」


市曽は急に不安になったらしい。


「特に自覚症状がなきゃ大丈夫だろうが、心配なら行って来い。」




市曽が礼を言い、なんだか不安そうに立ち去ると、後方から女の子の声がした。


「きゃあああ~!加納君だわああ~!」


「だからまりも!聞こえちゃうよ!恥ずかしいな、もう!」


鸞と瑠璃がクスクス笑って、手を振った。


「柊木さーん!橋田さーん!」


瑠璃が声をかけると、2人して恥ずかしそうに小走りで寄って来た。


「こちら、2組の柊木まりもさんと、橋田すずさん。」


女子は同じ学年に4人しか居ないので、知っている様で、鸞が紹介した。


「こ、こんにちわ…。」


緊張した様子で挨拶をするすずの横で、まりもは龍介に見惚れている。


「はああ…。近くで見ると、本当にかっこいい…。ああ、でも唐沢さんとお付き合いしてるんだもんね…。」


「だから聞こえてるっつーの!」


すずに言われ、口を抑えるが、その後もとめどなく溢れ出す本音に、亀一と寅彦は笑いが止まらない。


「おかしいなあ、心の声の筈なのに…。でもかっこいい~。本とかっこいい~。王子様みたい~。」


龍介はまりもをマジマジと見つめた。


「え?は?な、なんだろう…。」


「お前、声に出てるって、気付いてねえのか?」


「え!?は、はい!」


「うーん、びっくり通り越して恐ろしくすらあるな…。柊木って、そう無い名前だけど、国会図書館の近くの柊木診療所の柊木先生となんか関係ある?」


「あ、アレは叔父…。私の父は、双子の弟…。」


「ああ、そうなんだ。」


「かっこいいなあ…。声も素敵…。やっぱり付き合ってるのかなあ…。」


「付き合ってるよ。」


「ええ!?唐沢さんと!?」


「そういう意味で言ったんだろ?」


「いや、今のは心の中で…。」


「ややこしいなあ。」


「そうなんだ…。やっぱり付き合ってるんだあ…。いいなあ…。」


龍介は苦笑し、他のメンバーを促し、そこを立ち去ろうとしたが…。


「ああ、やっぱり一緒に帰るんだあ…。いいなあ!」


龍介は若干引きつった笑顔で振り返った。


「一緒に来りゃあいいだろ。駅まで行くんなら。」


「やったあ!はっ!また聞こえちゃった?」


すずは泣き出さんばかりに俯いている。


「バッチリみんなに聞こえてるわよ!もう嫌…。恥ずかしい…。」




まりも達が別方向の電車に乗ると、亀一はさっきの市曽の話をし出した。


「なんか怪しい家みてえだし、ヤバい事やってんじゃねえ?」


「きいっちゃん…。その目の輝きはなんだ…。」


龍介にジト目で見られてそっぽを向くが、心はすっかり自称発明家とやらに奪われている。


「潜入してみたくねえ?龍。」


「してえ訳ねえだろ。住居不法侵入になるぜ?」


「寅はどうだよ。」


「は?俺?」


「調べてみたくないかね?あそこんち。」


「そうねえ…。まあ、めまいの理由は気になるかな…。」


「そうだよな。鸞ちゃんにもしもの事があったら困るもんな。」


「そ、そうね…。」


真っ赤。

亀一はそれをいやらしく笑って見ると、そのまま龍介を見た。


「龍も将来の嫁の唐沢に何かあったら困るだろお?」


ところがこっちは平然と返す。


「あそこのすぐ脇を通らなきゃいい話だろ。瑠璃、通んなよ。」


「はい。」


「あんたらも通らない。これでこの話はおしまい。」


「つまんねえ奴。」


「あんたね、そうやっていっつも妙な事に自ら首突っ込んでトラブルになってんの、まだ気付かねえの?佐々木がどうこうとかいう問題じゃねえだろ?」


「はい…。すんません…。」




ところが、結局そうも言っていられない事件が起きてしまった。


翌日は、龍介達の前をまりも達が歩いていた。

例の自称発明家の家のすぐ脇を通ろうとしていたので、瑠璃が声をかけようとした時だった。


「えええ!?何!?なんなの!?」


まりもの身体がみんなの目の前でどんどんと、急速に縮み始めたのだ。


「そこから離れろ!」


龍介が走って行って手を伸ばし、まりもを道路側に引っ張って、漸く止まったが、小学校低学年くらいの大きさになってしまった。


「いやああ!何これ!どういう事!?」


全員、まりもを改めて見て、さすがに固まってしまった。

何が起きたのか、頭の整理がつかなかった。




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