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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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爺ちゃん、とうとう泣く

龍介がやっぱり活躍している頃、亀一達は、瑠璃や朱雀達と分担して双子の面倒見ながら、クリスマスパーティーの計画を立てていた。


「いちご、ケーキお手伝いする!」


「わあ、有難う。」


瑠璃が苺の頭を撫でていると、それを横目で見ていた蜜柑はバシッと宣言した。


「みかん、食べる人だから!」


吹き出す悟と亀一にムスッとしながらドライバーを振り回して言う。


「悟にいにと、きいちにいにだってそうでちょっ!」


「まあ、確かにそれは言えてんな。」


プレゼントの数を数えていた朱雀が、ふと手を止めた。


「そう言えば、今回は拓也君は来ないの?」


亀一の顔が瞬時に苦悶の表情に変わってしまった。


「ー拓也は…、龍が居ねえならいいと…。」


真っ青になる朱雀と悟を見て、首を傾げる瑠璃。


「ちょっとお、拓也君まだ諦めてないの?!」


「長岡、なんとかした方がいいよ、それ!」


2人に真っ青な顔のまま言われ、亀一は涙目になって答えた。


「この間、唐沢とのデートの話聞いて、諦めたのかと思ったんだよ!そしたら、暫くして、いやそんな筈は無いって言い出して、龍に尋問しちまって、バレちまったんだよ!一方通行的なもんだってえ!」


今度は瑠璃が打ちひしがれている。


「一方通行的って…。字面があまりに酷いわ…。」


「ご、ごめん…。頑張れ…。」


「頑張ってるわよおおお~!」


「し、知ってる…。だよな…。」


プレゼント企画担当の朱雀は、話を変える事にしてやった。


「でさあ、まあ、僕達子供は其々1つづつプレゼント用意するにしても、龍のお爺ちゃんとお父さんの分はどうするの?多分、何かしらはくれるでしょう?」


「ああ、先生は間違いなくくれるだろうな。」


「だよね?だったら、チマチマ1人一個づつ用意するより、お金集めてみんなからにした方がいいんじゃない?」


「そうだな。任せる。」


「はーい。」


亀一と悟も、瑠璃が立てる献立を一緒に考え始め、双子の事はすっかり忘れたほんの一瞬の事だった。


階下からの悲鳴の様な竜朗の怒鳴り声に腰を浮かして、初めて双子が居ない事に気づく。


「みかああああん!そのお時計さんはいじらなあああいい!いちごおおおお!それはまだ読んでねえ夕刊だあ!勝手に数式をマジックで書くなあああ!」


急いで4人で1階に降りて行くと、エプロン姿の竜朗が双子の首根っこを捕まえて、ぶら下げていた。

さながら猫の様である。


「すみません!気が着かなくて…。」


亀一が謝ると、若干引き攣りつつ笑った。


「いいんだよ。ごめんなあ。」


「いえいえ。なんの為に来てるんだか分からなくなるので…。」


謝りつつ、悟と2人で双子を下ろす。


「今度こそちゃんと見てますんで…。」


「おう。悪いな。」


竜朗はキッチンに引っ込んで行った。


「龍って凄いね。4人でも面倒見切れないのに…。」


朱雀が言うと、珍しく悟まで頷いた。


「本とだよ…。ねえ、君達。」


悟は屈み込むと、双子に話し始めた。


「本当に駄目って言われた事はしちゃ駄目だよ?お爺ちゃんやお母さんがそのせいで早死にしちゃったりしたらどうするの?」


途端に双子のどんぐり眼が潤み出した。


「早く死んじゃうの嫌あ…。」


「でしょう?だったら、いい子にして、苦労かけないようにしないと。にいにだって、いつも優しいかもしれないけど、ある日突然嫌になって、出て行っちゃうなんて事だってあるかもしれないよ?」


「そんなの嫌よお~!」


泣き出す双子を朱雀と瑠璃が慌てて慰める。


「泣かせてどうすんの、悟。それに、それ、悟が言えるの?」


「そんな事言ってたら、お説教なんかできないじゃん。」


「そういう事言ってるから、説得力無いんだよね、世の中の親のお説教って。」


確かにそれは言えている。


悟は母によく叱られるが、母方の祖母の話では、母もよくテストを隠していて怒られていたという話だし、全く人の事を言えた義理ではない。


母は悟がその事実を知っている事は知らないが、なんだか説得力が無く感じていたのは、その為かもしれない。


双子は素直に出来ているせいか、悟の話も素直に聞いてしまった様だが、苦労や心配の掛け方から行ったら、悟は確かに人の事は言えない。


言いながらなんとなく、自分もそうだけどと思っているのだから、通常なら説得力は無い筈だが、双子には、しずかと竜朗が早死にというのと、龍介が出て行ってしまうというのは、かなり深刻なキーワードであった様だ。


それを証拠に、泣き止んだ双子はかなり大人しくなり、静かに座って、瑠璃にくっ付いて本を読み始めた。


ほっとした所で、朱雀と悟はずっと発言しなかった亀一を見て、ギョッとした。

苺がマジックで書いた夕刊に更に書き込んでいたからだ。


「き、きいっちゃん?何してんの?」


「コレ、凄え。苺、お前、数学の才能は桁外れだな。この間ちょこっと教えただけなのに、全部合ってるぞ。」


「ほんと?やったあ。」


悟と朱雀も覗き込んだが、もはや意味不明状態だ。

かろうじてという感じで悟が聞いた。


「全然分からないよ。何コレ。関数なの?」


「そうだ。中3レベルって言っても、難関校って呼ばれるところに行く奴しか解かねえような問題だ。うーん、凄い。苺にはこんな才能があったのか…。」


しかし、その才能は表現方法が大迷惑なので、あまり着眼された事が無いのが残念だ。


「苺。こんだけ出来りゃ、普通に解いてりゃみんなが褒めて喜んでくれるんだから、ちゃんと書いていい紙に書きなさい。面倒でも、ちゃんと紙変えて、用意して。分かった?」


「あい!」


返事はいいが、本当にやるかどうかは甚だ疑問だ。


何せこの苺、頭脳は龍太郎から受け継ぎ、凄まじくいい頭だが、面倒臭がりだけしずかからしっかり受け継がれている。

それも、しずかや龍介とは少々違うタイプの面倒臭がりだ。

後で余計面倒臭い事になるのに、その場の面倒を嫌って、とんでも無い事をする。

紙を出すのが面倒だからと、そこら中に書いてしまうのが、その一例である。


竜朗がキッチンからエプロンを外しながら声を掛けた。


「おう。飯出来たぞ~。食ってけ~。」


今日は鍋らしい。

ご馳走なりながら、瑠璃がメニューを渡すと、竜朗は嬉しそうに微笑んだ。


「こりゃいいね。じゃあ、材料買っときゃいいんだな?」


「あ、私も行きます。お一人では…。」


竜朗は虚ろな目で双子に視線を移した。

もう冬休みになってしまった。

確かに1人で双子を連れて買い物は辛い。


「ああ、俺も行きますよ。」


「亀一、大丈夫なのかい。そんなにうちに来て。麗子さん、そろそろ来てんじゃねえのか?」


「それがまだ来ないんです。相場の変動が激しくて目が離せないとかで。市場が閉まるまで来ないって言ってました。」


「ああ…。それはそうかもしれねえな…。」




そんな訳で、亀一も連れ立って買い物に行ったが、双子はなかなか凄い。


「爺ちゃん、これ買ってくだちゃいな!」


消えていた蜜柑が、カートにポテトチップス12袋入りの段ボールをボンと置く。


「蜜柑…。こんなに買ってどうすんだよ。1袋にしなさい。」


「はい…。」


肩を落として蜜柑が消えると、今度は苺がフライドポテト用の冷凍ポテト業務用サイズ3キロをボンと載せた。


「これ買って下さいな!」


「だからあ。こんなにどうすんだっつーの。入んねえだろ、冷凍庫にい。」


どうも好きな物は山買いしたいらしい。

結局、瑠璃に説得され、小さなおもちゃ付きお菓子を1つづつ買って貰う事で収まり、買い物がなんとか終わった。


「瑠璃ちゃんは、弟妹が居るわけでも無えのに、本当に双子っちの扱いが上手いねえ。龍の嫁に欲しいね。」


その途端、ニヤニヤとだらしなくにやけて、身をくねらせ始める。


「いゃ~ん、お爺様ったらあ~ん!」


「唐沢、顔。顔っ。」


「はっ!」


慌てて真顔になり、竜朗を見ると、笑って瑠璃の頭を撫でていた。


「可愛いねえ、瑠璃ちゃんは。しずかちゃんがそれ位の頃の悪企みしてる時の顔と似てるぜ。」


悪企みで、大受けする亀一に、目が点になる瑠璃。


ーわ、悪企みって何じゃらほい!?何故、龍を思うと、悪企みな顔に!?


という疑問は兎も角、しずかが悪企みというのが気になり、聞いてみる事に。


「おば様はいたずらっ子だったんですか?」


「おう。そうなんだよ。まあ、ターゲットはいっつも龍太郎と和臣だったけどな。」


今度は亀一の目が点になる。


「へっ!?うちの親父!?」


「そ。優子ちゃんは和臣が好きでさ。ところが和臣はポワーンとしてるもんだから、どうもはっきりしねえ。好きって言われたら、『うん、ありがとう。』かなんか言っちまって。優子ちゃんのストレスが一定ラインに達すると、しずかちゃんがイタズラを仕掛けて、腹いせすると。」


「例えば…。どんなんでしたか…。」


亀一が恐る恐る聞くと、それに反して竜朗は楽しそうに語った。


「剣道の面の顔側に般若の面の絵付けといたりよ。胴着の裏に『優子Only Love』って刺繍したりよ。凝ってたし、可愛いだろ?なんか笑えるイタズラなんだよな。」


竜朗がしずかの事はベロベロに可愛がっていたというのが、なんとなく分かる様な嬉しそうな顔で、丸でいい事をしたかの様に語っている。


「親父は全部引っかかってたんですか…。」


「おう。しかもリアクションが良くてよお。優子ちゃんの復讐半分、そのリアクション見たさ半分だったんだろうな。本と和臣はおめえの親父とは思えねえオトボケキャラだからなって、こらあ!」


こらあ!と言われたのは勿論双子だ。

3人が話に夢中になっている間に、道から外れて、連れ立って林に入り、蔦にぶら下がって、


「やっほーい!」


とやっていた。


「危ねえだろおお!?」


亀一と同じ事を叫びながら急いで下ろそうとすると、竜朗が足を滑らせ、折悪しく前日の雨でベチョベチョになっていた林の枯葉と土が、腐葉土の様になってしまったところに、蜜柑を抱えたままズルズルとなす術も無く滑り、ベッターンと倒れ、蜜柑を守る為か、蜜柑を捧げ持つ様に持ち上げた状態で、ベチョベチョの林の中に、思い切り寝そべる形になってしまった。


「きゃああ!お爺様!?」


「先生、大丈夫ですか!?」


竜朗は情けなさそうに笑いつつ涙ぐんで、とうとう呟いた。


「龍…、早く帰って来てくれ…。」


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