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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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双子は大変

「なるほど…。洗い流しちまったわけか…。」


龍彦はしずかの作ったビーフカレーを食べながら、龍介が滝浴びをした件で、年齢不相応に女の子に興味が無いのではないかと真行寺が怒りだし、竜朗が珍しく狼狽し、意気消沈しているという話を聞いて、そう言って、唸っていた。


龍介はとうに寝ている。

今日は仕事が立て込んで、龍彦は夜中に帰って来たからだ。


「じゃないかってお義父様に言われて、私もそうかもって思ったんだけど…。どうしたら元に戻るのかしら…。お父様、毎日メールで聞いて来るの。龍はどうだって。」


「その内戻るんじゃないか?それからは洗い流してないんだろ?」


「うん。でも、お父様が可哀想で…。早く戻ってくれないと、お父様、龍の事だけに気にし過ぎて死んじゃいそう。」


「い、いや、お義父さんだけは、何が起きても死なねえよ…。」


「ん?」


「うん…。」


「あ、ところでお仕事どうなの?私お手伝いしなくていいの?」


「んー、実はちょっとあるんだけど…。」


「じゃあ、明日は一緒に行くわね。」


「龍介どうすんだよ。」


「連れてって、事務所置いておけばいいじゃない。面白がって見てるわよ、あの子。」


龍彦は嬉しそうに微笑んだ。


「まあそうかな。」




イギリスに着いてからそろそろ5日経つが、3人だけの暮らしは落ち着いた幸せなものだった。


そして、龍介はその穏やかな中で生活している内に、暇を感じる様になった。


退屈なわけではない。


龍彦は仕事の合間を縫って、大英博物館やロンドンの有名な場所にしずかと2人で連れて行ってくれるし、龍彦が日本に居る時と変わらず、朝の5時に稽古もつけてくれている。

龍太郎に持たされた大量の宿題もあるし、学校の宿題もあるし、普段の生活の中でやらなきゃならない事は、ポチの散歩くらいしか減っていない。


でも、ふとしたゆっくりする時間というものの存在に気が付いた。

それが暇という表現になっているので、通常の暇というのとは違うだろう。


しかし龍介はそんな時間は体験した事が無かった。


何故だろうと考えても分からなかったので、しずかに言うと、申し訳なさそうに言われた。


「それは苺達の面倒みないで済んでるからなのよ…。ごめんね…。」


そう言われてみればそうかもしれない。

宿題が終われば、ポチの散歩。

帰ってくれば、苺や蜜柑が龍介を待ち構えており、アレやコレやと頼んで来るので、付き合ってやっている。

片方の要求だけのんでいると、もう片方がロクな事をしないので、常に両方に気を配ったりして。

その間ポチの遊んで攻撃も加わり、寝るまで暇という物は全く無い。


「ああ、そういう事か…。いや、母さん、別にいいんだよ、そんな事。」


「でもねえ…。ほんと龍にべったりだから…。ごめんね。ゆっくりする時間も無かったのよね…。」


「いいってば。苦痛に感じた事なんか無えし。でも、大丈夫かな、爺ちゃん…。」




大丈夫では無かった。


まだ5日なのに、既に根を上げそうになっていた。


もう本気で龍太郎の背中に2人を括り付けて仕事に行かせようかと思った位だ。


双子が学校から帰って来てからが、もう戦争である。


例えば、龍太郎から出された宿題を見てくれと苺が言うので見てやっていると、蜜柑はポチと遊んで転がって、玄関に落っこちたと泣いている。


やっと蜜柑を泣き止ませたと思ったら、苺が腹が減ったと言い出し、蜜柑も突然空腹を訴える。


そうすると、待った無しである。


急いでおやつを食べさせると、今度はポチが散歩に行こうと待った無し状態で誘って来る。


双子を2人きりで置いて行くのは、あまりに恐ろしくて出来ないので、2人を連れてポチの散歩に行くが、途中の道で、お花が咲いてるだの、鳥が居るだの2人で別方向に行こうとする。


イラっとした竜朗は、苺と蜜柑にもリードをつけたが、今度は児童虐待だと通報されかかり、それも出来ず、


「蜜柑!そっち行かない!落ちるぞ!苺!歩道からケツが出てる!ケツだけ轢かれるぞ!」


と、怒鳴りっぱなしになってしまった。


冬休みが来るのが恐ろしくて堪らない。


「ああ…。龍としずかちゃんは本当によくやってるよな…。こんなのの相手を…。だから龍もしずかちゃんも360度目が付いてるみてえな能力持っちまったんだな…。」


双子が珍しく大人しく2人でボードゲームで遊び始めたので、ソファーにダラりと座り、タバコを吸いながらぼやいていると、亀一がやって来た。


「お?どうしたんだい。」


「いや、しずかちゃんが気が向いたら苺達見てくれって言ってたので…。今まで家族水入らずの邪魔しちまったから、罪滅ぼしにと…。」


「うおおおお!助かるぜええ!!!」


亀一が来た事で、双子も亀一に集中し、ばらける事なく、そのまま亀一にも付き合わせ、人生ゲームを始めた。


「麗子さん元気かい。」


麗子ババアは竜朗より5歳上だが、元々は、子供の時からここに住んでいたのだから、よく知っている。


「はあ。相変わらずです。元気過ぎ。」


「何よりじゃねえか。」


「昔っからあんな強烈な人だったんですか。」


「そうだな。跳ねっ返りだ、じゃじゃ馬だと、男にも恐れられてたな。誰か虐められてるって聞くと、サンダル握りしめて走ってって、ガキ大将の頭パコーン!気持ちいい人だったぜ。」


「へえ。」


「たまには顔見せに行ってやんな。この間会った時、亀一は跳ねっ返り具合と捻くれ具合があたしそっくりで可愛いって言ってたぜ。」


「ははは…。嬉しくもなんとも無え様な…。」


「んな事言うなよ。いい人だぜ。あの人は。」


「確かに…。この間行って、目え覚まさせて貰いました。」


と、この間の一件を話す。


「ふーん…。流石だな。まあ、瑠璃ちゃんもよく考えてくれてるが…。そんで?どうすんだい。冬休み。ぶっちゃけ朱雀や佐々木の倅とは今一つ遊びの傾向が違うんだろ。」


「だから、唐沢と日本居残り組でクリスマスパーティでもやろうかって…。」


何故か目を輝かせる竜朗。


「それ、うちでやんな!材料費出してやるし、料理も手伝ってやるからよ!」


「は…?」


「おめえ、今、しずかちゃん達の家族水入らず邪魔した罪滅ぼしっつったじゃねえかよ!俺と龍太郎だけじゃ、こいつら満足する訳ねえだろ!な!?」


半ば脅しにしか聞こえない。


「で、でも、佐々木が居ますよ…。」


「構やしねえよ!連れて来い!いいな!?瑠璃ちゃんにも連絡しとけ!」


あれよあれよと言う間に、竜朗は準備に動きだし、瑠璃には自ら連絡を取り始め、思いっきり勝手に事が進み出してしまった。

その上…。


「俺、これから夕飯の支度があるからよ!食ってっていいから、双子っち見張ってろ!?いいな!?」


この見張りが大変な事に、亀一は身をもって知る事になった。


ボードゲームが終わったら、蜜柑は竜朗がキッチンに居る事を確かめると、おもむろに高そうな柱時計にドライバーを持って近付く。


「蜜柑!それいかんだろ!爺ちゃん見てねえけど、俺が見てるぞ!」


と、蜜柑がドライバーをしまうのを見届けている間に、苺は大人しく、かなり難しい数式を解いていたはずだったが、ふと見ると、これまた高そうなリビングのテーブルに紙からはみ出して、既に紙では無く、テーブルに書いている。


「苺!紙の上に書きなさい!」


必死にテーブルを拭いていると、教えてくれと言うので、教えるのに夢中になっていると、ポチと蜜柑がゴロゴロと転がり、柱に激突し、蜜柑が号泣。

亀一は苺の目の前にありったけの白い紙を広げ、ここに書く様にときつく言い残し、蜜柑の所に走り、頭をガシガシさすりながら、心の中で叫んだ。


ー龍〜!!!帰って来てくれええええ〜!!!もう無理〜!!!




疲れ切った状態で、そのまま竜朗が作ってくれた美味しいカレーを食べながら、亀一はぼやき気味に言ってしまった。


「龍ってすげえな…。俺1時間で死にそう…。」


「ほんとだよ…。しずかちゃんなんか、1人で家事しながらこの子達見てんだからな…。もう人間技じゃねえやな…。こら!蜜柑!人参避けずに食え!ポチ!餌こぼしてんじゃねえかよ!ちゃんと拾って食っとけ!?苺!余所見すんな!溢れる!」


竜朗も段々と人間技では無くなってきている様だ。

仕事柄、あらゆる事に気を配っているのは慣れているのかもしれないが、家でもというのは、キツイだろう。

その証拠にラオウになりっぱなしである。


ー龍としずかちゃんが早く帰って来ねえと、先生のラオウがデフォルトになっちまうな…。


とはいえ、家族水入らずは邪魔出来ない。

だから竜朗も頑張っているのだろう。


ーこれは俺も頑張って協力しよう…。龍がいついかなる時も冷静に、全ての状況を精査して、正しい判断と優先順位が付けられんのは、こいつらのお陰かもしれねえしな…。指揮統率訓練だ。うん…。



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