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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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龍太郎としずか その2

ここまで話し終わった時、龍介と亀一の目は真っ赤になっていた。


「大丈夫?難しくなかったかな?」


「大丈夫…。父さんも爺ちゃんも可哀想だなと思って…。父さんがそんな思い抱えて頑張ってたなんて知らなかった…。」


「そうね…。和臣さんの為でもあって…。つまり、亀一、あなたの為でもあるのよ。長岡の人間は、絶対自衛官になって、蔵を守らなきゃいけないっていうのを、無くしてくれようとしてるの。だから、龍太郎君は、表に和臣さんの名前は一切出させないの。全部ひっかぶってくれてるのよ。」


「そうだったのか…。もうちょっと敬意を払うべきだったな…。にしても、しずかちゃんと、龍のひいじいさんはカッコ良すぎるぜ。なんなんだよ、もう、お陰で涙腺緩んじまったじゃん。」


「本当よね。じゃ、続き、話すわね。」




加納家は新しく建て替えられ、しずかとの3人の暮らしが始まったが、龍太郎にとっては残念な事に、しずかに龍彦との出会いが訪れる。


龍太郎にとって、龍彦は嫌いなタイプだった。


誰からも好かれ、ソツが無く、そして、優しさを素直に表せる。

その上かっこいいし。


見た瞬間から大嫌いだと思ったが、しずかは恋に落ちてしまった。

散々止めたが、結局結婚までしてしまう。


でも、龍太郎との約束はちゃんと覚えてくれていた。


ー2人は戦友ー


だから、結婚しても、イギリスに行ってからも会いに来てくれたし、いつも龍太郎の動向を気にしてくれていた。


しかし、幸せだったしずかに不幸が訪れる。


龍彦が死んだと、竜朗に泣きながら電話して来たしずかを心配して、龍太郎も竜朗と一緒にイギリスに飛んだ。


龍彦は真っ黒焦げのボロボロの遺体となって棺の中に横たわっていた。


龍彦をお骨にした後、龍彦が死んでからずっと何も食べず、ガタガタと痩せていくしずかを抱える様にして日本に連れ帰って来ると、とうとうしずかが倒れた。

病院に連れていくと、酷い貧血と極度の過労、そして妊娠4ヶ月と告げられ、入院した。



心配で仕事も休み、ずっと付き添っていた竜朗に、産んで育てるとは言うのだが、相変わらず食べもせず、弱って行った。


龍太郎は毎日仕事帰りに病院に寄った。


「何か食べないとダメだよ、しずか…。赤ちゃんにだって、栄養が行かないよ?」


「うん…。」


虚ろな目で答えるしずかに、龍太郎は足元が崩れるかのような不安を感じた。


「しずか、産むとか言いながら、本当はこのまま死ねたらいいのになとか思ってんじゃないのか。」


しずかは黙ってしまった。

答えは無かったが、涙が溢れ、止まらなくなっていた。

龍太郎はしずかの涙を制服の袖で拭いながら、しずかの返事を待った。


暫く泣いた後、しずかはポツリポツリと話し始めた。


「感覚的には、龍彦さんが生きている様な気がして仕方がないの…。

でも、その反面、この子は龍彦さんの生まれ変わりかもしれないとも思う…。

正直に言うと、どうしたらいいかも分からないし、どうしたいのかも分からない…。

決められないの、何も…。

このまま死ねたらいいのにって確かに思ってた…。」


龍太郎はしずかの小さな手を両手で包み込む様に握った。


「だったら、しずかは決めなくていい。俺が決める。間違ってたら、後で全部俺のせいにすればいい。」


「そんな…。」


「いいから聞いて。俺はね、真行寺は嫌い。

でも、しずかのお腹の中の赤ちゃんの事は好きになる気がするんだ。

絶対気が合うと思う。

だってしずかの子なんだもん。

仮に顔がアイツに似てたって構わない。

俺の子としか思えない。

だから、俺と再婚するんだ。

その上で、その子産むんだ。

もしも万が一、しずかの言う通り、アイツが生きてたら、その時は俺がしつこかったから仕方なくって、俺のせいにして、また元に戻せばいい。」


「そんなの駄目よ。龍太郎さんには真っ赤な他人の子よ?」


「だから、そんな気がしないって言ってんだろ?しずかは1人で居ちゃ駄目。俺や孫待ち望んでた親父の為にこの子を産んで。」


「龍太郎さん…。」


「戦友だろ。俺たちは。一蓮托生だ。」



龍彦の父、真行寺龍之介の勧めもあり、しずかは龍彦の死から半年後に龍太郎と再婚した。


龍介が生まれると、龍太郎は目に入れても痛くない程のかわいがり様で、仕事から帰って来ると、ずっと龍介を抱いて可愛がっていた。


龍介が3歳くらいまで、龍太郎はそんな感じで、龍介と過ごす時間をかなりの割合で割いていたのだが、龍介が4歳位の頃、地球のタイムリミットと、宇宙開発の話が出だした。


「宇宙に新しい星を作るのはいいが、その星には下手したら、アメリカ人と日本人、金が出せる先進国しか入れない。

少なくともアメリカが嫌いな国は入れねえだろう。

となると、間違い無く戦争が起きる。

龍が大人になった時に戦争なんか行かせない為には、宇宙開発も武器の開発も早くやらなきゃ…。

あんまり帰って来られなくなるかもしれない…。

龍は一緒に育てるって言ったのに、ごめん…。」


そう言う龍太郎にしずかはニヤリと笑って、胸を張った。


「頑張ってやってらっしゃい。

家の事は任せて頂戴。

龍の為なんだから、誰にも文句は言わせません。

それに、忘れちゃったの?

戦友よ?私達。

私はもう引退しちゃって、大っぴらに龍太郎さんの事は守れないけど、家庭からあなたと一緒に頑張るから。」


「ありがとう…。」



その後、龍介が弟か妹が欲しいと言った時も、渋ったのは、龍太郎の方だった。


「俺は父親らしい事、何にも出来てない。その上、また子供…。しかも俺の子なんてさ…。」


「俺の子の何がいけないの?夫婦でしょ?私達。」


「けど、もし、しずかのカンが当たってて、アイツが生きてたらどうすんだよ。戻れなくなるぞ?」


しずかは寂しそうに笑った。


「カンというより、願望だもの。気にしないで。」


それよりしずかは、こんなにも龍介を大切に思い、そしてまたしずかを大事に思ってくれる龍太郎が、いつまでも遠慮しているのが申し訳無く、また切なかったのだという。

それでしずかが2番目の子供を作ろうと言ったのだそうだ。




「分かったかしら…?龍太郎君としずかちゃんの繋がり…。」


「うん…。よく分かった…。それじゃあ母さんも離れられないし、きっとお父さんも恩義を感じて無理に引き離したくないんだろうな…。」


「だと思う…。でも確かに龍くんの言う通り、1人でイギリス赴任は可哀想過ぎるわね…。折角一緒に暮らせる様になったのに…。」


「どうしたらいいと思う?優子さん。」


「そうね…。半分なんてどうって、しずかちゃんにも言ったんだけど…。」


「半分て?」


「学校が長期休みの時は、龍くんとしずかちゃんはイギリス。その他は日本。龍太郎君と真行寺さんは丁度半分こって形に。」


「ああ…。成る程…。」


優子はふと亀一を見て、固まってしまった。


なんだか妙に目がギラギラしている。


「ちょっと…?どうしたの?」


「俺、決めた。」


「何をよ…。」


「自衛隊入る。」


「なんで!?龍太郎君は、あなたまで自衛隊に入って、危険な目に遭わない様に、呪縛から解放される様にって…。」


「だからだ!そんな重荷、そんな重責、親父達にだけ背負わせてたまるか!俺も入って、手伝うんだよ!」


「ちょっと、亀一!?」


すると龍介が優子を見つめ、やはり何かを決意した様な目をして言った。


「大丈夫だよ、優子さん。俺も図書館入って、きいっちゃんや父さん達を守る。」


「ーちょっとおお!?龍太郎君の気持ち分かってるの!?あなた達!」


「分かればこそなんだよ、優子さん。父さんのそんな大きな決意知って、母さん1人に戦友やらせといたら、男じゃねえ。な、きいっちゃん。」


「そういう事。」


優子は困り果てた後、苦笑しながら2人を見た。


「もう…。どうしようもなく男気ある少年に育ってくれちゃったわね。かっこいいわよ、あなた達。」


2人は照れ臭そうに顔を見合わせて笑った。


「ーあ、優子さん。じゃあ、次の人達が亡くなったのは?やっぱり新見みてえな政治家が悪さしたの?」


「あれは政治家じゃないの。

アメリカ。

アメリカでも関係者の何人かが、殺されたわ。

アメリカも、色々と問題を抱えていてね。

なんていうのかな…。

宇宙開発の反対派みたいなのが居るのよ。

超過激集団とでも言えばいいのかな。

超自然派主義っていうのかしら。

自然のままにー!って、かなり偏って、狂信がかった人達。

その人達に、宇宙開発の関係者って事で、名前が流れてしまったのが、当時アメリカとのパイプ役みたいなのをやっていた内閣調査室の図書館では無く、一応国民に知られている方の表側の方の夏目君のお父様と美雨ちゃんのお父様だったの。

夏目君のお父様は襲撃があった時、たまたま外出中で居なくて、お母様と妹さんが亡くなり、夏目君は学校の合宿で居なくて生き延びた。

美雨ちゃんの所は、美雨ちゃんが入院中の事で、ご両親だけが犠牲になり、加来さんのご両親は完全に巻き添えね。

ご夫婦で銀婚式のお祝いにアメリカ旅行に行った帰りの飛行機にその過激集団のターゲットの6人が乗っていたので、飛行機に細工されて墜落させられちゃったの。」


龍介は頷き、考えながら言った。


「そうだったのか…。寅のお祖父さん達は本当に災難だな…。それで犯人は?」


「情報局とCIAが協力して秘密裏に殲滅したわ。」


「酷えな…。でも、段々俺たちがサバイバルキャンプさせられたり、鍛えられてきら理由が分かって来たぜ。結局、いつどこで素性がバレて、狙われるか分かんねえんだな…。」


「そうです。流石龍くん。」


「俺だって分かったよ!」


「はいはい、ごめんね、亀一。」


「じゃ、優子さん、もう一ついい?」


「ええ、どうぞ。」


「京極さんのあの悲しい目は、目の前で家族を失った事が原因?」


「ーそうね…。

その時、非常事態だった事もあって、京極さんも銃で賊を撃ったの。

妹さんを庇って重症まで負って、しかも自分以外は全員死亡。

京極さんと雖も、まだ14歳よ。

人を撃ち殺したショックもあったでしょうに…。

それなのに、京極さんのお父様は何の音沙汰も無しよ。

入院中の京極さんの面倒は唯一の身寄りのしずかちゃんとか、加納先生、真行寺さん、長岡の両親なんかが入れ替わり立ち替わり行ってたし、退院後は加納家に下宿してたから、心配は無いといえば、それまでだけど、でも、肉親がフォローしてあげなくてどうすんのって話じゃない?

普通なら仕事があっても都合つけてすぐ帰って来るものでしょう?

でも、元局長が帰って来たのは、一年後。

何が理由だか知らないけど、一年も経って戻って来て、仏壇の前で泣き始めたから、京極さん大激怒。

物も言わずに元局長蹴り倒して、馬乗りになって殴り続けたらしいわ。

でも、元局長は全く抵抗しなかったそうだから、反省はしていたのかもしれないけれど。

で、京極さんは自分の家は嫌だって言うので、大学入って1人暮らしするまで、加納家に下宿したままだったの。」


「うち昔から下宿人居たんだな…。」


「そうなのよ。加納先生がああいう方だから、すぐうち来な~って仰ってくださるから。」


「だから母さんと京極さんて慣れてる感じで仲いいのか…。

しかしそんな事が…。それじゃ親子仲も悪くなって当然だな…。

悲しい目の理由もなんとなく分かったよ。

見たくもねえ光景をそん時に全部見ちまったんだな…。」


「そうね。多感な時期にね。でも、加奈さんと居た頃、あの目が少し和らいだんだって、しずかちゃんが言ってたわ。だから、今はまたきっと和らいでるわよ。」




龍介は帰宅した後、ポチの散歩や夕飯、龍太郎の宿題を済ませた後、その日は寝ずに龍太郎の帰りを待っていた。

深夜2時過ぎ、玄関が開いたので、リビングから顔を覗かせると、龍太郎が飛び上がるように驚いた。


「どした?稽古まで3時間しかねえぞ?」


「父さん。」


「何。」


「凄えかっこいいな。」


「は…。」


「じゃ、おやすみ。」


笑いながら行ってしまう龍介を目を点にしたまま見ていた龍太郎だったが、暫くして照れ臭そうに笑った。


「やっぱしずかの子だな…。」


他人で唯一、龍太郎を分かってくれたしずかの息子は、やっぱり龍太郎の理解者だった様だ。


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