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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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京極の父

「あのデカブツはだな、佳吾並みに日本刀を振り回すんだ。しかし、佳吾の様な脅しじゃない。本気だ。そして相手となる恭彦も本気。まさに一瞬の隙が命取りになる様な壮絶且つ、緊迫感溢れる親子ゲンカをするんだ。しかもそれは、佳吾の様に屋内だけに止める事はせず、外だろうが、公共の場所だろうが、どこでもやる。その上、あのガタイだ。警察が来たって、止められやしない。その度に図書館の人間5人が束になって、ようやく止めるんだ。もう何度親子喧嘩で図書館が出動したか数知れん。」


「そんな大きな人なの?鸞ちゃんのお祖父さんて…。」


「デカイ。190はある上、体重は100キロ超えてる。顔も鬼瓦の様で、京極家の人間とは思えん。」


それでは確かに京極組長と親子にも思えない。


「で、それを海外の街中でやられてみろ。どうなると思う!」


パリのエッフェル塔の前で、日本刀を振りかざす大男と、それを慣れた手つきで、真剣白刃取りする美しい日本人男性…。


龍介達は真っ青になってムンクの叫びの様になりながら、口々に叫んだ。


「それは止めなきゃ日本の恥だああああ!!!」


「だろう!ご理解頂けて何よりだあ!」



そして猛スピードで作業を始めた寅彦だったが、結構直ぐに頭を抱えた。


「ああ!クッソ!加奈ちゃんやりやがったな!」


「どうした!?」


真行寺、もう怒鳴りっぱなしである。


「フランス行きの飛行機に搭乗してる映像が残ってますが、これ、後から差し替えた痕跡があります。搭乗者名簿にも名前はありますが、多分これ本当は乗ってない。」


「うう~ん。やはりな…。でも、恭彦だろ…。更に裏をかいて乗ってるという事は…。無いな…。そんな子供騙しはしない…。きいっちゃん、しずかちゃんと優子ちゃんに電話して、海外渡航の準備しといて貰ってくれ。そろそろ着く。龍介、龍彦に電話して相談してみてくれ。」



龍彦は事のあらましは佳吾から聞いていた。

仕事の合間、執務室でぼんやり窓の外を見ながら思わず笑ってしまった。


「やるなあ…。京極…。」


事情が違うとはいえ、京極は自分が出来ない事をやってのけてしまった。


「頑張れー。今度こそ幸せになれよー。」


空に向かって呟くと、ネクタイを緩めて、仕事再開。

太めのサスペンダーにワイドスプレットのワイシャツを腕まくりし、フェラガモのペンギン柄ネクタイ。

顔だけでなく、服装もかっこいい龍彦は、情報局に戻って来るなり、女性職員の注目の的だ。


尤も、本人はしずか以外にまったく興味は無いが。


だから何かにつけ、女性職員は顔を出す。

お茶だのコーヒーだの、オヤツだの。

龍介からの電話を受けた時もそうだった。


「うーん…。それは手の内教える事んなるから嫌だな…。」


「お父さん、そんな事言うなよ。日本の恥だぜ?」


「やらしときゃあいいだろ。死なねえよ。」


「死ぬ死なないの問題じゃなくて、恥の問題だろお?」


女性職員はわざとモタモタとコーヒーとクッキーを置きながら、デスクに軽く腰掛け、タバコを吸いながら電話している龍彦に見惚れている。


しかし、急に畏まり出した。

何かと思った次の瞬間には、いつの間にか鬼の形相で背後に立っていた佳吾にゴムのサスペンダーをむんずと捕まれ、最大限に引っ張られて、いきなり離された。

べっチーンという音と共に、よろめく龍彦。

呆然とそれを見つめる女性職員。


「いだだだ。何すんですか、おじさん!」


「教えなさい!国家の恥がかかってるんだぞ!」


しかし龍彦は仏頂面で佳吾を一睨みすると、龍介にまくし立てた。


「これは親子と雖も、情報官の腕の競い合いの、言わば情報官同士の勝負だ。俺は基本的には協力しない。寅彦君が加来君に腹を立てているなら、加来君に勝ってみせろ。ただし、君達は少々分が悪い。だからヒントだけやる。京極は鸞ちゃんの話だと気管支炎を発症してた。情報局のエージェントが手負いで潜伏する時、1番手っ取り早いのは、信用出来る口の堅い人間を頼る事。あとは寅彦君が探り出せ。」




「だそうだ、寅…。ごめん…。」


真行寺が笑った。


「確かにそうだな。結局は情報官頼みの今回の作戦だ。親子対決ではあるな。」


寅彦の目が闘志に燃えたぎり始めた。


「負けるか…。親父なんかに…。」




優子としずかからパスポートの入った荷物を受け取り、空港に行くまでの間に、寅彦は京極と加奈の行き先を割出さなければならない。


龍介はフランスに居た時の事を懸命に思い出していた。


「寅、京極さん、うちのお父さんの他にもう1人親友がいるって言ってたろ?同期の人で…。」


「ああ、その人の所かな…。でも、名前も分かんねえな…。」


「グランパ分かる?」


「ええ~っと、なんだったけ…。多分アイツだな。大学時代、3人で年がら年中呑んだくれて、道端に転がってたな…。一だか、二だかが名前に付いたような…。」


「どこのエージェントとかは?」


「ちょっと分からん。彼は俺が顧問だった時期はそこら中転々としていたから…。」


寅彦は直ぐに思いついた様だ。


「組長が頻繁に連絡取ってるかもしれない。通信履歴探ってみる。」


かなり固そうな防御だったようだが、なんとかたどり着いた様だ。


「中国に結構電話してるな…。こん時仕事は…、うん。中国絡みじゃない。」


龍介が色めき立った。


「当たりじゃねえか?担当エージェントは?」


「そうだな…。今度は情報局の名簿…。うう、流石に堅い…。」


苦労したが、一瞬だけ見れた。


「一本…ああ!なんだ!?なんかもう一つ漢字があったぜ!?」


真行寺がハンドルを叩いた。


「一本杉だ!一本杉学!」


「じゃあ、中国の空港のカメラ見てみます!」


中国の空港の監視カメラも難なくハッキング。


「間違いなさそうです。北京首都国際空港のカメラだけ、細工の痕跡がある!時間は今から30分前!」


「よくやったな、寅!バイト代割増だ!」


龍介達まで喜んでくれて、寅彦もちょっと得意げだ。


「後は、あのウスラバカより先に着く方法だな…。予定変更。」


真行寺は携帯をハンズフリーにし、急ハンドルを切って、道を変えた。


電話には中国人が出た。


「もしもし。黄さん?真行寺だ。」


「おお!ちんぎょうじさん!」


必死に笑いを堪える子供達を無言で一睨みし、会話を続ける。


「申し訳ないが、頼みがある。プライベートジェットを直ぐに北京に飛ばしてくれないか。」


「構わないよ。私も今から行くとこよ。あと20分で来られる?」


「ああ、行く。」


電話を切るなり、真行寺は更にカイエンを飛ばしながら説明した。


「黄さんはね、中国人華僑で、物凄い親日派なんだ。天安門事件の時、中国人が中国人を殺してしまったって、とても悲しんでいてね。次からはこういう事が起こらない様に、中国の軍部に指導して欲しいと、中国人民解放軍のトップを紹介して来たんで、色々人を派遣するお手伝いをしたのが縁で、結構頼み事聞いてくれるんだ。黄さんのジェットなら、ウスラバカより早く着けるだろう。」


そんな人脈を持つ真行寺も凄いと感心したが、それ以前に3人は気になっている事があった。


情報局と図書館はとても仲良く仕事をやっている様に思えるし、実際、竜朗と佳吾を見ていても、協力し合って、プライベートでも仲良くやっている。

時期的に考えて、真行寺と、京極の父というのは、同時期に顧問と局長だったわけで、今の竜朗と佳吾の関係と同じ筈だ。

それに同期というからには、年齢も同じであろう。

もしかしたら、大学も同じ東大かもしれない。

となると、多分学部も同じ筈だ。

なのにこの侮蔑の仕方はなんなのだろうか。

どう見ても、大嫌いにしか思えない。


「あの~、グランパは京極のお父さんが嫌いなの…?」


龍介の問いに、真行寺の顔が苦々しく、苦虫でも噛み潰したかの様な顔になった。


「嫌いだね…。大嫌いだ…。あのバカたれ…。恭彦の仕事ぶりが派手だとかなんだとか散々言いやがるが、自分はどうだっつーんだって奴だ。何度アイツのせいでこっちが尻拭いに奔走したと思ってんだ。俺たちの頃は、左翼の過激派がわんさかいてさ。その鎮圧に出るのだって、いきなりランチャーで催涙弾だぜ?死者は出すな、殉教者になったら厄介だってのがセオリーなのに。んな事したら、当たりどころが悪かったら、死んじまうだろうが。」


龍介も、その時代に鎮圧の陣頭指揮を取っていた人のノンフィクションを読んだが、そう書いてあった。

真行寺達の組織も出ていたとは知らなかったが。


「グランパ達も出てたの?」


「あまりに人手が足りてなかったからな。でも、表沙汰になってねえ超ヤバイ、国外のテロリストとくっ付いてるようなのだけな。」


質問がなくなると、真行寺はまた話し始めた。


「大体、バカみてえに怪力なんだぜ?敵アジトに踏み込んで、防火シャッターで閉じ込められた時、アイツ、素手でシャッターパンチしてぶち破ったんだぜ?信じられるか?もう人間じゃなくてゴリラなんだよ。君たちも十二分に気をつける様に。それと人間だなんて思わなくていい。思い切りぶちのめせ。死んだら儲けもんだ。」


処置無しに嫌いらしい。


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