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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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可哀想な龍太郎

「あいつら…。しずかを売ったんだ…。」


車の助手席で、龍太郎は怒りに震えた。


「まあ、はっきり言やあそういうこったな。誰か可愛い子を教えれば、命は助けてやるとか言われたんだろう。助けてなんかくれねえのにさ。」


竜朗は、昨日屍体が発見された場所に車を停め、警官に手帳を見せた。

警官は緊張した様子で敬礼している。

竜朗の手帳には、内閣調査室特務機関特別捜査官警視と書いてある。

日本にはそんな部署は存在しない事になっているのだが、図書館の人達は、本当の所属部署はこういう事になっているのだった。

ものすごく簡単に言ってしまうと、警察の遥か上の組織で、全く手出しも出来ないし、全貌すら知られていない機関という事だ。

しかし、その手帳を見せられたら全て言う事を聞かねばならないという暗黙の了解は存在している。

よって、現場の警察官は、竜朗の質問にも丁寧に答えた。


「なんか出たかい?」


「それが、また出たんです。ガイシャが…。昨夜置かれたようで、ご丁寧にどっかから持ってきたボートに括り付けて、昨日の状態と同じようにしてありました。」


「ガイシャはやっぱり若いのかい。」


「はい。まだ12歳です。この近くの民宿の娘でした。可愛い子だと評判の子でした。」


「やっぱ犯人は少女好きの変態か…。犯人の遺留品は?」


「それが特には。水に浸けられているので、全部洗い流されてしまっている状態です。付近も探してみてますが、サッパリです。」


「ちょっと調べて欲しい事がある。上伊田ホテルってトコの元従業員、出入り業者で、この辺に住んでる男が居ねえかどうか。龍太郎、ヤツの特徴言いな。」


龍太郎が事細かく言う特徴を、警官はメモした。


「現状から判断すると、昨夜行方知れずになった2人の馬鹿たれ少年は遺体捨てに来た犯人に出くわし、拉致された。そして、可愛い子を教えれば、命は助けてやるとかなんとか言われて、俺の大事な娘同然の和泉しずかという女の子を教え、彼女は連れ去られたと思われる。俺は独自に探す。もしなんか分かったら、ここに電話して伝言頼んどいてくれ。」


竜朗は図書館の電話番号メモ渡し、近くの公衆電話で図書館に電話をかけた。


「風間?俺。」


「部隊長!?また仕事ほったらかして、どこ行っちゃったんですかあ!また龍太郎さんですかあ!?」


龍太郎の耳にまで聞こえる部下の叫び声に、竜朗は受話器を離して叫び返した。


「今回だけは違うよ!しずかちゃんの一大事だ!和泉にも伝えといてくれ!ホシは十中八九、昨日の殺人事件の犯人だ!その事でなんか分かったら、お前に電話する様に言ってあるから宜しくな!またかける!」


この時代は携帯やネットなどなかったから、連絡するにも、一々面倒だったのだ。


「さてと…。ここからガキとはいえ、男2人を黙らせたまま連れて行くとなると…車かな?」


竜朗はタイヤの跡を探し始めた。


「龍太郎、見てみな。」


竜朗の指差したタイヤ痕をみると、先ほどのしずかを連れ去ったと思われる車の物と同じだった。


「ラッキーだぜ。このタイヤ履かせられる車は日本車には無えよ。」


「ずいぶん太いタイヤだね…。外車って事?」


「ああ、ポルシェだな。龍太郎、車流すから、ポルシェ探せ。」


「はい。」




ポルシェ・ターボが停まっている家は割と直ぐに見つかった。

家というより、元高級旅館といった感じだ。

もう閉めて大分経つのか、結構荒れ果てている。


竜朗と龍太郎が素早く、そして慎重に建物の周りから部屋を覗いて行くと、一室のソファーにしずかが寝かされ、悟と渡辺が両手両足と身体を、ロープで縛られた状態で座らされていた。


龍太郎が見た、あの男が入って来ると、公平が怒鳴った。


「姫に何するつもりだ!」


男は白いドレスの様な物を手にして、笑いながら平然と言った。


「これに着替えさせて、ゆっくりゆっくり首を絞めて殺していくんだよ。時間をかけてね。」


渡辺が真っ青になって、泣きながら叫んだ。


「そんなつもりで教えたんじゃない!殺すなあ!」


「今更何言ってるんだ。分かっていた事だろう?。君がこの子が学年で1番可愛いと言ったんじゃないか。確かに可愛いよね。この辺じゃ見ない。くくくく…。」


くぐもったいやらしい笑いに、公平は身震いし、渡辺は号泣し始めた。


「ごめん!和泉!ごめん!」


公平が縛られた足で渡辺を蹴った。


「だから言っただろ!教えるなって!昨日捨てられた屍体の子だって、同い年位だったじゃないか!教えたところで、僕達はどうせ殺されるんだよ!」


「よく分かってるじゃないか。」


竜朗が頷いた。


「確かに、佐々木にしちゃよく分かってるぜ。」


「お父さん、しずか早く助けよう。」


「待ちな。こういうのはタイミングってもんがあんだよ。今突入したら、犯人の位置的に、しずかちゃんを人質に取られちまう。あいつらが取られる分にはいいが、それだけは避けてえ。」


「そうだね。」


「まあ、取り敢えず、佐々木は売ってなかった様だから、半殺しは渡辺だけにして、佐々木は4分の1位にしといてやるか。」


「うん…。」


犯人が公平と渡辺に近付いた。


「さてと…。男なんか殺しても、面白くもなんともないからな…。でも血が出るのも困るし…。」


そう言いながら、渡辺の前にロープを出して見せた。


「じゃあ、うるさい君からね。」


「嫌だああ!助けてえ!お母さあああん!」


男が渡辺の首にロープをかけたところで、竜朗が窓から侵入しながら、男の手を撃ち抜いた。


男は手を抑えて蹲った。

その隙に、龍太郎は眠っているしずかをお姫様抱っこして出口まで走り、男の身元を割り出した、先ほどの警官と遭遇。


「あ!加納警視は!?」


「今、犯人確保中です!」


警察官が走り、その後、暫くして、竜朗が公平と渡辺の首根っこを掴んで引きずるように連れて来て、龍太郎の前に、正しく蹴り転がした。


「こんの馬鹿たれ共があ!しかも女の子売って、自分の身を守ろうとは、どういう了見だ!ええ!?」


「すみません!ごめんなさい!もうしません!」


泣きじゃくって謝り続け、おしっこまで漏らしている渡辺を、龍太郎は半殺しにはしなかった。

その代わり、見たことも無い様な冷たい目をして言った。


「渡辺…。お前とは2度と口きかない。知り合いとも、クラスメートとも思わない。空気以下と思って存在しない者と認識する。卒業して学校が変わっても、町で会っても話しかけるな。絶交だ。2度と俺としずかに関わるな。」


渡辺は泣くのも忘れて、真っ青になって固まった。


龍太郎は、そのままの冷たい目で公平を見ると、しずかをそっと下ろし、公平の前に立つなり、公平が吹っ飛ぶ程の勢いで公平を殴った。


「2度とやんなよ!こんな事!」


公平は龍太郎の目をしっかり見つめて頷いた。


「本当にごめん。和泉さんが気が付いたら、ちゃんと謝る。」


「おう!」


竜朗は珍しく嬉しそうに微笑み、龍太郎の頭をクシャッと撫で、しずかをお姫様抱っこして、自分の車に向かった。


竜朗が助手席にしずかを寝かせようとしたところで、しずかが目を開けた。


「おじさま!?どうして!?」


「誘拐されたっていうからよ。」


「助けに来てくださったの!?」


「おう。勿論。」


しずかは嬉しそうに竜朗に抱きついた。


「だからおじさま大好き~!絶対おじさまのお嫁さんになる~!」


「はははは。待ってるぜえ。」


龍太郎は目を潤ませて、しずかに言った。


「しずか…。今回、殆ど俺が…。」


「あれ?龍太郎さん居たの?」


「居たよお!酷い!酷過ぎる!あんまりだあ!」




話が終わると、みんな腹を抱えて笑ってしまっていた。


「父さん可哀想だよ。珍しくかっこ良かったのに。」


「そうなのよね。確かに酷すぎたわ、私。後で聞いて、珍しく謝って、優しくしちゃったもの。」


「で、その犯人はお義父さんの読み通りだったのか。」


やっと笑い終えた龍彦が聞くと、しずかが頷きながら説明した。


「ええ。あそこのホテルに昔研修に来ていた事があったらしいわ。あのボロボロになってた旅館の跡取りで、修行に出されてて、旅館に戻って跡を継いだのはいいんだけど、先代が亡くなった途端、山とか温泉の利権売っぱらって、旅館も止めちゃって、贅沢三昧して遊んで暮らしてたんですって。ポルシェに乗せてあげるとか言って、小学生の女の子、ナンパしたりしてたのも、目撃されてたみたいよ。」


「ああ、でも良かった…。しずかが無事で…。」


そしてお決まりのちゅー!だが、やはり突然2人で息を合わせた様に、龍介に言った。


「だから佐々木君は駄目!」


龍介は苦笑しながら頷いた。








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