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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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寅、嵌る

その頃、しずかと京極の方は、パーティーが佳境に入り、かなりの盛り上がりになっていた。


「丸〜、そろそろいいぞ〜。」


京極のOKが無線で出たので、丸山と御手洗が浮世絵のある部屋に向かう。

2人が着くと同時に、寅彦が電子ロックの鍵を遠隔操作で開く。


「お見事、寅。」


御手洗達が褒めながら入室し、浮世絵を偽物とすり替えて、運び出しにかかった。

頃合いを見計らって、しずかと京極も用事があると、先に出る筈だったのだが問題が生じた。

突然、調子に乗ったクロードが、例の盗まれた浮世絵を見せると言いだしたのだ。


京極が直ぐに指示を出す。


「しずかちゃんが時間稼ぐ。30秒以内にここから出ろ。」


浮世絵の部屋の暗証番号はクロードしか知らない為、行こうとするクロードをしずかが引き止める。


「クロードさん、どうしても会わないといけない顧客の約束時間になってしまったので、これで失礼しますわ。」


「それは残念だ…。」


クロードがしずかの黒髪を触る。

勿論、亀一はキーキー言って怒っているが、寅彦はそれどころではない。

電子ロックは元に戻さなきゃならないし、邸内の見取り図を見ながら、御手洗と京極達の誘導もしなくてはならない。


「クロードがしずかちゃんと別れました。あと30秒で浮世絵部屋に着く。組長はそのまま厨房を抜けましょう。」


御手洗の無線が入る。


「今出た。」


「じゃ、右手に直進。リネン室から裏に出られます。鍵開けます。警報切りました。」


息つく間も無く、リネン室の鍵と警報を元に戻し、厨房をこそこそと2人で抜けている京極に無線で道案内。


「正面の勝手口から出て下さい。鍵と警報処理完了。」


「寅、最高だぜ。大人にになったら雇ってやる。」


「本当ですか!?」


嬉しそうな寅彦に、亀一はギョッとしたが、考えてみたら、寅彦はハッキングできる職業ならなんでもいいと言っていた。

まさに御誂え向きかもしれない。


出入り口は全てオートロックという念の入れよう。

やはり、クロードという男、犯罪の匂いがする。


御手洗達が無事屋敷を出たと同時に、クロードが浮世絵の部屋に入った。


京極が無線で御手洗達に指示する。


「予定変更だ。そのままドゴールで待ってる図書館の奴に絵、渡せ。」


京極がしずかを車に乗せ、エンジンをかけた時、クロードが騒ぎ出しているのが、監視カメラで見えた。


「組長!クロードが気づいた!」


「寅!監視カメラ切り替えて元戻せ!」


「了解!」


「派手に行くぜ!」


嬉しそうなガラガラ声が聞こえたと同時に、犯人はしずか達と気づいたクロードの私設軍隊の様な物が、2人の車を問答無用で撃ちながら追いかけ始めた。

寅彦は直ぐに2人が通る道の、監視カメラをハッキング。


「組長!5台追いかけて来てる!2台裏に回った!」


「thanks、寅。」


そして、心配で手に汗握って見守っている亀一の気持ちなど露知らずという感じのしずかの楽しげな声と銃声。


「やっちゃん!今見た!?私、錆びて無かったわよ!」


どうも、敵の車のタイヤを狙ってパンクさせた様で、ドッカンとどこかにぶつかる派手な音が、無線から聞こえている。


「いいねえ。でも、もうちょい身体しまっとこうぜ?上半身全部出てんじゃねえかよ。」


「いいじゃん。あなたこそ運転だけしてたら?。」


「俺は両利きなんでご心配無く。」


またキキーッ、ドッカンという音。


監視カメラには、また敵車両が3台増えたのが映った。


「組長!3台増えました!」


「うーん、キリが無えな。」


「やっちゃん、これ行っちゃ駄目?」


「ランチャーはマズイんじゃねえのなんて、俺が言うと思う?」


ーランチャー!?街中で!?


無線を聞いていた子供達は、全員目が点になったが、鸞だけは、そっと悲しそうに目を伏せた。

どうも京極組長の派手な仕事振りというのは、こういう事らしい。


「やったあー!だからやっちゃん大好き!」


ヒュー…ドッカーん!という派手な音がし、監視カメラの映像が乱れた。


「ひゃっほーい!楽しい〜!!!」


嬉しそうなしずかの声に、目が点になる亀一。


続けて、裏から回って、前から来た敵車両2台も、ドッカーんで、無事終了。


呆然とする寅彦に京極組長から無線が入る。


「寅、分かってる?」


「あ、ああ…。今映ってた監視カメラ映像に何事も無かった様に細工…ですか…?」


「よく分かってんじゃーん!愛してるぜ、寅あ!」


鸞が目を伏せたまま解説した。


「愛してるぜは、お父さんの最高の褒め言葉なの…。」


「そ、それは光栄だ…。」


御手洗からも無線が入る。


「受け渡し終了だ。あと、寅、悪いけど、連絡先一覧の中に、掃除屋ってのがある。そこはこういう異常な惨状を元に戻してくれる裏稼業なんだ。そこに連絡して、さっきの場所に行って貰ってくれ。京極組だって言えば分かる。」


「は、はい…。」


電話すると、フランス語で、


『毎度ご贔屓に!』という様な事を言われた。


「毎回なのか…。」


鸞はもう、泣きそうになりながら説明した。


「だから仕事は早いけど、経費が嵩むって、いつも局長に叱られてるし、フランスや海外の同業者の方々には、クレイジーヤスって仇名を付けられてるのよ…。京極組から人が出ないのは、一重にこのテンションの高さとスリルが、アドレナリン大放出になって、病み付きなっちゃうだけだと思う…。だから、真行寺組とは、全然違うと思うの…って寅彦君!?」


寅彦はうっとりと無線を置いた。


「楽しかったあ…。俺、絶対京極組入る…。このスリル堪らん…。」


若い内から、京極の魔力に嵌った人がまた一人…。

亀一や龍介は苦笑しているだけだが、鸞は真っ白になっていた。


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