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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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龍介くん頑張る

黒いセクシーなドレスで美しく仕上がったしずかが京極と出て、龍介も龍彦達と出て行った。


「きいっちゃん、一応、龍の方の監視カメラ見ててくれる?」


事務所には亀一と寅彦、鸞の3人だけになった。


「おう。しかし、お前ってほんとに凄いね。両方の監視カメラハッキングしちまうとは…。」


「ホテルの方は唐沢だよ。完璧な防護壁まで組んでるし、やっぱ只者じゃなかったな。」


「その様で。びっくりだけどな。」


鸞が間に挟まる様に、少し後ろ側に座って言った。


「でも、浮世絵がある家の監視カメラは大変だろうってお父さんが言ってたのよ?下調べでは、武装している人達も居るし、カメラのロックもかなり固いってアランさん達も言ってたの。それをやっちゃったのよ?凄いでしょ?」


我が事の様に寅彦を自慢している鸞なので、亀一がニヤニヤしながら寅彦を見ると、真っ赤な顔でパソコン画面を凝視してしまった。


フランス人の家は、今日はパーティをする様だ。

その為、適当なIDと経歴を作れば、入り込み易いので、京極はどうしてもこの日と思ったらしい。


「しずか叔母様の偽造IDや経歴作ったのも、寅彦君なのよ?凄いでしょ?きいっちゃん。」


いつの間にかきいっちゃんになっているのは置いといて、それには亀一も素直に感心した。


「へええ。だって偽造IDなんて、調べられても穴が出ねえ様にしなきゃなんだろ?」


「そう。今日のパーティは、日本の絵画のお披露目パーティーだから、組長としずかちゃんは日本で日本画専門のギャラリーを開いてるという事にして、そのギャラリーのホームページも作った。ほれ。」


ホームページを見て、またびっくり。


「うわ、凄え。本物だな。」


「ありがとさん。」


「ところで組長って…?」


「あ、京極さんの事。なんでだか知らねえけど、京極さんの所だけは、チームじゃなくて、京極組と呼ばれているらしい。だから、組長って呼べって、アランさんが。」


「なんでフランス人のアランさんが組長って呼べっつーんだよ…。」


鸞が笑いながら説明した。


「アランさんはね、すっごく日本が好きなの。特に任侠映画が。」


「はああ…。なるほど…。確かにフランス映画と相通じるもんがあんのかもな。でも、なんで京極さんのチームだけ組なの?鸞ちゃん。」


「あ、それはね、団結力って事らしいわ。結構他のチームは入れ替わりが激しいらしいんだけど、組って呼ばれるチームは、入ったら絶対辞めない、移動なんか言われると、泣いて抵抗するからって事みたいよ。今はうちのお父さんのチームだけだけど、昔、真行寺さんのチームがあった時は、真行寺チームも、真行寺組って呼ばれてたんですって。」


「ふーん…。いい組長って事なのかな…。」


「真行寺さんはそうでしょうけど、うちのお父さんはどうなのかなあ…。」


「なんであのドスケベ親父がいい組長って分かんの?」


「多分、龍介君と同じ感じだもの。まあ、見てれば分かるわよ。」


話している間に、夫婦を装ったしずかと京極がリムジンで到着した。

京極がさりげなくしずかの腰に手を回し、エスコートしている姿は映画の様である。

しずかも、いつもの可愛いエプロン姿と違って、黒いドレスなんか着て、とても美しく、妖艶な感じだし。


「従兄妹同士じゃなきゃ、こっちの方がよっぽど似合いだぜ。」


「きいっちゃんは、組長なら許すのか。」


暫し沈黙の後、眉間に皺を寄せて断言。


「いや!駄目だな!」


2人が苦笑してしまった所で、早速件のフランス人に接触した。

というか、しずかに吸い寄せられる様に、向こうから近づいて来たのだ。


「スケベそうな顔して、俺のしずかちゃん見てんじゃねえよ!こらあ!」


寅彦が苦笑しながら言った。


「きいっちゃんには、龍の方見ててやってくれって言ったろ?」


「ああ、そうであったな…。」


仕方なく見ると、龍介達3人がホテルのロビーに入って来た。

科学者は、高杉の仕掛けで、ロビーに降りて来る事になっている。

高杉がフロントへ行き、科学者を呼び出して貰う。

そしてトンズラ。

降りてきた科学者が探しても居ないが、龍介が居る。

龍介達の方は、現地近くのバンの中で、アランと高杉が、寅彦が送っている監視カメラ映像と無線の音声を傍受しながら、サポートに入っている。


アランの無線が龍彦の耳に入る。


「元組長。科学者がジュニアに興味津々だ。」


「了解…って元組長ってなんだ…。」


「元真行寺組って聞いたぜ。」


ー京極んトコはやっぱし面白いのが多いな…。フランス人のくせに…。


龍彦はシナリオ通りに入った。


「お父さん、ちょっと飲んで来るからさ。その辺で遊んでろよ。」


「お父さん、そんな事言ったって、アヤコが…。」


瑠璃はアヤコという事になっている。

3人は観光旅行に来ているという設定で、父親はアル中。


「いつもの頭痛だろ。飛行機の気圧でやられたんだよ。じゃ、ちょっと…。」


そして龍彦がバーへ行ってしまうと、瑠璃がソファーに倒れ込む。


「大丈夫か?」


「お兄ちゃん…、頭痛いよお…。」


なかなかの演技である。

そして予想通り、食い付く科学者。


「どうかしたの?」


シナリオ通り龍介は、瑠璃の背中を心配そうにさすりながら、不安そうに科学者に訴える。


「妹が頭痛を起こしてしまって…。部屋で休ませたいんですが、ホテル、ここじゃ無いんです。でも、父が飲みに行ってしまって、フランス語なんか出来ないし、どうしたらいいのか分からなくて…。」


亀一と寅彦が苦笑した。

龍介は仲間内でも、フランス語は上級者である。

さっきのフロントとのやりとりを聞いていても、この科学者より遥かに上手い。


科学者は一応と言った感じで聞いた。


「バーへ行って、お父さんに言ってあげようか?」


「いえ…。お酒が入ると、人が変わってしまうので、邪魔なんかしたら、何をされるか分かりません…。待ちます…。」


「でもここじゃ…。良かったら、おじさんの部屋に来るかい?妹さん休ませてあげたら?頭痛薬も持ってるし。あ、僕は日本のH大で准教授をしてる橋田敏夫って言います。怪しい者じゃないから。ほら。」


と、大学の身分証の様な物を見せる。


「本当に宜しいんですか…。」


「勿論。日本人同士じゃないか。」


龍介も偽名を名乗り、作戦通り、科学者の部屋へ。

パソコンは、御誂え向きにベットのある部屋にあり、瑠璃はそこに寝かされ、科学者は龍介を隣のソファーのある小さな部屋に誘った。

瑠璃は頭痛薬を飲んだ振りをし、龍介と科学者が隣室に入ると、早速作業を開始した。

ここからは無線の音声のみだ。

科学者は幾つだとか、どこの学校に通っているのかなど、質問攻めだったが、龍介は頭に叩き込んだプロフィールを本当の事の様に話している。


「役者だな、龍。学祭の時は俳優やらせるか。」


亀一の呟きに笑う。

龍介の方は、順調に会話も進み、瑠璃の作業も問題無く進んでいる様なので、京極の方に目を移す。


しずかはバーで1人で飲み、京極は商談に夢中…な振りをして、妻をほったらかしの夫を演じている。

そして思惑通り、しずかの所にあのフランス人がやってきた。

下心アリアリな感じで、秘蔵コレクションを見せてあげるから、来ないかと誘っている。

作戦通りなので、しずかはついて行った。


「大丈夫かな〜!」


心配する亀一に吹き出す2人。


「しずかちゃんにしてみたらこんなの朝飯前の仕事だと思うぜえ?」


「でも相手はあんなスケベオヤジだぞ!」


苦笑するしか無い2人。

しずかは、例の盗まれた浮世絵を見せて貰った様だ。

それの名前を言って、感激している振りをしている。

寅彦はしずかに着けた発信器が差し示す部屋を京極達に無線で知らせる。

そして、スケベオヤジの部屋に連れ込まれるしずか。

盗むのは、パーティーが宴たけなわになっている最中と決めてあるので、御手洗と丸山達は未だ動かない。

しかし、しずかは早くも貞操の危機の様だ。

なんだかんだと上手い事を言われながら迫られている。

すかさず京極が動く。

フランス人の部屋に走り、扉を叩く。

不機嫌そうに出て来るフランス人。


「何かね…。」


「あの…。妻の姿が見えないんですが、ご存知ありませんか?クロードさんとご一緒のところ見たという人が居たんですが…。」


クロードと呼ばれたフランス人は、渋々しずかを出した。

旦那が迎えに来たというのに、凄いふてぶてしさである。


「退屈そうになさっていたのでね…。もう少しきちんと構ってあげては?こんな魅力的なご婦人なのだから…。」


「ええ。気をつけます。」


京極がしずかをエスコートして、その場を去り、ここはひと段落ついた。


すると今度は瑠璃から無線が入る。


「データが凄まじい量です。抜き取りにあと15分はかかります。」


間髪を容れず龍彦が指示を出す。


「龍介、あと10分もしたら、科学者は中国人に会いにそこ出ちまう。出ると言い出したら、5分引き延ばせ。」


龍介が必死に引き延ばし作戦を考えている内に、10分は瞬く間に過ぎ、科学者は時計を見て、立ち上がってしまった。


「ごめんね。僕、ちょっと人と会う約束があるから、少し出て来るね。ここに居ていいから、少し待って居てくれる?」


龍介は困り果てて、科学者を見上げた。


ーどうしよおお〜!国家の危機だぜ〜!しかも今ばれたら、唐沢が危ねえしいい〜!でも、オカマは気持ち悪いよおお〜!。


という人生初のにっちもさっちも行かない状況に、思わず酷く不安そうな、今にも泣き出しそうなうるうる目になってしまった。

かなり可愛い顔だという自覚は本人には無い。

すると科学者が生唾を飲み込んだ。


ーなんで!?。なんで生唾ゴックン!?俺は獲物か!?


まあそんなところだろう。

更に怯えた、不安そうな目になりながら、自覚も無いまま、科学者のジャケットの裾を掴んで言った。


「行かないで下さい…。ふ、不安なんです…。」


ーあんたが恐ろしいんだけどな!


科学者は嬉しそうに笑うとまたソファーに座った。


「じゃあ、もう少しだけね。」


そう言って、龍介の肩を抱く。

思わず睨みつけそうになったが、


ー国家の危機!国家の危機!それには先ずオカマと仲良く!


と心の中で呪文の様に唱えながら、必死に耐える。

そしてまたそれが功を奏し、震えてしまったから、科学者は頬ずりしそうな勢いで、龍介を抱き締めた。


「お父さんが怖いんだね?暴力振るわれたりするの?」


一応そういう事になっているので、頷く。

本当はかすり傷でも心配する人だが。


「そっか…。それは可哀想にね…。東京帰ったら、僕が君達を引き取ってもいいよ?」


ー勘弁しろお〜!このオカマオヤジ〜!!!


しかし頑張って、鳥肌を立てながら、尚も震えて答える。


「本当ですか…。」


「ああ、勿論。その代わりさ…。」


龍介をネットリと見つめる。


ーも、もしかしてこれが貞操の危機なんじゃ!?お父さあああん!!!


と思った瞬間、ドアが壊れるんじゃないかという勢いで、立て続けの乱暴なノックの音がした。


科学者が慌てて出ると、龍彦が酔ったフリでがなり散らす。


「てめえ!俺の子供達、誘拐すんのかこらあ!」


「ゆ、誘拐とは失敬な!私はただ、アヤコちゃんが頭が痛くて、カズオ君が困ってる様子だったので…。」


「うるせえ!この変態野郎!上手い事言って、うちのアヤコに変な真似しようとしてたんだろうがあ!」


クダを巻き、絡んで時間稼ぎをしてくれている様だ。

そうこうしている内に瑠璃の無線が入った。


「すみません。終わりました。」


龍彦は科学者を一睨みし、龍介を呼ぶ。


「カズオ!アヤコ連れて来い!」


「君、乱暴は…。」


「うるせえ!人んちの事に口出すんじゃねえよ!」


龍介が瑠璃を連れてくると、2人を抱える様にして撤収。


「ありがとう、2人共よく頑張ってくれた。あとはバンで見てて。」


小声でそう言い、龍介達をバンに送り届けると、あっという間に変装して、イギリス紳士風になると、科学者と中国人の待ち合わせ場所のホテルのラウンジに、客を装って予め決めておいた席に着く。

既にアランはボーイに化け、高杉も観光客を装って席に着いている。


科学者が先に来ていた中国人の席に座る。

中国人が札束の様な封筒を見せると、科学者が瑠璃がすり替えた偽のUSBメモリを渡す。

中国人が自分のパソコンにUSBメモリを差し、確認すると、顔色を変えた。

瑠璃がすり替えた中身は、日本の中華料理のデリバリーのメニューだったからだ。

激昂して、科学者を責める中国人に、科学者は慌てて、自身のパソコンを立ち上げて、データを探すが、もう何処にも無い。

そこで龍彦とアラン、高杉が2人を囲む。


「何をお探しかな?」


言葉を失う科学者に、龍彦が付け髭を取り、にっこり微笑みかけた。


「き、君はさっきの…!」


「ええ。ダメオヤジです。お探しのデータは全てこちらで抑えています。私は外務省特別局諜報部の者です。お話を伺わせていただきましょうか。」


そう言いながら龍彦は中国人の脇腹に銃を突きつけている。

呆然として連れて行かれる科学者を見て、舌打ちした中国人が言った。


「同業者だろ?見逃してくれないか。」


「それは出来ない相談だな。国際法はきちんと守るから、来て頂こう。」


「情報を渡す。それでどうだ。」


「情報次第ってところだな。俺は意外と短気だし、射撃の腕はなかなかなんだ。滅多な事考えないで、大人しく来て。」


鸞が言った。


「ね?トラブル無く、全てに気を配って、任務終了されたでしょ?データの取り出しに15分かかるって言われた時に、既にお部屋の前に移られてたし、龍介君や瑠璃ちゃんだけでなく、高杉さんやアランさんの無線も全て聞き逃さず聞いて、把握して指示してらしたし。全員の安全優先て感じは組長で間違い無いんじゃないのかな。」


寅彦が頷く。


「確かに龍みてえ。全部見てて把握してる。なんか安心感があるな。」


「でしょう?」


不機嫌そうに黙り込む亀一に気が付き、2人はまた苦笑してしまった。


中国人と科学者はバンでは無く、別の車に拘束された上で乗せられ、アランと龍彦に連れて行かれ、龍介と瑠璃は高杉の運転するバンで先に戻って来た。

龍介はぐったりと疲れた様子でソファーに倒れ込み、寝てしまった。

青ざめた顔色を見て、寅彦がポツリと呟く。


「よっぽどオカマが怖かったんだなあ…。」


すると、寝ていたのかと思った龍介は、カッと目を見開き、寅彦を睨み付けて怒鳴った。


「この世にあんな恐ろしいもんは無えよ!お前いっぺんでいいから、くっつかれてみ!?ああ〜!もう嫌!二度と嫌!」


後はしずかと京極の方だけだが、こちらは何か起こりそうな感じがしないでもないような…。









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