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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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龍介くん知恵熱を出す

京極が迎えに来て、鸞は先に行き、暫くしてから龍介と亀一、瑠璃も龍彦としずかに付き添われて1週間のフランス旅行に旅立った。


そしてドゴール空港に着くなり、龍介は真っ青。亀一は真っ赤になって怒り狂い、瑠璃はきゃあきゃあ言いだし、寅彦は苦笑する事態に陥った。

何故か。

遂に龍介が知らなかった、龍彦の18禁男、ハレンチぶりが白日の下に晒されたからである。

外国だから、目立たないと言えばそうかもしれないが、龍彦はずっとしずかの肩を抱いたり腰に手を回しと、くっ付いている上、ちゅだの、ちゅー!だの、ちゅーちゅーちゅー!!!だの、何かにつけやっている。


「こ、これか…。お父さんがハレンチとか、18禁男っていうのは…。」


京極が用意してくれた車の運転席に乗り込むなり、またちゅ!としている龍彦に、龍介がやっとの思いで言うと、ニカっと笑って振り返った。


「びっくりしたあ?龍介。うちでやると、お義父さんが怒るからさあ。」


「だだだだだ大丈夫…。」


全然大丈夫でなさそうなのだが、必死にそう言う龍介が痛々しい。

龍介としては、ずっと離れ離れだったのだから、これ位許してやりたいという気持ちがあり、文句は言いたくない。

しかし、目の前でやられると、どうしたらいいのか分からないし、あまりに刺激が強すぎる。

処理し切れない状態に陥り、龍介はフランスに来た早々、知恵熱を出して寝込んでしまった。


瑠璃はそこで考えた。


今回のフランス旅行、実はフランスそのものに興味があった訳でも無いのにわざわざ来たのは、一重に龍介が行くからである。

龍介が寝込んで動けないのに、観光に連れて行って貰ってもつまらない。

しずかを残して、龍彦だけで子供たちを連れて歩かせるのも、こんなべったりの2人を引き裂く様で、可哀想だし。

という訳で、残って龍介の看病をするという事を思いついた。


「わっ、私残って、加納君の看病してるから、行って来て下さい。」


勇気を振り絞って言ったのに、常日頃から応援してくれていたはずの亀一が、いきなり全否定して来た。


「駄目だあ!俺が残る!」


「な…、なんで?長岡君、今まで味方してくれてたじゃない…。」


「唐沢!俺はもう龍のつがいはどうでもいいんだあ!」


「そんな勝手なあ~!」


「龍も居ねえのに、しずかちゃんと、このスケベ親父にくっ付いて観光なんか出来るかあ!」


しずかが苦笑しながら言った。


「じゃあ、きいっちゃんと瑠璃ちゃん、2人で残ってくれる?私達は寅ちゃんと鸞ちゃんと4人で観光してきます。」


そういう訳で、着いてからずっと機嫌がメガMAXに悪い亀一と2人で、龍介の側に座った。

しかし亀一はイライラしているだけで、なんの世話もしない。

小難しそうな本を1、2行読んでは止めて、不機嫌そうな顔で龍介を見ている。


ー全くもう…。おば様に私もって言って貰って良かった。長岡君、何もしないじゃない…。


瑠璃はこまめに氷枕を変えてやったり、汗をかいていないかチェックして、温度調節してやったりと甲斐甲斐しく世話をやいていた。


ーもしかしておば様は、長岡君が全く役に立たないの、予想してらしたのかしら?長い付き合いだし…。


そんな気もする。

土台亀一はあまり器用な方では無い。

1つの事で悩むと頭全体を覆ってしまい、それしか考えられなくなる。


ーまあ、仕方ないか…。おば様に本気だったんですものね…。


龍介が薄目を開けた。


「唐沢だったのか…。ありがとう…。」


「ううん。具合はどう?おば様がおじや作って置いてくださったよ?食べてみる?」


ここは京極の広~いマンションなので、勿論煮炊きも可能だ。

勿論宿代無し。


「ーうん…。」


「じゃ、ちょっと待っててね。あっためて来るから。」


いそいそとキッチンへ向かう瑠璃の後ろ姿を見た後、不機嫌全開の亀一が目に入り、ギョッとする。


「き、きいっちゃん…。どしたんだよ…。観光行かなかったのか…。」


「あんなハレンチなドスケベオヤジとパリなんか歩けるかあ!」


「ご、ごめん…。」


「なんで龍が謝るんだよ…。それが原因で熱出したくせに…。」


「いやまあ…。いいんじゃねえの…。アレは…。お父さんは正直な人だから…。」


「正直過ぎだってえの!」


瑠璃が戻って来た。


「長岡君!病人に怒鳴らないで!」


キリッとした迫力に思わず黙ってしまった亀一を見て、龍介が笑う。


「でも、おじさまは、心からおば様の事愛してらして、可愛くて堪らないって感じがとってもするよね。」


亀一は憮然としてしまったが、龍介は微笑んだ。


「そうなんだ。2人共幸せそうだから…。」


そして、急激に熱が上がって来たのか、顔色がおかしくなり、龍介は少し食べて、もう入らないと言って横になってしまった。


「お熱測りましょ?」


ピピッと鳴って、8度5分。

亀一が不機嫌そうに言う。


「思い出すだけで被害が出てんじゃねえかよ。」


「まだ高いね。寒くなあい?」


布団をかけつつ聞くと、トロンとした目で答える。


「うん…。」


ーはああ!加納君かわいい!


亀一が吹き出すので、ギロリと睨む瑠璃だったが、既にデレデレの顔になっているので、あまり迫力は無い。

程なく龍介は眠ってしまった。


ーうう~ん!寝顔も可愛いわああ~!こんな可愛い寝顔見た事無いわよお~!


見惚れていたら、また亀一に笑われた。




昼近くになって、龍彦としずかだけ帰って来た。


「龍介どう?」


心配しきりといった様子の龍彦が顔を覗かせ、瑠璃が説明すると、龍彦は龍介の額に手を当て、顔を見つめた。

しずかが苦笑している。


「まったくもう。心配し過ぎて、観光どころじゃないの。ここは鸞ちゃんの庭みたいなもんだし、やっちゃんもほったらかしておいていいって言うから、寅ちゃんと2人で置いて戻って来ちゃった。お昼ごはん買って来たから、向こうで食べましょ?」


やっちゃんとは、京極の事である。

従兄なので、しずかだけは、そう呼んでいるらしい。

呉々も、ヤクザのヤッチャンでは無い。念の為。


結局龍彦は食欲が無いと言い、龍介の側から離れないので、3人でダイニングでフランスのお惣菜という大変美味な昼食を摂っていると、マンションの鍵が開き、京極が帰って来た。


「ああ~、やべ。」


これが第一声。

しかしこの京極という男、顔は文句無しでいいが、声が悪すぎる。

ガラガラもいいところ。

しかも酒ヤケ、タバコヤケしているのか、本当に酷い声である。


「どしたの?やっちゃん。」


食卓の椅子にドサリと座りながら既に出していたゴロワースというフランスのメンソールタバコに火を点けて答える。


「情報官が高熱で寝込んじまった。あれ?本部長は?」


「龍の所よ?」


「でも補充してくれるって言ったって、半日はかかるしな…。」


「急ぎの仕事があるの?」


「ああ。」


すると亀一が言った。


「寅はどうです?」


「寅彦君?」


「真行寺さんがそのまま情報官で使えるって言ってましたけど。」


「どっちの真行寺?」


「勿論、おじいさんの方ですよ!!!」


いきなり声を荒げる亀一を見て、京極は面白そうに笑った。


「恋敵って感じだな。可愛いの。ーでもあの真行寺さんがねえ…。ふーん…。」


京極は瑠璃からの熱い視線に気が付いた。

老若男女を問わず、熱い視線は送られ慣れているが、これはちょっと種類が違う様だ。

どちらかというと、期待に満ち溢れた、やる気に満ちた視線である。


「んー。なんだろう。もしかして瑠璃ちゃんも情報官の仕事が出来るとか?」


「は、はい!多分!ハッキングとか、防護壁の構築とか、大好きです!」


瑠璃をよく知っている筈の亀一としずかは、呆然と言葉を失い、京極は笑い出した。


「ほんとに?そりゃ頼もしい。」


「やっちゃん?いくらスキルが高くても子供よ?」


「大丈夫、大丈夫。俺が付いてんだから。じゃあ、早速だが飯食ったら行こう。」


瑠璃が大急ぎで食べ、行ってしまうと、亀一としずかは顔を見合わせた。


「きいっちゃん知ってた?瑠璃ちゃんが寅ちゃん系だなんて…。」


「いや全く…。でも、寅が前に、唐沢は臭うぜって言ってたんだよ。パソコンの画面だけ見て、ダイナプロって言い当てたし、電波探すのも、やたら的確な提案してきたってさ。あの、瞬間移動で飛ばされた時に。」


「はああ…。人は見かけによらないものねえ。」


そこへ龍彦が嬉しそうにドアを勢い良く開けて入って来た。


「龍介熱下がったぜ!。これで明日、プジョーとルノーの工場、連れてってやれるな!」


「もう、だから知恵熱だから直ぐ下がるって言ったでしょう?」


「腹減ったってさ。」


そしてキョロキョロと辺りを見回し、瑠璃が居ない事に気が付いた。


「あれ?瑠璃ちゃんは?」


「やっちゃんがお仕事に連れて行ってしまったわ…。寅ちゃんもですって。」


「仕事?まだ子供だぜ?なんで?」


事情を聞き、嫌そうな顔で電話片手に出かけようとしている。


「んないくら困ってるからって…。局長にバレたらえらい事だぜ…。」


「お出かけ?」


「仕方ないから監視に行って来る。」




龍彦が京極チームの拠点になっているアパートに到着すると、寅彦は鸞に連れられて来た様で、もう到着しており、瑠璃と一緒に嬉々として仕事にかかっていた。


「京極~、こんなの局長にバレたら、お前だろうが刀抜くぞ、あの人~。」


振り返った京極は聞いちゃいない様な満面の笑みで言った。


「いい所に来てくれたぜ!真行寺!」


「なんだ…。手伝わせようってのか…。」


「龍介君は?」


「熱は下がったけど…。お前、まさか龍介まで?」


「ああ。しずかちゃんも呼んでくれ。」


「京極~。」


「いいや。寅、2人呼んで。」


「はい。」


「はいじゃねえよ、寅彦君~。」


嫌そうな顔全開の龍彦に京極は早口で説明の様な物を始めた。


「2件同じ時間に片付けなきゃなんなくなったんだ。派手に行くぜ。」


「お前はいつだって派手だろうが…。」


妙に張り切る京極に、項垂れる龍彦。

何か起こりそうである。



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