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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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未知との遭遇再び

瑠璃と鸞はとても気が合った様で、直ぐに仲良くなった。

龍介も寅彦に謝り、どうにか許して貰えた。

瑠璃に色々聞いてもらえるというのが、結構効いたらしい。


「全く、バカだなあ。」


ポチの散歩のついでに、亀一に仲直りしたと報告に行くと、呆れた笑顔でそう言われた。


「だってきいっちゃんは母さんに好き好き言ってたから…。好きになったら、好き好き言うもんなのかと…。」


「初対面で親の前では言わねえよ、普通。」


「だってきいっちゃん、爺ちゃんの前で言ってたじゃん。幼稚園の時、18になったら、結婚しろって…。」


「それはガキの特権。」


「もうガキじゃねえの?」


「幼稚園児と中学生じゃ違うだろっつーの!」


「ああ、はい…。」


まだまだ疑問はあったが、亀一の機嫌が悪くなってきたので、龍介は大人しく引き下がる事にした。

優子に撫でられてご機嫌のポチを見て、長岡家のリビングを見回す。


「拓也は?」


「友達と花見がてらのサイクリングだってさ。」


「本当に元気になったんだな。良かったなあ。」


「うん…。お陰様で。」


亀一は嬉しそうに笑った後、小声で話し始めた。


「クリスマスの時にも丹沢にUFO落ちたろ?アレに乗ってたの、たまたま医者の宇宙人だったんだよ。だから、拓也も完全に治して貰えたんだ。」


「うわ、凄え。じゃあ、もう安心だ。」


「うん…。」


しかし、何か変な笑い方をしている。


「どした…?」


「2人共、日本が気に入っちまったみたいでさ…。ここに永住するって言うからって親父が…。」


後ろで優子が泣き出した。


「ど、どうしたの?優子さんまで…。」


龍介はほっておけず、優子の背中をさすりに行き、優子は涙目で龍介の手を握って叫ぶ様に言った。


「うちに下宿する事にしちゃったのよお!和臣さんがあ!」


「ええ!?ここに!?」


「そうなの!しかも、2人目のお名前、スポックさんだってえ!知ってる人が聞いたら、宇宙人て直ぐばれちゃうじゃないのお!」


大昔の映画で、スポック博士という宇宙人が居た。


「まさか命名者は…。」


「真行寺さんよおお~!」


「や、やっぱし!?」


「宇宙人てばれないようにさせなきゃだし、2人も下宿人だなんてどうしたらいいの、私~!昼間は和臣さんと研究所行くからいいけど、休みの日とか、家族旅行とかどうしたらいいのよお~!」


確かに、龍介達が会ったジョーンズはいい人柄ではあったが、地球の生活に関しては丸で知らない。

知識的には幼児に近い。

とてもじゃないが、2人だけで置いて行くという訳には行かないだろう。


「じゃ、じゃあ、優子さん達が家族で出かけたりする時はうちで預かるから…。」


「しずかちゃんもそう言ってくれたけど、それが駄目なのよおおー!」


「な、なんで?」


「スポックさんが龍太郎君と犬猿の仲になっちゃったのよお!」


「なんでまた!?父さん何をやっちまったんだよ!」


「よく分からないんだけど、スポックさんは、それ以来、龍太郎君見ると、シャアアー!って威嚇して、手が付けられなくなるんですって…。」


「あの温厚な人達が威嚇…。」


「うん…。」


「ごめんね、優子さん…。なんか他に方法は無いか探してみるから…。」


「有難う、龍君。」


優子は龍介をうっとりと見つめ、亀一に吹き出されている。

優子はジロリと亀一を睨んだ。


「亀一、あなたみたいにドサクサに紛れて、しずかちゃんの胸にスリスリなんかしてないでしょっ。」


「お袋には無い、あのふんわり感を堪能してるだけだ。」


「悪かったわねえ!胸無くて!」


龍介はマジマジと優子の胸元を見て、ボソッと呟いた。


「本当だ…。ぺったんこなんだな、優子さん…。」


「ひっ、酷いわ!龍君!」


「ご、ごめん…。」


「これでも2人分の母乳は出たんだからね!?」


「へえ…。」


不思議そうにマジマジ見るので、優子は涙目で胸を隠した。


「いいもん…。どうせ無いもの…。しずかちゃんみたいに理想のCカップなんて夢のまた夢…。」


「え、じゃあ、優子さん、Aマイナスとかなの?」


今度は真っ青になる優子。

亀一は腹を抱えて転げ回って笑っている。


「龍君!?大学のレポートじゃないんだから、そんなのは無いのよ!?」


「ご、ごめん…。でもほら、あったらあったで邪魔そうじゃん。」


更に打ちひしがれる優子。

龍介はフォローする先から、落ち込ませている。


「きいっちゃん…。助けて…。」


とうとう亀一に助けを求める始末。


「まあいいじゃん、お袋。親父はぺったんこだろうが、えぐれていようが、お袋と結婚したんだから。龍、本屋付き合って。」


「ん…。優子さんごめんね…。でも美人だから…。大丈夫だよ?ね?」


「うん…。」


何が大丈夫なんだか自分で言っていて分からないが、優子がなんとか頷いてくれたので、亀一と長岡家から出た。


「きいっちゃん、俺達も花見行こうか。」


本屋に行く道すがら龍介が言うと、亀一も乗った。


「そうだな。朱雀とも佐々木ともあんま会えなくなるしな。」


「うん。今回は会費徴収して、母さんと優子さんに花見弁当作って貰おうか。」


「おう、いいね。でも、加奈ちゃんのガレットも欲しいな。」


「じゃあ、それも頼もう。優子さんにローストビーフ入れてって頼んどいてね?」


「お前から頼んだ方が、ノリノリで作るぜ?」


「じゃあそうしよう。」


「しずかちゃんにはハンバーグ頼も。しずかちゃんのハンバーグは冷めても絶品だからな。」


「なんかアレは秘訣があるらしいぜ。」


「へえー。」


そういう訳で、3人の母に頼み、会費500円でお弁当を作って貰い、自転車で丹沢まで足を延ばし、花見をする事になった。


しかし、珍しく龍介と亀一の自転車を漕ぐ足取りは重い。

何故かといえば、2人は、いつもの何があっても大丈夫な装備の他に、5人分の食べ盛りの男の子の弁当を背負っているからだ。

しかもしずかと優子は悪乗りし、お花見弁当だからと、立派な重たい漆塗りの三段重に詰め込んだものだから、その重さったら無い。


「加納、早く。プジョーが泣いてるぞ。」


悟に言われ、猛烈に頭に来るが、もう弁当など捨てたい位重い。


「ちっきしょお~!お前これ背負ってみろお!」


「嫌だ。」


舌をペロンと出して、先に行ってしまった。


「あの野郎…。」


腹は立つが追いかけられない悲しさ。


必死に漕ぎ続け、漸く人気の無い、大きな桜が一本咲いている場所を見つけて、レジャーシートを広げると、亀一と龍介は荷物を降ろして、大の字に倒れ込み、動かなくなってしまった。


試しに朱雀が2人のリュックを持ち上げようとしたが、持ち上がりすらしない。

悟も無理。

寅彦がどうにか持ち上げられる程度で、背負うのは無理だった。


「凄いね、こんなの背負って来たんだ。ありがとねえ。」


2人、朱雀の労いに返事も出来ない。


「きいっちゃんと龍の鍛えられ方、半端じゃねえからなあ。まあ、負けず嫌いもあんだろうけど。」


「なんでそんなに鍛えられてんの?」


悟の自然に発した疑問に、正直に答える訳にも行かないので、寅彦は苦手な適当な返事をした。


「親父さん2人とも自衛隊だからじゃねえの?きいっちゃんちは日本軍の時から軍人の家系だし、龍んとこもそうだよな?」


龍介がやっと声を発した。


「ん…。」


「ふーん…。」


2人を休ませている間に3人でお弁当を広げ、準備をする。


「うわあ!凄いね!流石!」


「あ、そうだ。加奈ちゃんのガレット。サービスでイチゴタルトも付けてくれたぜ?」


龍介と亀一がガバッと起き上がった。


「先に糖分摂る!」


2人で異口同音に言うので、寅彦は笑いながらガレットを1つづつ渡した。


「んじゃ、タルトはデザートだから、みんなで後でにしよ。お疲れだろうから、ガレットは塩多めにしといたってさ。」


食べて目を閉じ、叫ぶ2人。


「美味いー!塩分と糖分が絶妙だあ!」


2人が漸く話せるレベルまで回復した所で、やっとお花見しながら、お弁当を食べ始めた。


「いいなあ、俺たちだけだもんな、ここ居るの。」


龍介が呟くと、朱雀が笑顔で言った。


「また来年も来ようね!」


そうだなと頷き、お弁当を全部平らげ、イチゴタルトを堪能し始めた時、龍介達は何かの気配に気が付いた。

こちらを窺い、そして…。


「来るぞ。」


龍介が言い、亀一と寅彦も龍介同様リュックから銃を出して構えた。


ーだからこの人達はあああー!


頼もしいが物騒この上無い。

悟は朱雀と抱き合いながら、ひたすら首を左右に振っていた。

とその時、龍介が素っ頓狂な声を上げた。


「熊さん?あの時の?」


熊5頭がうんうんと頷く。


「きいっちゃん、寅、青木ヶ原樹海で会った熊さんだよ。どしたんだ、こんな所で。」


熊達はなんだか焦った様子で、龍介の手を引っ張った。


「どうしたんだ。」


熊は頭を抑え、倒れるマネをして、うーんうーんと唸った。


「誰か病気なのか…?」


龍介が聞くと、またうんうんと頷いた。

そして、龍介を抱っこし、亀一達に手招きしながら行ってしまった。


「どっ、どおゆー事!?」


朱雀が言うと、亀一は銃をホルターにしまいながら、かなり仕方がなさそうに言った。


「誰か病気だから、顔見知りの龍に助けを求めたんだろう…。つーかもう…。なんで青木ヶ原樹海に居た変な生物が丹沢まで来てやがんだよ、もう…。」


「ーきいっちゃん、どうする。まだ手招きしてるぜ?」


「龍だけ行かせてなんかあったら、しずかちゃんに面目が立たん。仕方ねえ。行くぞ。」


という訳で、4人も後から付いて行くと、洞窟の様な所に人が寝かされていた。

熊に降ろされた龍介が声をかける。


「どうしました…。どっか苦しいですか…。」


中年男性は朦朧とした目で龍介を見た。


「ー君は…。」


「以前青木ヶ原樹海で迷子になった時、この熊さん達に助けて貰った者です。」


「ーああ…。この熊達が作文に書いていた子だね…。話を分かってくれる子だって…。」


「熊さん作文が書けるんですか!?」


「まだ平仮名で文章も拙いけど、言いたい事は書けるようになったんだ…。」


話の途中で男性は酷い咳をし始めた。

熊が心配そうに背中をさする。


「ありがとう…。」


熊に言って話を続ける。


「この子達は、みんな親が死んでしまった子達なんだ。食べ物が少なくなって、里に下りて殺されたとかね…。僕が代わりに育てている内に言葉が通じたらいいなあなんて思って、ある事をしたら、こんな事になってしまって…。人に知られたら、見世物になるだけだし、僕も糾弾されて、この子達とは離されてしまう。だから、人が入って来ないであろう青木ヶ原樹海に住んでいたんだけど、冬の間は寒さが厳しすぎてね…。この子達は冬眠しないから…。それで冬の間だけ丹沢に移ってるんだけど、僕が風邪をこじらせてしまって、動けなくなってしまって…。」


そしてまた咳き込む。


「ちょっと失礼します。」


龍介は男性の額に手を当てた。


「酷い熱だ…。ここにいちゃいけません。早く病院に行かないと。」


「でもこの子達が…。」


龍介は考えた。

竜朗や真行寺なら、熊達が見世物になるような事はしないでくれる。

だが、引っ掛かるのは、男性が自分が糾弾されると言った事だ。

悪い事をしてしまったのなら、竜朗や真行寺だって、黙って見過ごす訳には行かないだろう。


「ーさっき糾弾されると仰いましたが、あなたは熊さん達に悪い事をしたんですか。こうして見ていると、熊さん達は、あなたを心から心配してるし、温厚で、とてもいい熊さん達です。あなたが熊さん達にとって悪い事をしたとは、俺には思えない。だから、どういう理由で糾弾されるとおっしゃるのか、それに寄って、助け方も変わってきますから、正直に仰って下さい。」


「ー僕は遺伝子学者なんだ。この子達に遺伝子が操作され、言語野と愛情とか人と仲良くする慈しむ感情が急速に発達する遺伝子を組み込んだ。成功して、こうなったんだけど、やっちゃいけない事だろう…。」


「倫理的な問題でという事ですね?」


「うん…。」


「でも、熊さん達はどうなんだろ。」


龍介は熊達を見つめて聞いた。


「熊さん達は幸せ?」


頷く熊達。


「人間の言葉が分かる様になって良かった?」


やはり頷く。


「この人が好き?」


熊達は激しく頷いた。

龍介はその様子を見て、爺様達に言って助けを求めるのを止める事にした。

男性がした事は確かに倫理的に問題があるんだろう。

爺様達に助けを求めたら、爺様達は、知った以上は、この人を罰するか、或いは、隔離して、軍用に役立つ研究をさせつつ、監視下に置くしかないかもしれない。

でも、熊達は幸せで、尚且つ、父親代わりに育ててくれているこの男性が大好きな様だ。

龍介は決断した。


「あなたがした事が倫理的に間違っているとか、そういう事は難しくて俺には分からない。でも、熊さん達は幸せだし、あなたが大好きな様です。だから、大人には知らせずに助けます。」


龍介は亀一達を振り返って自分の考えを話したあと、提案した。


「でも、この人具合はかなり悪そうだ。という訳で、医学に詳しい寅之になんとかしてもらえないだろうか、寅。」


「ユキね…。分解は好きなんだろうが、治療はどうなんだろう…。」


朱雀が目を伏せて突っ込みを入れた。


「寅…。分解じゃなくて、解剖ね…。」


「ああ。そうだな。」


「じゃ、僕、寅之君連れて来るよ。」


悟がそう言い、寅彦も頷いた。


「じゃ、俺も行って来る。佐々木の事覚えてねえし。」


「まだ覚えてもらえないの!?僕!。何回もお宅にお邪魔してるのに!?」


「そういう男だ。気にすんな。」


亀一はずっと眉間に皺を寄せて腕組みして黙っていたが、遺伝子操作が原因と聞いて、突然変異では無いと知り、やっとほっとしたのか、話に参加し始めた。


「速攻で効く薬なら、スポックさんの薬だ。お袋が風邪ひいて寝込んだ時に一発で治った薬がまだあった筈だ。あの運動音痴で体力無しの寅之をここまで連れて来るなんて、まさしく日が暮れちまうぜ?」


確かにここは、バスも通って居ないし、自転車で来るしか無い。


「それは俺も頭に浮かんだんだが、優子さんやおじさんは大丈夫か?」


「大丈夫だ。なんとかする。」


という訳で、念の為悟が付いて行き、男性の看病を残った3人で始めた。


「食事なんかはどうされているんですか。」


龍介が聞くと、男性は洞窟の奥に設えてあるキッチンの様な所を指差しながら説明した。


「食料はかなりの量持って来ているし、買い物にも行ってたから、まだあるんだ。この子達にも調理は教えているから、大丈夫だよ。」


「あなたもちゃんと召し上がっていますか。」


「僕は食欲が無くて…。」


朱雀が立ち上がった。


「じゃあ僕、熊さん達にお粥の作り方教えるよ。」


朱雀が楽しそうに熊達にお粥作りを教え始めると、男性はそれを幸せそうな笑顔で見守っていた。

優しい父親の顔だった。


ーこの人は熊さん達のお父さんなんだな…。


男性の頭を冷やすための雪を探しに行っていた寅彦が戻って来た。


「こんなもんでいいか?龍。」


「うん。有難う。」


雪を持っていたビニール袋に入れ、男性の額に当ててやると、男性は楽そうな表情になった。


「有難う…。君達のご両親は幸せだろうな…。」


先ほど見せた父親の顔といい、この男性が興味本意や研究目的だけで熊達に遺伝子操作をしたとは考えられない龍介は、なるべく言葉を選びながら質問した。


「何故、こういう事になったんですか…。」


男性は寂しそうに微笑むと、話し始めた。


「僕の妻や子供が、土砂崩れに巻き込まれてね…。

3人共亡くなってしまった。

家も無くなり、遺体すら見つからない。

僕は大学で遺伝子学を教えていたんだけど、何もかも嫌になってしまってそこも辞めてしまい、青森の山奥に引き篭もってしまった。

幸い、僕が書いたSF小説が若い子に受けて、作家としての収入はあったから、それでその頃も今も生活出来てるし、メールで原稿を送ればいいだけだから、人とも接触しないで済むしね。

ずっと1人で居た頃、イチローとジローに会ったんだ。

親を亡くして、飢えて、とても凶暴になっていて、僕も何度か殺されそうになったけど、でも、僕にはイチローとジローが死んだ僕の子供達の代わりに来てくれた様な気がしてならなかった。

だから、誠心誠意、僕は危害を与えないって分かってもらえる様、頑張った。

次第に心が通じ合う様になって、僕を信頼して、僕の後を付いて回るようになったんだ。

ああ、これで会話が出来たりしたら、どんなに楽しいだろうと思って、イチローとジローに僕と話してみたくないか聞いてみた。

うんて言った様な気がしたんだ。

それで、色々試してみた所、人語を介せる様になった。

それからイチローやジローが親を亡くした子熊を見つけて保護して、僕が遺伝子操作をしたという訳なんだ…。」


「大発明ですよね…。賛否両論はあるんでしょうが…。」


「そうだね。でも、僕は僕とこの子達の為に使えればいいんだ。科学者としてどうこうなんてのは、どうでもいい。それにやっぱり、本当にイチロー達が望んでいたのか、未だに分からない。常に、本当に良かったのかと、自問自答してる。」


「そうですか…。」


龍介にも、寅彦にも、それが本当に良かったのかなんて分からない。

でも、熊達は知識を得て、人間の様な生活をし、この男性の子供で、幸せそうに見える。

やはりそっとしておくのが一番いい、そう思った。


お粥を煮込み始めて手が空いた朱雀が来た。


「あの、SFって、何書かれてるんですか。」


「色々なんだ。ペンネームは悠木ゆずるって言うんだけど…。」


龍介と寅彦はSFは読まないので、さっぱり分からなかったが、朱雀は目を輝かせた。


「アニメ化されてるのばっかりじゃないですか!僕が地球を守る事になっちゃったのはどうしてだろうと考えていたら宇宙人に会えた件とかあ!」


龍介と寅彦は首を捻りまくっている。


「朱雀…、それどっからどこまでがタイトルなんだ…。」


「やだな、龍!全部だよ!」


長い。

言わなかったが、2人は言葉を失ってしまった。

サスペンスドラマのサブタイトルじゃあるまいし。


「長いよね?なんかこういうのの方が最近は受けるらしいんだ。僕、優柔不断だから、短く纏めるとか出来なくて。」


「は、はあ…。そうですか…。」




龍介と寅彦が言葉を失い、朱雀が作品に関して熱苦しく語っている頃、亀一と悟は、悟の家族が酷い風邪をひいたからと嘘をついて、スポックの薬を貰い、猛スピードで丹沢に戻っていた。


「あ、あのさ…。ところで、スポックさんて誰…?」


何故か自転車に乗る悟の顔色は悪い。


「親父の知り合いの、薬の研究してる学者。まあ、はっきり言って未承認薬だけど、危険は無え。だから、誰にも言うなよ?」


「わ、わかった、言わない…。あ、あのさ…。」


「なんだ。あんま無駄口叩いてると、ハンドル操作誤るぞ。」


それにしても、この自転車は上り坂だというのに、凄まじいスピードで走っている。

実は、亀一が出る前に細工を施し、漕がなくてもこのスピードが出る様にしてしまったのだ。

時速80キロは出ているという状態での山登りなもんだから、快適というよりも、恐ろしい。

亀一の言う通り、ハンドル操作を誤ったら、崖から真っ逆様に落ちてしまう。

そういう訳で悟の顔色は悪いのである。


「これ怖いよお!帰りは外してよね!?」


「ええー?」


「ええー?じゃないでしょうよ!下りになったら、どんなスピードになると思ってんの?!」


「すげえ面白そうじゃん。」


「面白くないっつーのおお!!!」




お粥が出来上がり、男性が食べ始めた頃、亀一達がえらい早さで帰って来た。


「きいっちゃん…。随分早えな…。凄え勢いで漕いできたのか…?」


龍介はそう言ったが、それにしては亀一には疲れた様子は全く無い。

しかし悟は憔悴仕切っている。


「長岡がとんでもない仕掛け付けてくれちゃったお陰で、時速80キロで来たんだよ!もう怖かったあああー!」


しゃがみ込んで顔を覆う悟。

いくらなんでもそれは怖かったろうと、龍介でも悟に同情してしまった。

亀一は何食わぬ顔で、男性に薬を渡している。


「食い終わったら飲んで下さいね。」


「有難う…。本当に申し訳ないね。」


そして男性はお粥を食べ、薬を飲んだ途端、気味が悪い程に、急激に元気になった。


「きいっちゃん、これ、本当に大丈夫なんだろうな…。こんな急激に熱下げちまって…。」


心配する龍介にカラッと笑って答える亀一。


「大丈夫だろ。お袋、何も変化ねえもん。」


「うわあ、凄いな、これは…。もうすっかり元通りだ。じゃあ、直ぐ準備してここを出よう。君達も送っていくから車に乗って。」


男性はシャッキリ立ち上がり、熊達に指示しながら動き始めている。


「大丈夫ですか。一晩休んで様子見た方が…。」


尚も心配する龍介に笑顔で首を横に振る。


「いや、なんか力がみなぎって来る様なんだ。んんー!凄い!」


「心配だ…。ヤバいもんでも入ってんじゃなかろうか…。」


「龍は本当に心配症だな。大丈夫だって。まあ、お袋も薬飲んだ後、3日位元気有り余り過ぎて、家事だけで飽き足らず、ランニングまでしてたけどな。」


「おい!本当に大丈夫って言えるのか!それ!」


「4日目から普通になったし、別に疲れが出てる様子も無えから大丈夫だろ。」


「ええー?」


龍介が心配している間に、男性達の旅支度は済み、5人は大きなバンに案内された。


「この子達と後ろ乗ってね。自転車も入るから。」


そして熊達と会話?を楽しみながら、小田急相模原駅の手前まで送って貰った。

男性は別れ際に紙に書いたメールアドレスを龍介に渡した。


「もし僕で役に立てる事があったら連絡してね。このご恩は必ず返します。」


龍介は礼を言い、大事にポケットにしまった。






















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