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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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真行寺の思い出話

真行寺が見せてくれた龍彦の子供の頃の写真は、今の龍介そっくりだった。


「うわあ、ほんとに似てるんですね。」


「そうなんだ。竜朗がしょっ中写真をくれたのを見ても、似てるなあとは思ったけど、実物はほんとにそっくりで、驚いてしまったよ。」


「ーどうして会いに来てくださらなかったんですか。」


「ーだって、私は竜朗よりは君に似てる。君は頭もいいし、勘もいいって聞いてたから、波風の元になってはいけないだろう?竜朗もしずかちゃんも会わせたいって言ってくれてたんだけど、君が大人になって真実を知るまではいいって言ったんだ。でも、生まれたばかりの赤ちゃんの時には会わせてもらって、抱っこさせて貰ったんだよ。とっても小さくて可愛かった。」


「この通り平気なのに…。お一人でお寂しかったでしょう…。」


真行寺は何も答えず、龍介の頭を撫でた。


「龍彦はね、いたずらっ子な自由人でね。いつも学校から呼び出しがかかったんだ。」


「へえ。どんな事で?」


「いじめっ子を落とし穴に落としたとか、嫌味な先生が気に入らないからと、黒板消しにチョークの粉だけでなく、胡椒までたっぷり付けて置いて、ドアに挟んでおいたとか。それでも嫌な奴っぷりが直らないからと、やはり落とし穴に落としたりとか。まあ、兎に角落とし穴が大好きで、気に入らない奴はみんな落としてたな。」


龍介は沈痛な面持ちで黙ってしまった。


「どうした?」


「いえ、あの…。」


「そうだ。君も落とし穴が好きだったね。血かなあ?はははは。」


「はい…。血かもしれません…。」


「でもさ。昔は今よりもっと個性って許されなかったんだ。学校の先生自体が個性的な子供は潰しにかかった。特に龍彦は担任の先生は勿論、学校の先生についてなかったんだな。このまま日本に居たら、個性が潰されてしまうんじゃないかと心配になってね。中高はイギリスに行かせたんだ。」


「イギリスに。」


「うん。龍彦の母親の弟ーつまり龍彦の叔父がイギリスで龍彦がしていたような仕事をしていてね。預かりたいと言ってくれたので、行かせた。でも忙しい仕事だから、英語も出来ていたし、寄宿学校に入れてみたんだ。」


「あの、凄い格好いい制服の、お金持ちしか行かない様な?」


「そうそう。まさしくそれ。名門。佳吾って、その龍彦の叔父ね。彼の知り合いがその学校に何人か居たし、試験もパスしたから。まあ大分揉まれたようだが、1日で解決して、子分みたいなのまで作って、楽しくやってたようだ。ほら、これがその頃の写真。」


龍彦は映画などで見る、ワッペン付きの紺のブレザーにグレーのズボン、センスのいいレジメンタルのネクタイをして、イギリス人の友達と楽しそうに写っている。


「おお…。格好いい…。」


「君も似合いそうだ。」


「ーという事は俺も大人になったら、あんな格好良くなれるんでしょうか。」


「今だって十分格好いいじゃないか。龍彦より格好良くなるんじゃないか?それに君の骨格はしずかちゃんだね。筋肉質だけど、骨が細くて華奢な感じだ。モデルさんの様になりそうだ。」


「ええ…。モデルですか…?」


ちょっと嫌だ。

龍介の理想としては、真行寺や龍彦の様にがっしりした感じになりたかった。


「ははは。だって骨はどうにもならないもの。背丈までしずかちゃんに似なくて良かったじゃないか。それにしずかちゃんは筋肉つかない体質みたいだし。君は両親のイイトコ取りしてるよ。」


「そうですね…。」


「それで、夏休みや長い休みの時はこっちに帰って来ていたんだが、その時、竜朗の家でしずかちゃんに会って、恋に落ちたんだ。」


「恋?」


「恋。」


「恋…。はあ…。」


真行寺は竜朗から聞いた、お付き合いイコール変態という勘違いをしたという話を思い出して、笑いだしそうになりながら、まるでピンと来ていない龍介の顔を見ていた。


「ま、まあ、まだ早いのかな。龍彦も、女の子にもててはいたけど、好きになった人が出来たのは、中3でしずかちゃんに会った時が初めてだったから。」


「あの母さんを…。へえ…。」


「しずかちゃんは可愛かったんだよ?今でも可愛いが、若い時は光り輝いていたんだから。で、文通が始まり、親同席で会う様になりって感じかな。」


「へえ…。それでいつ結婚したんですか。」


「龍彦は2つ上だろ?だからね…。」


「え!?2つ上!?じゃあ、40なんですか!?」


「そうだよ?」


「見えない…。少なくとも父さんより上には見えない…。」


「別に加納一佐は老けて無いけどねえ。」


「若く見えるのも遺伝なんですかね。」


と、真行寺を見る。


「そうなのかなあ。」


「あ、すみません。続きを。」


「ああ。だから18になって東大合格して、日本に戻ってきた時、しずかちゃんは16だったから、竜朗にいきなり結婚させて下さいって言いに行っちゃってねえ。」


「いきなり結婚なんですか。」


「そう。俺もびっくりした。でも、運命の女性なんだってさ。しずかちゃんは。」


「運命…。そこまで好きだったって事でしょうか。」


「だと思う。その後の様子見ててもそう思った。でも竜朗はしずかちゃんの事は目の中入れて出さねえって位可愛がってたから、高校生の内は駄目だって、まあ99%脅しだな、ありゃ。で、結婚は諦めさせたけど、龍彦も引き下がらない。なんて言ったって、人生で一番自由が利く大学生だからね。しょっ中しずかちゃんを車で学校まで迎えに行っては連れ回して、竜朗に稽古という名のお仕置きをされ。しかし参りましたとも言わず、逃げもせず、立ち向かって行ったんだから、本気以外の何物でも無かったんだろう。」


「そうなんだ…。」


「そしてしずかちゃんが高校卒業してやっと結婚出来て、ここ住んでたんだ。もう大変なハレンチぶりで、俺が出て行こうか思う位…。」


「ええっ!?」


「まあ、ラブラブってヤツだね。」


「は、はあ…。」


「しかし、龍彦は2年先に海外に行く事になってしまう。しずかちゃんは講義を詰めに詰めて、長期休みは龍彦の居る国に行き、3年で取れる単位は全部取ってしまって、4年になったら、卒論の時だけ帰って来て、後はずっと龍彦とイギリス暮らしをしていた。」


「母さんもすんごく好きだったんですね。」


「うん。龍彦をとても大事にしてくれたよ。あのお転婆さんも出なかったな。いつも幸せそうにしていて、龍彦が居ないと途端に元気が無くなっちゃう位で…。龍彦もそうだったから、2人は、2人で一つみたいな気がしたな。」


2人の仲睦まじい様子を聞くにつけ、龍介は切なくなって来た。

そんなに大好きで、少しも離れていたく無かったのに、袁などという悪い奴のせいで、13年も離れ離れにされていたのだから。


「袁て奴、許せねえな…。」


「本当だね。私も生まれて初めて人を呪ってしまったよ。」


真行寺は笑ってそう言ったが、我が子が辛い思いをしているのを間近に見ていたというのも辛い事だったろうと、龍介でも薄々は分かる。

しずかや竜朗は、子供達が辛い目に遭っていると、自分の事より辛そうにしているし、必死になって解決しようと動いてくれる。だから、龍介には真行寺の辛い気持ちも分かる様な気がした。


「お辛かったでしょう…。真行寺さんも…。」


真行寺は驚いた顔で龍介を見ると、フッと笑って、また頭を撫でた。


「しずかちゃんはいい親してるんだな。親の気持ちまで分かる子に育てちゃうとは。でも、君も凄いな。ありがとう。」


龍介は言ってしまってから気が付いた。


「真行寺さんておかしいですよね?本当はお爺ちゃんだ。」


真行寺が何故か真顔になった。


「いや!爺さん呼ばわりはやめてくれ!」


「だって、本当のお爺ちゃんなんでしょう?」


「そうだが、爺さんと呼ばれんのは勘弁してくれ!」


「じゃ、なんてお呼びすればいいんですか。」


「……。」


そう言われると、困るらしい。

暫く黙った後、名案が思いついたかのように、目を輝かせて言った。


「洋風にグランパにしよう!それならいいぜ!」


「は、はあ…。」


ー中身同じなのになあ…。


「あの…。グランマは亡くなったんですか…。」


グランパに合わせて、祖母もグランマと呼んでおく。


「うん。龍彦がしずかちゃんと結婚した頃だった。あの龍彦が落ち着いたってほっとしちゃったのかな。突然心臓発作でね。妻の家系は心臓で亡くなってる人が多いんだ。」


「そうなんですか…。お会いしたかったな…。」


「じゃあ、せめて写真を…。」


真行寺は今度は結婚式の写真を見せた。

しずかも龍彦もびっくりする位美しいが、真行寺とその奥さんも主役のようにかっこよく美しい。


「綺麗な方ですね。」


「そう。素晴らしい女性だった。凄え天然だったけど。」


「天然…。」


「天然。なかなか大変だった…。1人で買い物に行くとなかなか帰って来ない。探しに行くと、とんでもないところで、見知らぬお婆さんの四方山話を延々と聞いてやっていたり。まあ、人が良すぎたんだけどね。」


「なるほど…。」


「きっと君に会えたら、君が真っ青になるくらい子供扱いして可愛がって喜んでたよ。膝に乗せたり、絵本読んじゃったりしてな。あははは。」


「そ、そうですか…。」


申し訳ないが、会えなかった事に少しほっとしてしまった。


「龍彦の叔父の吉行佳吾というのは竜朗の同期でもあるし、今は龍彦が仕事をしていた外務省の特別組織の方で、局長というトップをやっている。君にもとても会いたがっていたから、その内会ってやってくれるかな。」


「はい。」


「たーだ、龍彦は苦手だけどな。」


「そうなんですか。一緒にイギリス居たのに。」


「うん。結構刃物沙汰になったみてえだな。刀が服着て歩いてるって言われる男だ。本当はそうでもないんだが、なんせ堅苦しい男でね。」


「はっ、刃物沙汰!?」


「まあ、その内分かるよ。」


ー分かりたくない様な気もするんだけどおー!?


「うーん…。しかし…。龍彦は…。加納家で一佐と遭遇したら、またやんのかなあ…。アレ…。」


「アレ…?」


「いくらなんでもやらねえよな…。もう40と38だもんな…。」


ーなんだろうか、アレって…。


龍介の関係者は龍介も含めて、アレが多い。


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