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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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なんだこりゃ…

龍介達は空き地で自転車レースをしようとしていた。


「きいっちゃん、今日はいじってねえだろうな?」


「おう。」


「ほんとかよ。」


龍介に笑って疑われながら、みんなで苦笑いをしている所に、瑠璃が通りかかった。


「何してるのー?」


悟を押しのけ答える朱雀。


「自転車レースするんだ!見る!?」


そして亀一も慌てて乗る。


「そうだ!見て行け、唐沢!」


ー長岡君…。そんなあからさまなプッシュの仕方はどうなのかしら…。


思わず龍介を見ると、平然としていた。


「見てくか?」


ー加納君…。やはりまだ私は一クラスメートなのね…。


龍介の鈍さに若干の寂しさを感じつつ、見る事にした瑠璃が合流した時だった。

突然下から突き上げる様な衝撃と、ドンと物凄い大きな音がし、地面が波打つ様に揺れた。

このパターンにはトラウマがある6人。

龍介は咄嗟に瑠璃を庇う様に抱きかかえた。


ーきゃあー!ラッキー!?


龍介に片手で頭を庇われ、片手で抱きしめられ、1人恐怖では無く、歓喜に震える人が居るが、一応全員で頭を抱えて丸くなってうずくまる。

しかし、今回は何も起きなかった。

龍介達の身には。

その代わり…。


「うおおおお…?」


顔を上げた龍介の変な声につられて、5人が見たのは、巨大な穴。

その空き地にぽっかりと直径10メートル位の大きくて深い穴が開いている。


「なんだこりゃ…。」


全員で思わず覗いたが、相当深そうで、中は暗闇で何も見えない。

大人の男性の声がするが、何を言っているのかまでは聞き取れない。


「誰かいるんだね…。」


悟の呟きに龍介が返事をしようとした時、自衛隊のジープが疾走して来て、空き地の中で止まった。


ー空自?


制服を見て、龍介と亀一は同時に思ったのか、顔を見合わせた。


「君達!ここは危ないから直ぐに出なさい!」


かなり慌てている様子でそう言われ、空き地から追い出されると、今度は外から見えないフェンスが張り巡らされてしまった。


「陸自ならまだ分かるが、なんで空自が穴が出来た途端に吹っ飛んで来るんだ?」


亀一が言うと、瑠璃が可愛い笑顔でサラッと言った。


「詮索しないほうがいいパターンじゃないの?長岡君。」


「う…。唐沢、お前子供だろう。こっち側に付けよ…。」


「まあ、実は気になってるけどね。とっても。中に人は居そうだし、前回と同じ変な地震て事は、長岡君と加納君のお父様達が関わっていらっしゃるんでしょうし。」


結局瑠璃も交えて、フェンスの外でああでもない、こうでもないと話していると、竜朗がポチを連れて歩いて来た。

どうも車で来た様だ。


「こらあ。ここでうろつくなー。危ねえぞー。」


「爺ちゃん…。なんで危ないって知ってんの…?」


「いいからいいから。ポチの散歩頼むな。今日は遅くなるからよ。」


「バイト?」


「おう。本の入れ替えは営業時間外にやんなきゃなんねえからな。じゃあなー。お前らも早く帰れー。」


竜朗はポチを預けて、車に乗って行ってしまった。

ポチは大喜びで、龍介に飛びついて舐めまくった後、其々の子供達に撫でで貰うと、瑠璃に近付き、凄い勢いで匂いを嗅ぎだした。


「な…何?臭い…?」


龍介が笑いながら言った。


「唐沢んち、犬飼ってるからだろ。」


瑠璃の家には、メスのコーギーが居る。

龍介達が行った時、龍介に懐きかけたが、病院で予防接種の日だからと、直ぐに瑠璃の母が連れて出てしまったので、名前などは知らない。


「ああ、それで…。セーラの匂いがするのね。」


「セ…セーラ?」


朱雀以外が全員反応してしまった。


「そうなの。父がガンダム好きで…。女の子だからセーラだって…。私も危うくセーラって付けられそうになったの、母が止めてくれたんですって…。」


「良かったな…。」


「うん…。ていうか、加納君もみんなも、昔のガンダム知ってるのね。」


親世代がガンダム世代なので、必然的に影響を受けているようだ。


「んじゃどうする?俺このまま暫く散歩させて帰らなきゃになっちまったけど。」


亀一は突然、瑠璃と龍介を残し、他の3人を呼んで龍介に背中を向けた。


「ここが駄目じゃ、レース会場はまた探さなきゃなんねえし、今日はお開きにして、龍に唐沢送らせようぜ。」


「何それえ!」


勿論意義を唱えたのは悟。


「おめえは唐沢と背丈も殆ど変わんねえし、当の唐沢が龍に変態的に惚れてんだから、諦めろっつーの。」


「何で長岡までそんなに加納に肩入れするんだよ。てゆーか、変態的って何…。」


「いいから!俺としては、マザコンの龍に早い所つがいを充てがいてえんだよ!再婚の妨げになんだろう!」


「ーはあ!?なんの話なんだよ!」


さっぱり飲み込めない悟に寅彦が苦笑した。


「きいっちゃんの将来を見据えた事情らしい。」


「なんで長岡の事情が絡むんだ…。」


乗っているのは朱雀のみ。


「いいの!なんでも!そうしよ!きいっちゃん!」


「よし!話は決まった!」


「決まってないでしょうよ!ねえ!」


朱雀が悟を取り押さえている間に、亀一が早口で龍介にまくし立てた。


「またレース会場探したらという事で、今日はお開きにしよう!取り敢えずお前は散歩がてら唐沢を送っていけ!いいな!?ちゃんと送ってくんだぞ!」


「そうだよ!?変質者が出たって保護者にメールが来たらしいから!」


言いながらもう、悟を引っ張って行ってしまった。


「なんなんだ、あいつら…。しかし、変質者とは確かに心配だ。送ってってやる。」


「あ、ありがとお…。」


ポチは必死に龍介と瑠璃の間に入って、歩きづらそうに歩いている。


「ポチもやきもち妬きなのね。セーラもそう。必ず間に割って入るの。」


「そうなんだ。なんでだろうな。」


「ね。」


「今日は習い事かなんか?」


「うん。ハープ習ってるの。その帰り。」


「へえ。いいね、ハープ。あの音好き。」


「そう?あ、加納君はチェロだもんね。弦楽器が好きなんだね。」


「うん。」


いい感じで会話は続き、瑠璃を無事に送り届けて帰宅したが、その日は龍太郎も竜朗も帰宅しなかった。


翌日学校へ行くと、瑠璃の父も含めて、悟の父以外は全員帰宅しなかった事が分かった。


しかし、なんだかクラスがざわついている。

珍しく事情は悟が知っている様で、話し始めた。


「あの空き地がある二丁目の人は全員、一時的にお引越しになったんだって。昨日の地震で地盤が緩んでしまったから、補強工事して、おうちは元戻してって工事をするから、暫く駅前のマンションに住んでて下さいって、引越し費用とかも全部負担してくれるらしいよ。」


「どこが負担するんだ?」


龍介が聞くと首を捻った。


「ううーん。それがよく分からないんだ。説明に来たのは市役所の人だけど、引越しに来た業者は、全く知らない業者だったって。2組の下川が言ってた。」


2組の下川というのは、悟がずっと同じクラスで仲の良かった子だ。


「で、引越しもう終わってんのか?」


「そうらしい。昨日の夜にはもう終わったんだって。」


亀一と龍介、寅彦は顔見合わせた。


二丁目だけと言っても、かなりの世帯数になる。

その全ての引越しを数時間で済ませてしまうとは、とんでもない早業だ。


朱雀がいつも通り無邪気に言った。


「でも、駅前のマンションて、凄く高い賃貸でしょ?いいね、お買い物とかも便利だし、一時的にでも、そんな高級マンションに住めて。」


クラス内も、そんな感じで嬉しがっている様子の子が多い。

しかし、悟は沈んだ表情だ。


「それがそうでも無い人も居て…。今日僕、下川と帰る約束したから、別で帰るね。」


「下川は引越しで困る事でもあんの?」


龍介が聞くと、言葉を濁した。

2人の秘密なのかと、龍介もそれ以上は聞かなかった。




悟の母から電話が来たのは、その日の夕方だった。


しずかが出ていたが、龍介を呼んだ。


「龍、今日は悟君と遊ばなかった?」


「うん。帰りも別。」


「何か知らない?学校から帰って無いんですって。」


「え…。今日は下川って奴と帰るって言ってたけど…。」


「じゃあ、そうお伝えしておくわね。」


暫くして、今度は連絡網が回って来た。

今はメールだが、内容は下川と悟を見た人は担任に連絡を下さいというものだった。


ー2人一緒で行方不明か…。


今日も竜朗も龍太郎も帰って来ていない。


龍介は2人の帰宅しない原因が、昨日の穴に関係する引越しに絡む事の様な気がした。

ポチの散歩を装い、偵察に出ると、二丁目全てがフェンスで囲まれ、中は全く見えなくなっていた。

通常のフェンスなら、周りだけだろうに、天井まで付いたフェンスだ。


ー一体なんだ?


警官も警備に配置されており、龍介を見て、近付いて来る。


「君、ここは立ち入り禁止だよ。工事が入って危ないからね。」


龍介は咄嗟に2人の行方を探す手段を思い付いた。


「すみません。この中に下川さんてお宅があるんです。友達の家なんですが、引越し先が分からなくて、本を返したいんですが、困っていて…。」


「ああ、下川さん…。下川さんね…。えー。」


警官は龍介の礼儀正しさに疑う事無く、ファイルを出し、下川の引越し先を調べてくれた。


「下川さんは、駅前のグランマニエっていうマンション分かる?あそこの305号室に一時引越しなさっているよ。」


龍介は警官に丁寧に礼を言い、ポチを連れたまま、そのマンションに向かった。

幸いペット可の様なので、そのまま下川の家に行った。


「すみません。加納と申し…。」


出てきた下川の母は目をかっぴらいて、全部言わせず、龍介の手を両手で取った。


「知ってます!加納龍介君!ファンクラブ入ってるわよ!」


「い…。」


青くなって固まってしまった龍介だが、気を取り直して、本題に入った。


「ご心痛の所突然すみません。どうも僕の友達の佐々木と一緒の様なんです。佐々木は下川君があそこからここへ引っ越すのが嫌だみたいな相談を受けていたようなんですが、もしかしたら、その関係で2人でどこかに行ったのかと思いまして、何かご存知ないかと…。」


「えーっと…。そうね…。あの、実はね、うちの庭に地下室があるのよ。地下室って言っても、素人のお爺ちゃんが掘って、適当に壁作ってって、もうそりゃ危ない代物でね。それはどうなっちゃうんだって、うちの子は気にしてたわ。でも、本当に危ないから、ついでに埋めて貰う事にしたのよ。随分怒ってたけど、落ち着いたと思ったんだけどなあ。」


「でもそれは下川君にとっては大切な物だったんですよね?」


母親はバツが悪そうに龍介から目を逸らした。


「ま、まあね…。お爺ちゃん子だったし、お爺ちゃん亡くなってしまったし…。でも、もう中学生になるんだから、あんな子供っぽいの要らないと思うのよね。」


段々自己弁護になって来ているので、嫌になって来た龍介は、次の質問をした。


「下川君は学校からそのまま帰ってこなかったんですか?」


「うん。そうなの。」


「分かりました。ありがとうございました。」


「あの、前の家に行ったのかしら?でも入れないもんねえ、あそこ…。本当にごめんなさいね。ありがとね。」


龍介は一礼し下川家を出ると、佐々木家に行った。


母は連絡やなんやかんやで忙しいらしく、祖母が出てきた。


「おや!イケメンさん。いつもありがとねえ。」


「いえ。あの、佐々木は学校からそのまま帰って来て無いんですか。」


「いや。一回帰って来たんだよ。」


「それは鞄を置きに?」


「うん。それとシャベルは無いかって言って、持って行ったんだよ。どっかで穴掘って、出られなくなってんじゃないかって言って、今父ちゃんと爺さんが穴探しに行ってるよ。」


「穴…。」


穴を掘るのでは無く、そのシャベルは下川の地下室を掘り返して保管して置こうと思ったのではないのか、そんな気がした。


龍介は家に戻り、しずかに事情を説明した。


「うーん、龍の推理が正しそうね…。しかもこの近辺で見つからない以上、あそこに潜入しちゃってる可能性が高いわね。」


「潜入出来んのかな?」


しずかはご町内の地図を出して来た。

二丁目の北東側に林があり、しずかはそこを指差した。


「ここはいくらなんでもフェンスが張れないと思うのよ。木が邪魔だし、かと言って、ぶった切る訳行かないのね。地主の持ち物だから。それに林の地盤もやばくなってたら林分断してフェンス建てるわけにも行かないから、この部分だけはフェンスは無い状態になってると思う。木や草が密集して生えてる所だし、崖っぽくもなってるから、侵入するのも至難の技かもしれないけど、ここからなら、もしかしたら…。でも、ここにも当然警備は立ってるとは思うけど…。」


「じゃあ、こっから入って、出られなくなってんのかな?警察がウヨウヨしてて怖くなって。」


「かもしんない。ちょっと龍太郎さんに連絡してみる。」


「父さんに連絡して何になんの?」


「龍、オフレコで頼むわ。」


最近このパターンが多い。


「はい。」


「この一件、自衛隊のせいっつーか、父さんときいっちゃんパパのせいなの。だから、これで問題が起きた場合、あの人達がなんとかしないといかんでしょ?」


「ああ…。やっぱり。」


「だからちょっと待ってて。」


しずかは龍太郎にメールし、直ぐに返事が来た様だ。


「一回帰って来るって。ちょっと待ってて。」



10分もしないで龍太郎のルノーラグナV6が庭に急停車した。

バタンと車のドアが忙しなく閉まる音がし、龍太郎が飛び込んで来た。


「悟君とお友達があそこ入っちゃったって!?」


「みたいだなって話。」


「参ったな…。あそこはもう俺んとこの管轄じゃ無くなっちまったんだよな…。」


困り果てた顔の龍太郎にズイと寄るしずか。


「んな事は分かってるわよ。お父様帰って来られないんですもの。大体あなたが失敗したから起きた事でしょう。何も無ければ、平穏にあそこで暮らして、下川君も大事な地下室失くさずに済んだ物を、あなた方のせいで、じゃあいい機会だからって、ワカランチンの親に口実与えさせちゃったんじゃないの。なんとかしてあげて。」


「し、しずかから親父に頼んでくれりゃいいじゃん…。」


しずかは龍介に受け継がれた鋭い目つきで、龍太郎を見据えた。

それだけでも龍太郎は仰け反り気味になって、一歩引いてしまっている。


「その目好きだけど、俺に向かってはヤだなあ…。」


「龍太郎さん!」


「はっ、はい!」


「そうしてもいいけど、んな事したら、益々お父様に怒られるでしょお!?それに、向こうの管轄になっちゃったら、悟君達も怖い思いしちゃうんじゃないの!?不味いんじゃないの!?色々と!うちの鬼門なだけに、お父様手心加えて下さらないわよ!?」


「ー確かにね…。うん。分かった…。じゃあ、龍、下川君ちと下川くんの顔教えて。」


「いや、俺も行く。下川の写真なんか無えし。もう既に怯えて隠れてるとしたら、父さんだけじゃ出て来づらいかもしれねえじゃん。」


「言えてるわね。龍も装備整えさせて連れて行って下さい。」


「は、はい…。」


しずかの言った事は謎だらけだったが、取り敢えず現段階では聞かず、龍太郎の指示に従い、迷彩服を着て龍太郎の車に乗った。




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