いたずら大成功
しずかは何故か、ちゃんと亀一達の分の夕食も用意していてくれた。
「しずかちゃん、俺たち来るの分かってたみてえだな。」
亀一が探りを入れながら注意深くしずかを見つめて聞くと、にっこり笑った。
「カンよ。カン。なんだか重労働してそうだったから、このまま来るんじゃないかなあって。」
「ふーん…。」
龍介はそれどころでは無い。
クリームシチューを食べつつも、計画を早口で説明しながら、指示に入っている。
「という訳で、寅ときいっちゃんは玄関前に1.5メートル位の深さの穴を掘れ。佐々木は家から気持ちの悪いビニール人形を持って来ると。後の材料は俺が調達して来る。朱雀は俺と来て工作だ。よし、あと5分で食って作業開始。」
凄いバタバタだがなんとか食べ終え、其々作業に戻った。
穴を掘り始め、3分の2位まで掘った所で、龍介と朱雀が大荷物で戻ってきた。
「小学生と雖も、チンピラの様な生活してるらしいから、多分夜に来るだろう。」
龍介が穴掘りを代わりながら言うと、朱雀が補足説明を始めた。
「なんか、僕のママが他のお母さん達に聞いてきた所に寄ると、大村の両親て、居酒屋さんやってて、夜家に居ないんだって。だから、大村一派は大村の家にたむろってて、夜中にコンビニ行ったりしてるらしいよ。大村一派の親達も、迎えに行ったりしないんだってさ。」
「壊れとるのう…。」
亀一が呟くと、丁度戻ってきた悟も言った。
「そうなんだ。みんな寂しいから悪い事ばっかりしてるのかなって気はした事あるけどね。」
「上手く抜けられてよかったなあ、佐々木。」
寅彦が汗拭いながら言うと、ぺこりと頭を下げた。
「なんだ?どした?」
寅彦と亀一が慌てて笑いながら聞いた。
「いや、このグループに入れて貰えたからだよ。大村達は、加納達の事、本当は多分怖いんだと思う。頭いいし、強いし。曲がってないから。だから抜けても何もされなかったんだと思う。皆さんのお陰です。有難う。」
「僕もそうだよ、虐められてないの。」
「い、いや。柏木は違うんじゃないかな…。」
「えっ?どして?」
「いや、あの、その、柏木自体が怖いからじゃないかな…。」
「まさかあ!僕が怖いなんてあり得ないよおー!変な佐々木君!」
ーその変貌ぶりが怖いんだってええ!
1人黙々と掘っていた龍介は、もう掘り終えた様で、悟に言った。
「あったか?」
「ああ、これでいいかな。」
紙袋いっぱいの虫やトカゲやカエルのビニール人形。
「おお、いいね。でもなんでこんなもんあんの?」
「弟が好きでね…。聞いたらさすがにもういいと言うので貰って来ました、あとこれ使える?」
差し出したのは、蓋の付いたバケツだった。
「何、これ。」
「あ!開けちゃダメ!」
遅かった。
龍介はガバっと開けて覗き込んで、悶絶している。
「なんだこれはあー!鼻が曲がるー!」
「もう。人の話は聞きなさいっつーの。これは妹が作って、腐らせてしまい、捨てるに捨てられずベットの下に隠しておいたスライムです。気持ち悪くて、嫌な物を探してると言ったら、持って行ってくれと、逆に頼まれたんだけど…。」
龍介は涙目になりながらも、嬉しそうに笑った。
「いいね…。是非使わせていただこう。さて。んじゃ準備に入って、俺はここで待ち伏せしてる。お前ら帰っていいよ。」
勿論全員が異口同音に言った。
「ヤダ!」
「多分結構遅くなるぜ?」
構わないと言うので、家に連絡を入れさせ、準備を開始した。
仕掛けを作る為に木に登っていた龍介が亀一を呼んだ。
龍介が無言で指差す先には、監視カメラがある。
「これか…。それで何もかも知られてるわけだな…。」
「これでなんでも承知されちまってる理由は分かったが、きいっちゃん、どうする?撤去する?」
「うーん…。してもいたちごっこじゃねえのか?またつけられるぜ、きっと。」
「だよな。知らねえフリしといてやるか。」
「ん。そうしとこう。」
龍介は新しい基地にモニターを設置し、手際良く、寅彦が持って来たパソコンに繋いだ。
「大村の家の方角だろうが、どっからだろうが、ここに来るには絶対通る道に監視カメラ付けて来た。これに写ったら外に出て作戦開始。」
「了解。」
「しかし、加納は人が変わった様に緻密だね。あの落とし穴のカモフラージュといい…。普段の面倒臭がりの影も形も無いじゃん。」
悟が言うと、亀一が苦笑して解説した。
「龍はいたずらってなると、人が変わって、緻密で綿密になるんだ。誕生日は覚悟しとけよ、佐々木。」
「誕生日…?なんの事…?」
誰も教えてくれないので、悟も忘れてしまい、5人でワクワクしながらモニターを見ていると、10時近くになって、大村達5人が自転車でそこを通り過ぎるのが映り、龍介達は電気系全てを消し、林の中に隠れた。
程無く、大村達が現れた。
バットやトンカチなど物騒な物を持ち、意気揚々と歩いて来る。
「ぶっ壊してやろうぜ、あんなの。」
等と言う声も聞こえ、憮然とする龍介達。
「いつまで笑っていられるかな?」
龍介がそう言いながら手元のボタンを押すと、血まみれ風に色が付けてあるマネキン五体が大村達の前をザーッザーッと横切った。
「わああ!何!」
「何だよ!」
それと同時に竜朗の笑い声の大音量。
「わはははは!」
「ぎゃあ!誰かいんのか!」
かなりビビって、ギャアギャア言い始めた所に間髪を容れず、走りだそうとした奴らを躓かせるピアノ線。
引っ掛かった途端にガチャンガチャンドカンドカン物凄い音が上からする。
「うわああー!」
大村達は叫びっ放しで、龍介達も笑いをこらえるのに苦労している。
こけながら基地に向かって走れば、巧妙にカモフラージュされた落とし穴にストン。
更に龍介が紐を引っ張ると、落とし穴目掛けて、大量の気持ち悪いおもちゃと腐ったスライムが落とし穴の中にドドドド…っと入って来る。
「わあああ!なんだよお!」
「怖いよ!」
「助けて!」
「臭えよ!これ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図の中、大村が仲間を踏み台にして這い出し、基地のドアに手をかけると、電気がビリッ。
「うわあああー!死ぬ!死んじゃうよー!」
逃げ出そうとする大村の上から腐ったビチャビチャの雑巾が降って来て、大村も含め、全員がわんわん泣き出した。
龍介達が出て来て言う。
「懲りたか。」
泣いているだけで返事はしない。
「懲りたかって聞いてんだあ!」
龍介が良く通る声で怒鳴りつけると、ビクッとなって、全員、
「はい!」
といい返事をした。
「何が気に入らねえんだか知らねえが、人にちょっかいばっか出してっからこうなるんだ。今度俺たち以外の奴らに対してもなんかしやがったら、こんなもんじゃ済まねえからな。夜中に遊んでる暇があったら勉強しろ。」
「は、はい…。」
大村達は泣きじゃくりながら、素直に帰って行った。
以降、大村達は、大人しくなり、卒業まで問題を起こさなかったらしい。
奇しくも、しずか同様チンピラを更生させてしまった龍介だった。