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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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朱雀の秘密

怒涛の夏休みが終わる頃、夏目が稽古がてら美雨を連れて、遊びに来た。

鬼稽古の後、最近どうだと聞かれ、タイムマシンの一件を話すと、夏目は疑う事もせず、黙って聞いた後言った。


「師匠の言う通り、佐々木ってえのはロクでもねえな。お前優しいから、可哀想に思うのかもしれねえが、程々にしとけよ?結局お前みてえな面倒見がいい奴が尻拭いしてやらなきゃなんねえタイプだぜ?」


「はい。気を付けます。」


「おう。」




新学期が始まった。

悟は遅刻もそんなにしなくなり、龍介達と連んでいるというのもあってか、大村達にはちょっかいを出されなくなった様だ。


「加納君、夏休みどうだった?」


瑠璃の無邪気で可愛い笑顔がやけに眩しく感じる。


「凄え大変だった…。もうあんな夏休みは2度といい…。」


ーな、なんかあったのかしら…?聞かない方がいいのかな…?


沈痛な面持ちで答える龍介を見て、瑠璃は慌てて話題を変えた。


「たっ、大変だったといえば、大村君達の事でも先生大変だったみたいよ。」


「何で?」


「私、たまたま見てしまったの。母とあそこのジャスコで買い物してる時、大村君達が警察みたいな人と先生に連れられて、奥から出てくるの…。万引きしちゃったんですって。なんか、その他にも、クラスの弱い子から、お金やゲームを巻き上げてるとかで、緊急保護者会まであったみたい。」


「ーそういや母さん、熱出して行けないけど、どうしようって優子さんとメールしてたな…。結局優子さんも家族旅行だから行けないって言って、2人で欠席にしたみてえだけど、そういう内容だったのか。」


「そう。退学にしろとか言う親御さんも居たけど、小学校で退学なんて出来ないから、なんとか大村君達の親御さんと連携して他のお子さんに迷惑がかからない様にします、何かあったらすぐ報告して下さいって話だったみたいだけど。」


「その大村の親ってのはちゃんとしてんの?」


「どうなんだろうね。保護者会には来てなかったって。吊るし上げを避けたのか、やる気無い親御さんなのか、よく分からないって母も言ってたわ。学校行事にもあまり来てらっしゃらないみたいだし。」


「ふーん…。この年で札付きか。唐沢も気を付けなさいよ?」


「うん、有難う。」


2人が仲良く学級日誌を手に話しているのを、じっと怨みがましい目で見つめるある一団が居た。


亀一が目ざとくそれを見つける。


「なんだ、大村達。なんで龍と唐沢の事、あんな目で見てんだ。」


すると悟が言った。


「大村は唐沢さんが好きなんだよ。同じ幼稚園だったんだってさ。あの通り見た目は可愛いし、誰が相手でも態度変えたりしないしさ。」


「なんかして来ねえといいけどな。」


「ヤダ!怖いよお!」


すかさず怯える朱雀に寅彦が笑いながら言った。


「大丈夫だよ。龍だぜ?返り討ちになるのがオチだ。」


「確かに…。」


しみじみ頷く悟のたんこぶはまだ治っていない。




夏休み明けに基地に行き、5人は絶句して固まった。


「な、なんで龍の親父が作ったタイムマシンまでここにあんだよ…。」


亀一が漸くといった感じで言うと、龍介も大きな目を更に開いて首捻った。


「分からん…。父さんは何故ここを知ってるんだ…。しかもご丁寧に鍵開けて入って、置いて、また閉めてって…。」


寅彦も首が折れそうな位、首を捻っている。


「だな…。大体、妙だと思わないか。まあ、作れちまう位だから、龍の親父さんは、タイムマシンだのわけの分からん世界に理解も造詣も深いんだろうが、先生やしずかちゃんも、全く疑わず、協力してくれちゃうってのもさあ…。」


「母さんや爺ちゃんは俺が言う事は全部信じてくれるよ?」


だから龍介は逆に嘘をつかない。

とはいえ、疑問もあった。


「でも、そういやあ…。夏目さんが夏休み中に稽古に来た時話したら、あの人も受け入れ良かったな…。タイムマシンで驚かなかった…。」


「なんか大人共は俺達がやってる事、逐一知ってる様な気がすんな…。だって、誰か親にどこで何してるって聞かれた事あるか?」


亀一の問いに全員が首を横に振った。


龍介が何か思い出した口調で更に言う。


「そういや、佐々木の親父さん。いくら父さんと同級生とはいえ、なんでタイムマシンなんか作れるんだとか、一切言わなかったし、驚かなかったな。」


「それはうちのお父さんが、昔パラレルワールド装置作って貰ったりして、加納のお父さんが凄い人だって知ってるからじゃないの?」


「そんだけとは思えねえんだけどな…。」


瞬間移動してしまった時も、悟が帰って来ない事情は、佐々木家の人にどう説明したのかと、後で竜朗に聞いたら、悟の父にだけ本当の事を言って、後の人には適当に言っておいて貰ったと言っていた。


いくら龍太郎がなんでも作れてしまうびっくり箱な男だと知っているにしても、悟の父というのも、物分かりが良すぎる様な気がした。


5人で唸り、ハタと気付く。


「座る場所が無い!」


そうなのだ。

二台のタイムマシンに占領されて、玄関に立っているのがやっとで、足の踏み場も無くなっている。


「これは物置が必要だ…。」


亀一が言うと、意外な事に龍介が直ぐ提案した。


「それなら、爺ちゃんが作ったポチの小屋使えよ。三畳位の凄え立派なの作ってやったのに、入んねえから、どうすっかこれって言ってたから。」


「ほら見ろ。お前が過保護にすっから、外飼い出来なくなっちまったんだろ。」


「そうなんだ…。まあ、番犬はいいよ…。」


「じゃあ、有り難く頂こう。」


という事にはなったが、竜朗作のポチの家は、物凄く立派で可愛いログハウスだった。

見た亀一は悶絶してしまった。


「俺はこういうのが作りたかったんだよおおお!」


「そんじゃ、あっち物置にしてさ。こっち基地にすりゃいいじゃん。クーラー取り付けられるように穴も開けてあるし、快適だしさあ。」


あっけらかんと言う龍介の首を泣きながら締める亀一。


「全部お前のせいだろうがよ!あんな基地になっちまったのはあああ!」


「はははは。」


「はははじゃねえええ!」


気を取り直し、メールで竜朗に貰い受ける許可も貰い、いざ運ぼうとなったが、えらい重さだ。

何せログハウス故に全て木である。

それでも根性で朱雀に誘導をさせ、4人で休み休み林に運び、ぐったりと寝そべった。


「龍、じゃあ、クーラーの調達頼むな…。」


「物置にあります…。」


今日はこれで終わりだろうと思って頼んだ亀一は更に後悔しながら、今度はクーラーと室外機をゼエゼエ言って運ぶ。


疲れてやけになってしまい、クーラーも取り付けてしまうと、涼しいポチの家で全員動かなくなってしまった。


その時だった。

外がやけに騒がしくなった。

ガヤガヤと5人位の子供の声がする。

ドアに何故か付いている覗き窓から見ると、大村達が居り、口々に言っているのが聞こえてくる。


「なんだここ!」


「いいじゃん!」


「乗っ取っちまおうぜ!」


勿論、短気な龍介が亀一が止める間もなく、ドアをバンと開けて怒鳴った。


「何が乗っ取るだあ!出来るもんならやってみろ!」


大村は一瞬ビクついたが、直ぐにいつものふてぶてしい雰囲気に戻った。


「自衛隊の坊ちゃんのかよ。自衛隊なんて何にも役に立ってねえじゃん。この税金泥棒。」


どこで聞きかじったのか知らないが、頭に来る事を言ってくれる。


「うるせえ。親は関係無えだろ。」


「あんじゃん。俺たちが払った税金で食わせて貰ってるくせに、こんな贅沢しやがって。」


「ここ作るのに、金なんかかけてない。大体、税金払ってるのは、お前の親で、お前じゃねえ。お前は公立の小学校へ行き、公立の中学に行くんだから、よほどの高額納税者でも無い限り、親が払った税金の殆どはお前が使ってんだ。」


口で偏差値80越えの龍介に勝てるわけが無い。

大村は矛先を1番弱い朱雀に向けた。


「あ、オカマが居るぜ。」


「本当だ、オカマ野郎だ。」


5人全員でオカマオカマ囃し立て始めた。

龍介はニヤリと笑い、一歩引くと、なんとあの朱雀がキティちゃん柄のoutdoorのナップザックからボウガンを出して前に出て行った。


ー柏木!?人相が変わってる!?


そう。

日頃のなよなよとした雰囲気はどこへやら。

龍介達顔負けの鋭い目つきになっている。


「加納、一体どういう事…?」


1人訳が分からない悟に龍介は笑ったまま言った。


「まあ見ててみな。ある意味最強だ。」


囃し立てる5人の前に立った朱雀は、朱雀とは思えない低い声で怒鳴った。


「僕はオカマじゃない!」


そして言うが早いかボウガンを目にも止まらぬ速さで撃ち出した。

それも狙いが凄い。


頭スレスレとか、Tシャツの袖だけとか、ズボンの裾だけとか。

逃げ回っている標的にズバズバと当てる。

しかも矢を継ぎながらとは思えない速さで。

わざと身体に刺さらない様にしているのは明らかで、全員のどこかしらの身体で無いところを射終えると、更に構えて言った。


「お遊びはここまでだ!お次はどこがいい!腕か!足か!心臓か!」


大村達は顔色を失くしてこけつまろびつ走り去って行った。


朱雀はボウガンをしまうと、ケロっとした顔で、呆然としている悟に話しかけた。


「どしたの?佐々木君。なんかあった?」


「なんかってあ、あの…。」


「やだなあ、もう。そんな怖い物見る様な目で見ないでよお。僕なんかしたあ?」


「し…してたよ…?大村達撃退しちゃったじゃん…。」


「そう?ちょっと頭に来ちゃっただけだよ。ああ、ほんと疲れたね。お腹も空いた。」


もう元の朱雀だ。


ーこ、これなのか…。ある一言を言われると、前後不覚になって、とんでもない事しちゃうらしいっていうのは…。凄い…。加納みたいに手加減しない所が逆に怖い…。1番怒らせちゃいけないタイプだ…。


朱雀の衝撃の真実から未だ立ち直れていない悟だったが、龍介は構わず真剣な顔で言った、


「あいつらまた来るぜ。」


亀一と寅彦が頷く。


「どう出る?龍。」


答えを予期しているかの様に、亀一が苦笑しながら聞くと、ニヤリとあの不敵な笑み浮かべた。


「そら勿論、仕掛け作って出迎えてやるぜ。まずは腹拵えと計画だ。全員うちでメシを食え。」


「やんのか、アレを…。」


苦笑しきりの寅彦にニヤリと笑ったまま踏ん反り返った。


「やらんでどうすんだ、アレを…。」


龍介の幼馴染み達は皆、苦笑している。

1人アレも分からず、朱雀の秘密を知ってしまった心の整理もつかないままの悟も、呆然としたまま加納家に付いて行くしかなかった。





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