表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍介くんの日常  作者: 桐生初
145/148

ゲームの中に…?では無くて…

苺達と別れを惜しみ、真行寺と帰国すると、高1になった。


もう龍介達3人共、背丈は竜朗と同じ172センチになって、その内2人が居るのだから、家の中も狭く感じそうなものなのに、双子としずかが居ない加納家は、不思議と広く感じた。


「存在感でけえからだろ。双子にしても、しずかちゃんにしても。3人共、あんなちっこいのにさ。」


寅彦がそう言った。

確かにそうなのかもしれない。

こんな静かな加納家は記憶に無い。

双子が生まれる前でも、なんだか賑やかに感じていたのは、しずかの存在感なのかもしれない。


別に口やかましい母では無かった。

ずっと喋っているわけでも無い。

でも、なんだかしずかが居ると、家の中が明るくなっていた。


呼んだ時の、はいよーという返事、それだけで安心していた事に改めて気が付いた。

亀一にマザコンだと言われ、ずっと否定してきたが、それはあながち間違っていなかったのかもしれない。


ーしかし、俺が寂しがっていてどうすんだ。俺は父さんの為に残ったんじゃねえか。うん。


「無理しなくていいんじゃねえの?俺だって寂しいもん。しずかちゃんとふたごっち居ねえと。」


寅彦に苦笑されながら言われたが、精一杯意気がる。


「いいや。そんな訳に行かねえ。

大体、苺と蜜柑だって、慣れねえイギリスの学校でなんとかやってるんだから、俺も頑張らないと。」


「上手くやれてんのか。」


「昨日、チャットでそう言ってた。友達も出来たって。

まあ、2人一緒だし、あの2人は独自路線貫けるからな。あんま心配はしてなかったが。」


「いたずらは?」


「それが、お父さんがなんでも面白がって、一緒にやっちまうもんだから、母さんが鬼化してるらしいぜ。

あの人怒ると、爺ちゃん並みに怖えから、流石にやんなくなってきたらしいが。」


「そっか。良かった。」


「あ、寅、明日って暇?」


明日は、土曜日で、学校も午前中で終わる。


「ごめん。放課後だろ?鸞とデートなんだ。」


「あ、そっか…。じゃあ、きいっちゃんもだよな?」


「多分な。どした?」


「いや、いいんだ。瑠璃に相談してみる。」




翌日、各々デートで別れてしまうと、龍介は昼食の為に入ったカフェで、瑠璃に相談事を切り出した。


例の、龍彦が人生を変えてやったブンさんの事だ。


「それは知らせてあげたいよね。ブンさんの事、ちょっと調べてみようか?フルネームと住所は分かる?」


「ああ。グランパに、昔届いてた年賀状貰って来たから。」


龍介が年賀状を出すと、瑠璃は直ぐにダイナプロで調べ始めてくれた。


「高田文治さん…。

府中の、お父様が誘拐された所で造園業をやってらっしゃるのね…。

造園業っていっても、ガーデニングとかもやっていて、口コミの評判も凄くいいわ。

どんなオーダーでも叶えてくれて、枯れ木も生き返らせちゃう緑の手ですって。」


「ほお…。そりゃすげえな。朝顔枯らした俺とはエライ違い。」


「龍、枯らしちゃったの!?」


「枯らしたんだよ…。

母さん向かねえ人だし、爺ちゃんも向かねえんだろうな。

父さんがコレ、水やってるの?って言った時にはもう瀕死。

復活も果たせず。

きいっちゃんに種分けて貰って、夏休み明けはそれで凌いだ。」


「へええ。意外。」


「しかし、どう言えばいいのかな。ブンさんに。」


「事情は言えないけどでいいんじゃないの?

今生きて、元気にしてるって分かれば、きっと安心なさるわよ。

詮索されたら、帰って来ちゃえばいいんじゃない?」


「ーそうだな。そうしよう。」




ところが、それは全て杞憂だった。

どう挨拶しようか迷うまでもなく、会社を訪れると、ブンの方から目を輝かせて、駆け寄って来たのだ。


「龍彦!?いや、そんな訳ないよな、こんな大きくなかったもんな…。

でも、龍彦そのまんまだ…。君、もしかして、龍彦の子供!?」


「は、はい…。」


54歳の高田文治は、子供の様な嬉しそうな顔で、龍介達を社長室に連れて行った。


ケーキだのお菓子だのジュースだの、精一杯もてなしてくれながら、嬉しい嬉しいと繰り返す。


「子供が居たんだあ…。結婚したのは知ってたけど…。そっかあ…。」


「あの、実は父は生きてるんです。」


「え!?」


「すみません。死んだと周りに思い込ませないとならない事情があって、今まで隠していたんですが、実は生きていて、元気にイギリスで仕事してます。」


「本当に!?ああ、良かった!

そうだったのか!良かったよお!

こんな立派な子が居て、死んじゃったんじゃ、心残りだろうなって思ったから…。

ああ、ほっとしたよ。良かった。

そうだよな。外交官だもんな。

俺たちには分からない難しい大変な仕事だ。

そんな事もあるよね。」


物分かりがいい上に、龍彦の生存を心から喜んでくれ、どうして教えてくれなかったなんて一言も言わない。

本当にいい人柄なんだなと思った。


「龍彦のお陰で、ここまで来れたんだ。

何かお礼がしたいと思ってきたけど、死んじゃったら、何も出来ないって思ってた…。

でも生きてるなら、何か出来るかもしれないって思うと、本当嬉しいよ。

俺なんかが役に立てる事なんか無いかもしれないけど、君でもいい。

もし俺で出来る事があったら、なんでも言ってね?」


「はい。有難うございます。」


それからブンから龍彦の思い出話を聞いた。

龍彦は年賀状のやり取りだけでなく、裁判後のブンを心配して手紙をくれたり、励ましたり、造園業をやってみたらと言ったのも、実は龍彦だった事が判明した。


瑠璃に、


「その面倒見の良いところも、それ隠すのもそっくり。」


と笑われ、ブンには菓子折りを山の様に貰って、ほっとして帰って来れた。


良かった良かったと、満足しながら、瑠璃を送る為に歩いていると、背後から鬼気迫る気配を感じた。

もうただならない。

殺気すら感じる。

しかもなんだか、モーター音の様なおかしな音までする。

龍介は瑠璃を後ろ手に隠し、パタパタ竹刀を広げながら振り返ったが、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「きいっちゃん!?」


亀一が自転車の後ろに栞を乗せ、改造ギアで猛スピードで走って来ていたのだ。


「龍うううー!大変だあああー!」


「何が大変なんだよ。」


亀一は龍介を通り過ぎ、やっと止まった。


「栞の兄貴と佐々木と朱雀が消えた!」


「ーは?なんだその取り合わせは。」


「ついでに言うと、この3人だけじゃねえ!市曽も消えてるらしい!」


「なんだかサッパリ分からんな。ちゃんと説明してくれ。」


「さっき、栞んちに送って行ったら、兄貴は自分の部屋のパソコンを立ち上げて、ゲームをするところだった。

RPGだ。今、なんか流行っているヤツらしい。」


「ああ、そんで?」


「面白いんだよ、コレって俺に話しかけた途端、フッと目の前から消えて、そのゲーム画面中に兄貴が!

そしたら、よくよく見たら、朱雀と佐々木と市曽も居んだよ!」


瑠璃がキョトンとしながらも、冷静に言った。


「なんか今流行りの話よねえ、それ。アニメとかである…。」


「そら俺もそう思ったけど、実際に入り込んじまってどうすんだよ!

しかも、魔物だかなんだかと戦って勝たなきゃ終わらねえんだぞ、そのゲーム!」


「そんじゃ、魔物倒したら、出て来れるんだろ。さっさと倒しゃあいいじゃねえか。」


「それが、なんか違う!」


「なんか違うとはなんじゃい。」


「画面見てたら、さっきまで居た化け物とか、魔物は居ない。

ついでに言えば、場所も変わって、画面も変わってる。

あいつら、廃工場みてえなところに入れられてる。ほら。」


亀一は栞の兄のパソコンを持って来たらしく、そのまま龍介に見せた。


「これは…。ゲームとかでなく、リアルな監視カメラ映像じゃねえの…?」


「だろ。何がどうなったんだか分からんが…。」


「きいっちゃんは、そのゲーム画面は見たのか?」


「いや、兄貴がゲームの名前を言って、ゲームのアイコンをクリックしたと同時だ。」


龍介は頭をフル回転させた。

ゲームのアイコンをクリックした時に、栞の兄が消えたという事は、そこに消えた原因がある。

そして、今、栞の兄達が居る場所は、リアルな廃工場の様な場所だ。

物語のように、ゲームの中に入り込んでしまったのではない。

だとしたら、龍介にはその原因は1つしか思い浮かばなかった。


「きいっちゃん、もう一回、栞ちゃんち戻って、何が原因でお兄さんがこの中入っちまったんだか調べろ。

俺は、ゲームのアイコンをクリックした事が原因で、瞬間移動させられたんじゃねえかと思うんだ。」


「ああ…。そうか!慌てちまって気がつかなかった。その線があったな。分かった。調べてみる。」


「お願い。瑠璃、この監視カメラ映像がここに映ってるってのはどういう仕組みだ。」


「ちょっと待ってね…。」


調べて、すぐに答える瑠璃。


「ネット配信されてます!」


「じゃ、配信元を調べてくれ。」


「了解。」


「栞さん、家の人に、ここ数日外部の人間がお兄さんの部屋に入ってないか聞いてくれ。

瞬間移動の細工をされたとしたら、こればっかは遠隔操作は無理だと思うんだ。

俺は、佐々木んちと朱雀んち行って聞いて来る。

瑠璃は自宅で調べを進めて。」


龍介は指示だけすると、急いで悟の家へ向かった。


「ケーブルテレビの工事の人が来たねえ。

悟の部屋にもテレビのなんつーの、アレ。

コード入れる所があるって言ったら、入ったよ。」


応対に出たおばあちゃんが答えた。

悟が消えた事にはまだ気が付いて居ないらしい。


「ちょっと見せて貰ってもいいですか?」


「いいよ、悟、部屋に居ると思うから。」


そう言って、部屋の襖を開けたおばあちゃんが当然の事ながら驚いた。


「あれ!?あの子、いつの間に、どこいっちまったんだろ…。」


そして、パソコン画面を見て、目を剥く。


「こんなところで何やってんだい!?なんでパソコンの中に入ってるんだい!?悟!?」


「おばあちゃん、佐々木はパソコンの中に入ったのではなく、何かの原因で、ここから、この今いる場所に瞬間移動したんじゃないかと俺は思ってます。

助け出す方法を探すので、待ってて貰っていいですか。」


「は…はい…。」


龍介はパソコンのコード類や裏を見てみたが、特に変わった器具が付いている様子は無かった。

机の周りや床にも変わった様子は無い。

悟が座っていたであろうパソコン前の椅子も見たが、予想に反して焦げ跡の様な物も無い。

読みが外れたかと思った時、亀一から電話がかかって来た。


「龍、マウスだ!マウスに妙なもんが仕込まれてる!」


「マウス…。」


「気をつけろ!?クリックすんなよ!?そっと開けてみろ!」


龍介は慎重にマウスのカバーを開けた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ