ゲームの中に…?では無くて…
苺達と別れを惜しみ、真行寺と帰国すると、高1になった。
もう龍介達3人共、背丈は竜朗と同じ172センチになって、その内2人が居るのだから、家の中も狭く感じそうなものなのに、双子としずかが居ない加納家は、不思議と広く感じた。
「存在感でけえからだろ。双子にしても、しずかちゃんにしても。3人共、あんなちっこいのにさ。」
寅彦がそう言った。
確かにそうなのかもしれない。
こんな静かな加納家は記憶に無い。
双子が生まれる前でも、なんだか賑やかに感じていたのは、しずかの存在感なのかもしれない。
別に口やかましい母では無かった。
ずっと喋っているわけでも無い。
でも、なんだかしずかが居ると、家の中が明るくなっていた。
呼んだ時の、はいよーという返事、それだけで安心していた事に改めて気が付いた。
亀一にマザコンだと言われ、ずっと否定してきたが、それはあながち間違っていなかったのかもしれない。
ーしかし、俺が寂しがっていてどうすんだ。俺は父さんの為に残ったんじゃねえか。うん。
「無理しなくていいんじゃねえの?俺だって寂しいもん。しずかちゃんとふたごっち居ねえと。」
寅彦に苦笑されながら言われたが、精一杯意気がる。
「いいや。そんな訳に行かねえ。
大体、苺と蜜柑だって、慣れねえイギリスの学校でなんとかやってるんだから、俺も頑張らないと。」
「上手くやれてんのか。」
「昨日、チャットでそう言ってた。友達も出来たって。
まあ、2人一緒だし、あの2人は独自路線貫けるからな。あんま心配はしてなかったが。」
「いたずらは?」
「それが、お父さんがなんでも面白がって、一緒にやっちまうもんだから、母さんが鬼化してるらしいぜ。
あの人怒ると、爺ちゃん並みに怖えから、流石にやんなくなってきたらしいが。」
「そっか。良かった。」
「あ、寅、明日って暇?」
明日は、土曜日で、学校も午前中で終わる。
「ごめん。放課後だろ?鸞とデートなんだ。」
「あ、そっか…。じゃあ、きいっちゃんもだよな?」
「多分な。どした?」
「いや、いいんだ。瑠璃に相談してみる。」
翌日、各々デートで別れてしまうと、龍介は昼食の為に入ったカフェで、瑠璃に相談事を切り出した。
例の、龍彦が人生を変えてやったブンさんの事だ。
「それは知らせてあげたいよね。ブンさんの事、ちょっと調べてみようか?フルネームと住所は分かる?」
「ああ。グランパに、昔届いてた年賀状貰って来たから。」
龍介が年賀状を出すと、瑠璃は直ぐにダイナプロで調べ始めてくれた。
「高田文治さん…。
府中の、お父様が誘拐された所で造園業をやってらっしゃるのね…。
造園業っていっても、ガーデニングとかもやっていて、口コミの評判も凄くいいわ。
どんなオーダーでも叶えてくれて、枯れ木も生き返らせちゃう緑の手ですって。」
「ほお…。そりゃすげえな。朝顔枯らした俺とはエライ違い。」
「龍、枯らしちゃったの!?」
「枯らしたんだよ…。
母さん向かねえ人だし、爺ちゃんも向かねえんだろうな。
父さんがコレ、水やってるの?って言った時にはもう瀕死。
復活も果たせず。
きいっちゃんに種分けて貰って、夏休み明けはそれで凌いだ。」
「へええ。意外。」
「しかし、どう言えばいいのかな。ブンさんに。」
「事情は言えないけどでいいんじゃないの?
今生きて、元気にしてるって分かれば、きっと安心なさるわよ。
詮索されたら、帰って来ちゃえばいいんじゃない?」
「ーそうだな。そうしよう。」
ところが、それは全て杞憂だった。
どう挨拶しようか迷うまでもなく、会社を訪れると、ブンの方から目を輝かせて、駆け寄って来たのだ。
「龍彦!?いや、そんな訳ないよな、こんな大きくなかったもんな…。
でも、龍彦そのまんまだ…。君、もしかして、龍彦の子供!?」
「は、はい…。」
54歳の高田文治は、子供の様な嬉しそうな顔で、龍介達を社長室に連れて行った。
ケーキだのお菓子だのジュースだの、精一杯もてなしてくれながら、嬉しい嬉しいと繰り返す。
「子供が居たんだあ…。結婚したのは知ってたけど…。そっかあ…。」
「あの、実は父は生きてるんです。」
「え!?」
「すみません。死んだと周りに思い込ませないとならない事情があって、今まで隠していたんですが、実は生きていて、元気にイギリスで仕事してます。」
「本当に!?ああ、良かった!
そうだったのか!良かったよお!
こんな立派な子が居て、死んじゃったんじゃ、心残りだろうなって思ったから…。
ああ、ほっとしたよ。良かった。
そうだよな。外交官だもんな。
俺たちには分からない難しい大変な仕事だ。
そんな事もあるよね。」
物分かりがいい上に、龍彦の生存を心から喜んでくれ、どうして教えてくれなかったなんて一言も言わない。
本当にいい人柄なんだなと思った。
「龍彦のお陰で、ここまで来れたんだ。
何かお礼がしたいと思ってきたけど、死んじゃったら、何も出来ないって思ってた…。
でも生きてるなら、何か出来るかもしれないって思うと、本当嬉しいよ。
俺なんかが役に立てる事なんか無いかもしれないけど、君でもいい。
もし俺で出来る事があったら、なんでも言ってね?」
「はい。有難うございます。」
それからブンから龍彦の思い出話を聞いた。
龍彦は年賀状のやり取りだけでなく、裁判後のブンを心配して手紙をくれたり、励ましたり、造園業をやってみたらと言ったのも、実は龍彦だった事が判明した。
瑠璃に、
「その面倒見の良いところも、それ隠すのもそっくり。」
と笑われ、ブンには菓子折りを山の様に貰って、ほっとして帰って来れた。
良かった良かったと、満足しながら、瑠璃を送る為に歩いていると、背後から鬼気迫る気配を感じた。
もうただならない。
殺気すら感じる。
しかもなんだか、モーター音の様なおかしな音までする。
龍介は瑠璃を後ろ手に隠し、パタパタ竹刀を広げながら振り返ったが、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「きいっちゃん!?」
亀一が自転車の後ろに栞を乗せ、改造ギアで猛スピードで走って来ていたのだ。
「龍うううー!大変だあああー!」
「何が大変なんだよ。」
亀一は龍介を通り過ぎ、やっと止まった。
「栞の兄貴と佐々木と朱雀が消えた!」
「ーは?なんだその取り合わせは。」
「ついでに言うと、この3人だけじゃねえ!市曽も消えてるらしい!」
「なんだかサッパリ分からんな。ちゃんと説明してくれ。」
「さっき、栞んちに送って行ったら、兄貴は自分の部屋のパソコンを立ち上げて、ゲームをするところだった。
RPGだ。今、なんか流行っているヤツらしい。」
「ああ、そんで?」
「面白いんだよ、コレって俺に話しかけた途端、フッと目の前から消えて、そのゲーム画面中に兄貴が!
そしたら、よくよく見たら、朱雀と佐々木と市曽も居んだよ!」
瑠璃がキョトンとしながらも、冷静に言った。
「なんか今流行りの話よねえ、それ。アニメとかである…。」
「そら俺もそう思ったけど、実際に入り込んじまってどうすんだよ!
しかも、魔物だかなんだかと戦って勝たなきゃ終わらねえんだぞ、そのゲーム!」
「そんじゃ、魔物倒したら、出て来れるんだろ。さっさと倒しゃあいいじゃねえか。」
「それが、なんか違う!」
「なんか違うとはなんじゃい。」
「画面見てたら、さっきまで居た化け物とか、魔物は居ない。
ついでに言えば、場所も変わって、画面も変わってる。
あいつら、廃工場みてえなところに入れられてる。ほら。」
亀一は栞の兄のパソコンを持って来たらしく、そのまま龍介に見せた。
「これは…。ゲームとかでなく、リアルな監視カメラ映像じゃねえの…?」
「だろ。何がどうなったんだか分からんが…。」
「きいっちゃんは、そのゲーム画面は見たのか?」
「いや、兄貴がゲームの名前を言って、ゲームのアイコンをクリックしたと同時だ。」
龍介は頭をフル回転させた。
ゲームのアイコンをクリックした時に、栞の兄が消えたという事は、そこに消えた原因がある。
そして、今、栞の兄達が居る場所は、リアルな廃工場の様な場所だ。
物語のように、ゲームの中に入り込んでしまったのではない。
だとしたら、龍介にはその原因は1つしか思い浮かばなかった。
「きいっちゃん、もう一回、栞ちゃんち戻って、何が原因でお兄さんがこの中入っちまったんだか調べろ。
俺は、ゲームのアイコンをクリックした事が原因で、瞬間移動させられたんじゃねえかと思うんだ。」
「ああ…。そうか!慌てちまって気がつかなかった。その線があったな。分かった。調べてみる。」
「お願い。瑠璃、この監視カメラ映像がここに映ってるってのはどういう仕組みだ。」
「ちょっと待ってね…。」
調べて、すぐに答える瑠璃。
「ネット配信されてます!」
「じゃ、配信元を調べてくれ。」
「了解。」
「栞さん、家の人に、ここ数日外部の人間がお兄さんの部屋に入ってないか聞いてくれ。
瞬間移動の細工をされたとしたら、こればっかは遠隔操作は無理だと思うんだ。
俺は、佐々木んちと朱雀んち行って聞いて来る。
瑠璃は自宅で調べを進めて。」
龍介は指示だけすると、急いで悟の家へ向かった。
「ケーブルテレビの工事の人が来たねえ。
悟の部屋にもテレビのなんつーの、アレ。
コード入れる所があるって言ったら、入ったよ。」
応対に出たおばあちゃんが答えた。
悟が消えた事にはまだ気が付いて居ないらしい。
「ちょっと見せて貰ってもいいですか?」
「いいよ、悟、部屋に居ると思うから。」
そう言って、部屋の襖を開けたおばあちゃんが当然の事ながら驚いた。
「あれ!?あの子、いつの間に、どこいっちまったんだろ…。」
そして、パソコン画面を見て、目を剥く。
「こんなところで何やってんだい!?なんでパソコンの中に入ってるんだい!?悟!?」
「おばあちゃん、佐々木はパソコンの中に入ったのではなく、何かの原因で、ここから、この今いる場所に瞬間移動したんじゃないかと俺は思ってます。
助け出す方法を探すので、待ってて貰っていいですか。」
「は…はい…。」
龍介はパソコンのコード類や裏を見てみたが、特に変わった器具が付いている様子は無かった。
机の周りや床にも変わった様子は無い。
悟が座っていたであろうパソコン前の椅子も見たが、予想に反して焦げ跡の様な物も無い。
読みが外れたかと思った時、亀一から電話がかかって来た。
「龍、マウスだ!マウスに妙なもんが仕込まれてる!」
「マウス…。」
「気をつけろ!?クリックすんなよ!?そっと開けてみろ!」
龍介は慎重にマウスのカバーを開けた。