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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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戦う龍太郎

数日後、ラオウより深い眉間の皺が、不機嫌の全てを表している竜朗と、その原因を作っている龍太郎がのほほんとやって来た。


それでも竜朗の眉間の皺は、龍介としずか効果で失くなって、なんとか夕食になる。

ホテルより警備がしやすいという事で、滞在中は、イギリスの元佳吾の家である、この一軒家に寝泊まりする事になる様だ。

よって、龍彦のチームメンバーも含めて、警護で来ていた自衛官や図書館の柏木もしずかの手料理が食べられる。


「ああー!うま!なんで同じ主婦で、こんなに味が違うんだろうか!」


若干涙目で言う柏木の妻は、朱雀が太鼓判を押す料理下手である。


「しずかのビーフシチュー、いつも違うって言ってたのは、肉なんだね。」


龍太郎がしみじみ味わいながら言った。


「そうね。あと水かな。」


「やっぱり、イギリスで作った方が上手く行くし、思い通りの味になるんだね。」


珍しく、龍彦とべっチーンもやらず、しんみり言う龍太郎をしずかがじっと見つめた。


「龍太郎さん、その先の言葉は聞きたくないわ。」


「ー聞いて欲しい。」


「嫌よ。」


「しずか…。」


「嫌です!明日の夜は、あなたの妻としてパーティーに出席します!お食事は楽しく!」


龍太郎は苦笑すると、ハイと素直に言って、また食べ始めた。


ーなんだろう…。父さん、母さんにこのままイギリス住めとでも言いたかったのか…?苺達が狙われるかもしれねえから…?




翌朝、竜朗と龍太郎は、龍彦達に警護されながらMI6本部に向かった。

超秘密裏に行われる会議の為、ホテルなども一切使わない様だ。

各国の国防長官も足取りを消し、マスコミにも厳戒体制で規制を敷くという徹底ぶりである。


会議は主に、龍太郎の説明で始まった。

現在の宇宙開発の進行状況を伝える為だ。

つまり、宇宙開発の殆どは龍太郎がしており、細かい技術協力をしてくれる各国の技術者の研究を纏めて、形にしているのも、龍太郎なのである。


予定よりも早く進み、既に宇宙に星の試験的な建設にまで移れると聞き、各国の代表は拍手を送り、手放しで龍太郎を讃えた。

しかし、問題は次の議案だ。


「ロシアや中国が躍起になっている。

地球の危機的状況、及び、それから避難する為の宇宙開発と知れたら、噛ませろと言ってくるか、力づくで奪いに来るかのどちらかだろう。

いずれにせよ、宇宙の星はこれ以上の増加は困難な状況だ。

開戦になる事も考えねばなるまい。

しかし、戦争などやっている暇は無い。

従って、加納一佐には、原爆に代わる最終兵器に掛かって頂きたいと思う。」


ホスト役のイギリスの国防長官の発言に、賛成多数の拍手が起きる。


龍太郎は立ち上がって発言した。


「待って下さい。

ですから、戦争にならない為にも、この場に居ない他の国も避難出来る様にすべきです。

この場にいる国の国民全てだって、宇宙に移住出来るわけではありません。

大気圏脱出時のGに耐えられない重病人は、宇宙に星ができても、移住は不可能です。

その為にも、地球と分離して暮らせる様にすべきではないでしょうか。」


「それが出来ないから宇宙開発をしているのではないかね。」


「そうですが、破壊してしまったオゾン層を回復させ、温暖化で水没する地域を嵩上げする案を、提出させて頂いた筈ですが。」


アメリカの国防長官が手を挙げてから発言した。


「それは我々も拝見したが、到底不可能なのでは?

そう出来れば、それに越した事は無いが、君は宇宙開発の方で手一杯だろう?

そんな途方も無い開発、いつ、どうやってやるつもりかね。

それなら、議長が仰った様に、一発で戦争が終わる様な兵器を作って、ある程度潰してしまった方が早いのではないかね。」


「ー潰す…?」


龍太郎の顔色が変わった。


「あんた、人間が山ほど死ぬんだぞ。

罪も無え、政治にはなんの関わりも無え子供も一杯死ぬんだ。

戦争にならなくたって、このままの地球に残しちまったら、同じ事だ。

全員助かる道をなんで考えない。あんた何様だ。」


「我々には、自国民を守る義務があるんだ。その中で多少の犠牲はやむ終えまい!」


「多少で済むかって話だろうが!世界の人口の3分の2は確実に減っちまうぞ!」


「それも致し方無いんだ!この開発が決まり、宇宙の星にも限りがあるという事が分かった時点で、君もそれは了承済みだと思うが!」


「だから、地球になんとか住める方法も考えてんだろう!」


会議は紛糾した。

龍太郎寄りの技術者代表達と、国防長官の言い合いの様になって来ると、竜朗が言った。


「アレはどうだい、龍太郎。」


「アレとは…。」


「お前、大分前に言ってたろ。ミサイルを撃って来た所に、全て戻すシステムなら出来るかもしれないってさ。」


「ええ…。言いました…。」


すると、ドイツの国防長官がニヤリと笑って、竜朗を見て、頷いてから話し始めた。


「どうでしょう、皆さん。

今目の前にある危機は、その開発に当たって貰うという事で安心しませんか。

撃たれたミサイル、全てが返せるのなら、我々に被害は無く、撃った方の軍事基地、戦艦、潜水艦、戦闘機のみが破壊される事になり、一般市民に被害は及ばない。

加納一佐、それであなたは、この世界屈指の科学者達と、地球自体を救う方法の開発も進める。

お忙しくなると思うが、それでどうだろう。」


それが今の妥協点なのかもしれなかった。

納得行かないながらも、龍太郎は渋々頷くしかなかった。




苺と蜜柑を預かってくれている佳吾から、竜朗に電話が掛かって来たのは、会議がなんとか終わった時だった。


「加納、疲れている所、申し訳ない。心配させるだろうから、言おうか迷ったんだが、やはり早い方がいいかと思ってな。」


「おう…どした…。」


竜朗の脳裏にそこはかとない不安が過る。


「実は苺ちゃんと蜜柑ちゃんが拉致されそうになった。いや、2人とも無事だ。思いの外落ち着いている。」


「そっか…。ありがと…。落ち着かせてくれたんだろ…。世話掛けたな。」


「いや、なんというか、あの…。」


佳吾が口籠るなど初めてだ。


「ど、どした?」


「それが、楽しかったと…。」


「ーへっ!?」




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