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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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その顛末

しかし、ブンは、急に不安そうな顔なった。


「でも、大丈夫かな…。もしかしたら、ケンの奴、仲間連れて来るかもしれない…。」


「仲間って?」


「チンピラみたいな奴らだよ。

中学の同級生なんだけど、みんなそんな感じでさ。

言う事聞かないとか、気に入らない奴が居ると、リンチして、言う事聞かせるんだ…。

俺は今まで、ケンに逆らった事無いから、見てただけだけど、酷い事するんだ。

止めても聞かなくて…。」


その瞬間、龍彦の顔つきが変わった。

被っていた、か弱く可愛い少年の猫が剥がれ落ちた瞬間である。


「何…?集団リンチで言う事聞かせてのさばってるだと?

数だけで強気になってるだけじゃねえか。

数の論理になんかに負けてたまるかあ!」


「え…、た、龍彦…?」


「俺はなあ!

数が多いだけで、正義ヅラして、実力も無く、筋も通ってねえのに、のさばってる奴らが大嫌いなんだよ!

そんな奴ら、半殺しだ!」


「ええ…?」


ポカンとしているブンを置き、木刀か、代わりなる物を物色し始めると、窓の外から忍び笑いが聞こえた。

龍彦が窓から覗き込むと、佳吾が肩を震わせて笑っていた。


「あ、叔父さん!お帰り!」


「ただいま。意外と化けの皮が剥がれるのが早かったね。」


当時、佳吾はまだ30歳。

髪も黒く、超イケメンのお兄さんという感じだった。

それでも昔から、真夏であろうが、三ツ揃えのスーツを着て、ビシッとネクタイを締めているのがデフォルトなのは変わらないが。


「叔父さん、もう来てくれてたんだ。」


「加納と義兄さんも居るよ。」


様子が変なので、竜朗と真行寺もしゃがんだまま駆け寄って来た。


「龍彦!無事か!お前、よくやったなあ!お陰で、こんな早く着いたぜ!」


「ほんとだよ、たっちゃん!景色もバッチリ!すぐここだって分かったぜ。」


「良かった。あ、こちらブンさん。

この人、本当に悪くないんだ。

騙されてたも同然。

俺側に付いてくれたから、助けてやって。」


ブンは慌てて、ぺこりと頭を下げた。


「そうなのかあ?こいつがお前の事攫ったんじゃないのかあ?」


真行寺が立ち上がり、脅すように、銃を構えると、ブンは頭を抱えて、大きな身体を小さくして、うずくまってしまった。


「確かにそうなんだけど、凄く丁寧に扱ってくれたし。

優しい人なんだ。

お金目当てでもない。

全部、もう一人のケンて奴の命令だったんだ。

それに、俺を逃げさせてくれるって言ってたところなんだ。

だから、罪、軽くしてあげて。」


佳吾も援護してくれた。


「私も聞きました。便宜を図ってやっていただけませんか、義兄さん。」


「ふーん…。そういう事ならいいだろう。じゃあ、早く出て来なさい龍彦。君も。」


しかし龍彦は仁王立ちして言った。


「いいや!俺は彼奴らぶちのめしてから出る!」


「おま…、お前は何を言ってるんだ?ここから先は、俺たちの仕事だろう?危ないから下がっていなさい。」


「嫌だ!」


佳吾が笑いながら真行寺を見つめた。


「こうなったら聞かない子でしょう。援護に回りましょう。」


真行寺の前に、竜朗が真っ青になって叫んだ。


「えええー!?吉行、何言ってんのよお!危ねえだろお!?」


「だから援護しようと言ってるんじゃないか。ほら、龍彦、コレだろう?」


佳吾は龍彦の木刀を出した。


「流石叔父さん。」


真行寺がジト目で佳吾を見ている。


「お前は…。うちに寄ると言うから何かと思えば、こんな物を…。」


「捕物になったら、絶対噛ませろと言うと思いまして。すみません。」


真行寺は深いため息を吐いた。


「仕方ない。気をつけなさいよ。あ、君こそ危ないから出なさい。風間ー。」


真行寺はブンを窓から出しながら、風間を呼んだ。


「この人、容疑者ではあるが、龍彦を大事にしといてくれた上、逃がそうとしてくれていたそうなので、乱暴に扱わないでやって欲しい。」


「承知しました。」


ブンは連れて行かれる前に、心配そうに龍彦を見た。


「龍彦、気をつけてね…。それから…。」


「ん?何?ブンさん。」


「ありがとう、目を覚まさせてくれて…。あのままケンに利用され続けてたらと思うと、ぞっとする。」


「友達は選びなね。」


「うん。ありがとう…。」


龍彦は今まで厳しい演技をしていた鬱憤を晴らすが如く、邪悪な笑顔で笑うと、木刀片手にソファーに踏ん反って座り、長い足を組んだ。


「さっさと来い、チンピラ共。」




「そしてたっちゃんは、俺達の援護なんか、全く必要とせず、チンピラと誘拐事件の首謀者を滅多打ちにして、全員全治2週間の怪我を負わせて、晴れ晴れとした顔で帰って来た訳よ。

はっきり言って、俺たち、必要無かったよな、吉行。」


「そうだったな。木刀的な物が手に入れば、問題無かったろう。

しかし、運が良かったという面はある。

龍彦も後で言っていたが、ブンという男が、龍彦の話を素直に聞くかは、賭けでもあった。

そうは思っていても、認めたくない事を言われると逆上して、暴れる輩もいるからな。

全てのケースに当てはまる事では無い。」


「でも、立派だったぜ。1人でだもん。」


「本当だね、凄いな、お父さん。」


真行寺が困った顔で笑った。


「まあ、確かに機転は効いてるし、そうとも言えるんだが…。

ただ、龍彦が相手にしたのは、ただのチンピラだったからね。

龍介は相手を見て、くれぐれも無理しないように。」


「はい。」


でも、なんとなく血を感じるし、誇らしい龍彦の誘拐事件の話だった。


「その、数の論理で間違っててもやりたい放題に頭来るって、龍と同じね。」


「うん。つーか、母さんもだろ。」


「アウトサイダー親子なのねえ。」


みんなで笑い出した頃、龍彦は飛行機中で、大きなくしゃみをし、スチュワーデスに心配されていた。








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