遂に作戦開始
6時45分きっかり、亀一が起爆スイッチを押した。
地下1階の、拉致された少年達の入っている全ての部屋の扉が、爆発で吹っ飛ぶ。
龍介は、まりもの手を掴んで廊下に出ると、ざっと全員居るかを確認した。
「よし、脱出する。固まれ。全員離れるな。お父さん?」
無線で龍彦が答える。
「1階階段前で叔父さんが待機。
俺と京極はそっち向かってる。
あいつらは今の爆発で、状況確認に数人そっちへ。あとは全員武器庫に向かってるようだ。」
「了解。きいっちゃん、前行け。」
亀一を先頭に行かせ、足早に階段を登り始めると、直ぐに龍彦と京極に合流した。
「ガスマスク。念の為、全員装備。」
龍彦が、ガスマスクを渡しながら降りて行き、龍介と共に後方に来ると、エレベーターから、ここの兵士数人が降りて来て、龍介達に気付き、追い掛けて来た。
龍介と龍彦は、USPでその5人をあっという間に撃って眠らせる。
今回の弾薬全て、麻酔薬である。
寅彦は2人に守られる様な形でパソコンで館内の監視カメラをチェックしている。
「武器庫は開かねえみてえだな。まあ、そうそう開けられて堪るかだけど。」
武器庫のドアロックは、寅彦が暗唱番号を変えた上、何重にもロックをかけるシステムに変えてしまった為、パニックになっている様だ。
「おっと。吉行さん、組長。上階から銃持ったのが20人位来ます。こっちもだ。エレベーターから15人来るぜ。」
「全員ガスマスク装着してんな!?」
京極は振り返って確認すると、無線に言った。
「局長、OKだ!」
「承知した。」
佳吾の返事と共に、ドッカーンという破裂音が立て続けに2回した。
龍彦の眉間に皺が寄る。
「2発は要らねえだろ、2発は…。ほんと叔父さんランチャー好きなんだからもう…。」
と言いながら、戻って来てくれた京極と共に、寅彦も含めた4人で、来たる15人の兵士が銃を構える間も無く、撃ちまくってあっという間に制圧。
一方、1階の方は、階段を登りきったものの物凄い煙で何も見えなくなっていた。
佳吾が撃ったランチャーも、強力な睡眠弾と催涙弾だった様だが、この空間で2発は多かったらしく、薬で煙ってしまい、何も見えない。
「こっちだ!亀一君!」
佳吾の声がする方へ行くと、60人位のここの兵士が倒れたり、咳や涙でのたうち回って転がっているのが漸く見えて来た。
ー今、2発音したよな…?そんなに撃つ必要あったのか、これ…。
亀一は若干の疑問を抱えながら、少年達を先導し、外に出て、誘導に来ていた優子に久しぶりに会った。
「亀一!無事ね!?みんなこっちよ!」
優子はいつものスカートにセーターというフェミニンな格好をしていつつ、手にはしっかり自動小銃…。
亀一は優子に会えた嬉しさより先に、そっちの方が気になった。
「お、お袋…?」
「亀一、早くしなさい。」
とか言いながら、ビルの横にある、監視所らしき所から銃を持って走って来る10人を、構えさせる間も無く、あっという間に自動小銃で眠らせる。
「ええ!?」
「いいからさっさと行くわよ!?」
加奈まで自動小銃を持って出て来て、援護している。
ーま、まあ、加奈ちゃんは兎も角、うちのお袋もこういうの出来るなんて、聞いた事無えぞ!?
亀一は疑問で頭を一杯にしながら、優子と共に、しんがりで少年達を守り、無事に道路脇で待機していた自衛隊に合流した。
「怪我してる人は居ないか!?全員居ますか!?」
叫んでいるのは、龍太郎と和臣の上官の東国原准将だ。
ーこんな大物が来てんの?
とまたも疑問に思いながら、亀一は全員を確認する。
龍介から聞いていた人数、全員居た。
怪我も無い。
「大丈夫です。全員居ます。」
「亀一君だったか?後は我々がやる。ご苦労様。」
「いや、戻ります。」
「ん?」
「龍や寅がまだです。行きます。」
東国原准将は、口髭を動かしてニヤリと笑った。
「そういうの好きだな、俺。じゃ、一緒に行こう。」
龍介達は1階には移動していたが、脱出は不可能になっていた。
籠城覚悟でもあったのか、このビルには、防弾のシャッターが取り付けられていたらしく、ビル全体がその防弾壁で覆われてしまったのだ。
「すみません、掴み損ねた。」
寅彦が謝ると、龍彦も京極も、佳吾もニヤリと笑った。
京極が言う。
「大丈夫。ここのビルがどんな建てられ方してるか、加奈達が調べてくれてて、これは折り込み済みだ。」
「だろうなあ。」
龍介は落ち着き払って笑っている。
「龍、お前ってほんと、凄えな。」
「そうでも無いぜ。柊木はマジで落としそうになったしな。」
「ーアレは…、落とさなかったのが不思議な位だぜ…。」
まりもは此処から出るまで。
そして多分、出てからもずっと叫んでいた。
「きゃあああ!何!?一体何!?
あ、そっか!これが加納君が言ってた脱出作戦なのね!?
いやああ!でもなんか凄い!怖いよお!
あれ!?加納君が居ない!
ええ!?長岡君なの!?
加納君が手を繋いでくれてるんじゃなかったの!?」
脱出作戦真っ只中の緊張した場面だというのに、思わず亀一は怒鳴り返していた。
「悪かったなあ!龍は後方の警護で忙しいんだよ!俺で我慢しろ!」
「ええ!?心の中で思っただけなのにい!?ごめんなさい!ああ、長岡君怖くて嫌よおお!」
「俺だってお前みてえな女、大嫌いだよ!」
「大嫌いだなんて酷いよ!」
「ごめん…つーか、うるせえ!黙ってろ!落とすぞ、この野郎!」
「落とすって何!?この野郎って、私は女よ!」
と、ずっとやっていた。
確かに、女でなかったら、龍介なら速攻で落としている。
「よし。コンピューター制御室を探そう。
武器庫が役に立たなくても、ここにはまだ仕掛けがある。
ソレを起動させられたら、ちょいと厄介だ。」
龍彦が言うと、佳吾がさっき見た、謎めいた形のランチャーを手にした。
「いいかね、龍彦。」
「撃ちすぎないでね、叔父さ…。」
全部言わせる間も無く、佳吾はロビーから外に向かって、そのランチャー構え、1発撃った。
さっきの音なんてものじゃない。
戦闘機のミサイル音の様な轟音がすると、1階の壁、全部無くなった。
流石の龍介の目も点になる。
「な…何…?今の…。」
佳吾が嬉しそうに答えた。
「龍太郎君の新作だよ。BD58971-D51-改だ。
凄いだろう?
どんな防弾壁でもうち抜けるんだよ。
ああ、気持ちいい。
龍彦、もう1発撃っておこうか?」
「やめて下さい!このビル崩れちまいますよ!自重しなさいっつーの!叔父さん!」
無線から東国原准将の声が聞こえた。
「加納、突入していいか。」
竜朗が返事をする。
「いいんだが、ちょいと手こずりそうだ。覚悟してくれ。」
竜朗としずかは、総統と名乗っている、会長の確保に向かっていた筈だ。
何か問題が起きたらしい。
龍介の顔が、ほんの少しだけ緊張した…。