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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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やっぱり爺ちゃん

竜朗が全ての情報を合わせ、大体の作戦を練り終えた頃、佳吾から連絡が来た。


「加納、奴らの本当の名前は掴んだか。」


「いや。愛国の会しか分かってねえが。」


「大日本帝国軍と名乗っているらしい。

その名でドイツのネオナチの一部の超過激派と協力体制を取っている。」


「ーマジで?まあ、確かに似てっけどな…。軍事クーデターとやらで一斉蜂起って感じか。」


「らしいな。ネオナチの方も、今日明日にはガサ入れが入るという、現地エージェントの報告だ。」


「ありがとよ。偶然とはいえ、見つけて良かったぜ。」


「そうだな。それで?安藤代議士達は絡んでいそうか。」


「息子と会長の電話を盗聴した感じだと、安藤達は思想そのものには賛同し、それなりに愛国の会には関わってるようだが、その大日本帝国軍だの、軍事クーデターには関与してねえな。」


「ではそっちの手間は無しか。

しかし、軍事クーデターとは、稚拙で短絡的だが、紙一重ではあるぞ。

次の総裁が安藤になったら、まずくないか。」


「ーそれは俺も思ってる。でも、良きにつけ悪しきにつけ日本は民主主義だ。選挙で勝っちまったらどうにもなんねえよ。

それに、憲法に関しちゃ、色んな意見があって、分かれる所でもある。

俺としては国民に浸透してるし、問題無えと思うが、ちゃんと話し合って、議論し尽くして、国際関係、国民の不安、そういった一切合切が何の問題も無くなら、改正論が出たって良いんじゃねえかなとは思ってる。」


「そうだな。」


「ところで、さっきの作戦メール読んだ?」


「ああ。」


「お前どうする?」


「私は頭数に入っていないのかと逆に聞こうか。」


佳吾の声が少し笑っている。

竜朗も笑った。


「吉行も参加ね。」


「勿論だ。」




龍介が家に電話をすると、竜朗が出た。


「爺ちゃん?」


「龍!無事かあ!?大丈夫か!?怪我無えか!。」


竜朗の声を聞いたら、ホッとして涙が出そうになったが、龍介には、22人無事に脱出させるという使命がある。

ここは冷静に、そして完璧に、作戦を遂行しなければならない。

涙を堪え、龍介は楽しげに明るい声で言った。


「爺ちゃん、俺、凄え所に居るんだ。」


「誘拐されたんじゃねえのか?」


「うん。初めはそうだった。でも、今では感謝してる。日本を変える手伝いが出来る所に居るんだ。」


「日本を変える…?爺ちゃんにも説明してくんな。」


「あのさ、憲法って連合国からのお仕着せだろ?

だから日本独自の憲法を作るんだ。

そして、いつまでもうるさい事言ったりやったりして来る中国や韓国を攻め滅ぼして、ロシアから北方領土奪い返すんだよ。

アメリカに頼らず、日本だけでやってく。

だからもうアメリカの言いなりならなくていいんだ。

その為に軍事クーデターを起こすんだ。」


この先の竜朗の答えで作戦の大部分の成否が決まる。


龍介は手に汗を握り、竜朗の答えを待った。


「そりゃ凄えな。

爺ちゃんはどっちかってえと国粋主義者だ。

おめえも知ってんだろ?俺の中国、韓国嫌い。

ロシアも大嫌いよ。

いいなあ、爺ちゃんもやりてえな、それ。」


「ほんと!?」


梅村を見ると、笑顔で頷いている。

呼んで良しという事だ。


龍介は作戦が成功したも同然という事で喜んでいるが、梅村達は家族と住めるという事に喜んでいるとしか思っていない。


ーガキだからって甘く見てんじゃねえぞ、バーカ。


「爺ちゃん!家族も賛同してくれると、一緒にここに住めるんだ!」


「ほんとかい!?直ぐにでも全員連れて行くぜ!」


梅村が電話を代われと合図したので、代わる。


「少年達の教育係の責任者をしております梅村と申します。

加納君は大変優秀で、我々は千人の味方得たようで、本当助かっております。

他の子達の信頼も厚く、いとも簡単に纏めてしまう。

素晴らしいリーダーシップをお持ちだ。

軍のトップに立って貰い、私達と共に戦って貰おうと思っております。」


「そりゃ名誉な事で…。有難うございます。」


口でそう言いながら、竜朗は今頃、苦笑してバカにした顔になっているだろうなと思うと、笑い出しそうになってしまったが、精々嬉しくて堪らない程度にしておく。


「ですから、ご家族にも来て頂きたいのですが、しかし、規則で、そちら様の事を少し調べさせて頂いてからという事になっています。

なに、大した事じゃありません。

職業とか、出身学校とか、そんな程度です。

失礼ですが、いらっしゃるご家族のお名前、全員分を教えて頂けますか。」


「はい。では行きますよ。

俺、加納竜朗、祖父。

加納しずか、母。

加納龍太郎、父。

真行寺龍之介、祖父。

真行寺龍彦、叔父。

吉行佳吾、大叔父。

京極恭彦、従兄弟。以上です。」


梅村が若干引いている。


「お…多いんですね…。その方々、全員賛同して下さるんですか…?」


「勿論です。親戚中集まりゃ、中国、韓国の悪口に、ぶっ潰しまえでシメですから。」


嘘である。

そんな集まり、見た事無い。

しかし、竜朗は身辺調査に全く動揺していない。

竜朗の事だから、もう既に手は打ってあるのかもしれなかった。


「分かりました。」


「ちょいと龍に代わって貰えますか。」


龍介が電話に出ると、竜朗は人のいいお爺さんを演じながら言った。


「そんないい所紹介してくれて、活躍してるんじゃ、龍には沢山ご褒美やらねえとな。

龍が欲しがってたもん、全部用意して持ってくからな。」


梅村達は子供が欲しがる物だろう位にしか思っていないだろうが、龍介にはそれが何か直ぐに分かった。

武器の類いだ。


「うん!ありったけ持って来てね!」


「おう!きっとみんなして張り切って持ってくぜ?

龍太郎なんか入り切らねえ程持ってくんじゃねえか?

はっはっはっ!」


龍太郎がここに入り切らない武器を持って来るといえば…と考えると、一抹の不安は覚えなくは無かったが、取り敢えずほっとした。


ーでも、お父さんが叔父とか、京極さんが従兄弟とかって言ってたな…。

京極さんは母さんの従兄弟だろ…?

まあ、その辺の操作はしてあんのかな、爺ちゃんの事だから…。




龍介はそのまま総統という男の部屋に連れて行かれた。


その男は、かなりのお爺さんだった。

骸骨の様に痩せていて、背が低く、お金持ちの財閥の割に貧相に見えた。

ヒトラーもそうだったが、ファシストになる男は、自分の身体にコンプレックスを持っている事が多いというのの見本の様な男だった。

それでも、精一杯威厳を見せたいのか、大日本帝国軍の芝居がかった軍服を着て、重そうな勲章をいっぱい付けている。


「君が噂の加納龍介君かね。

素晴らしい活躍じゃないか。

君という逸材を得られた事は、我が軍にとって、大変喜ばしい。

ご家族も大変素晴らしい方達の様だね。

先ほど、調査結果が届いたよ。」


「もうですか…。」


「うん。国勢調査をしてる所にちょっとしたコネがあってね。直ぐに調べて貰えるんだ。」


総統は龍介にわざわざ調査結果の書類を見せた。


竜朗は、予想通り、情報操作をしていた。

竜朗は加来に指示して、戸籍からなにから全て書き換えていた様だ。

因みに竜朗は、国会図書館警備のアルバイト。元警視庁のキャリア。

しずかは専業主婦。

龍太郎は右傾化が激しい事で有名な幕僚監部の部下。

真行寺はしずかの実父で、引退の身。こちらも元警視庁のキャリア。

龍彦はしずかの兄で、検察官。

佳吾は変わらず大叔父で、英学園の教頭(なんかピッタリ)

京極は龍太郎の、年の離れた姉の息子という事にしたらしく、龍介の従兄弟という事になったらしい。職業は弁護士。

職業もバッチリ書き換えてある。


「早く会いたいだろうと思ってね。

ご褒美がてら、迎えの車を出したよ。

夕食までにはこちらに到着されるだろう。」


「有難うございます!」


嬉しくて堪らない。

計画がトントン拍子だからに他ならないが。


「それと、君は少尉に昇格だ。

新しい部屋に移りなさい。

そして梅村君から射撃訓練を受けなさい。」


「射撃訓練!?銃が持てるんですか!?」


「そうだよ。やりたいと言っていただろう?これもご褒美だ。じゃあ、制服に着替えたまえ。」


別室に通され、仕方なく、大日本帝国軍の制服を着る。


ーやだなあ…。

俺、このアーミーグリーンの制服好きじゃねえんだよなあ。

どうせなら海軍のが良かったなあ…。

って、それだと、真っ白けで、英の制服と大して変わんねえか?


ブツブツ思いながら、制服を着て戻ると、総統が勲章をつけた。


「少尉章と、戦功章だ。仲間を正気に戻してくれたからね。」


ーまあ、ある意味ね…。あんた達の言う正気は狂気だけどな。




龍介はその足で、亀一に会いたいと言い、亀一の部屋に行った。

亀一は、目に見えてやつれてしまったが、爆発物の組み立てで、少し気が紛れているのか、思ったよりは元気そうに見えた。


伊藤少尉が出ると、龍介は言った。


「きいっちゃん、いい知らせだ。」


「ん?」


「夕方、爺ちゃん達が来る。」


亀一の表情が目に見えて明るくなった。


「マジか!」


「マジで。俺も、許可を得ずに自由にそこら中に出入り出来るようになったから、全員に爺ちゃん達到着後の計画話して来る。

奴ら、少尉になった自慢に行ってるとしか思わねえだろう。」


「ほんとバカだな。」


「全くだ。でも、このバカ集団ともあと数時間でおさらばだ。」


「加納先生と、あと誰が来る?」


「母さん、お父さん、グランパ、大叔父さん、京極さん。

父さんは爺ちゃんの計画だと、戦闘機系で来そうな感じだから、後からになるのかもな。」


「ー国壊れるぞ、それ。」


嬉しそうに言う亀一に、心からほっとする。


「きいっちゃんの方はどう?」


「これ全部、いつでも起爆させられる。」


亀一の部屋には小さな爆弾が20個近くあった。


「流石きいっちゃん。遠隔で?」


「勿論。分かんねえ様に、このパソコンからパーツも頂いたしな。

このフロア程度なら一気に行ける。」


「爆弾1つの規模はどれ位?」


「そのドアが吹っ飛ぶ位だろう。」


「よし。じゃあ、それ全部頂戴。」


「言い訳どうすんだ。」


「きいっちゃんは聞かれたら、俺が持ってったって言やあいい。

後は俺が適当にごまかしとく。じゃ、計画言う。」


「ん。聞こう。」






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