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龍介くんの日常  作者: 桐生初
134/148

着々と進行中

しっかり既に掴んでいた親側の龍彦達は、龍介達が囚われている愛国の会の軽井沢のビルの前にあるホテルに滞在し、監視活動をしていた。


「どうだ、龍彦。」


交代で仮眠を取っていた真行寺と京極が起きて来た。


「最上階の角部屋が会長の部屋兼、執務室みてえだな。

二間続きだし、会長が見える。

他、2階から上は住居っぽいんだが…。

あのさ、おばさんとか居んだよ。婆さんとかも。」


京極も望遠鏡を覗き込んだ。


「ほんとだ…。なんだあ?家政婦かあ?」


「いや、そういうんでも無えんだよ。

掃除やなんかは、軍服着た奴らがやってる。

1階にレストラン的なもんがあるらしく、ちゃんとしたコックも居るのも確認できたし、そもそもあのおばさん連中は暇そうなんだ。

起きたら1階に軍服の男と食事に行って、飯食い終わったら、帰ってくんだもん。」


「ー家族って事かよ。」


「じゃねえかな。そんなのが結構居るんだ。

低層階に多いけどな。

顔写真から行くと、東大生の3人、K大生の5人だな。

親父らしきは居ない。おばさんとか婆さんだけ。」


2人の会話を聞いていた真行寺が言った。


「人質がてら、家族を呼び寄せたい人間にはそうさせてやってるのかもしれんな。

午後にはしずかちゃんと加奈ちゃんが来てくれるそうだが、一応竜朗にも報告しておこう。」




竜朗に報告すると、直ぐに加来が反応した。


「そう言えば、先に拉致された東大生3人とK大生5人は、1ヶ月後に捜索願いが取り下げられてます。

なんか妙だなとは思ったんですが、全員、父親の仕事の地位が高いので、世間体の問題かと思ったんですが。」


「ふーん…。母親だけは行き、親父は恥ずかしくて女房と息子捨てたか。ちょっと聞いてみっか。」


竜朗は早速人を手配し、その8人の父親に話を聞きに行かせ、その旨、真行寺に報告した。


聞いた真行寺もあとの2人も露骨に嫌な顔をした。


「息子が洗脳されちまったら、死ぬ気で正気戻せよ。何やってんだ、その親父も母親も。」


京極が言うと、龍彦が嫌そうな顔のまま言った。


「最近多い、母子一体型。

親父は仲間外れってヤツじゃねえの。

いい家のインテリくんに多いらしいぜ。」


「なんだよ、真行寺。随分日本の家庭事情に詳しくなったな。」


「ちょっと日本で事務仕事やってたろう?

普通の外務省の人と話したら、

『最近の若いヤツは…なんて、自分が年取っても言うまいと思ってたけど、最近のはなんかもう次元が違う。

ママ弁当誇らしげに持って来て、ちょっと政治家に付いて、海外に外相訪問の前の打ち合わせしてきてくれなんて言うと、母に相談してからでいいですかなんて言う。

それがザラだ。

特に成績優秀な一流大学出に多いから、尚嫌になる。もうお前いいって言うと、翌日から拗ねて出て来ない。

情けなくて涙出てくる。』

って言ってたからさ。」


「うえええ…。外務省舐めんなよだな。」


「ほんとだよ。」


真行寺も、気持ち悪そうに言った。


「自分で考える力を奪う育て方をしたんだろうな。

それなら洗脳もし易いだろうし、母親も、子供と一緒に居られるならと、正す前に賛同してしまうんだろう。」


「そうなんだろうね。

お、ツー事は、龍介が上手く洗脳されたフリをしてるって事は、俺たちも呼ばれるって事だな。

あいつ、それ目的で気に入られてるな、親父。」


龍彦がニヤリと笑ってそう言うと、真行寺も同様にニヤリと笑って頷いた。


「全く、龍介は自分の頭でなんでも考えて行動できる、頼もしい、いい子に育ってくれたもんだ。少々末恐ろしいがな。」




その頃、末恐ろしい龍介は、自分から言い出すまでも無く、梅村の方から、反抗的な態度の為、地下3階の隔離部屋に入れられている少年達の説得を頼まれ、次々に龍介達側につかせていた。

高3までは上手く行った。

しかし、問題は大学生達だった。

未だ反抗的な態度は崩さずにいるものの、もう3ヶ月もこんな所に閉じ込められていて、本人達も何がなんだか分からなくなっている様に見えた。


「ここ出ましょう。その為の手段と思って…。」


亀一や他の少年達と同じ様に説得を試みたが、彼は虚ろな目で言った。


「出られる気がしないんだ…。

それにさ…。

なんとか従って堪るかって踏みとどまってはいるけど、奴らの言う事が段々尤もな気がして来ちゃったんだ…。」


「ー確かに、反日映画とかドラマとか作ったり、反日教育したり、何かっていうと、直ぐ日本の国旗焼いたりして、頭には来ますよね。

俺も、中国と韓国は正直好きじゃありません。」


「うん…。口で言って駄目ならって考え方もありかなとか思っちゃってさ…。」


「でも、それとこれとは別なんじゃないでしょうか。

結局、戦争になったら、それを先頭でやっている人間が死ぬんじゃなくて、一般庶民が死ぬんじゃありませんか。」


「そうなんだけど…。

だけど、憲法は?

あれは確かにお仕着せだ。

奴らの言ってる事は間違ってない。」


「それはそうかもしれません。

憲法がお仕着せで、たった8日で作られたというのも、事実です。

だから、それに対してどう思うか、色んな意見があっていいと思います。

逆に、あいつらが、それだけを論じて、憲法改正すべきだって訴えてるなら、俺もなんとも思いません。

日本は民主主義ですから、色々な考え方の人間が居るべきだし、それを自由に主張していい。」


「うん…。」


「でも、その憲法改正を、みんなで話し合って、議論し尽くして決めるのでは無く、軍事クーデターを起こして、その上で憲法改正して、日本を戦前の様な軍事国家にして、他国を武力で掌握しようとするのは、間違っていませんか。

日本がそんな国になったら、俺たちは学校にも行けず、戦争に駆り出され、日本も攻撃され、家族が死ぬかもしれません。

民主主義のままでは軍事国家の統制は計れません。

となると、思想弾圧も厳しくなるのは目に見えている。

違いますか。」


その瞬間、虚ろな目に生気が戻った様に見えた。


「そっか…。そうだよな…。

分けて考える事も出来なくなってた…。

もう考えるの止めそうになってた…。

そうだ、そうなんだよ。

あいつらのそこが間違ってるし、この国をぶち壊す様な軍事クーデターなんかに加担しちゃ絶対にいけないんだ。」


龍介がホッとして微笑むと、大学生は起き上がり、龍介の両肩に手を置いた。


「ありがとう。目が覚めた。で、俺は何をすればいい?」




その日の昼食から、龍介と寅彦だけは、食堂で昼食を摂って良くなり、部屋も、龍介だけは地下から3階に移される事になった。


「きいっちゃんは駄目なんですか?」


龍介が橘に聞くと、橘は申し訳なさそうに答えた。


「君の幼馴染みだっていう事で、俺からも、少佐に頼んでみたんだけど、まだ早いって判断でね。

確かに、長岡君担当の伊藤少尉の話だと、まだ微妙な所があるみたいなんだ。

確かに頭はいいし、なんでもよく覚えてくれて、思想テストでも好成績ではあるんだけど、気分の波があるみたいでね。

時々やりたくないって言って、ベットから出てこなくなっちゃうそうだから、まだもうちょっと時間が必要かなって話でさ。」


亀一は土台、嘘がつけない。

ここで洗脳されたフリをしているというのは、嘘をつき続ける事だ。

それだけでも亀一にとっては相当辛い事だろう。

さっき会った大学生の、全てを諦めてしまった様な虚ろな目を思い出し、龍介は胸が苦しくなった。


ー早く出ないと…。きいっちゃんが持たない…。


「あの、きいっちゃんは、理系なんです。メカとか凄い得意なんですよ。」


「へえ。」


「気晴らし程度に、そういう事やらせてやってもらえませんか?」


「メカってなんだろう…。」


「なんでも行けますが、大日本帝国軍のお役に立つ事なら、武器かな?」


「武器かあ…。武器渡す訳にはいかないなあ…。

でも、ちょっと少佐と少尉に話してみるよ。

少尉立会いの下なら、組み立てで弾薬無しなら良いって許可が下りるかもしれないし。」


食堂での食事の許可は下りたものの、結局は2人の担当指導員と同席だし、食堂には監視カメラも設置され、先ほど、ナフキンをわざと落とし、拾うのを装い確認した所、テーブルの下に集音マイクもあった。

部屋よりも格段に監視率が高い。

これでは寅彦としたい話も出来ないので、龍介は当たり障りの無い会話で、指導員達から情報を引き出して行くしか無い。


「武器、やっぱりあるんですか?」


敢えて子供の様にあっけらかんと楽しげに聞いてみる。


ー多分、俺位の年齢の男なら、武器に興味があって当たり前だろう。


という考えからだったが、指導員達もそう思った様だ。


「あるんだよ、勿論。

俺たちは入れないけどさ。

少佐以上にならないと立ち入り禁止なんだけど、地下2階と地下4階は全部武器庫なんだ。

エレベーターすらロックで止まらない様になってるから、セキュリティーもバッチリなんだ。」


「へえ、凄え。そんなにあるんだあ。セキュリティーもかっこいいですね!」


子供っぽく目を輝かせつつ思う。


ーんなセキュリティー、寅に掛かれば、なんて事ねえだろうに。


寅彦もそう思った様で、必死に笑いを堪えている。


「橘さん達も、武器を使った訓練とかしてるんですか?」


「俺たちは少しだけ。何?加納君、やりたいの?」


「やりたいです。銃なんて触った事ねえもん。」


また笑いを咬み殺す羽目になる寅彦。


ーバリバリに扱ってるくせに…。


「午後、家への電話が済んだら、総統がお会いになるそうだから、その時頼んでみたら?

何せ、君は今日の午前中だけで凄い仕事したんだから。

20人もの人間を改心させたんだからね。

きっとご褒美に聞いて下さるよ。」


「やったー。」


ー龍、お前を知ってる俺としては鳥肌もんだぞ、それ…。


寅彦の顔が今度は引きつってしまった。


そして、寅彦の顔の引きつりの理由も分かっている龍介は、寅彦と2人で話す方法を考えていた。


食事が終わったら、直ぐに梅村の部屋で、竜朗に電話をかける事になっている。

その後、そのまま梅村と総統とかいう男の所へ行く事になっている。

それから寅彦に会いたいと言っても、今度は夕食で会えるだろうと言われてしまうだろうし、逆に何故そんなに頻繁に会いたいのかと、疑われるのも得策ではない。


食堂で毎食時会えるのはいいが、本当に話したい事は却って話せなくなってしまった。


ーん~、カメラもマイクも無さそうで、不自然じゃないっつーと、やっぱあそこしかねえよな…。


龍介は食べ終えると寅彦に言った。


「寅、トイレ行かねえ!?」


寅彦の顔にはしっかりと、こう書いてあった。


ー今度は連れションかよ!キャラ崩壊もイイトコだな、龍!


しかし、一応龍介の意図は分かる。

素直に頷き、2人で仲良くトイレへ…。


監視カメラやマイクはやはり無い。

龍介は他に人が入っていないのを寅彦と素早く確認すると、早口で言った。


「エレベーターのロック、外せるか。」


「確認しとく。俺もパソコンで遊びたいっつって、なんとかパーツ集めとくわ。」


「流石。頼んだぜ。他に拉致られて閉じ込められてる奴は居ない?」


「居ねえな。」


「なんか食堂におばさんとかお婆さんとか居たけど、アレは橘達の?」


「その様だ。橘、俺の担当の大塚、柊木担当の佐藤、あと5人の軍曹って指導員の位の奴らが2階に住んでて、ファミリータイプっつーか、まあ、部屋2つにリビングダイニングとキッチン、トイレ風呂って間取りの所に住んでる。

そいつらのお袋とか婆ちゃんなんだろう。」


「俺が行く3階の部屋の間取りは、もっとでっかかったな。他、誰が住んでる?」


「そこはきいっちゃんの担当の伊藤少尉っていう奴が女と住んでるっぽい。

2階は少尉階級の部屋割だ。

人が入ってんのは、伊藤の他にもう一人。

あとは入居してねえ感じ。

龍は少尉になるんじゃねえか?」


「少尉ねえ…。こんな所の少尉になっても嬉しかねえが、まあ好都合だな。」


そこで人が来てしまったので、話は終わり、龍介は橘に連れられ、梅村の部屋へ行った。


「加納君、素晴らしい活躍だな。

あの20人全員がやる気になって、我が軍の思想や計画に賛同し、勉強し始めてくれているよ。

総統も大変なお喜び様だ。

長岡君と加来君からの申し出も、君からという事で許可しよう。

長岡君は、爆発物の設計、及び、組み立てがしてみたいという申し出があったそうなので、材料を揃えておかせた。

まあ、起爆装置は無いが、そこは許してくれたまえ。」


ー起爆装置なんか付いてなくたって、きいっちゃんなら爆発させられるぜ…。


いつも通り笑いたいのを堪えながら、神妙に頭を下げる。


「そうですか。これで、勉強にも身が入ると思います。有難うございます。」


「うむ。後ほど総統から大変名誉なお話があるはずだ。

さて、ご自宅への電話だが、分かっているね?

賛同してくれる様子が無ければ、その場でこちらから切らせて貰う。」


「はい。」


そして、こっちの情報を出しても、多分切られる上、龍介の立場は元に戻ってしまうのだろう。


龍介は深呼吸をして受話器を取った。


ー爺ちゃん、頼むぜ…。







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