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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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竜朗達の調べとまりもの心の声対策

もう既に深夜を回っていたが、竜朗達は加奈と加来の報告を聞いていた。


まず加奈の報告から。


「顧問の仰る通りでした。

全国の名門と言われる中高、及び大学から其々、成績上位トップ5が軒並み、龍君達と同じ感じで、下校途中に鞄と携帯電話を残し、姿を消しています。

全部で49人ですね。

東大、京大、K大、W大。大学はこの4つ。

全部法科で、男性ばかり。

学年は3年生。これで20人です。」


大学3年というと、そろそろ進路を考え始める時期だ。翌年には就職活動を控え、迷いが出そうな学年ではある。


「中高は英、櫂英、国立筑波根、都立高で有楽町高校、地方では九州櫂英、この5つの学校から英以外は5人づつ。

そして、まりもちゃん以外、全員男の子です。

高校生は都立有楽町高校の3年生だけで、あとはみんな中学3年生ですね。」


竜朗が頷いた。


「なるほどな。洗脳しやすそうな年代と、迷いが出そうな年代か。上手いとこ突きやがる。それで、加来の方はどうだい。」


「先ほど顧問が仰った4つの監視組織の中で、活動的に軍隊を作りそうなのは、3つに絞られました。

ただ、この左翼過激派組織に関しては、資金繰りが上手く行ってません。

宗教かどうか微妙な位置づけで、収入源は信者の様な信奉者からの寄付ですが、過激な集会やデモなどの活動費で消えてしまっているようです。

政治家や企業などのバックアップもありませんし。

公安の報告でも、やる事言う事が過激な割に、郊外のボロボロの一軒家が本部であったり、集金が下手な様で、相当困窮している様子があります。

50人もの男を収容しておく余裕も伝手(つて)も無いと思われます。

よって、外してもいいかと思います。」


「だな。他は?」


「もう一つは完全な新興宗教かと思われます。

少々思想がカルト的で、若者に信者層を広げている様で、公安にもマークさせていますが、悪魔崇拝的な犯罪は犯しても、少年を軍人にする目的で拉致するとは考え難いので、これも除外して宜しいかと。」


「うん。残る1つが臭そうか。」


「はい。最近急激に成長してきた極右組織です。

思想も憲法破棄。中韓に武力行使と過激ですし、構成員の数はここへ来てうなぎ登りです。

まあ、最近、中韓の喧嘩腰も目立って来て、ヘイトスピーチも盛んになって来ていますから、分からなくは無いのですが、この1年で構成員数は公安の調べでは、600人という話です。

これも本部に寝泊まりしている人数だけですから、地方の支部や通いの人間を合わせたら、1000人は下らないかもしれません。

名称は『愛国の会』で、総統と呼ばれるトップは、双葉グループ会長です。」


真行寺が難しい顔になった。


「双葉といえば、日本を代表する財閥だ。

資金源なんて不景気だろうがなんだろうが、金は湯水の如く使える。

資産も相当額だしな。

それに確かにあそこの会長は昔からガチガチの極右だ。

この間自殺した好川議員とも三代前から代々の友人関係だった。

好川の思想は、双葉の会長の影響という話もある。」


「はい。その様で、軽井沢の広大な敷地に、大きなホテルの様な建物を建設。

地上12階、地下5階建てです。

その建造物が建った直後から、大学生の失踪が始まっていますし、本部や支部からも、人がそっちに流れているようです。

そこには公安の調べですと、800人程が寝泊まりしているとの事です。」


加来が報告している間、調べを進めていた加奈が引き継いだ。


「その建物には、会長も移り住んでいる様です。

双葉重工業の銃器関連の工場長が頻繁に出入りしている様ですね。

彼の工場の稼働率は、自衛隊からの受注分より遥かに多い様です。」


竜朗の眉間に皺が寄った。


「双葉重工業の銃器部門が自衛隊の受注で作ってんのは、多岐に渡るぜ。

拳銃、自動小銃、戦車。

武器弾薬は、相当溜め込んでると見といた方がいいな。」


竜朗が指示を出すまでも無く、龍彦と京極が立ち上がった。


「お義父さん、早速そこ張り込んどきます。」


真行寺も立ち上がる。


「俺も行っとく。」


「顧問!?顧問はここで指示に回って下さいよ!俺が行きます!」


「何バカな事言ってんだ。お前が顧問だって言ってんだろう。

お前はここに残って指示しろ。

それに他の図書館の業務もあるんだから、動くんじゃない。

極めて怪しいが、まだ確定では無いんだから。

単なる営利誘拐で、身代金要求の電話でも来たらどうするつもりだ。」


「はい…。」


3人が出て行くと、気を取り直して、早速指示を出した。


「愛国の会の金の流れ、徹底的に調べよう。

それから、しずかちゃんと優子ちゃんは仮眠取った後、頼みがある。

熟睡して、お肌に支障が出ねえ様にしてくれ。吉行は…。」


「私は国外に対して、愛国の会が動いていないか調べて来よう。」


流石分かっている。

竜朗は嬉しそうにニヤりとした。


「おう。悪いな。」


みんな動きだし、竜朗は和臣と目が合って、ハタと困った。


「あのう…。僕は?」


「か、和臣な…。んー…。」


「ん?」


「おめえもうち帰って、ゆっくり休んで、龍太郎手伝ってやってくれ。」


「それでいいんですか?」


「うん…。用が出来たら呼ぶから。」


「はあ。分かりました。」


和臣が優子と帰宅し、ほっと胸を撫で下ろす。

龍太郎程の被害は出さないので、無下にはできないが、和臣も、こういう作戦の様なものには、あまり向いていない。


ー自衛隊2人が揃ってアレって大丈夫なのかね…。


思わず不安なりながら、竜朗はタバコをくわえた。




龍介は、亀一はもう大丈夫だから出してやってくれと頼み込み、亀一も頑張り、賛同し始めたというアピールをし、元の地下1階の部屋に戻れた。

もう遅いからという理由で、まりもとの面会は明日にと言われたのだが、心配だからと押し切り、今度はまりもの部屋に向かう。


ーだってあいつ、直ぐ洗脳されちまいそうだもん…。素直でいい奴だから…。早く手え打たねえと…。


しかし、部屋に入った途端、それは杞憂であることがよく分かった。


「あああ!加納君だあ!

夢にまで見た加納君だわ!

加納くーん!会いたかったよお!

怖かったよお!

なんなの、ここの人おー!

訳分かんない事ばっかり言ってるよおー!

助けてえー!」


まりもの指導員が疲れ切った顔で言った。


「この通りでさ…。ずっとこればっか言ってるんだ。

俺や梅村少佐が何言っても、聞いてくれないんだよ…。」


心の声だだ漏れのお陰で、洗脳は免れているようだ。


「抱きついてもいいかしら!?抱っこされたい!安心したいよお!」


龍介は深いため息を吐き、眉間に皺を寄せながら、目をギュッと閉じて、意を決した様に、両手を広げた。


「来い!」


「ええ!?いいの!?やったあ!」


龍介に飛びつく様に抱きつくまりも。


「やった!やった!加納君に抱っこよお!」


龍介は既に疲れた顔で言った。


「少し2人にして貰えますか…。落ち着かせたいので…。」


難なく2人の指導員は退場。

しかし、問題は残る。


ーこいつのこの心の声が問題だな…。

本当の事話しちまって、だだ漏れされたらえらい事だな…。

計画が水の泡になっちまう…。

でも、洗脳されても困るしな…。

だけど、洗脳されてるフリなんて、心の声で台無しだろ?

どうすりゃいいんだ…。


龍介はまりもを抱きしめたままベットに座らせると、どうにかまりもを離して、まりもの目をじっと見つめた。


「あーん!やっぱりかっこいいなあ!素敵!

抱っこも気持ち良かったあ。

どうしてもう終わりなのかしら。

やっぱり唐沢さんとお付き合いしてるから?」


のべつ幕なしにだだ漏れる心の声…。


そして、しっかりと龍介の手を握り、またブツブツ…。


「わあ、加納君の手っておっきい。

骨張ってて、凄く形のいい手なんだあ。

指長~い。手までかっこいいのねえ。

カッコ良くない所なんかないんだわ。

いいなあ、唐沢さんて…。」


ー柊木のこのブツブツ…。

あの指導員も疲れ切ってたな…。

それに多分、人の話聞いてねえってのも、これでバレバレだしな…。

かなり処置無しタイプだよな…。

かと言って、きいっちゃんみてえに、薬打った所で、これは止まんねえだろうし、逆にもっと酷くなる可能性もありだろう。

そうなると、きいっちゃんにやったみてえな強制洗脳はやらねえな…。

一層の事、思想云々置いといて、ここに役立つと分からせる作戦で、こいつは守るってのはどうだ。

そういやこいつの得意分野ってなんだっけ?


「柊木。」


「はい!」


「お前の得意分野って何?」


「私は理科系です。実は看護師や救命士位の資格なら、今だって試験受けられれば、通るよ?」


「医療系って事だな?」


「うん。」


「その勉強好き?」


「うん!大好き!加納君位!」


引き攣る龍介の笑顔。


「そ、そうか…。じゃあ、思想系の話とかは?」


急激にまりもの顔が曇った。


「ああ…。ここの人達が言ってるみたいな?

ああいうの、嫌い…。

確かにどうでもいい事だなんて思わないけど、でも、正直よく分からないし、興味無いの。」


「そういう話なると、俺の事考えてんのか?」


「うん。つまんないから。」


これを逆に利用する事に決めた龍介は、まりもに微笑みかけながら言った。


「じゃあ、医療系の勉強させてもらえるようにしてやる。あとは俺を信じて、俺の事だけ考えてろ。」


「はい!」


龍介は離してくれないまりもに、また会えるようにして貰うからと言って、まりもの部屋を去り、梅村に直談判した。


「柊木は、思想的な話は苦手なんです。

そっちはおいおい俺から賛同させる様にしますから、取り敢えず、あいつが得意で、尚且つ、大日本帝国軍でお役に立てそうな事というと、医学なんです。

そっちの方面は今の段階でも、看護師や救命士並みの知識はありますので、そっちでまずお役に立てるように、医療系の勉強をさせてやって頂けないでしょうか。

それで機嫌が良くなって、落ち着いて来たら、俺の方から徐々にこちらの良さと正しさを説明する様にします。

彼女は俺の言う事ならなんでも聞いてくれますので。」


「いいだろう。早速医師を教師として派遣させる。

加納君、君は本当に素晴らしい。

明日朝一番で、この事は総統にご報告申し上げる。

朗報を待ちたまえ。」


「はい。」


龍介はまたニヤリを噛み殺しながら頷いた。


ーこれで柊木の洗脳はどうにか大丈夫そうだな…。後は寅とのコンタクトだな…。




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