表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍介くんの日常  作者: 桐生初
131/148

仲間達の様子

龍介が逆洗脳作戦に出ている頃、寅彦は制服のポケットの奥に作ってあった小さなポケットからUSBを出した。

この部屋には、不思議な事に監視カメラは無い。

ただ、パソコンを立ち上げたのは、監視している奴らには分かるし、どこを閲覧しているのかも分かるのは、さっきモニターに出てきた、梅本の話で予想がついた。

モニターの上にはカメラが付いているが、それはモニターがオンになっている時しか作動しないし、双方向カメラであって、24時間監視はしていない。


「コンセントから立ち上げたって分かるって仕組みだろ?」


寅彦はコンセントを抜き、主電源を予備電源に切り替え、しばらく様子を見た。


「キャッチされてる様子は無えな…。よし。」


そして、先ほどのUSBを挿す。

これは寅彦特製どこでもネットオーケーの優れものである。

ネットに必要なソフトも入っているし、電波がかすかにでもあれば拾ってどうにか出来る。


なんとか監視している本部にアクセス出来た。

この建物の見取り図を探していたら、部屋割り表を見つけた。


「龍が居んのか!きいっちゃんも!?ーは?なんで柊木…?」


謎のまりもは置いておき、見取り図を調べようとした所でノックの音がしたので、素早くUSBを抜き取り、パソコンのコンセントを入れ、立ち上げて、素知らぬ顔。

寅彦担当の指導員が入って来た。


「自習してんの?偉いじゃん。」


「はあ…。色々知りたくなりまして…。」


全く別の意味なのだが、この指導員も人が良く、寅彦の都合のいい方に信じてしまった様だ。


寅彦も便宜上、龍介と同じ作戦を取っていた。




一方亀一は、例に寄って素直な性格と、口で対抗というのが出来ないせいか、暴れまくってしまっていた。

頭に来て、パソコンを投げて壊す。

梅村が映れば、モニターを椅子で叩き壊す。

慌てて止めに入ってきた指導員を殴る。

すると、指導員よりも明らかに屈強そうな男が4人現れ、亀一を取り押えると、鎮静剤を打ち、別室に運んで行った。


ーなんだ…。どこ行くんだ…。


亀一は、二重扉の鉄製の頑丈な部屋のベットに寝かされ、拘束された。

そして、男達はモニターを点けた。

大日本帝国軍のプロモーションビデオが流れ出す。


ーこれを延々と見せて聞かせて、洗脳しようってのか…。なるほどな…。


亀一は1人にされた。


ーこれは洗脳されたフリすんのが得策って事か…。

でも、洗脳された事になったとして、活路は見いだせるのか…。

ああ、もう。龍だったらどうすんのかな…。


一抹の心細さを感じながら、亀一はぼんやりとモニターを眺めていた。




そしてまりもはずっと泣いていた。

ある意味、梅村の言う事も、パソコンの情報も意味を成していない。

そして泣きながら、ひたすら心の声がだだ漏れしている。


「怖いよお、嫌だよお、帰りたいよお。

加納君はどこなのお。せめて加納君に会いたい。

いや、せめてじゃないわね。

すんごく会いたいよお。

加納くーん!助けてえー!」


こればっかりずっと言っていて、梅村が何を言おうが、関係無いし、多分聞いていない。

流石に梅村も困り果てた顔をして、モニターの向こうで、無線を使い、橘を呼び出した。


「加納龍介君はどうかね?」


橘は嬉々として答えた。


「凄いやる気になってくれてます。

まるで吸い取り紙の様に、言う事全部覚えてくれて、もう私では足りないかもしれません。

嬉しい事にもっと教えてくれと言って、帰してくれないんですよ。

素晴らしい子です。」


「という事は?」


「はい。総統のお考えに心酔しています。」


梅村もまた満足そうに笑った。


「では、説得を試みるように言ってくれるか。柊木まりもさんと、長岡亀一君だ。」


「承知しました。少々お待ち下さい。」


橘の話を聞き、計画通りだと不敵に笑うのを必死に我慢しながら、心配そうで、不安そうという顔を作った。


「是非会わせて下さい。この素晴らしい思想をあいつらにも教えてやりたいんです。」


橘は龍介を嬉しそうに見て、頭を撫でるとそのまま梅村に伝えた。


「素晴らしいな、加納君は。彼は2人に引き合わせた様子次第では、総統にお会い頂くべき逸材かもしれんな。」


「はい。自分もそう思います。彼は家族を呼びたいそうなので、それもお聞き届け下さい。」


「分かった。合わせて総統にお伺いしよう。」


無線が聞こえた龍介は、あまりにトントン拍子に計画通りに進むので、笑いを堪えるのに苦労した。


ーこいつら馬鹿なんじゃねえのか?

なんでこんな簡単に騙されるんだ。

あ、そっか。俺の事子供だと思ってるからか。

なるほど。普通の子供は欺くなんてしねえのか。

お生憎様だったなぁ。あはは!。


もう笑いだしそうで堪らなくなり、自分の足をつねる羽目になってしまった。



龍介は、橘に連れられ部屋を出た。

窓も無い事から、そうかなと思っていたが、ここは地下の様だ。

エレベーターが表示しているここの回数は、地下1階となっている。

亀一が居る所は地下3階らしく、橘は地下3階のボタンを押した。


「これからまず長岡亀一君の所に行くけど、びっくりしちゃうだろうから、先に言っておくね。」


ーきいっちゃんに何かしたのか…。


「長岡君、暴れちゃってね。

指導員も殴ってしまったんで、鎮静剤を打って、拘束させて貰ってる。

君の説得が効いて、我々の教育を受け入れてくれる様になったら、直ぐにそれは止めて、元の部屋に戻すから。」


ーきいっちゃん…。暴れちまったのか…。そうだよな…。あの人は演技なんて出来ねえもんな…。


そんな事をされた亀一を思うと、胸が締め付けられるように苦しく、怒りを爆発させそうになったが、龍介は唇を噛み締めて、必死になって怒りを抑えた。

ここで怒りだしては、脱出計画が振り出しに戻ってしまう恐れがある。

今の所、龍介は大日本帝国軍のバカな大人に好かれて居なければならない。


橘は龍介の顔を覗き込んだ。


「大丈夫かい?仲のいい友達なんだよな?」


「ー幼馴染みなんです。

昔から、癇癪持ちな所があって…。

でも、物凄く頭のいい人なので、納得すれば誰よりもここの良さも分かるし、お役に立てると思いますから…。」


そして、駄目押しで更に演技に入る。

橘をすがるようにして見つめた。


「だから、殺したりしないで下さい。必ず説得しますから。」


橘はもうすっかり龍介の虜になっている。

可愛くて仕方が無いと思っているのは、目を見れば分かる。

橘は驚いた顔の後、龍介の肩を叩いた。


「そんな事しないよ。大丈夫だから。友達思いなんだね。本当に君はいい子だ。」


ここまで人のいい橘を騙しているのも、段々気が引けてきたが、この人だって、洗脳されたにしろ、折角の頭脳を持ちながら、荒唐無稽な計画に加担し、日本を混乱させようとしている人間の1人だという側面もある。


ーこの人だけは、なんとか正気に返してえな…。


考えている内に、亀一の部屋に着いた。


「きいっちゃん…。」


こればかりは隠し様が無く、ぐったりとベットで横になって拘束されている亀一を見たら、切なくなって駆け寄った。


「龍!?居たのか…!」


「うん。柊木と寅も居るみてえだ。大丈夫か、きいっちゃん。」


「龍…。」


亀一の目から涙が溢れ落ちた。


「どんどんバカになってくみてえで、怖い…。」


龍介には、亀一の気持ちが痛い程分かった。


頭のいい亀一が恐れるのは、自分の思考が奪われる事だ。

なのに、薬を打たれ、たった1人で身動きも出来ないこの部屋で、只管、大日本帝国軍のプロモーションビデオを流し続けられては、亀一と雖も、思考が停止してしまうかもしれない。

龍介も泣きそうになりながら、室内を素早く確認した。

ここには、監視カメラが一つある様だ。

しかし、マイク付きでは無い。

龍介は、亀一の手をしっかり握ると、橘に言った。


「これ、外してやってもらえませんか…。話なりませんから…。そのビデオも一回止めて頂きたいんですが…。その上で2人きりにして欲しいんです。」


橘は、梅村に無線でお伺いを立てると、許可を出した。


「何かあったら、直ぐ呼んでね。監視はしてるけどさ。君に何かあったら困るから。」


ーきいっちゃんの事、獣扱いすんじゃねえよ!!!。


と、よっぽど言いたかったが、なんとか我慢し、橘を出て行かせると、龍介は監視カメラから自分の口の動きが見えない角度に座る為、ベットの上の亀一の足元に座った。


「きいっちゃん、カメラから見えねえようにした。起きれるか?」


「うん…。」


亀一が起き上がるのを手伝うと、龍介は亀一に話し始めた。


「きいっちゃん、俺もこんなのは愚の骨頂だと思ってるし、バカとしか思えねえ。

しかし、囚われてる上、状況も分からないでは、脱出も不可能だ。

ここは地下3階、俺の部屋は地下1階というのは今分かったが、それ以外の情報は何も無え状態だ。

軍を名乗ってる以上、それ相応の準備はあると考えると、無理に脱出すんのも危険だ。

だから、俺は懐柔作戦に出てる。」


「彼奴らに洗脳されてるフリしてんのか…。」


「うん。彼奴らに気に入られる様にしてる。

信用させて、ここの状況を探りだす。

それに、奴らを信用させると、家族を呼んで、一緒住めるんだそうだ。」


「え…。」


龍介がニヤリと笑って、亀一の膝に手を置いた。


「爺ちゃん、母さん、お父さん、グランパに大叔父さんだぜ?戦争出来んだろ。」


亀一がやっと笑った。


「そりゃいいな。」


「うん。だから、きいっちゃんも、腹ん中で真っ赤な舌出して、あいつら嘲り笑ってやりながら、ここの思想受け入れたって見せ掛けろ。

気に入られるの迄の演技は俺がやる。

そんでなんとか寅と接触して、この中の事探る。

きいっちゃんはその頭脳で彼奴らの思想、全部覚えてやれ。

出来るか。」


「勿論。やるぜ。」


「なるべく会える様にする。1人じゃねえからな?」


亀一は涙が出そうになった。

龍介はいつもこうだ。

どんな状況でも必ず活路を見出し、前向きに明るく対処する。

そして、亀一達を励まし、心の支えで居てくれる。

どんな状況下であっても、サバイバルキャンプの時ですら、亀一と寅彦は結局の所、いつも龍介の頼もしさと明るさに助けられていた。

龍介だって辛かったり、嫌だったりしたはずだった。

だが、龍介はいつもそれをプラスに変えた。


今回もそうだ。

こんなバカげた頭に来る集団に拉致され、四面楚歌と言ってもいい状況ながらも、龍介は咄嗟に作戦を思いつき、逆に欺く事で奴らを笑って、そのストレスを解消してしまっている。


「龍。」


「ん?」


「お前が居てくれて、ほんと良かった…。有難う…。」


龍介は笑った。


「やめろよ。きいっちゃんらしくもねえ。全員でここ出るんだ。俺としてはここぶっ潰してからにしてえけどな。」


亀一もニヤリと笑って頷く。


「俺もだ。」


「よし。計画に追加だ。

それと、きいっちゃんの勧誘が上手く行くと、総統とかいう奴に会えるかもしれねえ。

多分親玉だろう。これも探って来る。」


「ああ。」


「じゃあな。せめて元の部屋には戻して貰えるよう、頼んどくから。」


「俺も、誰よりも信用してる龍が信用してるならっつって、心酔したフリして、全部暗記してやるよ。」


龍介と亀一はニヤリと笑って、拳と拳を合わせた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ