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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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囚われの龍介

目を覚ました龍介が居たのは、真っ白なベッドの上だった。

鎖や手錠などの拘束具は付けられていない。


特に怪我もさせられておらず、きちんとベットに寝かされていた。

部屋は5畳くらいの大きさだ。

ベットに机、机の上にはパソコン。

それにモニターがある。

テレビではないようで、リモコンの類いも無いし、スイッチを押しても何も映らない。

窓も無い。

龍介はパソコンを立ち上げた。

目に飛び込んできたのは、日本の国旗。

しかも、戦中に陸軍が使っていた旭日旗と呼ばれる国旗だ。


ーなんだこれ…。


そのあと、「ようこそ、大日本帝国軍へ!」と大きな文字で出た。


ーとんでもねえ狂信的な右翼団体に、拉致されたって事か…。


ネットは全く繋がっていない。

ひたすらその大日本帝国軍とやらの目的や概要、沿革などが出て来る。

仕方がないので見ていると、竜朗がこの間言っていた様な考え方だった。

日本国憲法はお仕着せで、侵略戦争は無かったとか、日本の歴史教育は自虐的過ぎて、間違っているとかから始まり、従軍慰安婦や南京大虐殺もでっち上げだと書かれている。

いつまでも謝罪と金を要求する中国や韓国を力で制圧し、ロシアから北方領土を奪還するために大日本帝国軍が作られたと言う。

その為に、国内のあらゆるスペシャリストを集め、また、有能な人材を育成すると続いている。

計画としては、まずは軍事クーデターを起こす気らしい。

その上で国政の掌握、中韓への軍事攻撃と続いている。


ーアホだな…。俺たちを誘拐して洗脳した挙句、この途方もねえ帝国軍だかなんだかの軍人にしようってのか。

でも、だからって、なんで俺と柊木なんだ…。


突然、モニターが点き、中年男性が画面に映った。

芝居がかった、旧日本軍の様な軍服を着ている。


「ようこそ、加納龍介君。」


「誰だ、あんた。何故俺を知ってる。」


「私は梅村少佐だ、君たちの教育係である。

困った事があったら、なんでも相談してほしい。

君を知っているのは、あの英学園で成績が学年で5番以内だからだ。

調べさせて貰ったが、剣道の全国大会でも、ずっと優勝しているそうだね。

文武両道に優れているとは実に素晴らしい。

君が一番の期待の星だ。」


「英の中3で成績5番以内の奴、全員拉致したのか。」


「拉致とは人聞きが悪いな。

しかし、まあ、今の所、意に反しての面が強いだろうから、甘んじて受けよう。

しかし、君も直ぐ、我々の考えに賛同し、大日本帝国軍に入れた事を誇りに思うだろう。」


「俺の質問に答えろ。」


「強気だな。悪くない。

君は司令官に向いているかもしれないな。

そうだな。四人だけになってしまったな。

もう1人の全教科満点の子は、身体が弱い様だ。

それで残念ながら外したよ。」


ーきいっちゃんは頑丈だ…。橋田の事か…。

て事は、きいっちゃんと寅は居るな…。

なんとか連絡取れねえかな…。


「他の奴らに会いたい。」


「それはまだ無理だ。でも、寂しくなったりしない様に、私も、指導教官も常に君の側に居る。」


ノックの後、同じ制服を着た若い男性が入って来た。

どう見ても、大学生位の年齢だ。


「紹介しよう。君専属の指導教官の橘君だ。」


「橘だ。宜しく。」


奇妙に感じる、張り着いた様な笑顔で右手を出した。

龍介は、その手は握らず、梅村少佐とやらを見据えた。


「あんたらの考え方には賛同出来ない。直ぐに帰してくれ。」


梅村は人の悪そうな、いやらしい笑みを浮かべた。


「まあ、ゆっくりしていきたまえ。直ぐに我々の思想が唯一無二に正しい事が分かる筈だ。」


モニターが消えると、橘という男が龍介を椅子に座らせ、廊下からワゴンで食事を持って来た。


真ん中にテーブルを出し、そこに並べながらさっきの笑顔のまま言った。


「俺もそうだったよ。

初めは、なんて荒唐無稽で馬鹿げた事をと思った。

でも、今では目を覚まさせてもらったと感謝している。」


「あなた、大学生だったんじゃ?」


「そうだ。東大のね。法律を学んでた。だから分かる。間違っている、お仕着せだとね。」


「日本国憲法は、確かに連合国側が考えた物だ。

たった8日で作ったとも聞いてる。

でも、日本国民には支持されてるし、戦争放棄っていう憲法9条は誇りにしていい法律だ。

日本を軍事国家になんかしたら、世界の警察のアメリカが黙っちゃいない。

世界中が第二次世界大戦を思い出して、総出で日本を潰しに掛かって来る。

あんた達はそこまで考えているのか。」


「いるよ。だから君たち優秀な頭脳が欲しいんだ。

ほら、食べなさい。

ここの食事は脳にいい物、農薬を極力使っていない、いい素材ばかり使って、一流のシェフが作ってるんだから。

毒や薬なんか入っていないから、食べなさい。

俺も一緒に食べるからさ。」


橘という男は、人は悪く無さそうだった。

多分、橘の様に、こうして拉致され、洗脳された人間の大多数は、素直ないい人間なのかもしれない。

だからこそ洗脳されやすいのだろう。


ーどうすんだ…。

反抗してんのは、キャラ的に全く苦じゃねえし、反論ならいくらでも出てくるが…。

ここを変えるなんて悠長な事言うより先に、ここを脱出する方が先決だ…。

柊木なんか簡単に洗脳されちまいそうだし、さっさとあいつらと合流して、出る手段を考えねえと…。


黙って頭をフル回転させている龍介を、橘が心配そうに見つめた。

落ち込んでると勘違いしたらしい。


「家に帰りたい?

分かるよ。

まだ中学生だもんな。

でも大丈夫。

君がここでいい成績を上げて、認められたら、家族を呼び寄せる事も可能だ。

俺の母親も来て、ここで暮らしてるよ。

だから直ぐに会えるから。」


龍介はニヤリと笑いたいのを必死に堪えた。


ー本当に呼び寄せたら、母さんに爺ちゃん、グランパに、可能ならお父さん、それに大叔父さんも来てくれそうだしな…。

こんな所、まさしく一瞬にして灰にしちまうぜ。

後悔すんなよ、コンチクショウ。


そして、ある作戦に出る事にした。

世にもかわいい、不安気なうるうる目で橘を見つめる。


「本当ですか…。本当に家族と暮らせるんですか…。うち大家族なんですけど…。」


「ご家族も我々に賛同してくれれば勿論だよ。

何人でもいいんだ。

俺の家族は、母しか賛同しなかったから、母だけだけど。」


「じゃあ、まず俺が賛同出来る様に、全ての事を教えて下さい。」


「素直ないい子だね。分かった。じゃあ、まず食べよう。」


洗脳されやすい橘は、龍介にも簡単に騙されてくれた。


ーいっちょ上がり…。

問題は、きいっちゃん達がどうしてるかだな…。

それと、柊木が俺の作戦が成功するまでの間、正気を保てるかどうか…。

とりあえず、家族はまだでも、俺が洗脳されてると騙せる段階になったら、あいつらに会わせてくれるかもしれねえか…。

俺だったらそうするな。

仲間から崩してく。

仲間が賛同したとなったら、引きずられるのが普通の人間だもんな…。

それを利用しない手は無い。

やっぱ、こいつらの考え方、全部覚えて、賛同しまくりポーズ作戦でいこう…。




龍介が作戦を固めていた頃、加納家は緊急対策本部となり、長岡家夫婦に、加来、真行寺に佳吾、それに知らせ受けて、京極と、文字通り戦闘機をぶっ飛ばして戻って来た龍彦と加奈が揃っていた。


加奈の顔色が物凄い事になっているのは、寅彦への心配だけでなく、京極の操縦が凄まじかったからに他ならないが、流石に今回ばかりは誰も突っ込めない。


竜朗が早速指示を出した。


「加奈ちゃん、来た早々の辛え所申し訳ねえが、今回拉致されたメンツの共通点を考えてみると、全員、中3で成績トップファイブの4人なんだ。

だから、全国の名門て言われる中高、大学で拉致っぽい行方不明者が出てねえか、探して貰いてえ。」


「はい。」


「了解しました。」


加奈と加来が、二間続きの奥の部屋で早速仕事にかかると、龍彦が言った。


「すずちゃんて子は無事なんですよね?何故外されたんでしょうか。」


優子が思い出しながら言った。


「すずちゃんが他の4人と違う所で、亀一から聞いた話だと…。

彼女は、腎臓が弱いらしいって…。

だから無理すると、直ぐに熱を出してしまうって…。

それがなきゃ、もっと勉強出来るんだろうに、可哀想だって言ってたわ…。」


しずかが唸りだした。


「身体が弱いから撥ねられるって…。軍隊じゃあるまいし…。」


真行寺が突然大声を上げて、手を叩いた。


「それだあ!しずかちゃん!」


「はあああ!どれですかあ!?」


すると、竜朗まで同様に大声を出して、手を叩いた。


「顧問!アレですね!アレ!」


「そうだ!アレだ!竜朗!」


2人だけ分かった様子で、アレだアレだと騒ぐので、佳吾まで怒鳴った。


「アレじゃ分からん!はっきり言いなさい!」


真行寺が物凄い早口で説明しだす。


「公安にもマークさせてる、危険思想の団体は、全国でおよそ500ある!

その中でも、極端に過激な思想で、戦闘に走りそうなのがおよそ30!

そこが拉致をしているというのは掴んだ事は無いが、構成人数が続々と増えている所が臭いんじゃないかと言っている!」


「なるほど。で、その内訳は?」


今度は竜朗が答えた。


「過激左翼が10。過激右翼が12。残り8は宗教系だ。構成人数がここ最近増えだしたのは、その中でも4つだ。」


それを聞いていた加奈が言った。


「私がさっきの方をやるから、貴寅さん、その危険思想団体の方、お願い出来ます?」


「了解。」


それが当たりでありますようにと大人達が祈りつつ、他の作戦や方針を出そうとした所で、襖がガラリと開いた。


龍太郎が立っている。


「おめえはいいよ!」


「お…お父さん!?俺だって龍達が心配なんですよ!?

なんで俺だけいいっつーの!?

吉行さんまで来てんのに!?」


「おめえが入ると、話がややこしくなって、作戦がパアになっちまうからに決まってんだろうが!

用が出来たら呼ぶから蔵で大人しくしてろ!」


「何言ってんですかあ!心配で仕事なんか手につきませんよ!」


すると、天敵の龍彦が、『あ!』っと声を上げた。


「お前、IH砲の銃作っとけ!」


「はあ!?」


「龍介達助け出す時に使うんだよ!さっさと作って来い!」


「なんで俺がお前の言う事聞かなきゃなんねえんだよ!」


一触即発でビッターンの応酬が始まるすんでの所で、しずかが立ち上がり、2人の真ん中に立って、龍太郎に言った。


「うん!それ、私欲しい!私の為に作って!

そして、出来るだけ小型化して、スカートの中のホルターに入るようにして!」


「しずか…んな事言われたって、俺だってさあ…。」


しずかには龍太郎の気持ちは、痛い程よく分かる。


しかし、竜朗が言う通り、この、作戦なんか一切無しで、龍介にですらマジギレされる計画性の無さと、行き当たりばったりは、現段階では邪魔でしかないし、実際、何度か竜朗が練りまくった作戦を滅茶苦茶にしている過去もある。


今出てこられては、一番困る男なのだ。


しずかは心を鬼にして、龍太郎をうるうるの魅惑の瞳で見つめ、ものすごく可愛い顔をし、涙を浮かべた。


「龍太郎さん、お願い…。龍を助ける為なの…。」


そしてほっぺにちゅ。


龍太郎、突如としてキリリとした顔になり、鼻息荒く言った。


「よし!任せて!

超~ちっちゃくても威力はそのままのIH銃を作って来るぜ!

しずかの為に!」


「お願い!龍太郎さん!だから大好き~!」


この大好きが、とてもお安い大好きである事に、龍太郎一人気づかない。

抱きついたしずかをデレデレと抱きしめ、龍太郎は去った。


皆、苦笑している。


京極が揶揄うように言った。


「流石伝説の女スパイ。」


「いやあ、もう錆びてますから。」


加来と加奈が同時に言った。


「出ました。」


竜朗がニヤリと笑う。


「流石早えな。聞こうか。」













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