龍介組長へ仕事の依頼
2人が帰宅し、話を聞いた竜朗は、腕組をして、何故かニヤリと笑った。
「よく調べたな。じゃあ、もうちょっと調べて、どこの業者が、その違法産業廃棄物持ち込んでるかまで調べて来な。顧問に頼んどいてやるから。」
「えっ?俺逹が?」
「そう。」
「なんで?だって歴然と違法だぜ?」
「そうだ。だが、ここで大っぴらに動いちまうと、1番悪い奴が逃げちまう可能性がある。
そこまで突き止めるには、お前らみてえな中学生がうろついてる位なら、向こうに捜査の手が入ったとは分かり難い。」
「公安の人とか、隠れながら調べるの上手いんじゃねえの…?」
「おう、上手いよ。
だけど、政府の管轄の組織が動いてるとなると、必ずどっかから耳に入るもんなんだ。
悪い奴の所にはな。」
「ー爺ちゃん…。もしかして、物凄い大物がバックに居るって読んでんのか…?」
竜朗は肯定も否定もせず、笑ったままタバコに火を点けた。
「寅が言ったな。ネットに繋がれてる機材が一個も無えって。この時代、そりゃ妙じゃねえか?」
「うん…。確かに…。」
「それにドーベルマン。
ヤバい事やってるからにしても、ドーベルマン2匹ってのは、金がかかるぜ。
寅、携帯電話の盗聴は出来たかい?」
「それが凄い防護壁で、まだ解除中です。
あと、7時間はかかるし、その防護壁を破った所で、ばれずに聞けるのが何秒あるか…。」
龍介はそれで分かったようで、あっと声を上げた。
「そうか…!。
そんなアナログな工場のくせに、その異様な防護壁を作る技術のアンバランス…。
誰かそういう事に詳しい人間が与えた携帯なんだ…。
ネットに繋がないのもわざとなんだ…。
こういう捜査を予期して…。
そして、そんな技術力と知識を持ってるって事は、相当な組織力と裏で繋がってるルートがある様な、デカイ所が絡んでる…!」
「そういうこった。
但し、尻尾掴んだら、直ぐに撤収だ。
何されっか分かんねえからな。
後は俺逹の方でやる。
頼んだぜ?龍介組長。」
「了解。」
翌日は通常通り学校なので、龍介は暇を見つけては、監視カメラの映像を早送りで、注意深く見ていた。
「流石に音が出るから、夜8時以降はやってねえようだな…。9時にはここから自宅に帰って行くのか…。で、朝の7時には来ると…。」
出入りするトラックのナンバーはメモして、既に寅彦に調べて貰っている。
スポックの薬が効き、もう元気いっぱいで学校に来た瑠璃が悲しそうに言った。
「龍、私も何か…。」
「お前はダメ。病み上がりなんだから、おとなしくしてなさい。」
「ええ~?。もう大丈夫なのに~?」
「スポックさんはいい人だが、父さん系だから、どうも今一つ信用出来ねえんだよ。
駄目。おとなしくして、暫く様子見てなさい。」
亀一と鸞が頷きながら笑っている。
確かにスポックと龍太郎はどことなく似ている。
同族嫌悪というのも、納得してしまえる感じだ。
今は昼休みなので、龍介逹は固まって作業をしていた。
「龍、防護壁解除は終わったが、これ、盗聴した途端バレるな。
相手側が分かるかどうか微妙な所で切らねえとヤバい。」
「なるほどな。電話の盗聴は最終手段にしよう。ありがとな、寅。」
「はいよ。」
「後は、一応、外の監視カメラだな。
あのおっさんが設置してるのは、トラックが出入りする所だけの様だったが…。」
「外はそんだけだろうが、中だな問題は。
コンピューターでシステム化してる監視カメラなら、こっちで外から切れるし、あるとか無いとかも大体分かるんだが、あそこまでアナログだと、あっても外からは切れない。
ただ、アナログって事は、龍たちが映ってからすぐ何者かが飛んで来る訳じゃねえ。
そういう利点はある。」
「あ、そっか。
ネットで繋がってねえから、警報が鳴っても、おっさんが戻って来たり、警備が来るって事はねえんだな。
じゃあ、映像の細工だけでいいのか…。出来る?」
「俺を誰だと思ってんだよ。当然だろ。」
「頼もしいねえ、寅。」
「で?組長、どうなさるんですの?」
鸞が期待に満ち溢れた目で聞く。
「潜入して調べますが…。」
「でしょうねえ。うんうん。夜中にね。」
「鸞ちゃん…。君はとても優秀なんだが…。」
寅彦が龍介を、横から凄い目で睨みつけている。
それに気付いた鸞は、寅彦を自分の身体で遮ったが、寅彦は鸞の身体を避けてまで睨み続けている。
「いけません…。ドーベルマンもいるし、危険なので、夜中はよくお休みになって下さい…。」
「もう!」
でも、鸞は以前の様には食い下がらなかった。
寅彦の心配もよく分かっているのだろう。
亀一が指を立てた。
「しかし、夜中に侵入するにしても、問題が一つ。
ドーベルマンはどうすんだ。
ムツゴロウ少年の龍でも無理なんだろ。」
龍介はニッと笑った。
「ドーベルマン愛好家には申し訳ねえが、ドーベルマンてえのは、犬とは思えねえ位バカなんだ。
あの頭の小ささで分かるだろ?
美味しいお肉で釣れますよ、簡単に。
それで駄目なら麻酔銃と行きたい所だが、ばれたら不味いんで、肉に睡眠薬でも仕込んどくぜ。」
「なるほど。決行は?」
「寅の方の出入りしてるトラックの素性がある程度割れてから。」
帰宅して、しばらく調べていた寅彦が龍介に報告に来た。
真行寺も来ている。
「トラックの素性だが、所謂町の解体屋だ。
でも、おかしな事に、取引先を調べても、会社や病院は無い。
全部個人だ。
よくチラシ入って来るだろ?
不用品買い取りますって。
ああいう感じらしい。
家庭の不用品ばっかで、この間見たみてえな、医療関係の廃棄物や、いかにも会社で使ってました的なああいうゴミは扱ってねえ事になってる。」
「どこの業者もか?」
龍介が聞くと、頷いた。
「おかしいな。やっぱ爺ちゃんの言う通り、なんかあるんだ。」
「そう思って、ナンバーからあのトラックの購入者を当たってみたら、全部同じ所だった。」
「別の業者なのにか?」
「うん。ゼルタ産業って小さい会社。リフォーム請負い会社だ。」
真行寺がニヤリと笑った。
「繋がって来たな。ゼルタ産業は善平の子会社だ。取った仕事は善平がやる。」
「グランパ、善平って、凄え有名なリフォーム会社じゃん。テレビでCMもやってる…。」
「そう。あそこは、いきなり景気が良くなった。
このご時世にだ。
多店舗展開の他、ゼルタの様な下請けもかなりの数抱えてる。
この急成長には何か裏があるとは思っていた。」
「リフォームで出た不用品を安く処分してるからって事?。」
「だろうな。
処分は正規の手続きを踏んだら、相当額になる。
リフォームなんかしたら、客が払うリフォーム代金の半分は行くんじゃないかってご時世だ。
色々規制があるからね。
金属類やプラスチック類をなんの設備もなく燃やしたら、ダイオキシンだの有害物質が大発生するしな。」
「医療関係の廃棄物はなんだろう。病院の改修工事とかで出たヤツかな?」
「じゃないのかな。一緒に処分しときますって、割増料金踏んだくって、あそこで適当に燃やしたり、埋めたりしたんだろう。
水が出てきていたという事は、ある程度小さくなるまで燃やしたら、水ぶっかけて熱取って、埋めてんだろうな。
ついでに水を流しながら工場内を掃除。
川に流れ出るだけでなく、土壌も汚染している可能性が高い。」
「あそこの裏は確か…、林っぽかったよな?寅。」
寅彦は2人の話を聞きながら、必要そうな事を随時調べているので、直ぐに答えを出した。
「うん。林だが、空からのカメラだと、でっかい穴があって、なんか入ってる風だな。
手前の見える所以外に木は無えな。
それと、持ち主は、名義はここのオッサンー馬場鉄男だけど、購入者はゼルタ産業だ。
この処分工場の土地もそう。」
「ありがと。
つまりグランパ、実際に馬場に土地を買い与え、あの違法処分場をやらせているのも、町中の不用品買い取り業者に持って行かせてるのも、ゼルタ産業だけど、その全てを裏で糸を引いてるのは、善平って事?」
「そういう事だな。さて、どうする?龍介組長。」
「善平が全て裏で糸引いてる証拠だな…。一回、あそこに入ってみようと思います。」
「うん。気を付けなさい。私も離れた所で待機しているから。」